人は一人じゃ生きてけないよ
部屋の光源はパソコンと携帯ゲーム機と家庭用プラネタリウムだけ。
回転椅子の上で膝を抱えながら、パソコン画面から流れる声を聞き、カチカチカチャカチャとゲーム機のボタンを弾き続けた。
部屋の照明を落として点けたはずの家庭用プラネタリウムは、天井に作り物の星空を映し出している。
草木も眠る深夜に相応しくない楽しそうな声が、パソコン画面から響いており、それをBGMにゲーム機のボタンを弾き続けた結果、画面には『ミッションクリア』の文字。
緩く細い息を吐き出し、ゲーム機を目の前の机に滑らせる。
丸まっていた背中を伸ばすように、背もたれに背中を押し付け、抱えていた足を伸ばす。
視線は自然と天井に向けられて、薄汚れたそこに広がる星に目を細めた。
目の神経がズキズキと痛む。
鼻筋に沿って落ちてくる眼鏡を押し上げたついでに、眉間の辺りを親指と人差し指で押した。
小学校中学校高校、順調に進んで全ての過程を終え、大学まで進むことなく就職した私の人間関係は、今現在職場のみとなっている。
悲しいかな、学生時代の友人に分類されたはずの人達とは、殆ど連絡を取らない。
……いや、悲しくはないけれど。
元々人間関係はそこまで広くもなく、深くなく、狭く浅くの人見知りでぼっち気質だった。
学生を終えた時点でこうなることくらい、予想は付いていたのでどうとも思わない。
職場のみの人間関係になり、狭く浅くが余計に狭く浅くなり、家にいることが増えたくらいで、私自身はそんなに変わっていないのだ。
同部屋の妹も、別室で眠る母も、私が深夜までパソコンを点けっ放しにして、作り物の星空の下でゲームをしていることは知らない。
見上げた星は、輝いているわけではないが、確かに存在する。
これよりも少し値の張るものを買いたいと思いながら、ゆったりと通帳と見つめ合う日が増えた。
それからゆっくりと視線をパソコンの画面に向ければ、開かれた窓ではゲーム画面が広がっており、四人分の声が聞こえている。
ガヤガヤ、ワイワイ、楽しそうな声に、笑い声。
太めの声に、少年のような声と、酷く落ち着いた声、ほんの少しヤケたような声の四人がするゲームは、いつだって私の心を揺らす。
楽しそうだろ、と言っているような、楽しいんだぜ、と笑っているような動画は、笑顔を押し出す動画サイトに投稿されているもの。
ゲーム実況、と呼ばれているジャンルだが、ひたすらゲームをするのみである。
ゲームとお喋りだけの動画が、私の心を揺らして止まないのだ。
残念ながら長い学生生活を送ってきたが、こんな風に誰かと同じゲームをしたことはない。
そんな風に声を、言葉を、あちこちに飛ばしながらゲームをしたことはない。
例え皆で出来るゲームだとしても、私は一人でやるし、相手はいつだってコンピューターだ。
目を向けたゲーム機には、変わらず『ミッションクリア』の文字が浮かんでいて、一人でここまで進んだんだよ、という結果が残っている。
一人で進められるなら、別にゲームがクリア出来るなら、問題ないとは思うけども。
ただ、ほんの少し、ちょっとだけ、羨ましいかも、知れない。
パソコンの中では、それじゃあ今日はこの辺で、と中途半端にゲームを切り上げていた。
次のパートを見ようか、寝ようか。
私の視線は壁に引っ掛けられた時計に向き、朝方近いことを知る。
「……あーあ」
パソコンの窓を閉じ、パソコンそのものをシャットダウンさせ、ゲーム機をスリープモードに切り替える。
家庭用プラネタリウムの電源は、十五分後に切れるようにタイマーを点けた。
分厚いレンズの眼鏡を机の端に置いて、私の体はベッドへと沈んでいく。
見上げた夜空はボヤけて不明瞭だ。
何だかなぁ、なんて呟いた私は、重くならない瞼を下ろす。
目尻から何か溢れたけれど、そんなの知らない。