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親愛なる者へ(2024年編集)

 ~ 東京都豊島区西巣鴨 板金塗装工場 ~


(前回よりも、人だかりが出来ている。立て続けに、人が死んだんだ。当然と言えば、当然か)


 佐久間たちは、板金塗装工場の脇に隣接する、時任英二の自宅に到着した。規制線の前で、日下が佐久間を待っている。


(間に合ったようだな)


「日下、例のものを」


 佐久間は、日下から、メモを受け取ると、氏原に渡した。氏原は、『なるほどね』と納得する表情を見せる。


「では、現場検証をしようか?」


 佐久間たちが、規制制の中に入っていく。



 ~ 時任英二の自宅 ~


 時任英二は、リビングのソファから崩れ落ち、絶命している。少し離れたダイニングテーブルで、時任英二の妻、芳江が、目元をハンカチで押さえながら、山川から事情を聞かれている。


「山さん、待たせたね。首尾はどうだ?」


「警部、お疲れ様です。ちょうど、事情を聞いたところです」


「状況を簡潔に教えてくれ」


「本日の十三時五十分頃、時任芳江が、板金塗装工場から戻ってくると、時任英二が、あの状態で、死亡していた様です。時任芳江は、怖くなり、時任英二には触れない様にして、119番通報をしたと証言しました」


「時任英二の死因は?鑑識官の見解はどうだ?」


「硫酸パラコートの疑いが強いそうです」


「氏原、お前の見解を聞きたい。見てくれるか?」


「ああ、待っていろ」


 氏原は、時任英二の前で合掌すると、時任英二の身体を慎重に検証する。


(なるほどね)


「佐久間、鑑識官の見解は合っている。高確率で、硫酸パラコートだろう」


「どんな毒物だ?」


「毒物というより、農薬だ。付着するだけで、心臓麻痺を起こす代物だ。時任英二は、この農薬を背後から掛けられている。つまり、ソファで座っているところに、急に襲われ、抵抗する間もなく、死んだはずだ」


(………)


 佐久間は、時任芳江の前に移動すると、対峙する様に、ダイニングテーブルの椅子に腰掛けた。


「時任芳江さん、いや、桐原芳江さん。もう、茶番はお終いです」


(------!)

(------!)


「桐原芳江?警部、どういう意味ですか?」


「今から、それを話すから、この場にいる者は、静かにしてくれ」


 佐久間は、手元の捜査メモを見ながら、解説を始めた。


「時任英二の妻、時任芳江は、表向きは夫婦だが、実際には、籍を入れていないんだ。桐原勇作の保険金が入った時、宛先が、桐原芳江になっていた。まあ、桐原勇作が保険会社と契約した時、桐原芳江が、未婚で旧姓だった事も考えられたが、念の為、戸籍を調べておいた」


(………)


「私が、結婚しようと、しまいと、茶番はお終いとは、聞き捨てならないわ。時任は、内縁の夫よ。不謹慎にも程があるわよ?」


「ご怒りは、分かりますが、少々、私の話に耳を傾けてください。あなたの素性を、戸籍以外も、細かく調べました。桐原勇作さんが亡くなって、あなたは、板橋警察署の交番に聞いたと言って、捜査一課を訪れましたね?」


「それが、何か?」


「まず、そこで、私はあなたを疑ったのですよ?板橋警察署の交番に、裏を取りましたが、あなたから、桐原勇作さんの件で、問い合わせがあった事実は、ありませんでした。疑惑は、もう一つあります。『私の弟ですわ。たった一人の…』と、あなたは言った。でも、これは嘘だと、分かっています」


「嘘とは?私は、ありのまましか、話していませんが?」


 佐久間は、首を横に振る。


「いいえ、真っ赤な嘘です。何故なら、桐原芳江は、三人兄弟ですから」


(------!)

(------!)

(------!)


