89.あくまで手伝いデス。
大変長らくお待たせいたしました。ブクマを消さずに待っていてくださる皆さん、大感謝です!
今年も亀更新になると思いますが、よろしくお願いいたしますです!(土下座)
場に沈黙が下りた。外事長官のエレミスさんが泣き止んだのは良いのだが、どうしよう。誰も何も言ってくれない。こちらを見たまま固まられて、待つこと体感で2分。……もう一回言った方がいいのかもしれないという気になってきた。かと言って全く同じ文面ではまずかろう。う~~~んと。
「ご安心を。もともと、初級ダンジョンは中層、中級ダンジョンは上層までは能力が無くとも潜れることは、ポルカが証明いたしております。騎兵団の方々なれば、少し魔力を付与させていただければ下層まで行くことができましょう」
聞きようによっては「能力の無いポルカでも潜ってたのに、あんたら何してたの」という厭味に聞こえなくもないが、そんな気持ちはこれっぽちも入れていない。ただ、装備品も技術も無いポルカが潜れたんだから大丈夫だって! と強調して言いたかっただけである。
言い直したのが良かったのか反応があったのはすぐで、ガタガタガタリと半数が腰を浮かした。「それは本当ですか! すぐに潜ります」とか、そんなようなことを言われるんだろうな~と期待していたらば。
「……ふ、付与ですか?」
「──魔力の付与を?」
「……できると?」
身を乗り出しながら、ほんと? ねえ本当に? そんな副音声が聞こえて来そうな様子で問われた。……喰いつくとこ、そこだったか。 予想外の喰いつき場所に、ああ、そう言えば魔力の付与は特殊だったかとロンさんから聞いたことを思い出しつつ頷きを返したら、希望が見えてきた~~~っていう顔を寄せ合い喜ぶおじ様達。うん、それだけじゃ無いから続けてもいいかな。
「それに加えて、ダンジョンの内部情報と能力開発の方法も覚えていただきましょう。私が居なくとも潜れるようになっていただきます」
またも、一斉ポカンをいただいた。ああ、私が全部やるとでも思っていたのだろうか。いやいや、全員分などとても無理だって。ウン万だぞ? 身動き取れなくなるじゃないか。マニュアルを作れ、そして自分たちで出来るようになってくれ。魔力付与だって初期のメンバーに付与したのを頑張って使わせて魔力量を増やして、それを付与させてけばいいんだからさ。
「……それはもう、手伝いの域を超えておるだろう」
領主が頭を押さえながら、かすれ声で呻いた。やり過ぎの方に驚かれていたようである。
「いえいえ。お教えはいたしますが潜れるようになるかは各々がたの努力次第でございますし、いくら能力が高くとも命を落とす危険性があるのは変わりございません。それに、主を変える予定もございませんので、やはり手伝いということにしておいた方が、私にも都合がよろしいのです」
自分の本来の仕事が最優先で次がポルカだからな。メインで出来ないのだから、手伝いでしかあるまい。それにポルカでは成功したけども、貴族では失敗するかもしれんし。いや半数とは言わん。200人ぐらい成功すれば4カ所ローテ組めるから、そこまでは頑張るし頑張らせる事にしよう。うん。
「対価が、見合わぬ」
差し出せる対価が同等でなければ受け入れられない性質らしい領主が、苦し気な顔で首を横に振る。これに首脳陣が悲壮な顔をした。首脳陣は先ほどから一喜一憂で表情が忙しい。そして私は悩ましい。彼らが納得できる報酬を請求しないことには、特に領主が納得しなさそうだ。
でもさ~、いざ始めたら塩ダンジョンはまず中層までスルッと潜れちゃったりしそうだし、肉ダンジョンだって上層までなら行けそうじゃん。そんでちょっと潜り方教えたり魔力付与して、休日込みで早ければ2週間から3週間──ポルカより付与する魔力少なくするから少し遅めで考えて──でボス部屋まで行けてしまうかもしれないわけで。
どうしよう。後でそれが判った時に、彼らが全く損した感を与えず、尚且つ私とポルカには有難い事……う~~~ん、う~~~~~~~~~~~ん……うん。
