90. 初! 上級ダンジョン攻略ガイド付き!
お久しぶりです。よろしくお願いします。
いよいよ上級ダンジョンに潜ります。
「ふんふん~~~ふんふふふふ~~~ん、ふふふふんふふ~~~ん」
さて、隠し扉が設置されていると言う肉ダンジョンの5階と6階を繋ぐ通路に到着。いよいよだ。
上層で玄米、中層でクーベルチュールチョコレートとチョコチップ、下層から下でデザート類しかも復刻版アリという私の夢と希望が詰まったココは、上級ダンジョンなんて味気ない名前ではなく夢ダンジョンと呼ばれるに相応しいと思うのだがどうだろう!
──そう、表情筋に現れていないかもしれないが現在、大変な興奮具合で鼻息が荒くなってしまっているんである。え? 鼻息以外にも何か口から漏れてるぞ? お耳汚しだが見逃してはくれまいか。
自分がこの世界に来てから初めて創作に関わったダンジョンという記念すべき事柄は、あまり関係がない。何と言っても自由に米が取れるようになると言う事が、数多の異世界転移&転生モノの例に漏れず私にとっても重大であるのだ。
興奮しないわけがない。鼻歌が漏れるのも致し方ない。致し方ないんだよ許しておくれ!
とは言え興奮は食材にしか今の所向いていないので、ダンジョン攻略部分はサクッと済ませたい。茶会もあるから最短時間希望。
そんなわけでニルヴァス様にアドバイスをいただきながらのダンジョン攻略である。念願のホールケーキ食いへの期待を隠すことなく、快く引き受けてくださったとも。
そうそう、お気づきかと思うが当初は野菜部屋に設置するはずだった入口は、野菜部屋への入口がある通路に設置することになった。野菜部屋よりも通路の方がポルカの注目度が薄かったというのが理由である。
教えられるまま通路全体に範囲探索をかければ、一か所だけ魔力反応が濃い所があった。6階寄りの右手側。
「そこに手を入れよ」
壁一面に生い茂る、分厚い草を掻き分けて岩肌に触れと言うことだなと判断して、指先を差し込んで行くと──うむ、岩肌発見。
「そこに魔力を当ててみよ」
ふむふむ、魔力をね。
途端、岩肌が消失して手が空を切る。
「おお?」
肘が草暖簾に埋もれた辺りで、左右に大きく手を動かすも、手応え無し。
「奥に道があろう」
こうなれば後はその先に進む展開しか用意されていないのではないだろうか、という予想の通りにニルヴァス様のお声が響く。
ほい来た、ワサワサどっこいしょ。分厚く垂れ下がる草を暖簾を掻き分けるようにしてどかしつつ、身体をその隙間に割り込ませる。
おお本当だ。岩肌を露出した通路が奥に向かって続いていた。数メートル先がすぐに曲がり角で先が見通せはしないが、大人2人が横に並んで通れるくらいで天井が高め。そしてちゃんと明るい。
「これは楽しいですね」
奥に続く洞窟と、今入って来た草の暖簾の組み合わせが最高だと思う。初めて見つけた人は例外なく、「ちょっと凄いもの見つけちゃったんじゃない」と大興奮することだろう。裏方を知っている私ですらこんなに興奮するのであるからして。
更に驚くことに、この入口は一定以上の魔力量保持者にしか開かず、通ろうが通るまいが5分経ったら閉じて、あの通路全体を不規則に移動するのだと言う。
「これならばポルカに見つからなかった事への説明になろう」
なるほど、この難解さはポルカ対策だったらしい。
「ふむ。この設定ならば、どのダンジョンにも隠しダンジョンを創れそうであるな」
コングラッチュレーション!!! 現存するダンジョンに新食材を捻じ込むのが、ぼちぼち限界だったんである。種類が増えれば増えるほど、ソロの私にはキツくなるのだ。
だって湧きが少ないのに種類が多いとか、普通ドロップがレア、レアドロップが幻になってしまう……想像するだけで恐ろしい。私の為に是非そうしていただきたい。
何故に新ダンジョンではなく隠しダンジョンなのかという疑問をお持ちの人もいるかもしれないが、新ダンジョンとなるとダンジョン1つ分の食材が必要になって来るからね。
今回はたまたま揃ったから隠しダンジョンが上から下まで開通したが、食材が足りないまま開通すると魔獣を倒したのに何もドロップしなかった、なんて事にもなりうる。
じゃあとりあえず何かをドロップするようにしておいて、後で差し替えればって? う~~ん、そういうことはなるべくしたくない。
もしそのドロップ品を定期的に一定数を誰かに卸してる──ポルカみたいな──人が居た場合、差し替えたら生活がさ、ほら、解るだろう? 今まで西側のダンジョンには増やせなかった理由もそこにあるのだ。
そこもカバーできるのが隠しダンジョンのいい所。「ここのは上から下まであったが、あそこのは上層しか無かった」とか「ここのは中層から下しか無い」とかも有りーの、最初は上層しか無い所に中層を追加したり、各層の入口を分けて個別に創ったりして「あそこ、中層見つかったらしいぜ」とか「いつの間にか先に行く通路が出来てた」とかも有りーの。え、凄くない? いいとこばっか過ぎじゃない?