「森田夫婦、森田健人の妻、森田和子の旧姓は、桐原。つまり、あなたの姉です。桐原勇作が死亡した年の初め、森田夫婦は無理心中で、この世を去った。改製原戸籍を取り寄せた事で、謎が解けたんです。桐原勇作さんが亡くなった時、姉の和子は、除籍されているので、表向きは、桐原勇作さんと、桐原芳江。つまり、姉弟という事になり、私も、初めは騙されました。だから、桐原勇作さんの保険金が、あなたに支払われた時も、違和感なく、潔白(シロ)だと、判断してしまったのです」


 桐原芳江は、「あーあ」と、心情を吐露すると、タバコに火をつけた。


「佐久間警部、あなたって、本当に有能な刑事ね。嫌みなくらい。ここまで、調べたのなら、他の事も、どうせ分かっているのでしょう?」


「ええ、ある程度はね。まず、あなたの職業は、元看護師。十五年前、牧之原総合病院で勤務していましたね?その病院で、本田智恵の夫、赤坂五郎と不倫していました。赤坂五郎は、本田智恵と結婚していましたが、酒癖、女癖が悪く、あなた以外の、もう一人の不倫相手に、子供が出来た」


(------!)

(------!)

(------!)


「あなたと、本田智恵は、他にも接点があります。桐原勇作さんの遺体と面会する際、『施設で育った』と、仰いましたね?あれは、事実でした。あなた方、三人兄弟と、本田智恵は、ある時期、同じ施設で育っています。本田智恵は、先に、東京へ逃げましたが、当時、あなたは、そのまま、牧之原総合病院で勤務していた。ですが、森田夫婦が、時任英二と清水喜一の策略で、土地を奪われた事を知り、看護師を辞め、上京する事にした」


(………)


 桐原芳江は、佐久間の言葉を受け、思わず、涙がこぼれた。そして、当時の状況を回想する。



 ~ 十五年前、森田青果店 ~


「お姉ちゃん、大丈夫?」


「あんた、どうしたの?」


「詐欺に遭ったって、聞いたから、仇を討とうと思って、看護師辞めてきたわ」


(------!)

(------!)


 森田夫婦は、突然に話に耳を疑った。


「ちょっと、待った。気持ちは嬉しいが、これは夫婦の問題だ。義妹に迷惑は掛けられないよ。それに、仇を討つって、何をする気だ?相手は、百戦錬磨の詐欺師だぞ?」


「それなら、私に考えがあるの」


 森田和子は、深い溜息をついた。


「あんた、まさかとは思うけど、色気仕掛けする気じゃないでしょうね?不倫なんて、もう辞めなさい。きちんと、普通の人と出会って、普通の人と結婚する。それが、女の幸せよ」


「お姉ちゃん、それは、決めつけよ。その詐欺師って、結婚しているの?」


「そこまでは分からんが、和子の言う事が、正しい。悪い事、言わないから、牧之原に帰るんだ」


(ここまで来て、帰れないって)


「二人とも、良く聞いてちょうだい。私は、どんな手を使ってでも、懐に飛び込んでみせる。詐欺師って言っても、隙が生まれるわ。一年、二年では無理でも、十年くらい時間を掛ければ、取り返せるかもしれない。ねっ、義兄さん、どこかに、この手の相談出来る人、心当たりない?」


「知り合いの検察官がいるけど、正直、どこまで、付き合ってくれるか分からないよ?」


「ふーん、検察官ね。分かった、じゃあ、その人も紹介してちょうだい。私の家族を傷つける奴は、絶対に許さないんだから」


 森田夫婦は、思わず、苦笑いする。


「ごめんね、あんた。この子、私に似て、負けず嫌いだから」


「いいや、正直、嬉しいよ。でも、決して、無理はしない事、頼んだよ?」


「はーーい、お任せあれ」



 ~ 現在、時任英二の自宅 ~


「ご明察よ、私は、森田夫婦の為、時任英二に近づいた。十五年前、時任が服飾工場を始める時、入社して、媚びを売って、どんどん親密になって」


「籍を入れなかったのは、あなたの意志ですか?」


「時任の意志よ。私は、復習の為なら、籍ぐらい、どうでも良いって思っていたわ」


(気持ちの良いくらい、話始めたな。これが、本来の姿なのだろう)


「八年前の事を、教えてください。私の読みでは、服飾工場の経営が傾いて、時任英二が、借金の返済の為に、土地を売って精算しようとした。だが、清水喜一が、それを良しとせず、森田みくるを誘拐し、工場敷地内に、遺棄した」


