1話 「出逢い」
私を待つ現実は遠くて近かった―———
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1話「出逢い」
「ほら、もう朝だから起きなさい」
襖を開けた母の第一声はこれだった。
今日は私が入学する学校、私立龍鈴ヶ丘高等学校の入学式。
布団をはいで試着以来の制服を身に纏い、朝餉を食べ、最終準備に取り掛かる。
私の学校は別に偏差値が特別高いわけでも低いわけでもない。
ただ、セレブやなんかよくわからない家の子孫や末裔だのなんだのと、変なジャンルの人たちが集まってくるのだ。
私の家は、日本に代々伝わる舞楽や日舞の家元だ。
それが理由かわからないが、ここに入学させられたのだ。
―—ここが学校、か...
みんなきらびやかで、すごいオーラを放っている。
それに比べて私は黒髪ストレートの、これこそ大和撫子という雰囲気だった。
セレブの人は髪の色が明るかったり、色白な方や瞳の色がきれいな方が多い気がする。
私の家みたいな子はいないかな、と周囲を見回していると人がぶつかってきた。
「ごめん!大丈夫か?」
その人はぶつかると即座に謝ってきた。
「大丈夫ですよ。そちらこそお怪我はありませんか?」
私は丁寧に返事をする。
「俺は大丈夫。てか、言葉遣いすごくお淑やかできれいだな」
―—あ、褒められた。少し嬉しいかも。
昔から親にきつく言われた言葉遣い。
日本人だししっかりしておこうと、いつも気を付けている。
でも、こんな何気ないことを褒められると少し照れてしまう。
「いえ、いつものことです。褒めていただき光栄です。」
相手は幸せそうな笑みを浮かべながらこう言った。
「あ、そーいや自己紹介まだだったな。俺は葉月笙。よろしくな!それと君の名前は?」
こっちもまだだった。慌てて自己紹介をした。
「私は南雲鈴鹿です。これも何かの縁です。これからよろしくお願いします。」
私が名を口にすると彼は目を瞬かせる。
「な、南雲ってあああの有名な舞楽と日舞の家元?」
いちばんこっちが驚いた。
だって、舞楽と日舞を知っている人など今の世代はいないと思っていたから。
でも、葉月家だって舞楽の家元。
同じ者同士はとても嬉しかった。
「ご存知でしたか。でもそちらも舞楽の家元でいらっしゃいますよね?」
またもや目を瞬かせる。
「あ、ああ。でも俺は舞楽はやってないんだ。でも葉月家と南雲家は他の系統もあるんだ...。」
他の系統?聞いたことはない。
親から色々なことは耳にタコができるくらい聞いたが、他の系統なんて全く知らなかった。
「は、話はまた今度な!クラス表見に行かねぇとな!」
話を逸らされてしまった。
まあ、ここで話すことでもないのは事実だ。
私たちは校舎に入り、クラス表に目を向けた。
すると、必然なのか偶然なのかわからない事実に直面した。
「う、嘘...だろ?お前と一緒のクラスだ!やったな!」
なんと彼、葉月笙と同じクラスであった。
「わあ...!これからも仲良くしていきましょうね。」
とても嬉しかった。早くも友達ができた気がするのだ。
友達なんて滅多にできなかった私は歓喜に満ち溢れていた。
「あ、そうだ。どうせ一緒のクラスなんだしさ、敬語やめようぜ?なんか堅苦しいしさ?」
はっ、途端に気付いた。
今まで私が敬語を使っていたことに。
「そ、そうだね。これからもよらしくね、笙くん。」
私が言葉を発し終わり、彼の顔を見ると彼の頬が紅に染まっていた。
「おおおおおおおう!よ、よろしくな!」
私はそんなことは気にも留めず、ふたりで教室に向かった。
初めて書いた作品ですが、今のところ10話まで書かせていただいております。
好評なら、新編などの制作も考えておりますのでコメントなどお願いします。