さあ諸君! 創る側には都合良く、潜る側には意欲と話題をプレゼントできてしまう、素晴らしいダンジョンの誕生を一緒に言祝ごうではないか! おめでとう世界! おめでとう私たち!
「ヨリ、先に進まずとも良いのか」
はっ! ああしまった完全にトリップしてしまっていた。すみません行きます行きます──けどその前に。やっぱり出口の確認はしておかないとね。
こちら側も分厚い草暖簾に遮られて、開いているのかいないのかが見ても判らないので、少々待って手を突っ込んで閉じているのを確認、そこで魔力を再び当てて開け出てみると、先程の通路の、さっきとは別の場所であることが判った。
「気が済みました。行きましょう」
安定の設定で通路には危険が無いそうなので、移動は当然身体強化を使ってのダッシュをしたいところではあったが、ここの通路は少々曲がり角が多くて広くもないので、見通しがあまり良くない。ゆえに初めてであることも加えて速度は控えめ、小走り程度にしておいた。
そうそう、ちなみに少なくとも2人居れば探索を使うことが出来なくても見つけられると聞いて安心した。
通路の左側と右側をそれぞれが壁に手を触れ魔力を当てながら身体強化を使って全速力で走れば、まず逃すことは無いそうだ。
扉が次の場所に移動するまでの時間はランダムだが、開いてから5分は開いたままで固定されるので、2人が走り抜けた後を追って行けばどこかが開いているというわけだね。なるほど!
「ほいっ」
夢ダンジョンの上層の魔獣は、全体的にツヤツヤしてて美しい丸っこい虫だった。カナブンが巨大化したやつだと思われるが、虫には詳しくないので、多分である。
そいつらはデカい図体に相応しい素晴らしくツヤめかしい筋肉的な美脚で、力強くも軽やかに私から一定の距離を保って逃げていた。
歩こうが走ろうが身体強化全開にして突っ込もうが、3メートルぐらいまで近付くと逃げ始めるのである。しかも私と同じ速度で。これは新しいタイプの魔獣だ。楽しい。鬼ごっこなんて、いつぶりだろうか。
小学校の時に追い込み過ぎて、クラスメイトが泣いてしまった事数回。そのうちセーブして追いかけるようになり、そのまま大人になっていくにつれ、鬼ごっこをやる機会は甥っ子としか訪れず。手加減しか必要じゃ無いやつですとも、はい。
ダンジョンの魔獣であれば泣き出すこともあるまい? 思う存分追い込めるではないか!
鬼ごっこの醍醐味は、いかに自分が捕まえやすい場所に、獲物を追い込めるか脳みそをフル回転することにあると私は思っている。獲物の反応の速さ、移動の速さを観察しながら、逃げ場の少ない場所に誘導するのである。
まずは狙う集団を決め、バラけた中からまた狙う小集団を決め、追い込みつつ、さらにバラけた中から獲物を搾って行く。この過程がとにかく楽しい。
追い込みポイントは漠然でいいのだが、追い込みにくい所には行かせないように、こちらが移動して獲物を動かしていくのがミソである。
上手くすれば集団を追い込めるし、それでなくても最終的に残った数人の中で逃げ遅れがちな獲物をターゲットにすれば良い。手つなぎ鬼タイプの遊びなら尚更簡単。鬼同士が手を繋いで、獲物を角に寄せてしまえばいい。
そんなわけで、魔力に反応してしまうことが判明した憐れ巨大カナブンもどきは、秒でこの部屋の端っこに私の魔力の網で集めて寄せられて、切り払われて玄米を落とした。
多少手間が掛かるものの、攻略法が判ったので次からはもっと効率良く片付けることができるだろう。
捕まえて接近した場合は反撃が来るかもしれないので、時間ができた時にでも試してみるかと、脳内メモに書き込みつつ
ドロップした麻袋を拾う都度『分離』の付与をかけて異空間収納に放り込んでいく。
玄米を精米したいのだが精米機頼りでしかしたことが無いので、結果を重視して思い付いた付与である。あの機械の仕組みが判らなくてね〜。勉強しておけば良かった。
それにしても1人に対して15匹の湧きは、大変美味しい。主食の難易度は下げて欲しいとお願いしていて本当に良かった。素晴らしいことに袋15個のうち、2個がレアのもち米だった。種類が少なければレア率も上がる。良し良し良し。もち米大好きなんだよ~~~! やったね!
