85.領主が来る日 5【フレンチトースト、椎茸の肉詰め、グリーンスープ(後半)】
調理後半です。
苦手な方はスルーでお願いします。
帰れたのが2時半ごろ。
調理小屋に入ってすぐに、私に気付いた料理番の1人が手招きを寄越した。
「これ以上煮ていいのか分からんから火を止めておいたが、どうだ」
覗き込んだ大鍋の中には煮崩れた野菜の粒が。鍋を手に取り右に左にと傾けると、見るからに柔らかく煮られたブロッコリーとカリフラワーの欠片が、鍋を傾けるのに遅れてドロリドロリと動いた。
「うん、いいね。そしたらほうれん草を分けて入れて『保温』するよ」
水気が少なかったり粘度があるモノは、根気よくかき混ぜながら弱火で加熱するか、電子レンジでチンするかで温めるのであるが、電子レンジはここには無いし、これだけの量を加熱すれば弱火であろうとなかろうと底が焦げるのは避けられない。よって、鍋に『保温』を付与だ。
焦げる心配が無ければ、全員が集中して椎茸の肉詰めをすることができる。まずは椎茸をひっくり返して敷き詰めて。ほら全員でやったから、作業台に見渡す限りの量であるのにすぐに終わったぞ。よし次は。
「肉と椎茸が外れにくいように、詰める側に薄力粉を振るう」
振るうのは片栗粉でもいいのだがレアドロップなので、そうではない薄力粉の方を教える。接着作用があって合体系ではよく使う技術なので、覚えておいて損はない。何も振るわないレシピもたくさんあるので、そこは好みと状況で選択してもらえばいいだろう。誰だって忙しい時のひと手間は省きたくなるものだ。
さて振るう準備ができた。
振るうのには裏ごし器=振るいを使うが、量が少ない時は茶漉しがあればそちらの方が加減し易いので、是非ともそちらを使っていただきたい。それに少量ずつ粉を入れて、薄っすらと降らせていくのである。
降らせる高さは適当だ。適度ではなく、ホントに適当。振るいであれば側面をトントンしやすい位置、茶漉しであれば持っている腕をトントンしやすい位置で私はやっている。決まりなんてないから自分好みの高さを見つけてみてくれたまえ。
お~~~ビューリホ~~。雪みたいでキレイなんだよこれ。
あはは、最前列の少年たちが作業台の前にしゃがんで見てるんだけど、口を開けて見惚れている。ぷぷ、微笑ましい。
「なんか顔にかかった!」
「白いの付いてっし」
「鼻に入ったかも」
年長3人が薄力粉雪の被害に騒いだ。うん、見てる間にどんどん近付いてくるんだもん君たち。そりゃあ顔にかかりもするさ。ロジ少年とハギ少年は、騒がずパパッと顔の粉を払っている。うん? もしかして少年班のリーダー格は年少の2人なのだろうか。
「粉あんまり吸い過ぎると良くないから、少し離れた方がいいよ。振るう時も覗き込まないようにした方がいいかな」
それを聞いてサササと距離を取る年長の少年たち。ロジ少年とハギ少年はスッと立ち上がって2歩下がった。リーダー格疑惑が濃厚に(笑)。あ~この子ら面白いわ。
「はい皆やってみて」
2人ずつに分かれて、振るう役と薄力粉を足していく役を交代しながらやってもらうことにした。作業台に見渡す限り広がる椎茸であるが、せっせと皆で粉を振らせれば人数がいるからすぐに終わる。さて粉を降らせ終えたら。
「肉詰めはこうやる」
椎茸を1つ片手に持って。もう片手にはボウルの肉種を、ボウルの壁を使って掬い取り、手の中で軽く握り纏めて簡単な団子にしてから、椎茸に合体させる。この時、肉種を持つ手には油を塗ると手離れも良く団子にしやすいのはハンバーグや肉団子と同じだ。忘れて油無しでやると、指にへばりついて取れない材料を拭き取るか洗い流すしかなくなるから、大変もったいない。手が荒れようが油を塗るんだ頑張れ!
そうそう、ヘラで掬って空気を抜くようになすりつけるって方法もあるんだった。椎茸のフチが割れないように、持ち手で力のかかる部分を支えながらの作業となる。私はいつも手作業だから、そのやり方を失念していたよ。まあ今回は手作業で。
「そんで、味見用に先に焼く」
今居る人数は調理番10人、シガとガザで12人、少年たちで17人、私も入れて18人。つまりは18個。味見は大事だ。初めて作る料理は特に。そして先に味見ができないモノも特に。って私はしなくてもいいじゃんって?
