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さあ美味しいモノを食べようか  作者: 青ぶどう
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8.商談と謝罪 【ポトフとホットドッグもどき】

 ヨリは黒剣が気になって仕方ないです。

 黒剣はヨリの物になるのでしょうか。


 ********************************************

 8.商談と謝罪



 店内に戻ったら、さて商談だとばかりに椅子を勧められた。

 場所はカウンターの向こう。テーブルがあって件の黒剣と鞘が載っている。

 一度引っ込んだ店主が、この剣の鞘を持ってきたのだ。

 それは黒塗りっぽいツヤを放っていて、右半分に縦に、流水紋なのか風紋なのか判別付きがたい銀の彫りが入っていた。

 美し過ぎて言葉が出ない。私は完全に一目惚れしてしまった。


「さて、この剣の値段だが。いくらとみる?」


 私の様子に何を見たのか、先ほどまでより確実に前のめりで、店主が目を光らせて挑んできた。異世界初の武器なんだから、相場が判るはずもない。

 そこにある短剣が大銀貨1枚で、長剣が大銀貨5枚。単純に考えて、半分の長さだから半額の大銀貨2枚と銀貨5枚! と言いたいところだが。それらの剣と黒剣を、見比べれば見比べるほど、そんな安いわけがないと思ってしまうのである。

 安く買いたいから安く言う。そんなことは、この黒剣に対する冒涜だろう。


 考える。

 長剣が大銀貨5枚だ。それよりも10倍はしてもいい。ということは大銀貨50枚? 角銀貨で5枚か。そしてあの鞘。美し過ぎる。そしてそれだけでは無くて、何かの魔力を感じる。じっと見ている間にも、彫りの銀色が動いているかのように輝いている。

 見惚れて忘れていた「鑑定」を鞘にかけると、「〇〇の鞘」と出た。たぶん剣に名前が付いたら、〇〇のところに剣の名前が入るんだろう。

 心を決めて、店主の目を真っ直ぐ見据えて評価を伝えた。


「角銀貨15枚」


 角銀貨15枚は、銅貨で150万枚だ。

 店主の目付きが鋭くなった。


「お前さんは、それを払うつもりがあるのか?」


 今度は疑われている様子。まあ金持ちには見えないだろう。持ってますよー、支給されたものですけど。

 市場で肉やらを買うときに、心配になって残りのお金を確認したのだ。角銀貨が30枚、入っていた。


 店主も目を逸らさない。私も逸らさない。この剣は何がなんでも自分のモノにすると決めている。


「払います」


「手持ちがあるのか」


「あります」


 鞄から財布を出して、角銀貨15枚をテーブルに置く。

 ニルヴァス様、ごめん借ります。この剣はここで思い切らないと、多分私の元へは来てくれない気がするのだ。


 店主はテーブルの金と私を見て、手の平で顔をこすった。もしや泣いているのだろうか?


「お前さんに売る。解除できることを祈るよ」


 小さくもはっきりと店主が言った。やっぱり泣いていたようである。不良在庫が高く売れてうれしいとか?

「あんた」から「お前さん」呼びに変わったので、認めてもらえたのは間違いないと思うんだが。


 まあいい。黒剣よ、早く解除してあげるから、私の元においで~~~!

 ウキウキと黒剣を手にとり、そっと撫でながら「所有不可、解除」と念じる。

 私の愛が届いたのか、単に私の魔力量のせいなのか、すんなり所有不可が解けた。


「解けましたよ」


 伝えると、店主が今度こそ「ぐふう」とか言って泣き出してしまった。

 どうすればいいんだ私。そう思って泣き止むのを待っていたら、店主が「ちょっと一人になりたいので、また明日来てくれ」と言ってきた。

 こちらとしても、泣く泣くしゃべる言葉を聞き取るのは、正直時間もかかるし御免こうむりたい。冷たい? うん、昔居た友人たちにもよく言われた。なので黒剣と、初収入が入った袋をもらって店を出た。

 用は済んだのに、また明日来いなんて、なんで行くの? と思ったかね?