「でしたら、読み書きと計算を教えていただけますでしょうか」
内容と言うより、何らかの案が出たことで領主が頷いてくれるのではないかという期待から、首脳陣の顔が弛んだ。金も掛からず、無理難題でもない。領主が頷けば全てが丸く収まるのである。固唾を飲む首脳陣の期待に押されるかのように領主が側仕え頭を見遣った。それに彼が頷きを返して。口を開こうとする領主が言いたい事がなんとなく分かったので、返事をスタンバイだ。
「良かろう。側仕えを向かわせる」
「いえ、そこも騎兵団の方にお願いいたしたく。一方的ではなく、技術交換という体裁がございますれば、貴族の方々もお越しいただきやすくなりましょう」
ゴメンよ、それじゃあ意味がないのだ。
「……ヨリ殿に必要とは思われないのですが──」
ジラルデさんが不思議顔で溢したソレに、そう言えばそうじゃん的に頷くとか。やっぱり私1人が騎兵団員を連れてダンジョンに潜ると思っていたわけだ。ははは。
「いえ、教えていただきたいのはポルカに、でございます。昼はダンジョンにてポルカが皆様方をお手伝いし、夜や休日に皆様方にはポルカに読み書きを教えていただきたいのです」
「……は? それはどういう……?」
まだピンと来ないらしい。まあ考えた事もないなら、こういう反応にもなるか。ではもう一声。
「ダンジョンにはポルカのパーティーに混ざって入っていただくことになります。能力開発を安全に行うには、使える者の補助が不可欠でございますから」
「補助──とは?」
使える者の補助、というのがピンと来ないのだろうか。漫画であれば頭上に疑問符が浮いていそうな顔が並んだ。説明をしても良かったが、多分魔力がグルグルでどうとか言っても更に首を捻られるだけだろうと予想がつく。少し考え、騎兵団長を誘うことを閃いた。
「実際に体感していただくのが一番ですから、明日にでも騎兵団長殿にお試しいただく、というのはいかがでしょうか」
結局、体験してもらうのが一番理解が早いからさ。少しの沈黙がその場に下りた後、覚悟を決めた顔の騎兵団長に「お願いいたします」と頭を下げられた。頭を軽く下げるだけという、共通の挨拶が存在していた事を発見しつつ、感嘆する。
身分的にも役職的にも、ダンジョンに潜ることはないと思っていただろう所への勧誘だったのだ。動揺はあったが、それを瞬く間に抑え込み、覚悟を決めたのが見て取れた。天晴れなり。
「1人では行かせられぬぞ」
沈黙の間に騎兵団長の逡巡から決意を見守っていた領主が、騎兵団長を窘めた。当然である。騎兵団長はここに参加していることからも判るように、領主の腹心なのだ。いくらしっかりとお守りしますと安全を確約したところで、恐れているダンジョン行きを心配しないはずがない。
「検証の為にも、人数は多い方がよろしいと考えております。とりあえずは20人ほどでいかがでしょう」
こちらとしては始めからそのつもりだよアピールをしてみたら、場に安堵の空気が流れた。一番安堵したのは騎兵団長だったのかもしれない。彼の溢したささやかな溜め息には、万感の思いが込められていたように感じた。
それにしてもダンジョンに潜るのを恐れてのことなのか、ポルカの中に1人で放り込まれることを恐れてのことなのか、何にしろ複数ずつを希望してくれたのは良かった。上司として面子を保ちたいという気持ちは至極一般的だと思うので「1人で」と言われても対応するつもりでいたが、効率の良い方がもちろん嬉しいに決まっている。
人選に少し時間を貰いたいと領主たちが申し出て、決行は明日ではなく明後日となった。騎兵団長他数名がポルカの村に早朝来てきてくれることに。約束を取り付けて窓から退出しようとしたら呼び止められて──ジラルデさんに下がり眉でお願いされた。
「すでに賓客であらせられると周知しております。またのお越しは正面からお願いできませんでしょうか」