いやいや、いつもは白ご飯に合わせて作っていたから多少味が濃くても気にせず作っていたし、薄かったらトッピングを工夫すれば良かったからさ。
ほら大根おろしにポン酢かけたり、ソースとケチャップを混ぜたソースかけたり、とんかつソースにマヨかけて食べたり、デミグラスソースかけたりor煮込んだり、きのこ類としょうゆとみりんを一緒に煮て和風ソース作ってかけたり(大根おろし欲しくなるよ!)or煮込んだり。
単体で丁度いいってなると、なかなかに難しいのだ。これは味見すべきだろう?
「味が濃すぎたら肉を追加、薄すぎたら塩コショウを追加すればいいから」
調整方法を教えながらフライパンに張り付かないように『不着』を付与して、少し隙間を開けながら肉側を下にして並べていく。
そうそう、新しめのテフロンフライパンとか物が良いフライパンとか、オーブンシートをフライパンに敷いて並べたりするなら油無し、予熱無しでも張り付かないから付与無しでいけるぞ。普段から張り付くフライパンだったら、油をケチらずに入れて予熱をしっかりするべしだ。更に言うなれば、椎茸側を下にして焼き始めても問題はない。
私が肉側から焼くのは焼き目を優先しているためだ。フタをして蒸し焼きにする時って、やり過ぎると肉の上部がカーブで固まるだろう? そうするとひっくり返して焼いても、焼き目がキレイに付かないのだよ。まだ肉が柔らかいうちにひっくり返した時は時で、椎茸が加熱で縮んでいて肉がブチャッてはみ出るとかもあって、なかなか難しいんだよひっくり返し時が。
え? それだけ? って声が聞こえるね。いや本当にそれだけなんだもん。理由がしょぼくてすまない。
だから、もう完全な蒸し料理としてって話なら椎茸を下にして焼くし、天板に並べてオーブンで焼く時も椎茸が下だ。ひっくり返しが無いからね。
さてと、並べ終えたらフタをして中火で加熱だ。熱くなりにくいフライパンの場合は強火で。ジュウジュウ言い出したら30秒後に弱火に落とし、蒸し焼きにするのはハンバーグと同じ。蒸し焼き用の水分は、椎茸からも肉からも混ぜた野菜からも出るので追加は不要だ。
後は10分ぐらい待って、ひっくり返して10分かな。椎茸と肉種の厚みにもよるから、その時々で時間は変わる。まあ適当ってことだよ、うんゴメン。火の通りはフライパンにも寄るので、ハンバーグと同じように竹串を差して透明な肉汁が出るまで焼いておくれ。間違ってもピンクだったらまだ焼くんだぞ。中が生だからな!
「はい、どうぞ」
焼き上がったら皿に出し、全員で観察後に試食。
「肉料理は生の時には味見できないから、食材と時間に余裕がある時は味見の分だけ先に作って食べると確実だよ」
焼き立てアツアツを、ふうふうと息で冷ましながら皆で噛り付いて。
「「「「「「「んん~~~~~~~~!!」」」」」」」
唸った。唸らずにはいられない。ちょ、誰だ味付けしたのは。
ハフハフ美味い! 美味すぎる! 歯を立てたところから溢れる肉と椎茸の旨味汁で、口の中が至福の極みで満たされる。もう、この美味さを表現するにはコレしかない。
「最っ高」
それに大人たちが頭を上下に振りたくる。少年たちはと見れば。
「うめえっ」
「……」
「俺、涙出てきた……」
「んんっうう!」
「入れ過ぎでしゃべれてねーし(笑)」
2番目がロジ少年。目を閉じて斜め上を向き、鼻の穴全開のいつものスタイルで陶酔混じりに堪能中。一番最後のがハギ少年。
彼は年上の子が口いっぱいに頬張って何を言っているのか解らないのを、笑って突っ込みつつ、自分の分の椎茸をジッと観察しながら食べ進めている。う~ん、美味しいのか不味いのか、どう思っているのかが読めない……。
自分の分をペロリと平らげ微笑ましく見ていたら、次のひと口に噛り付いたロジ少年と目が合って。はうん! モグモグしながら「美味い!」って伝わってくる素敵笑顔が飛んできたーーー!! いや功績は塩コショウの加減をしてくれた誰かだけどね? もらえるモノは有難くいただきますとも、うへへ~。
「じゃあ残りもやっちまうか」
「うん、よろしく」