(………)


「服飾工場の経営を、破綻させようとしたのは、私の仕掛け。風評被害に遭う様、色々と小細工をしたの。それで時任は、茨城県とか、神奈川県とか、金策に走り回ったのだけど、清水が、あんな手を使って、みくるを殺すとは、思いもしなかった。だから、私、お姉ちゃん達に、土下座して謝ったわ」


「森田夫婦は、何と?」


「二人とも、私を一言も責めなかった。『亡くなったのは、結果論であって、あんたに責任はない』って」


「でも、あなたは、自分を責めた。自分が画策しなければ、清水喜一の怒りを買う事もなかったと」


 桐原芳江は、黙って頷いた。


「八年前の事件は、理解しました。捜査記録を読みましたが、五月二十八日、十三時三十二分に、身代金の受け渡し場所である、万世橋で犯人と接触と書かれていましたが、心当たりはありますか?」


「時任の話だと、清水喜一が雇った、受け子らしいわ。二回目は、逃げられてしまって、元々、受け渡し場所に、行く気は無かった様だと、話してくれたのを覚えているわ」


(犯人が、清水喜一ならば、時任英二は、そこまで分からないか)


「何故、時任英二は、清水喜一を、切ろうとしなかったのですか?見せしめとは言え、自分にトドメを刺そうとする男です。裏切ってしまえば、土地を売れたかも、知れないのに」


「清水喜一を、警察に売っても、清水博美と、清水喜一の親族がいます。それに、みくる一人の死では、無期懲役で、二十年もすれば、外に出て来る。それと、……」


「弟の、桐原勇作さんを、殺すとでも、脅されましたか?」


「……はい。だから、私が、時任に我慢してくれと、お願いしたんです。時任は、森田和子が、私の姉だとは、知りませんし、『たった一人の肉親なら、我慢する』と、言ってくれました」


(腑に落ちた)


「では、本田智恵さんの事を伺います。彼女が殺された当時、あなたは、存在を知らなかった様でしたが、どこまで絡んでいたのですか?」


「彼女の事は、本当に知らなかったわ。時任を詰問したら、不倫相手が、本田智恵だと知った。彼女は、私の存在を知らず、時任英二と、とある場所で知り合ったんだって。不倫している時、こっそり、この工場を覗いたら、私がいて、驚いたと。時任が、彼女に、『何故、知っているの?』と尋ねると、『故郷が一緒だから』と、説明したみたい。本田智恵は、私が、旦那と不倫している事は、知らなかったみたい。もう一人の女の事は、知っているみたいだけど」


(嘘をついている様には、見えないな)


「本田智恵の殺害は、清水夫婦だけで行ったのですか?」


「ええ、時任は関与していません」


「何故、本田智恵は、殺されたのですか?森田みくるの様に、時任英二が下手を打ったのですか?」


「時任は、板金塗装工場を閉鎖して、清水喜一を警察に売ろうと、腹を括っていました。姉さん達が、清水喜一の事を嗅ぎ回っている事が、清水夫婦にバレて、正月に殺された時、時任は、怒りを露わにしたんです。『土地を奪ったのは、自分だが、娘の生命を奪い、何故、二人の生命まで、奪う必要があるんだ。あいつらは、もう、このままにしておく事は出来ない。あいつらのせいで、自分にまで、非が及ぶ前に、決着をつけるしかない』と、言っていました。それから、時任は、あの手この手で、清水夫婦と距離を取る様になりましたが、清水喜一は、探偵を雇って、時任の動向を監視していて、バレてしまったんです」


「それで、また、見せしめに、本田智恵を殺したんですね」


「ええ、そうです」


「桐原勇作さんの事ですが、勇作さんは、清水博美と不倫していた。注射痕から、看護師である清水博美の犯行だと、警察組織は見ていますが、何故、死ななければならなかったのですか?」


(………)


「弟は、清水夫婦の監視をする為、私と同じ様に、清水博美に近づきました。元々、女性が大好きでしたから、不特定多数と付き合っていましたが、単純に、夫の清水喜一にバレたんです。時任の話では、『清水喜一が、清水博美に命令して、殺させたのだろう』と。夫に殺されかねない、清水博美は、弟を殺すしかなかったのだと思います」