なんでも、周知はしたのに姿が無いでは私が賓客であると皆の認知が進まないそうで。なるほどと了解しておいた。そして窓から帰る。だって今夜はお忍びだから。
「うあ~~~肩凝った」
すでにお決まりのルーティーンじゃないかとは思うが、使徒補正で本当は凝ってなくても領主館の屋根の上で伸びをする。言ってる事の半分が飾り言葉ってホント勘弁しろよもう。疲れるってマジで。
え、そんな事よりも貴族に手を貸し過ぎなんじゃって? だって貸さなきゃ始まりそうに無いんだもん何にも。
ポルカは今まで補助なんか無くても潜らせられてたんだから、貴族も身を以って経験すべきなんじゃないかって? うん、私も同意見なんだけどさ、それじゃ怪我人とか死人が出て、「やっぱりダンジョン無理」って言われて終わりそうじゃん。
考えてもみて欲しい。天井の電気が切れた時、諸君はどうするね。椅子か脚立を使う、そうだろう? それが無ければ肩車で換えるだろうか。する人は居るかもしれないが極少数ではないだろうか。
それをダンジョンに置き換えてみておくれ。天井の電気がダンジョン、肩車で換える人が現在ダンジョンに潜っている人、椅子か脚立が無ければ換えない人が潜らない人、そして椅子か脚立が魔力付与と能力開発で、それを差し出すのが私。
電気が付くまで待つのではなく、さっさと手伝って電気を付けたい派なんである。ちなみに椅子とか脚立から落ちて怪我したら心配だという人は支えてあげるよね。それが治癒。
どうよ。怪我しても治るし、すぐにポルカが助けるし、能力開発もするからそのうちポルカ居なくても自分たちで治癒から何から出来るようになってもらうし。そうなったらポルカはお役御免の予定だし。そりゃそうだよ。功績に加えて85人で潜るよりもウン万人でローテして潜った方が確実に収獲増えるもの。今の200だ300だなんて、物の数にも入らなくなるって。
それにしても相互に教え合うことにしたのは、我ながらいい思い付きだと改めて思う。教える側というのは立場が上になりがちだ。どちらも教える側ならばどちらが下ということも無くなるし、自分が非道く教えればその仕打ちが返ってくるのは考えなくても解る道理であるので、少し脳ミソのある者ならば自重が望め、教える難しさを双方が理解することで躓きや滞りに寛容さも持てようし。
それに両方を同時期にやることで、痒い所に手が届く教え方の勉強にもなる。「ここを掘り下げて教えて欲しいのに」と思えば自分が教える時には気を付けるだろう? 逆に教え方の上手な者を手本にすることも出来るのだ。素晴らしい先生が育ちそうで、非常に楽しみである。ムフフ。
何をどこまで教えたかの引継ぎも、ノートを作れば上手くいくだろうから、そこは奮発したいところだ。次の班への報連相──お馴染みの報告、連絡、相談──が密になるに従って、能力開発のマニュアルも出来上がってくること間違いなしだし、ポルカの勉強の進み具合も共有してもらえるしで、良い事尽くめじゃん。
問題が起きたらその都度、貴族とポルカには私を交えて解決してもらうとしてだね。うむ、絆も深まることであろう。
ちなみに私も大変助かる。食材の名前の読み書きと数を数えることは出来るようになっていたから、文章を書いたり読んだりという次の段階に進みたかったのだ。しばらくは本業で忙しくなる予定だったから、真に渡りに船なのだ。貴族側からもっと何かやらせろと言われなかったら思いつかなかったから、今回は彼らのファインプレーだな。うむ。
──さてと。
「ロンさんとこ行くか」
待っているはずだから。っとその前に確認、確認。
「ニルヴァス様、ダンジョン出来てますか」
訊きながら、時計を確認すると9時ちょい過ぎだった。
今からロンさんと話をするとして、遅くとも深夜0時には始められそうだ。村で待っているのは確実だから、そこだけを範囲探索で探る。──私の小屋でお待ちかねのようだ。スルリと異空間部屋経由で村の小屋と小屋の間に出たところでニルヴァス様からのお応えが。
「うむ。出来ておる」
よっしゃーー!! 米! ケーキ! そんでもってチョコ!