皆でせっせと作業して、壁際にズラリと並んだコンロに載せたフライパンの、両端から加熱スタートさせる。こうすればどこまでひっくり返したのかがよく解るし、人も半分に分けられるから、人が多過ぎて作業しづらいなんてこともなくなるだろう? 人が多くなければできない作戦だけどもね。
作業台が空いたら一度洗ってキレイにしてから、フライパンを新たに載せて加熱再開。そこにバターを落としていく。そう、今からフレンチトーストを焼くのだよ。
『保温』が使えなければ先にスープを仕上げるが、使えるならばこっちを先にした方が時間を気にせず大事に焼ける。焦し過ぎずに焼き目をしっかり付けるには、結構神経も時間も使うのだ。遅れたって皆が怒るとは思わないが、遅れていると思えば作り手側は絶対に焦るってものなのだよ。
こんなこともあろうかと、スープには手順を省いても大丈夫な臨機応変可能レシピを選んでおいたから可能な事でもある。メニューの中にそういう料理を一品入れておくと心に余裕が出来て便利なので、是非とも活用して欲しい。
「次はフレンチトーストを焼く。フライパンにバター落として、溶けたらパンを並べてフタ。火力は弱火と中火の間。焦げ目が付いたらひっくり返す。両面に焼き色着いたら出来上がり」
私の鉄板メニューなので、ここは味見用に先に焼かずに、一気に全部を焼く。5分は放置でいけるが、それを越えたらフライパンの性能と各ご家庭の火力次第なのでマメに確認しよう。
パンのフチが茶色になったらひっくり返すのだが、ひっくり返した時に焼き色が薄ければ、後でまたひっくり返して焼き足せばいいので、あまり考え過ぎることはない。ただ、ひっくり返す回数が多いと千切れる可能性が高くなるから、なるべく回数は少なめがいいだろう。
最後に。確実に火は通っているが焼き目が物足りない、という時は中火と強火の間で焼いてみておくれ。え、急ぐ? だったら強火で付きっ切りで。こまめに覗いて焼き色チェックを頑張るべし!
焼けたいくつかをひと口大に切り分けて、またもや皆で味見をする。
「「「「「「うまっ!」」」」」」
うむ、安定の美味さだ。皆の興奮をBGMに、確信を込めて味わった。
やはりフランスパンもどきで作って良かったな。この噛み締めた感触が堪らないし、ぶにっとしないのが素晴らしい。
おお、シガが目を閉じて味わっている。口の動きがめっちゃ遅い。この中の誰よりも堪能しているんじゃなかろうか。甘いモノ、ホント好きなんだね。もっと作ってやらんと……。
あ、ロジ少年がまたも蕩けるような可愛い笑顔をっ! うぉ涙が光ってる?! うん、これから作るから! もっと作るから~~~~!! ……鼻イタッ! つ~んと来た! やばいっ。
この後に来るのは涙だと決まっているので、保温を掛けてある大鍋に向かう体で背を向け、鼻を押さえて揉み揉みして涙を抑え込む。涙目になると涙声になるのが困るのだ。声が震えて聞き取り辛くなるのがさ。
ふう、何とか抑え込んだぞ。甘いモノはやはり別格なのか、ロジ少年からもらい涙をする所であった。あーやばかった。そんで可愛かったっ……グッ!(握り拳)
フレンチトーストを焼いている間に焼き上がった椎茸の肉詰めのフライパンはそのままコンロの上に。フレンチトーストの入ったフライパンは作業台の下に。出来たのから『保温』を掛けていったので、後は盛り付けまで放置で良し。後はスープ作りを残すのみとなった。時間は4時。残り一時間弱。よし省こう。
野菜のスープの最終形態と言えば、やはりポタージュなのではないかと思う。野菜の形が完全に無くなるやつだ。そうするためにはすり潰したり、裏ごしたりといった作業が必要になってくるのだが、今回はそこを省く。
じゃあポタージュじゃないじゃんと言われるかもしれないが、思い出して欲しい。私は「グリーンスープを作る」と言ったのだ。逃げやがって? いやいや、融通を効かせたと言ってくれたまえよ。
このスープのスゴさは、どの段階でもスープとして成り立つという所にある。具を煮る時にドロドロでなくても。ドロドロでも。すり潰して多少形が残っていても。裏ごして完全に形を無くしても。どの状態の時でもコンソメで下味が付いていれば、後は生クリームと牛乳と塩、時にはコショウか粗びきコショウでスープとして完成してしまうのだ。
