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親愛なる者へ 〜佐久間警部の苦悩〜(2024年編集)  作者: 佐久間元三
プロローグ
3/18

捜査方針(2024年編集)

 ~ 警視庁捜査一課 ~


 佐久間たちが、捜査一課に戻ったのを受けて、捜査本部が、正式に設置された。ホワイトボードには、様々な情報が記載され、準備が出来ている。


 課長の安藤が、口火を切った。


「では、捜査会議を開始する。この事件は、『西巣鴨一丁目絞殺事件(仮)』とする。どうも、単なる殺人事件ではない気がする。佐久間警部の説明を、よく聞いてくれ。では、佐久間警部、よろしく頼む」


「承知しました。では、早速、状況を整理してみよう。初動捜査で判明した事実と、今後の方針を議論していく」


【初動捜査結果1】第一発見者情報

 ○発見場所:東京都豊島区西巣鴨一丁目の、板金塗装工場

 ○発見時間:六月十五日、八時三十分~八時三十五分

 ○第一発見者:田所真一、十八歳

 ○発見時の状況

  工場のシャッターを、一メートル程上げた時点で、違和感を覚えた

  中年女性が、首を吊っている状況であった為、110番通報した

 ○六月十四日、十九時過ぎに終業し、工場は施錠された状態

 ○被害女性と面識はなし(他の従業員も、同じ)


【初動捜査結果2】鑑識官、現場照合結果含む

 ○従業員以外の指紋:不特定多数あり(顧客との選別が必要)

 ○被害女性の指紋なし

 ○遺棄場所に、何種類かの毛髪が検出された事から、

  遺伝子学的検査、薬毒物検査を実施する

 ○被害者の首に、二種類の絞められた跡がある事から、

  繊維鑑定を実施する

 ○遺体は、全体重が索状物にかかっている定型的縊首であったが、

  上記理由により、非定型的縊首であると結論付けた

 ○被害者の足跡はあるが、工場入口から、引き摺られて運ばれた

  ※別の場所で絞殺され、工場内で遺棄された可能性が高い

 ○足跡鑑定として、微物分析を行う(手配済み)

 ○時任英二の足跡も、同時に行う


「初動捜査で、色々と発見出来たようだな。犯人の目星は付きそうか?」


「この後の説明で、板金塗装工場の社長である、時任英二に関する内容を、お話しますが、現時点では、犯人に、一番近い存在である事は、否めません。初動捜査で判明した通り、一見、自殺に見えますが、他殺である事は明白であり、物的証拠を残し過ぎです。時任が、無罪を主張する為には、状況証拠を覆す、現場不在証明が必要となります。物的証拠は、大丈夫でも、状況証拠で不利になるでしょう」


「客観的に考えると、自分の庭に、死体を晒す馬鹿は、いないだろう。皆は、どう思う?」


「普通の人間なら、隠します」

「自分以外の者が殺したと、しらを切りたかったとか、ですかね?」

「妻に、罪をなすりつけようとしたとか?」


(皆も、同じ意見のようだな)


「あくまでも、客観的な意見だが、佐久間警部は、どう考えているのかね?」


 佐久間は、左手で、顎先を撫でるように触った。


「私も、これらの意見には賛成です。ただ、この工場に遺棄する事が、本当の目的だと感じました。誰が、遺棄したかも重要ですが、この工場に遺棄する事で、警察組織(我々)が捜査する。つまり、『この工場の事を、詳しく洗う』と、いう事になります」


「中々、面白い視点だ、続けてくれ」


「社長の時任英二も、胡散臭い人物であると、怪しんでいます。愛人が死んだのに、驚きを見せるだけで、悲しむ様子はなかった。しかも、妻に不倫がバレる事ばかり、気にしていた事から、犯人と共犯かもしれません。保険金を掛けているかもしれないし、経営状態を含め、捜査したいと思います」


(なるほど、深い視点だ)


「工場経営が、傾いているのかもしれないな。では、時任英二に、的を絞って、捜査するのか?」


「いいえ、まだ確率的な、話の段階ですので、まずは、現場不在証明の検証から、開始したいと思います。問題は、(A)時任英二が、誰かに恨まれている場合、(B)時任英二が、共犯者の場合になるでしょう。(A)の場合、相当恨まれています。配偶者ではなく、愛人を始末したのですから、犯人からの、所謂、脅しでしょう。配偶者との関係も、断ち切れると判断したのであれば、綿密な計画を立てて、敢えて、見つかる様に、杜撰な処理をした事になります」