「ここまでは、分かりました。では、本題である、清水夫婦の殺害と、時任英二の殺害について、尋ねます。清水夫婦は、時任英二とあなたの二人で殺したのですか?」


(………)


「それは、黙秘します」


「何故ですか?」


「話せないからです」


「では、時任英二を殺したのは、あなたですか?」


(………)


「それも、黙秘します」


(ふむ、清水夫婦が殺されるまでの事件は、流暢に話すところを見ると、全てを清水夫婦の仕業だと、

言いたい様だ。だが、この二つは、黙秘する。清水夫婦の殺害は、時任英二だけだと、言う事も出来たはずなのに、黙秘するのは、何故だ?)


 佐久間は、山川と氏原を、側に呼んで、どこかに向かわせる。


(時間稼ぎに、揺さぶってみるか)


「黙秘するのは構いませんが、どうみても、あなたが不利です。時任英二がやったのですか?」


「黙秘します」


「何故、時任英二を庇うのです?時任英二は、あなたの仇でもあるはず。時任英二がやったと言えば、死人に口なしです。あなたは、罪を問われないかもしれない」


「黙秘します」


 佐久間は、左手で、顎先を撫でるように触った。


(ここまで、頑なになるには、理由がある。桐原芳江は、誰かを庇っている。自分ならまだしも、時任英二がやったとも、言えない。それは、何故だ?)


(………)


(………)


(何者かに、口封じをさせられている?誰に?)


(………)


(………)


(------!)


(そうか、そう言う事か、何となく分かったぞ)


「警部」

「佐久間」


(------!)


 これまで、黙秘し続ける桐原芳江が、思わず、立ち上がる。


「二つの内、一つは解決ですね。あなたは、時任英二を殺す為に、この男を使って殺害した。田所真一をね」


 山川と氏原に、両腕を掴まれた状態で、田所真一が姿を現す。


「どうして?」


「簡単な事です。時任英二は、不審な死を遂げた。あなたが、面と向かって、背後に回っても、気付かれてしまう。なら、どうすれば良いか?あなたが、時任英二の気を引く前に、時任英二の背後で、隠れていれば良いのです。では、それを誰がやるのか?それを思い描いた時、あなたなら、どうするのかを考えました。高校を出たての、無垢な青年を、色香で惑わし、自分の都合の良い様に、利用するとね」


 桐原芳江の表情が、歪む。


「結婚してはいないので、不倫とは言わないでしょうが、色香で惑わすのは、汚い大人の考えです。氏原、物的証拠は見つかったか?」


「ああ、袖に、硫酸パラコートの成分が付着している。この量なら致死量ではないが、素手で触るのは危険だから、気をつけている」


「だそうです、田所真一さん。死にたくなかったら、動かない事です。山さん、手錠を掛けて拘束してくれ」


「分かりました。田所真一、十五時二十三分、殺人容疑で、現行犯逮捕する」


(------!)


「よっ、芳江さん!」


(ごめんね、ごめんね)


 桐原芳江は、大粒の涙を流しながら、田所に心で詫びた。


「さて、最後の仕上げに移ろう。日下、桐原芳江の胸ポケットか、ズボンポケットを探れ。携帯電話が、通話状態になっているはずだ」


(------!)


 桐原芳江が、その場から、逃走を試みる前に、日下が、強引に身体を探り、携帯電話を取り上げた。


(やはりな)


「通話を切れ!!」


(------!)


 日下が、通話を切ると、桐原芳江は、完全に観念した様に、その場に座り込んだ。


「佐久間、よく分かったな。何があったんだ?」


「清水夫婦の殺害を、問い詰めていたら、急に黙秘権を行使し始めたんだ。時任英二がやったと、言えば良いものを、それもせず、頑なに口を閉ざしたから、誰を庇うのか、考えていたんだ。時任英二を殺した犯人は、容易に想像出来たから、お前たちが来るのを待っていたのだよ」


 氏原は、驚きを隠せない。


「容易にって、普通、あり得ないだろう?」


「いや、容易さ。本田智恵の事件の時、従業員の全員を、一度見て、把握していたからね。この中で、桐原芳江の色香で、惑わされるとすれば、田所真一しかいない。素直な成年だし、性欲にも正直だ。人の道を踏み外す事は、まずい事だと分かっていても、欲望には勝てなかったという事だ」


「それは、そうなんだが。それが、難しいって言っているんだよ」


 佐久間は、桐原芳江の前に、しゃがみ込んだ。


「さて、桐原芳江さん。もう終わりです。あなたは、…いや、あ(・)な(・)た(・)達(・)は(・)、私には勝てません」


(------!)