今夜はケーキダンジョンに潜るとして、明後日の朝までにバルファンの南隣のトレモアの、西隣のテルトにあると教えてもらったアーモンドプードルのあるダンジョンまでは行っておきたい。トレモアの一番西にある豆ダンジョンから行くとして。
お茶会に向けて、余分な時間は一切ない。さあ頑張るぞ私!
+ + +
生糸狩りから帰ってきてから、ヨリの小屋で待っていた。帰って来ないという可能性もあるぞとガザからは言われていたが、朝飯を食べないという連絡が入っていないのならば朝には戻ってくるはずである。とにかく少しは聞き出さねば気が済まなかった。腕時計を見たのは9時過ぎ。朝まで待つ覚悟ではいたが、ヨリの帰りは存外早かった。
「やあ、お待たせ」
小屋に居た俺に驚く様子が無いばかりか、顔を合わせた途端の言葉がコレだ。俺が居るのは予想済みだったらしい。さて、どんな話を聞かせてくれるのやら。最初の言葉は決めていた。
「何で貴族だって言わなかった?」
「皆の素の反応が見たかったから」
睨み上げて少しキツめの口調で問いただしたはずなのに、ニンマリと返されて毒気が抜けた。なんだソレだけのためにかよと頭を掻きながら溢したら、ロンさんが一番険しい顔してたねと笑われた。うるさいぞと、次の質問に強引に進む。
「で、今度は一体何を始めたんだ?」
「貴族にもダンジョンに潜ってもらおうと思ってね」
「っ!!」
普通、貴族なんてのは平民の要求など飲みはしないものだ。それをこうも当然のようにサラリと言い放ちやがるとは。上級冒険者だからであるのか、囲っている貴族の身分によるものなのか、もしくはヨリ自身の身分によるものなのか。……考えても無駄か。何であるにしたって俺にはどうにもならんことだけは確かだろう。ならば、俺が言えることは少ない。
「……できるのか」
こんなものだ。身の丈に合わんことに首を突っ込むもんじゃない。ただ、ヨリがポルカをどうするつもりでいるかぐらいは知っておきたいだけだった。
「明後日に騎兵団長と何人かをダンジョンに連れていくことになったけど、その結果次第かな」
「──っ!!」
き、き、き、騎兵団長!? そんなのをどうやって引っ張って来ることに?!
ものスゴイ動揺に眩暈が起きたが、辛うじてそれだけは言った。胸がドンドコ痛すぎる。口からは晩飯じゃない何かが飛び出そうだ。騎兵団長なんて、低くて上級貴族、高くて領主の一族がなるもんだと聞いたことがある。俺たちが言葉にする時は、そこに様を必ず付けなければ命が危うい。それが来るだと?
「貴族の相手なんて俺たちには無理だぞ? しゃべり方もわからんし」
「そこは貴族に慣れてもらう予定。ダンジョンに潜るのに長ったらしい言葉遣いなんか死にたい奴のする事だもん」
それでいけるのか? いや、いけんだろう! ……え、いけるのか? ほんとに?