野菜を煮た後で冷凍して、食べたい時に温めて生クリームたちで伸ばせばいいから、時間がある時にやっておけるのもいいんだよ。あら時間が。そんな時には是非どうぞ。
え、みじん切りが面倒? 食べる人が大丈夫なら大きな具でもいいんじゃないかな。洗い物が気にならないなら、ゴロゴロ野菜をコンソメで柔らかく煮てから、カッターやミキサーやジューサーに掛けるのもいいぞ。作業時間としては最短だ。
話が長くなってしまったが、そんなわけで今回はドロドロ状態で仕上げに入る。鍋の隣には予め『保温』を掛けておいた生クリームが入った壺を用意。
「温めておいた生クリームで溶いてくから見ててね」
お玉1杯の生クリームを入れ、木べらで練るように混ぜていく。溶く時は面倒でも始めは少量ずつやっていく方が失敗が少ないというのが私の体感である。液体の中のダマというのは、思いの外溶け切らない。緩んできたら多めでもいいが、濃度と味を見ながら増やしていくので、やはり少量ずつ増やしていく方が無難だ。
え? 冷たいので溶いちゃ駄目かって? 小鍋ならそれでもいいんだよ。でも大量にやる時に手早く練り溶かすには、先に温めておいた方が断然楽で早いのだ。ただ牛乳にしろ生クリームにしろ、煮立たせると分離してしまって味が悪くなるので、見張っていられないのならば冷たいままか常温でゴーだ。根気よく温めるという以外に違いなどないので、状況次第でいいのである。
混ざったら足してを繰り返し、クリームシチューくらいのもったりしたとろみ具合で、一旦生クリームの投入を止める。そこからは味見しながら生クリームと牛乳、塩、コショウもしくは粗びきコショウを投入だ。
生クリームだけでも美味しい時もあるが、そうでない時は牛乳を足した方がまろやかな味わいになる。それでも調わない時は面倒でも少量の湯で濃いめのコンソメ液を作り、味を見ながら足していく作業が必要となるのだが、塩コショウ具合もコンソメ足す作業も面倒だよ~というアナタに朗報だ。クレイ〇ーソルトで面倒な味の調節が一気に簡単に!
このクレイ〇ーソルトと、生クリームと牛乳との組み合わせがまた楽で美味しいんだよムフフ! キノコ類とベーコンとニンニクを、クレイ〇ーソルトで炒めて生クリームを加えるだけで! パスタソース、オムライスソース、スープにもなるんだよ! すごかろう?
忙しい時には冷凍ピラフにオムレツ焼いて載せて、それを掛けてよく食べたものだ。パスタなら何でも合うけど、ペンネとスパゲティがまた最高で。白ご飯入れてスライスチーズも一緒に混ぜてチーズリゾットとか、白ご飯に掛けてとろけるチーズかピザチーズ載せてトースターで焼いてドリアとか。後は角切りのジャガイモとスライス玉ねぎと腸詰の輪切りをレンジでチンしたのに掛けて食べたり。
う~~~~涎が止まらない! 食べたくなってきたじゃないか。パスタあるじゃん。ニルヴァス様と食べよう! ああ~~~~クレイ〇ーソルトまだだった! いい、獲りに行くし!
ちなみにスープというモノは、最初は物足りないぐらいの味付けがいいのだそうだ。飲み終わりにやっと丁度良くなる塩加減。それが目安なのだと言う。パンに付けて食べるならもう少し味がしっかりして欲しいところであろうが、今回はフレンチトーストなので薄味でいこうと思う。よっしゃ~できた!
「ほい味見」
一番小さい深めの皿に人数分配って、私も食べる。味を見ながら作ってはいたが、やはりちゃんと器に盛ってスプーンで食べるのとは違う。作り手ではなく、今度は食べ手として味わう舌になるのだ。っておい、また泣いてるよあの子。しかし気持ちは解る。私もこの味を初めて知った時、この世にこんな美味しいモノがあったなんて! と感動したからな。
さて、準備はおっけー、盛り付けと配膳はお願いして。
「ロンさん、お願~~~い」
15人分のテーブルと椅子を土魔法で作ってもらって4時半前。うむ、いい時間だ。
「じゃあ迎えに行ってくるね」
約束の時間は5時だけども、早めに行って集まった人たちを観察するって楽しみが私を呼んでいるのだよ。服装チェックもしないとだしね! ウキウキ。
この後しばらくは調理パート無しの予定です。
もし出てきたら、「ああ禁断症状出たんだな……」と生温かく見守ってください!