「私はね、十五年前の事件から、ずっと、真犯人を追っているのですよ。森田夫婦には、直接、話を聞けませんでしたが、森田青果店の隣接店、松崎金物店から、大凡の事情は聞いています。森田夫婦が、誰を頼ったのか、そして、あなたが、誰の知恵を借りたのかね?」


(------!)


「真犯人は、この事件を、初めから操っていた訳ではない。ある日、森田夫婦から相談され、巻き込まれ、失望し、あなたと一緒に、抗おうとした。その心情は、察する事が出来るし、同情もします。ただ、そうなる様に、事件対象者を裏で操り、仕向けた事は、殺人教唆の罪となりますので、看過する事は出来ません。それは、あなたも同じです。森田夫婦、桐原勇作の仇を討つ為、あえて、修羅の道を歩いた事は、感情移入する部分もありますが、前途ある成年を巻き込んで、殺害させたのは、大の大人がする事ではありません。桐原芳江、十五時三十六分、時任英二殺害の殺人教唆容疑で、お前を逮捕する」


(………)


 日下に連れられ、自宅を出るところで、佐久間が声を掛けた。


「そうそう、言い忘れました」


(………?)


「清水夫婦の殺害についてです。元看護師のあなたなら、『サクシニルコリン』を食事に混ぜる事は、可能だ。だが、時任英二とあなたは、清水夫婦と対立しているので、食事を提供する云々ではなく、敷居を跨げなかったはずだ。では、どうやって、清水夫婦に、食事を摂らせるか?」


 桐原芳江は、力無く、下を向いたままだが、聞き耳を立てている。


「信用出来る、親族を利用すれば良いのです。第一発見者の、近藤太一、五十三歳。この男を、得意の色香で惑わし、食事を提供させた。そうではありませんか?」


(------!)


「初めは、真犯人が、司法取引でも持ち掛けたのかなと、勘ぐりましたが、そんな危険な事をするとは、思えませんでしたので、取りやめました。今のあなたの反応で、確信に変わりました。警視庁を出る時に、念の為、近藤太一の監視が届く場所に、捜査官を配置させておいて、良かったです」


(------!)


 佐久間は、携帯電話を取り出すと、どこかに電話を掛ける。


「裏が取れた。清水夫婦殺害の共謀容疑で、第一発見者の近藤太一を、緊急逮捕せよ。近藤太一の妻は、その事実を知らないはずだ。近藤太一だけを逮捕せよ。間違っても、不倫の事実は、告げるなよ。気の毒過ぎる」


(------!)


「清水夫婦を殺した時刻には、現場にはおらず、時任英二とあなたには、完璧な現場不在証明(アリバイ)があるのでしょうが、物的証拠がある以上、必ず、完落ちさせてみせます。あなたは、家族の為に、自分の身を犠牲にして、仇を討ったが、被害者から加害者になった事は、事実であり、罪を償うしかありません」


(………)


「仇は討ったわ。みくるの無念、お姉ちゃん達の無念、勇作の無念。それが達成出来た以上、今更、ジタバタしないし、裁きを受けるわ。それだけは、信じて」


(親愛なる者への想いか)


「…信じます。多分、これからも、誰も言ってくれないでしょうから、お姉さんから、最後に一言だけ」


(………?)


「良く頑張ったね、ありがとう」


(------!)


 桐原芳江は、人目をはばからず、大声で泣いた。


 佐久間は、無言で、桐原芳江に胸を貸す。


 呪われた土地が、ようやく、長年の呪縛から解かれようとしている。見渡す空が、あかね色に染まろうとしていた。


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