78.生湯葉! 【生湯葉 温と冷 と粉ワサビ】 (29日目)
生湯葉です。
料理パートと言うよりも粉ワサビへの熱い想いが溢れています。面倒な方はスルーしてくださいませ。
「南隣は、豆ダンジョンと何がありましたっけ」
いろいろ聞いてはいるが、どこの領地に何があり、その領地のどこにどのダンジョンがあるかまでは、ダンジョン情報が増えてきたのもあって、さすがに全部は覚えていられない。再三言わせてもらうが、物覚えは悪い方なのだ。
「おぬしが欲しいと言っていたコチュジャンのあるダンジョンであるな。後は何やらの皮たちに、ラーメンと春雨か。ごま油もあるのである」
ぬおっ! コチュジャンの事をすっかり忘れていた! ポルカに料理を教えていると、醤油とみりんを使うレシピが使えない。すっかり考えないクセが付いてしまって、そのまま忘れるとかね。面目ない。ごま油はやはり奴の眷属が落すんだろうなと、頭の隅で考えながら何やらの皮の確認をする。
「餃子の皮と春巻きの皮ですか」
ニルヴァス様は目を閉じて検索モードに入り2拍後、口を開いた。
「それと焼売の皮であるな」
ああ焼売を忘れていたね。あれも美味しい。
「中華ダンジョンですね。で、ウェ〇パーはそこにありますか」
「いや、ウェ〇パーは東端の粉ダンジョンであるな」
ふーん別なのか。まあ粉と言えば粉だからなアレは。中華ダンジョンの後にそっちだな。
「言い忘れておったが、粉ワサビと水あめの設置は済ませたのであるぞ」
なぬっ?! はい、中華ダンジョンは祭壇設置で後回し、なおかつ粉ダンジョンには行かないことが決定しました。今日は生湯葉と粉ワサビを獲りに行きます!
西隣はもう祭壇設置が済んでいるので次は南隣かなと。蒟蒻ダンジョンには祭壇だけ設置して、粉ワサビか水あめが設置された時にでも狩りに入ればいいや。そう考えていたのが、ついさっきまで。
元々南を後回しにして西隣のミゾノに行ったのは、粉ワサビの設置を待っていたからだ。
こういうのをタイムリーと言うのだろう。何せこの3日は行きたくとも後回しにするしか無かった。教えてもらっても行けないとか苦行でしかないからな。狙ったにしろそうでないにしろ、このタイミングがベストであることは間違いない。ほら、だってもう異空間通路に飛び込んでしまっているから身体が勝手に。
「生湯葉と粉ワサビはレアにはしてありませんよね?」
バルファンで今一番南にある粉ダンジョンの祭壇へと通路を開けながら確認する。
ソロだと沸きが足らずにレアがドロップしない可能性があるのだ。塩ダンジョンで苦しんだことを忘れてはいない。生湯葉と粉ワサビをレアにはしないで欲しいと希望を伝えておいたのだが、念の為だ。現地で狩ってみてレアだと知るよりは心の準備も覚悟もしておけるだろう? その差は大きいのだよ。
「うむ、レアではない」
よっしゃあ! 粉ダンジョンの外に設置した祭壇付近に出て、脇目も振らずに南へ走り出す。これで思う様生湯葉が食べられるのだ。考えただけで生唾が。飲み込みながら即座に予定を立てる。
蒟蒻ダンジョンの入口に祭壇を設置したら、まずは潜るのを我慢して南隣のトレモア領の最北のダンジョンまで向かう。そこに祭壇を設置したら蒟蒻ダンジョンに戻って狩りをして生湯葉を堪能する、と。
探索で見る地図によれば、蒟蒻ダンジョンは南領地とのほぼ境目と言ってもいい位置にあるのだ。そこからトレモアの一番北にあるダンジョンまで行っても、充分に時間は残るだろうと思ったのである。