「なるほど、では、(B)の場合は?」


「工場の経営を中心に、捜査が展開すると考えられます。共犯者の場合、債権者がいるはずです。借金の肩に、愛人に保険金を掛けて、始末した。配偶者ではないから、経営を立て直せるし、配偶者にも、顔向けが出来る」


「どちらに転んでも、板金塗装工場と時任英二が、鍵になると、言いたいのだな?」


 佐久間は、黙って頷いた。


「良いだろう。では、その方向で、進める事にしよう」


「ありがとうございます。では、引き続き、時任英二について、分かった事を報告します」


【初動捜査結果3】事件対象者、時任英二の場合

 ○事件対象者:時任英二、四十七歳、板金塗装工場経営者

 ○被害者:本田智恵、四十一歳、バツ一、事件対象者の不倫相手

 ○被害者住所:東京都豊島区西巣鴨二丁目

 ○六月十四日、二十二時~六月十五日一時まで、時任英二と一緒

  (隣町のリバーサイドホテル302号室にて、逢い引き)

 ○逢い引き後、二人は、別々に帰宅している

 ○その後の足取りは不明で、遺体発見に至る


「二人は、一時まで、本当に、ホテルにいたのかね?」


「証言が正しければ、六月十五日の一時~未明にかけて殺害され、遺棄された事になります。死亡推定時刻は、解剖結果で分かると思いますが、本田智恵の足取りと照合すれば、より詳細な時間が、掴めますので、防犯カメラ映像を、リレー捜査したいと考えています。見立てでは、板金塗装工場とホテルの、中間地点辺りが、怪しいと思うのですが、その点についても、検証します」


(良いだろう)


「諸君、良く聞いてくれ。この事件は、佐久間警部が述べた様に、時任英二を、事件対象者として、考えていく必要があるだろう。問題は、被害者である本田智恵が、工場に遺棄された事、自殺に見せかけられたという点だ。犯人からの挑戦状である場合、知能犯による愉快殺人なのか、時任英二を調べろと、臭わせたのかも踏まえ、犯人の真意を、理解する必要があるだろう」


「了解です」

「分かりました」

「鋭意努力します」


「では、佐久間警部。捜査を割り振ってくれ」


「承知しました」


 佐久間は、捜査員全員に、号令をかけた。


「捜査方針だが、二手に分けて捜査する。まずは、A班からだ。隣町のホテルに、証言の時間帯に、対象者二名が、利用していたか、ホテルで別れた二人は、どの様な経路で、帰宅したのかを、まず検証していく。六月十四日、十九時~二十二時までの、時任の足取り、六月十五日、一時~未明までの足取りを、防犯カメラ映像のリレー捜査を行うから、班編成のうえ、臨むように。その後で、本田智恵の居住を、家宅捜査する」


「A班の班編成ですが、佐久間警部は、どの部分に入られますか?」


「証言の事実確認をしたいから、私と山さんで、ホテルでの検証を、対応する。リレー捜査には、人手がいるから、日下たちを中心に、十名程度で臨んでくれ」


「分かりました」


「では、続いて、B班について、指示する。B班は、板金塗装工場を中心に、聞き込みを実施してくれ。この工場の風評についても、調べて欲しい。遺棄するのを、この工場にしたのには、必ず理由があるはずだ。私怨だとしても、施錠された状態で、どうやって、侵入したのかも、気に掛かる。また、時任だけではなく、被害者である本田智恵の事も、聞き込みをして欲しい。近くの商店街では、何かしら、話が聞けるかもしれない」


「了解です」


「これは、A班・B班、共通としての課題だ。この板金塗装工場は、土地自体が、『いわくつき』の可能性もある。法務局に赴き、公図と土地所有者を確認してみてくれ。時任が、不法に取得した土地であれば、単なる殺人事件では、ないかもしれない。その点に着目して、捜査に臨んでくれ」


 本格的な捜査が、始まる。


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