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来世でも君を愛してた。  作者: 付谷洞爺
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来世でも君を愛してる。

夜空の星々が美しく輝いております。

 わたくしはそれを見て、ほうっと息を吐きました。

 今頃は、あの方もこの星空を見ていらっしゃるのでしょうか。

 そうだといいなぁと、わたくしはわずかに頬を緩めました。

 同じ星空を見て、同じことを考える。

 それほどロマンチックなことはございません。だから、わたくしはあの方が同じ星空を見ていると信じます。

 星座などには特別詳しくはないわたくしですが、それでもひとつだけ、知っている星座があります。あの方に教えていただいたのです。

 それはわたくしの頭上、すぐ真上にありました。

 多くの恋人の命が天に召され、わたくしたちを見守っていてくれる、そんな星座。

 隣人はそんな星座などない、嘘だと言います。

 けど、わたくしはあの方を信頼しております。あの方がわたくしに対して、嘘など吐く道理はありません。

 だから、本当のことなのだと思います。そう、恋人たちの星の話は本当のことなのです。

 わたくしはそう信じ、今日も星空を見上げます。

 あの星になった恋人たちが、いつかまたこの世で結ばれることを願いながら。







 ――夢を見た。

 大空を飛び回る夢を。

 眼下には青い海と緑の大地。戦火の影はどこにもなく、ただ平和な日常が続いている。

 仲間とともにどこまでも飛び回り、笑い合う夢。

 家に帰れば暖かい食事と家族との団欒が待っている。

 そんな、訪れることのなかった日々。

 俺はそっと、目を開けた。

 天井はいつもと同じで、ベッドも、それ以外も。何もかもが三日前と全く変わりがない。

 そう、三日。遠島が死んで、三日という時間が経過していた。

 通夜も葬式も終わり、ようやく一心地つく頃合だ。

「……葬式、誰も来なかったな」

 遠島はずっと、学校には通ってなかったらしい。だから仕方がないと言えば仕方がない。

 だが、それにしたって、あれはないだろう。

 葬式には遠島の両親と俺と俺の両親。そして四ノ原の家族。

 あとは病院関係者が何人か。それ以外は、ほとんどが葬儀社のスタッフだ。

 何か、寂しいような気がして、でも俺にはどうしようもなくて。

 だからこそ、胸の内にぽっかりと空いた穴を持て余している訳だ。

 俺はベッドから体を起こし、カレンダーを見た。

「……今日は土曜か」

 明日は日曜で、つまりは休みだ。

 墓参り、というと少し気が早いだろうか。けど、他にやるべきこともない。

 俺はベッドから起き出すと、手早く着替えた。

 部屋から出て、階段を降りる。と、母さんと顔を合わせたので軽く挨拶を交わした。

 玄関を出て、右に曲がる。突き当たりを左へ。

 そうすると、見知った顔と鉢合わせをした。

「……よう、四ノ原」

「よう、お出かけ?」

「まあ……ちょっとな」

「遠島さんのところ?」

「よくわかったな」

「ま、何となくね」

 四ノ原は肩をすくめ、わずかに笑った。

 きっと、それは自虐も込められていたのだろう。

 俺たちに何ができたという訳でもない。けど、何かできることはあったんじゃないだろうか。

 そんなことを考えて、三日間悶々としていた。

 ムダなことだと、わかってはいたが。

「わたしも行くよ」

「そうか。……そうだな」

 四ノ原を隣に連れ立って、歩き出す。

 そこから、遠島の家までは無言だった。

 話すことなどなかった。弾む会話など、もっとなかった。

 だから仕方がない。しようがない。

 ほどなくして、遠島家へと辿り着く。

 玄関の呼び鈴を鳴らすと、例の老人が姿を現した。

 来客が俺たちだと知るや、老人は柔和な笑みを浮かべ、家の中に招き入れえてくれた。

「今、お茶を淹れよう」

 そう言って、老人が台所へと消える。

 俺たちは仏壇の前で膝を折り、じっと遠島の写真を見つめた。

 いつの写真だろう。俺でも見覚えがあるから、たぶん最近の写真だ。

「……笑ってるね」

「ああ、そうだな」

 写真の中の遠島は笑っていた。幸せそうに、大きく口を開けて。

 俺は遠島の最後の瞬間を知っている。その時の遠島はすごく、苦しそうだった。

 よかったと思う。心の底から、よかったと、そう思う。

「お待たせしたね」

「いえ、お構いなく」

 老人がお茶とお茶菓子の乗ったお盆を手に、戻って来た。

 それから少しの間、俺たちは遠島家でゆったりとした時間を過ごした。


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