身体強化を速度に全振りで、疾走する。範囲探索は脳内マップに光るダンジョン反応目掛けて伸ばして、障害物を回避することに専念した。今回は食材探しは無しで行く。祭壇だけなら走りながらでも建てられるから15分ごとに設置していくがね。
道中はもちろんニルヴァス様との会話を楽しんだ。領主が話しやすくて助かったとか、思った以上に計画を前倒しできそうになった事を2人で喜んだりもした。ニルヴァス様が避難所の準備をしながら話していることを知ってリクエストを出したり、金策のためにはやっぱり味噌と醤油とみりんと酢とソースが欲しいと熱弁して、じゃあどうやったら魔大陸と交渉できるかを相談したり。異空間部屋に行かなくても話せる利点を大いに生かせた6時間であった。
ん? そう6時間だ。4時間弱で蒟蒻ダンジョンに着いて祭壇を設置して、すぐさま南に走って10分ほどでトレモア領へ。そこからダンジョン反応目指して南西に向かい、2時間くらいでトレモアの最北ダンジョンに到着したのだ。バルファンの領地は縦長だった事が判明したよ。今は朝の4時少し前。予定していた4時間を超えた時には生湯葉を堪能する時間が思いのほか少なくなってしまったことに焦っていた。
さて生湯葉と粉ワサビはどこにある?
時間があればレアではないのだから全部屋コンプリートすればいい。だが今は無い。即行訊く。最近は使う頻度が少なくなった愛剣を取り出しながら。
「生湯葉と粉ワサビはどこですか」
訊ねながら、身体強化と範囲探索をそのままに1部屋目に突入した。近い方の一匹目に突きをくれてから、もう一匹へ。緑に赤い斑点のあるデカいカエルがドロップしたのは、顔ぐらいのサイズの木桶で継ぎ目の無い木のフタは真っ平だ。嵌め込み式っぽい。剣先をフタと木桶の隙間に捻じ込んでテコを使って外せば開きそうだと思ったが、時間が惜しいので鑑定で済ませる。2つともが『糸蒟蒻』であった。
「粉ワサビは上層、生湯葉は中層であるな」
「ありがとうございます」
次の部屋へ向かう時にニルヴァス様の返事が来て礼を言うが、粉ワサビをレアドロップにしないで欲しいとお願いしておいた事をこれほど感謝することになろうとは思っていなかった。だってここ、多分初級ダンジョンなんだよね。2部屋目のモンスターも2匹しかいない……。レアにしてたらタイムオーバー確実だっただろうよ。あー良かった。
ぬう。2部屋目でドロップしたのはまたしても木桶だった。形が少し違う。鑑定して納得した。『糸蒟蒻』の木桶はバケツ型、そしてこのドラム缶型の木桶は『板蒟蒻』だったのだ。2つともが板蒟蒻であった。まさか一部屋ごとに違うとか? ならば次の部屋が粉ワサビなのか。
結局粉ワサビが手に入ったのは7部屋目で、糸蒟蒻と板蒟蒻が同部屋でドロップすることもあって予想は外れた。待ちわびた粉ワサビは塩と同サイズの、白いラインが下半分に3本入った灰色の小壺でドロップした。鑑定する時は期待し過ぎないように自分を諫めたよ。レアという可能性もあったからね。粉ワサビだと判って小躍りしながら、量を確かめたくてフタを開けて覗くと白っぽい粉が8分目ぐらいまで入っていた。これだけあれば朝の分はありそうだ。頷いて、中層へ向かう。
中層の沸きは3匹だった。カエルと似たような大きさの灰色のネズミは前歯の2本がサーベルタイガーを思わせるほど長く発達していて、手足の爪が鋭く大きかった。攻撃は受けていないので戦闘力のほどは分からない。サクッと瞬殺だ。
一部屋目でドロップしたのは一抱えもある木箱だった。フタには角棒が2本付いていて、厚みは15センチくらい。鑑定で『木綿豆腐』が2つと『絹ごし豆腐』が1つであることがわかった。今まで通常ドロップが4種であったことが無いことから、あと1種が生湯葉だろうと予想する。