じきに中層のひと部屋目というところで、水の匂いがしてきた。
辿り着いてみると部屋の床一面に大きな葉が広がっていて、じゃあ水の匂いはどこから、と見回すと葉の隙間に水が見えた。
よくよく見れば葉の隙間から蕾も見える。どうやら部屋が丸々巨大な池となっていて、そこに蓮の葉が水面を覆いつくす勢いで生えているようだった。
葉の隙間を通り過ぎる影で何かが泳いでいるのは分るが、葉の陰で水面が暗いので何であるかは判らない。カエルなどの両生類ではないかと予想はするが、捕まえてみれば判ることである。池の上空に魔力で足場を作り、さっそく水中に魔力の網を張ることに。
蓮の茎が林のように水中に満遍なく広がっていたので、上層のように無造作にはいかなかったが、区画に分けて網を張り、一度に持ち上げることで一網打尽作戦を決行した。
持ち上げて見てみると用水や橋の下などでよく見た黒い鯉であった。蓮の茎の間を泳ぐ為だろう、サイズは普通ぐらいである。実はずっと獲ってみたいと思っていたので、思わぬ所で希望が叶い、非常に満足した。楽し~~~!
1人に対して10匹が湧くことも判明した。上層よりは湧かない設定なのだろう。
次の部屋に向かう通路に下ろし、ささっと全部に剣を刺す。したらばクーベルチュールチョコレートのビターとスイートが3袋ずつの、チョコチップが4袋。
「よっしゃあ!!!」
握り拳で飛び跳ねる。これで飢えてたチョコチップクッキーとチョコケーキが作れる~~~~~!
何と言ってもチョコが一番。陸に上げてからサックリとやったのが良かったのか、袋が濡れていなかったので、スイートの袋を早速開けて口に一枚放り込んだ。ああ美味い! やっぱり美味いし、とにかく滑らかで濃厚だ。
加工用として有名なチョコではあるが、そのままでも美味しいんだよね。。そのまま食べれる物をお預けする理由は無いので、道の壁に岩肌を加工して彫物タイプの祭壇を作り、ビターとスイートをニルヴァス様にお供えする。
「どうぞ」
「うむ。……ぬぅ──……──……──……」
ぬの後のうが掻き消えそうな程小さかったな。その後に長い鼻息だけが続いている。解ります。味わっているのが本当に伝わります! 本当に美味しいチョコって、言葉にならんのよ!
「スイートとビターを一緒に口の中に入れても、美味しいです」
スイート1個にビターが2個とか、その逆とか、自分好みの配合を見つける遊びをお勧めしておいた。
私も色々な割合を楽しみつつ、後5部屋を狩って下層へ向かう。6部屋分狩って、クーベルチュールのホワイトチョコは1つも出ず。やはりチョコチップは通常ドロップにしておいて正解だった。
下層に近付くにつれ、磯臭さが鼻に付くようになった。中層は淡水で下層は海水か。
重苦しいどっぷんどっぷんという音が聞こえた時には、ああ、でかいのが居るなあと、そこは予想通りで。
下層の一部屋目で見つけたのは抱き枕にしたら丁度良さそうな、なんとも長大なヌタウナギであった。多分、ウツボではないと思う、あの顔は。しかもこのぬめりだしね。
どっぷんどっぷんという音は、ヌタウナギ特有の粘液により粘度を増した海水の中を、長大ヌタウナギが泳ぐ音でありましたとさ。
本来のヌタウナギは危険を感じると粘液を皮膚から出して、敵を動けなくしたり窒息させたりすると聞いたことがあるのだが、ここは既に粘液の海。
これが下層レベルに合わせた障害なのだろう。足場は部屋の外周にある、人が1人歩ける幅の道しかなく、しかもそこは巨大ヌタウナギが揺らすせいで起きる波が打ち寄せていて、すでに濡れてドロリとしているのが分る。
これは足を滑らせれば海にドボンからの窒息死が確定だな。とは思ったが、上空に足場が作れる私には無問題である。
底はそれほど深くはなさそうで、見たところ泳いでいるのは5匹。水中に網を張って、今回は水草などの障害物が無いので一気に持ち上げて、足元が滑らない通路まで運んでサックリと処理。
ドパリと音がして長大ヌタウナギが溶け、粘液の中に私が進言したケースがぷかりと現れる。砂にならないタイプは初めてだが、ほぼ透明な所からいきなり出現するのが面白かった。
四角い木桶は、鑑定するまでもなくプリンパフェだと判っている。5個中、1個とはレアにしてはドロップが早いではないか。
残る4個を鑑定すると、幸先良く某パスタ屋の塩キャラメルのチョコレートケーキと、某タルト屋の柿とショコラのタルトと、某コーヒー屋のチョコレートケーキと、某クレープ屋のホワイトチョコのサクサククレープが1個ずつ。
「ふおおおお~~~~~!!!」
あまりの運の良さに感激し過ぎて、その場で身悶えしてしまった。なんだコレ、凄すぎる! 興奮状態のまま、冷凍されているチョコレートケーキ2種に解凍をかけ、5種のデザートを、またも壁に祭壇を作ってニルヴァス様へお届けする。お待ちかねのケーキです!