ヨリの様子は至って普通だ。だが考えても見ろよ。能力開発からこっち、全部がこんな感じじゃなかったか? ってことは俺基準で考えること自体、間違っているんじゃないだろうか……。
ぐるぐるした頭で結論に行き着いたと思ったら即、次が。
「まあ上手くいかなかったら皆で逃げようよ。隠れ場所の準備も出来たことだしね」
「──は?」
隠れ場所。今、ヨリは隠れ場所だと言ったか? ──いつのまにそんなモノを? しかもどこに? ここからどのくらいかかる? ……思い付く場所はダンジョンの周辺か野菜を採りに行った山や森ぐらいしかない。そのどこであっても、多分貴族が総掛かりで探せばすぐに見つかってしまう。
「……どこに……」
この一言を言うまでに、すでに疲れてぐったりした。それに比べてヨリは元気溌剌。言い淀むことなく先に進んでいく。
「それは明日、ソルも交えて説明するよ。朝ご飯の後なんかどう? ソル呼んでおいてね。まあ私が村に居る時は私が対処するとして、居ない時の緊急用だね。ちょっと本業の方が忙しくなりそうだからさ」
本業と言うと主のための食材集めか。確かに貴族が乱入してきては、俺たちには為す術がない。反撃は反逆罪と見做されて処刑場間違い無しだ。ダンジョン組がそれ以外の者を2、3人抱え上げてダンジョンまで走れば村人は無事だろうが、街のポルカの子供たちまで救える時間があるかどうか。俺たちが勘付く前に人質にされてしまえば、従う他ない。
「子供らはどうする」
「子供らの方には守りを付与しておいたから、連れ去ることはできても怪我はしないよ。私の魔力を探索すれば見つけるのも簡単だし、何かあれば私もすぐに駆け付けるし」
街のポルカを完全に魔力で密封してしまうことも考えたんだけど、そしたら捨て子が入って来れないからさ~と続けたヨリに。普通であれば「すぐに駆け付ける」なんて言葉は話半分で聞くのだが、ヨリのは素直に頷くことができた。不思議だ。
ヨリからの言葉が途切れた。ヨリの待ち顔に、ここからは俺の質問に答える気なのだと判ったが、色々有ったはずなのに今の話でほぼほぼ飛んで行ってしまっていた。が、これだけは言わねば気が済まない、と思っていた言葉があったはずなのだ。なんだっけか……ん~~~~……ん? 思い出した!
「そりゃそうと、貴族に知られたからには接収量がこのままってわけにはいかんのだろう? もう少し後ってわけにゃあ行かんかったのか」
貴族は根こそぎ持って行くに違いないのだ。そうなると以前の飯に戻ることになる。飯が一番の楽しみになってる俺とポルカに、それはキツイと言うものだった。いずれはバレるにしろ、ヨリが連れて来なけりゃ知ってるのはソア様だけ。もうしばらくは今の食生活が続けられてたはずだ。
それを自分から貴族に教えたと聞かされれば、どうして勝手なことをしたんだとなじりたくもなる。一言相談があっても良かったんじゃないかとも。
「例えばだけど、もし私があの時皆の能力開発をしないで料理も教えずに今までポルカの村に居させてもらってて、今日いきなりそれを言い出してやり始めたらどう? 何でコイツ今までやらなかったんだって思わない?」
返事を待っていたら、ヨリが例え話を始めた。想像してみて、全く同じ感想になるが、それがどうして貴族を連れてくる事に繋がるのだろうか。その疑問が答えの端切れを悪くする。
「まあ、思うかもしれんな」
確かにそういう状況になったら、ヨリに事情があったにしろ苦しんでる俺たちを放置してた期間に納得がいきそうにない。感謝はしつつも、さらりと成し遂げられる程に、なぜ、と思いそうだ。
「そんな私は、今ほど信用してもらえるかな」
「……できんかもしれん」
その間に誰かが取り返しのつかないことになっていたら、特にそうなっただろう。さすがのポルカとて、詰りそうだ。
「貴族だってそうだと思うんだよね。貴族側の事情を知った時に言わないで、バレた後で実は──なんてなったら、もう絶対に信用してもらえないじゃん。それこそ根こそぎ取られるよ」
なるほど、ここに繋がるわけか。例え話が無けりゃ、貴族の立場になって考えろと言われても「そんなの知るか」で終わっていただろうが、すんなりと想像することができた。俺たちと違って身分がある奴らなら、激怒してそれぐらいはやりそうに思える。ってことは、だ。