生湯葉には思った以上に早く対面できた。何と2部屋目でドロップしたのだ。豆腐の木箱の、縦も横も半分くらいのサイズの木箱がドロップしているのを見た瞬間、鑑定をしていた。『生湯葉』だった。ガッツポーズの時間も惜しく、次の部屋へ向かう。目標の生湯葉15箱をゲットするまで34部屋狩ったが、比率的には粉ワサビよりも断然高いので助かった。
そうそう、中層ではレアドロップとも遭遇できたが時間が無いので割愛しておく。とにかく欲しい量が揃ったからには食べることしか考えていないのだ。経過時間は5分掛かっていなかった。これで一時間は堪能する時間がとれそうだ。とっとと異空間部屋に移動した。
脱いだローブを部屋の隅へ置き、手を洗いながら作業の段取りを決める。と言っても特に時間のかかる準備があるわけではない。薬味とタレをどの順番で用意していくかというだけのことだ。
まずは一番時間のかかる粉ワサビを練ることにした。───む? どうやるのか知らない? 大丈夫だ。この小壺には書いていないが、パッケージにちゃんと書いてあるはずだ。私が買っていたのには「ぬるま湯で溶け」としか書かれていなかったが。───使う人数によって練る量も変わるので、分量などはあって無きがごとし。使う量だけ手の平に粉を載せて、そこにぬるま湯を少量ずつ足しては練ってを繰り返すのである。
手の平や練る指に付きにくくなるくらいの固さを目指すのだが、量を多く作りたかったり加減が難しいならば、また別の練り方もある。衛生面が気になるという人にもこちらをお勧めしたい。器に先にぬるま湯を入れて、粉を足していく方法だ。手で練るのが嫌ならば、器の壁にべったり付くのを気にせずにスプーンで練られるぐらいの柔らかさで練るのを止めるといい。スプーンで薬味皿にこそぎ付けるように盛ってくれたまえ。
粉ワサビを使う時にいつも思い出すのは、私が『粉ワサビ』というものに出会った時の事だ。
高校1年の1学期の調理実習の時だった。調理実習で刺身が出るわけがない。使用料理はキャベツの酢の物で、キャベツをザク切りにして軽く茹でたのを絞り、調味した甘酢に浸けるだけの簡単なものだった。それに練りワサビ───粉を練ったら、粉ワサビは練りワサビへと変身を遂げるのだ! ───をちょこんと載せる。不慣れなひよっこたちにも出来る、まさにひと手間すら感じさせない料理だった。
班で行う調理実習は、仲の良いコと組むわけではない。よって役割分担は偏る。包丁が使える子が率先して使い、そうでない子は他の作業をするのである。別にジャ〇アンが居たというわけではない。なんとなくそういう役割に落ち着く空気というのがあっただけで、虐めとかでもないから安心しておくれ。ちなみに私は包丁なんて果物を切るぐらいしか使っていなかったので、全く自信がなくて「どうぞどうぞ」だった。だから包丁を使わない役割の私ともう1人に粉ワサビの練り作業が回ってきたのは、私にとっては人生の分岐点とも言うべき───誇張ではない! ───僥倖だったと思っている。
作っている最中も、いざ食べ始める時も、特に期待はしていなかった。ワサビの載った酢の物が珍しく、食べた事の無い味に慄きながらの試食であったが、ひと口を味わった途端、驚いた。ひと口ごとにちょみっとずつ載せて口に入れる。これが、目から鱗が落ちるほど美味かったのだ。その当時は味覚が子供ということもあり、まだそんなにワサビというものに馴染みが無く、忌避感すらあったように思う。ワサビの美味さに目覚めた瞬間であった。
