序章
もし、明日最愛の人がこの世から消えてしまうのなら、時を越えてでもその人に会いたいと思うでしょうか。僕だったら……わかりません。でもきっと、僕はずっとその人を愛していくだろうと思います。
――夢を見た。
果てしない大空を飛び回り、仲間と笑い合いっている夢。
大地に降り立てば最愛の人が笑顔で迎えてくれて、家に帰れば暖かい食事と大切な家族の爛漫が待っている。
そんな未来を望んでいた。
しかし私は今、そんな夢とはかけ離れた空を飛んでいる。
操縦席の中にいても漂ってくるような、血と爆煙が入り混じった死の匂い。
晴れ渡っているはずの空は黒ずみ、そこかしこでもうもうとした黒煙が立ち上っていた。
一人、また一人と仲間との連絡も途絶えていく。
目の前で、敵の機体が大きく破損していた。ずるずると片足を失った敵兵が這い出てくる。
そこへ、容赦のない砲弾の嵐が叩き込まれた。
私は思わず目を閉じ、ぐっと強く操縦桿を握った。
どうか無事であってくれ。祖国に反するとわかってはいるが、そう願わずにはいられなかった。
そうして、戦いは続いた。私も機体の機関銃を操作し、敵兵を何人も殺した。
そしてついに、その時がやってきた。
『ザザッ……現在現空域にいる全ての兵に告ぐ。ザザザッ……特攻の令が下った』
それは、我々の上官の声だった。
私は悔しさに全身を震わせた。どうしてむざむざ死にに行かなくてはならないのかと顔も知らない軍上層部を恨んだ。
「……何が神風特攻隊だ。ふざけやがって」
私は無線を通じて上官に伝わらないよう声を抑えて、歯噛みした。
訳がわからなかった。
国は戦争の大局は日本が有利だと言った。けれども、実際は違う。
全く不利だ。それどころか、もはや負けていると言っても過言ではない。
これ以上はムダ死にする兵を増やすだけだ。本土でも餓死者が出ていると聞く。
だというのに、まだ続けるつもりだろうか。こんな馬鹿げたことを。
『ザザッ……おい、聞いているのか』
「……ええ、聞いています。今、三國と七種が死にました」
『ザザザッ……そうか。すまない』
上官の悔しげな声が耳に届いた。
「……はは、昔から甘い人ですね、あなたは」
返事はなかった。期待してはいなかったのだから、どうでもいい。
どちらにせよ、今ここで私が死ななくては私の大切な人たちは守れない。
敵国に蹂躙され、家畜のような扱いを受けることだろう。
なら、せめて一矢報いてやろうと思うのは当然のことだ。
私は操縦桿を力いっぱい前に倒し、機頭を傾けた。
敵国の軍艦を目指し、真っ逆さまに落ちて行く。
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