「根こそぎ取られないために教えたってことか?」
「そう言うこと。今なら、何で言わなかったのかって責められても『やっと形になったので、ご報告を』って言えばいいしね。ついでに貴族にもダンジョンを知ってもらおうと思ってさ」
いろいろと納得はできたが、それにしても何でいきなり騎兵団長なんだよ。しかも明後日来るのかよ。こえー……もう少し役に立てる男でありたかったが、ここまでのようだ。俺らは影から見守るべく、ダンジョンを明け渡すことぐらいしかできそうにない。
ポルカを貴族からいかに守るかという命題に取り組み始めた俺だったが、すぐに目を剥くことになる。
「ダンジョン班には一緒に潜ってもらうし、預かってる間は皆と寝食を一緒にしてもらう予定でいるからよろしくね。貴族とポルカがお互いに慣れるように気は配るけど、どうしても無理だって言うならそこで終了しよう。逃げ場所はもうあるし、気楽にやってくれていいよ」
おいおいおいおい完全にガッツリ絡むじゃねえかよおい! 考えるまでもなく無理だと叫んでしまいたかったが、ヨリならイイ顔で「大丈夫! いける!」とか言って押し切って来るに違いないのだ。反論は多分無駄だ。確実に無駄……はぁ……。
それにしたって貴族相手に「気楽」はねえよ。揉めたら逃げればいいだって? 簡単に言ってくれるぜ。胸の内が突っ込みと愚痴で溢れかえっているくせに、そういう時の逃げ方を考え始めている自分の頭に笑いが込み上げる。なんだ充分やる気じゃねえか。
ああ全くこの一カ月の目まぐるしさと言ったら──。そんでもって、それを上回りそうな今後の目まぐるしさを想像して、首の凝りを手で解しながら自分の小屋へ向かう道すがら。
「悩むだけ無駄、か……」
確かにそうだったなと、肉屋組の達観ぶりを思い出して笑いを堪える。これからは自分もそうなれるだろうか。いや、心配症な性分は治りそうにないから、やきもきする前に肉屋組かヨリに突撃するか。そう決めて、結局押し止めることに失敗した笑いが零れた。
+ + + +
時計を何度見ても、時間は9時半前。心配性なロンさんの事だから、もっと根掘り葉掘り訊かれる予想をしていたんであるが。まだまだこれからって時に、彼は清々しい笑顔で「邪魔したな」って帰って行ったという──。
あれ~~~? 私と貴族の出会い編は? ポルカの夕食へのお誘い編は? そんでもってダンジョンへのお誘い編は? ……絶対に訊かれると確信していた部分を触れられずに終わってしまった……なんだか不完全燃焼……。
もちろん訊かれるままに隠さず話す──隠し部屋のことは秘すべきだろうから秘すが──つもりだった。本当であれば日記で読んだことを言うのもルール違反ではあると思うが、そこを話さないと歴代のバルファン領主と首脳たちが苦しんでいたことが伝えられないので、言うとして。
……あれ? 簡潔に脳内で纏めてみたら、客観的に結構スゴイ事になってしまった……。
覗きに不法侵入にプライバシー侵害に待ち伏せに承諾無しの衣服剥ぎ取り。──序章ヤバ過ぎくないか? でも後は良いと思うんだよ。だってご飯プレゼントすること数回、そのご飯を貴方の食卓にもキャンペーン実施中だもん。更に足りない体力と筋力のサポートも。ね! 巻き返しできてんじゃん好感度上書きじゃん?
ふぃ~~~、世界が世界なら犯罪者になるところだった。諸君も充分に気を付けてくれたまえよ? え? 私は大丈夫さ使徒だったんだよ、そう言えば。見守るのもサポートするのも仕事の内ってね! (あ~~良かった)
さ、気を取り直してダンジョンだ! 上級上級楽しみさ~~~ガチャリ。うん、時間は大切に! 扉を開けたら肉ダンジョンのボス部屋さ! ここなら夜はポルカが居ないから、誰かに見られるのは皆無なんだよね! ああ~~~~テンションのうなぎ上りが止まらないよぉ~~~~~!!
やっとここまで漕ぎ着けました。ここからは展開が早いと思われます。私の文才の無さのせいで毎回めっちゃ時間かかってますが、頑張っていきたいと思います!
次話は上級ダンジョンへ! 念願のケーキをゲットしたいと思います!