当時の粉ワサビは、小さな缶に入っていて粉の色がキレイな黄緑色をしていた。今現在でも蕎麦屋などで出てくる練りワサビは黄緑色をしているが、私の買い物範囲内の店で取り扱っていたのは小瓶かビニール袋に「無着色」と書かれた白っぽい粉だった。新しい店に入ると必ず探すのだが、缶に入った黄緑色の粉を見つけることができなかった。そもそも粉ワサビ自体を置いてある店の方が少ないくらいだ。スーパーより卸屋や地方の特産や調味料を扱っている店の方が見つけられる確率が高かった。
そんなわけでニルヴァス様にお願いした粉ワサビは、無着色の───黄緑色の方に着色料が入っていたかは定かではない───白っぽい粉の方である。ちなみに材料は西洋ワサビなのだそうだ。ホースラディッシュと言った方が解る人もいるかもしれない。「ああ、ローストビーフとかステーキに使うやつね」と。
肉にも魚にもうどん蕎麦にも煮物にも酢の物にも、そして生湯葉と実はごま豆腐にも最高な、実はかなりの人気者、それが粉ワサビだ。ただ、物足りないと感じる人もいるだろうから、そんな人は日本のワサビを使ってくれたまえ。西洋ワサビも日本のワサビも、全く同じ用途で使えるからね。
さて、粉ワサビの話はこれくらいにして、今回はとにかく生湯葉の量が多いのでスプーンで練らせてもらうことに。一壺しかないので失敗は許されない。まずは壺から半分を別の器に出しておいてぬるま湯を入れて練った。トロトロになったところに、スプーン1杯ずつ粉を足しては練る。練っている具合を見ながら、ぬるま湯を足したり粉を足したりを少量ずつ繰り返していくのだ。ぐりぐりぐり。よし完成だ。風味が飛ばないように時間停止を付与して、スプーンを入れたままテーブルに置いた。
その後は手早くショウガを擦り、葉ネギを刻む。そして追いガ〇オつゆを2倍に薄めて中壺に作り、テーブルの私の右手に設置した。これで座りながら注げるようになった。フフフ。悦に入りながら、それぞれの席に土鍋を1つずつ用意して生湯葉を木箱から直接、絡んだ豆乳ごと流し入れて保温をかける。沸騰はさせてはいけないので「加熱」ではなくて「保温」だ。そのままではすくいにくいので、両手に菜箸を持って裂いておくのを忘れない。おふ、この裂ける感触が堪らんのよね。終わったら木のお玉を取っ手が手前に来るようにセットで完了だ。すくうのが待ち遠しくて手がワキワキと動いてしまう。
土鍋が温まるのを待ちつつ、刺身用のタレを用意だ。溜まり醤油があれば一番なのだが、無いので醤油に追いガ〇オつゆを濃縮の原液のまま、味を見ながら混ぜていく。こちらも中壺に作り、追いガ〇オつゆに並べて設置する。もちろんどちらにもお玉を投入済みだ。私の快適生湯葉基地作りは順調に進んでいる。ぬはは。
仕上げに取り皿と箸とレンゲをセットして、定番の湯冷ましを注ぎ終える。そして土鍋の横には生湯葉の木箱をそのままドンと置く。ちゃんとフタを取って裂いて、お玉を入れてから。
「ニルヴァス様、食べますよ!」
「うむ!」
ニルヴァス様の着席を確認。さあ生湯葉パーティーの始まりだ。
タレと薬味だけでこれだけの量を食べるのは飽きがくると思われそうだが、それは違うと言わざるを得ないよ諸君。タレが醤油と鰹ダレ2種、薬味がショウガと練りワサビとネギの3種だけ。だけなんだけど、深い。深いのだ。ちなみに追いガ〇オダレで堪能するだけでタレの器が4つ欲しいから。なぜって? ニンマリ。では温まった生湯葉からいってみようか?