 店主にはまだ話したいことがあると言うことだろう。ダンジョン用にポシェットが欲しかったから、どうせまた来るつもりだったしね。






 店を出た私は、人気のない路地に入り込んだ。キョロキョロと周りを伺…ったりしない。そんなことをしたら「私は怪しいぞ」と宣伝しているようなものだ。「探索」を使って、半径2キロ圏内に歩いている人がいないのを確認した。街中なのに、2キロメートル?圏内?表通りを歩く人は居るでしょ?気になるので指摘いたします。

 もちろん異空間収納へ入るためである。さくさくっと、この大量の食材たちを加工したいのだ。

 台所を意識してドアを開けたので、目の前は台所のある部屋だった。よしよし。


 入ってすぐジャガイモを10個出して、身体強化に任せて高速で処理していく。

 切ったジャガイモは、大きなフタ付き両手鍋をイメージして10個出した中に、水を張って入れていく。

 もうこれ、創造だよね。焦げにくいように厚手にしたのでずっしり重いと思うが、身体強化した私には軽い軽い、うはは。


 ジャガイモを水にさらしている間に、再びイメージ。コンロを10個作る。元々一個あったのに、何で10個? 9個じゃないの? と思うかもしれないが、自由になるコンロが1個は欲しかったのだ。だって…ニルヴァス様と自分の御飯も作らないとだし。忘れてないよ、ニルヴァス様!


 白菜は、芯を2センチくらいのざく切りにして、葉っぱは大きめのざく切りにする。芯は深鍋を作って入れて、葉っぱはボウルにとっておく。

 人参を小さめの乱切りにして深鍋に入れる。玉ねぎは縦半分に切ってから横半分に切り、後は放射線上に4つに切って深鍋へ。

 そこに塩漬け肉の脂身の多いところを、ひと口大のスライスにして入れる。そしてコク付けにみりんを少し。はい中火にかける。

 何を作っているのか、もうお判りの方もいると思うよ、うん。


 そしたら、水にさらしていたジャガイモの水を切って、水を3分の1入れて、フタして中火にかける。ちなみに3分の1というのは、鍋に対してではなく、ジャガイモの高さに対してである。


 待ってる間に、小麦粉と塩少々をボウルに入れる。ぬるま湯が欲しいのでコンロをもう一つ作って沸かし、冷却でぬるま湯にした。

 それを粉に混ぜながら生地をこねて、平らに丸く広げてフライパンを出して焼く。

 その間にコンロをまた一つ作って、フライパンで腸詰を焼く。あらら、いつの間にかコンロが13個に。

 便利だなーほんと。

 パンをひっくり返したら、粉ふき芋の様子をみていく。おおいい感じ。あと少しだね。

 腸詰をひっくり返して、今度は深鍋の様子を見にいく。野菜は火が通ったね。

 グツグツしたところに、とっておいた白菜の葉っぱを入れて箸で奥に入れ込み味見…醤油をちょちょっと入れる。コンソメがあれば醤油は入れない派なんだけどね。醤油の香りが飛ばないように、あとは深鍋の余熱に任せる。消火。


 パンが焼けたら、平皿に載せて冷ます。もう一枚を焼いている間に、粉ふき芋をわっしょいわっしょい煽り混ぜていく。10個も鍋あったけど、身体強化のおかげで、ささっと終わった。10個のコンロも消火。