「ケーキは冷凍でも食べれますから、色々な溶け具合でお楽しみください」
「うむ!!」
今、心の中でニルヴァス様とグッドサインを送り合った気がした。さて、興奮もそのままに、次行くぞ次〜!
お茶会用に各一個ずつは欲しいので何部屋か狩ることにした私は、2部屋目で首を傾げ、4部屋目で確信した。
ああ、5匹同時に狩ったら、常に5種ゲットできるんだ~~っと。うん、レアであってレアで無し。早く5種類食べたかったんだね……。
「ヨリよ」
腑に落ちたその時、ニルヴァス様の厳かな呼びかけがあった。静かで、それでいて打ち震えるように押し殺した何かを感じる。
「──はい」
ボス部屋に向けて走り始めていたが、足を止めて耳を澄ませる事5秒。
「美味であるな──」
「はい──」
陶酔の声に、ガッツポーズを決める。お口に合って良かった〜! と言うことで。
ウィーンチョコレートケーキとカイザーショコラよ、待っていろ! すぐにニルヴァス様の口に送り込んでやるからな!
ボス部屋は入ってすぐは砂浜だった。傾斜が緩やかめのすり鉢状となっているこの部屋は、一言で表すならば『何処ぞのプライベートビーチ』だった。
太陽が無いのに、めっちゃ明るい。そんで砂浜の向こうには、南国の海のような美しい色の地底湖が広がっていて、水色から深い青になっていくグラデーションが見惚れる程に美しかった。
多分、上級、中級ダンジョンよりも広くて天井も高いというのもあるのだろう。地下というのを忘れてしまいそうだ。
しかも部屋の入口から左右に伸びる砂丘は、上から見たら、おそらく三日月の形をしている。さらには奥からさざ波が寄せては返してくるのだ。もうここはリゾート部屋で決定じゃなかろうか。
いや、地底湖の中には他ダンジョンと比べるべくもない程の巨大な魔力を感じるよ? でもさ、こっちがさっきから魔力動かして挑発してるけど、何の動きも無いんだもの。
「もしかして、コレも逃げます?」
「うむ。そうであるな。むふ、ふむ、うむ、うぬ」
モグモグ中のニルヴァス様からの太鼓判をいただいたので、そのうちパラソルとか寝椅子とかテーブルとかを設置するかもしれん。さて、それは置いておいてボス攻略だ。
まずは姿を拝見と、湖の真ん中あたりまで魔力で足場を作り移動、覗き込む。──ん〜〜〜?
「居ます?」
「見えぬであろう?」
はい、生き物と思しきもの以前に、水以外見えません。
「透明なんですね」
「上級ダンジョンボスともなれば、逃げるだけでは足りぬと言うのでな」
確かにボスはデカいから、いつも攻撃を当てるのには苦労しない。なるほど、デカくて攻撃して来ないのなら、透明にするぐらいしないと中級ダンジョンボスより難易度が上がらないか。
まあ居ることが判れば、やる事はひとつ。見えなくても大丈夫!
お待ちくださる皆さまに感謝を。メリークリスマス!(間に合って良かった…)
いつもコメントに励まされています。ありがとうございます!
久しぶりに書いたので不備がありそうでドキドキしてます。




