終章
「……という話があったそうだよ」と小柄な老人は話を締めくくった。
しかし彼の周りを囲んでいた子ども達は白けた顔をして、
「嘘だい」と口を尖らせた。
「じいちゃんの作り話でしょ」と話をまるで信じない。
そう思うのも当たり前だった。テラスの先にある花畑には、堂々とエルフが飛び交っているのだから。それを狙う人間だっていない。
一匹のエルフが地に舞い降りた。小柄な老人を見つけると、小さな足で一生懸命ちょこまかと近寄って、
「いつもありがとうございます」と両手からたくさんの結晶を渡した「お陰様で、楽しく過ごせてますよ」。
「他に協力できることはないかな」と小柄な老人はエルフの頭を撫でながら、子ども達に作物を持ってこさせるようにお願いした。
「もう十分ですよ。何から何までお世話してくださって。わたし達の涙くらいでお返しができるのでしょうか……」
「お陰で人間も豊かに暮らせてるよ」
お互いに頭を下げると、エルフは再び空に戻った。
この村の資金源は、今も変わらずエルフの涙であった。今年もそれぞれの家に、数え切れない程の結晶が手渡される。
「お礼をしてくれるエルフを殺すなんて、考えられないよ」
しかし、もうエルフは狩らない。彼らとの共存を選んだのだ。
嘘つきとばかりに咎められた小柄な老人は、もう一人の老人と苦笑いした。彼らにとっては、退屈なお伽話に聞こえたのかもしれない。
「あの時は悪かったな」と巨漢の老人が言った「なぁ、セリーヌよ」。
「あれからギャツがうんと勉強してくれたから、今があるんじゃないか。喜びの涙の方が、悲しみよりずっと優れたものになるってね」
「けれども俺達はあの子の、いや、大勢のエルフを虐殺してしまった……」
「償い切れるまで、お互い生き延びようじゃないか」と背中を優しく叩く「死んだ時、クローディアに会えるようにね」。
「そうと決まったら、明日も仕事しなきゃな」
二人はエルフの暮らす山奥を眺めた。木々の生い茂る、自然豊かな山だ。
その頂上にクローディアは、人とエルフを結ぶ象徴として、棺の中に奉られている。
小さな体にたくさんの愛が詰まった彼女は、今もあの時と同じ姿で眠っている。