 パンをひっくり返して、焼いている間にキャベツの千切りをする。パン2枚分だから、でかい葉っぱを一枚分で済んだ。パンが焼けた。腸詰のコンロも一緒に火を止める。


 すべての準備が終わったので、粉ふき芋用の瓶を作りながら配膳する。

 深いスープ皿にポトフ。平皿に腸詰とキャベツを巻いた簡単ホットドッグである。ケチャップもマスタードも無いが、この腸詰ならいけると思う。

 今回はこちらから呼ばないとかな? そう思って、空間に呼びかける。


「ニルヴァス様、御飯食べますよ~~」


 来た。というか出た。椅子に座った状態で出現し、料理をしげしげと見つめる。


「ポトフとホットドッグです。まだ熱いかもしれませんから、気を付けて」


 ポトフにはフォークとスプーンを付けてあげる。スプーンだと、白菜が載らないのだ。

 味を確かめたい私は、先にホットドッグにとりかかった。味見できない料理なので、不安だったのだ。腸詰が熱々だったので、周りのキャベツがしんなりして甘味が増している。うん、生地がモチモチというほどではないが、充分合格ラインだと思う。早く砂糖をゲットしてパン酵母を作りたいな。


 わしづかみで食べている私を真似て、ニルヴァス様もガブリといった。何回かモグって、目を見開いた。


「ううううう、うまい!」


 口の中見えちゃってんよ…まあいいか。

 後は無言でガツガツ食べてしまった。くれてない子のようだ。ホロリ。


 私が半分も食べてないうちに、ニルヴァス様の標的はポトフへと移った。

 まずはスープを飲んで、再びの驚愕顔。そして味わいながら野菜を食べていく。目線がポトフから離れないよ。

 うん、お気に召してくれたようで安心した。

 私も続いてポトフを食べる。うん、塩漬け肉の出汁が出てて美味しい。やっぱり少し多めに入れて良かったな。


 ちなみに普通、ポトフというと、白菜ではなくキャベツでジャガイモも入るイメージなのだが、私はジャガイモが溶けるとスープを飲むときに喉にひっかかるので好きではない。そしてキャベツも柔らかくなり過ぎると美味しくない。それよりは大根の方が合うと思う。

 ブロッコリーもカリフラワーも美味しいよね。里芋も火を通し過ぎなければ美味しいんだよ。さつま芋は、ジャガイモと一緒の理由でアウトである。ごめんよ皆、私の好みに付き合ってくれ。


 予想以上に美味しかった食事を終えると、私はニルヴァス様に謝った。


「すみません。お金、めっちゃ使いました」


 だが後悔はしていない。後ろめたさも無い。でも謝る。さすがに胸も張れない。ニルヴァス様のお金だもの。姿勢は正すけどね。


「剣を見せるが良い」


 ローブの中から出して、テーブルの上に置く。実はローブの中も異空間収納に繋げてあったりする。


「角銀貨15枚だったな」


 ニルヴァス様はなんでもご存じのようだ。


「ふむ、面白い剣であるな。おぬしとの相性も良さそうである。大切にするが良い」


 その言葉に、私の直観が間違ってないことが判って安心した。


「はい。お金は稼いで戻しますので」


 それには首を振られる。


「命を預けられる相棒であろう。角金貨だったとしても気にすることではない」


 ニ、ニルヴァス様かっこいいいいいいい~~~~!! って角金貨って存在するんだ? じゃあ角銀貨の上に、金貨、大金貨、角金貨って続くんだね。


「その袋の金は減らぬ。そんな事より他に言うことがあろう」


 ニルヴァス様が睨んできた。あの事だろう。


「子供たちのことは、申し訳ありませんが放っておけません」


 そう、子供たちのことは駄目だと言われても放っておけないのだ。むん。

 胸を張って強い意志を示す。


「自由にせよと言ったのは我である。それではない」


 ん? じゃあどれだ? 首を傾げていると。


「子供らと食べていたアレは何だ?」


 ……そっちかーーー!


 私は保温していた袋から、一番でかいのを進呈させていただいた。

「焼いただけなんですよ」と教えたら、ニルヴァス様はフンフン鼻息荒く召し上がり、3回おかわりを所望して帰って行った。


 さて粉ふき芋を瓶に詰めて子供たちの所に戻らないと。






 ************************************************

 黒剣ゲットです。

 道具屋のおじいさんとは、長い付き合いになりそうです。


 ニルヴァス様はお金のことより、焼き芋が気になって仕方ありませんでした。

 催促が無ければ、今回は食べれなかったと思います。ニルヴァス様、ぶれません。

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