お玉ですくった生湯葉を深皿に入れて、そこから追いガ〇オダレに生湯葉をそそっと入れる。まずはそのままタレに絡めて食べるのだ。プレーンだね。ニルヴァス様と共にトュルリと吸い込む。舌の上に優しく載せたら、そっと揺するのだ。あ~~~、生湯葉のヒダが濃厚な豆乳と追いガ〇オダレを巻き込んで、ふわトロタフタフと舌を擽る。堪んないわ。
そうそう、食べる時には断然箸をお勧めしたい。裂いたと言っても大雑把にしてあるだけなので、スプーンでは上手くすくえないのだ。箸で多過ぎない量を破ってタレに絡めて食べるのである。
「む?」
初めての食感なのだろう。驚きの顔でニルヴァス様は口をもごもごさせた。そういう私も口をもごもごさせている。えー、だってね、ふわトロタフタフを口の中で混ぜた方が美味しいんだもん。そして生湯葉のふわトロを潰さないように、生湯葉とタレたちを分離させないように混ぜるとしたら、舌を丸め気味にして上下とか左右に振るわけさ。上下左右全部に振ると舌の動きは……そう、横回転だね。私のお気に入りだ。よいしょよいしょ。空気も巻き込んで、よりタフタフ感が増すのだよ。いつまでもやっていたい気もするが、ここで大事なのは味が丁度いいうちに噛んで飲み込むことである。生湯葉本体の味を楽しみたいなら別だけども。
え? やり過ぎ? もちろん素直に噛んでも美味しいし、上あごと舌で圧し潰しても美味しいし、舌を丸めて包み込むようにして食べても美味しいし、舌の横に流して食べるのも美味しいよ? タレと薬味が一緒でも、それぞれで感じる美味しさが微妙に違うのが楽しいんだよね。
トュルリもごもご。追いガ〇オダレの塩味を豆乳が、豆乳のクセを追いガ〇オダレの旨味が中和して、それが生湯葉の柔らかさと合わさって。うん、やっぱ美味いわ。
私がひと口を思う存分楽しんでいる間にニルヴァス様は、「うむ」「うむ」と一口ごとに声を漏らしながら、せっせと取り皿の生湯葉を平らげてしまっていた。新たに入れてやりながら今度は薬味を入れて食べるのを勧める。温かい生湯葉に追いガ〇オダレと来たら、やはりショウガだろう。鼻息荒く目を期待に輝かせたニルヴァス様の、未使用のタレの器に下ろしショウガを溶き入れて促す。ニルヴァス様に負けじと期待に胸を振るわせている私も、ニルヴァス様が口に啜り込むのを目の端に捉えつつ、ショウガ入り追いガ〇オダレに生湯葉を浸して啜り込んだ。
「はあああ~~~~っ」
おおう、湯船に浸かった時みたいな声が出てしまった。ショウガを足しただけでこれである。薬味とタレと生湯葉のハーモニー、ここに極まれりと叫びたくなるくらいにベストマッチな味わいに感嘆の声が漏れるのも仕方あるまい。豆乳の濃厚さを洗い流してくれるかのようにさっぱりと食べられるのだ。実にエクセレント!!
「ぬふううう~~~っ」
あ、ニルヴァス様も同志だった。見れば顔の中央あたりにある2つの穴が、大変なことになっている。出来る大人はそっと見ぬフリをしてあげて欲しい。私? そっと意識して閉じたよ。うん、どこを? って訊かないでおいてくれるかな。
後は好みでネギを入れて食べるのだと教えて。私は入れても入れなくても好きだから、どちらも食べたい。そうすると結局タレの器は1人4つになった。プレーンと、ショウガ入りと、プレーンにネギと、ショウガ入りにネギだ。ほら、温かいのだけで4つの味わいに。
豆腐と兄弟のようなものだから、多分、ポン酢に大根おろしと粉末唐辛子のチリ酢で食べても絶対イケると思うんだよね。大根をゲットしたら絶対にやろうと目標を1つ増やした。さて、今度は冷たいのだね。
ここで、冷たい生湯葉だけでも6つの器が必要になってくるのだ、と言ったら驚きかな? 解ってくれると思うから、一緒に想像してみようか。はい、追いガ〇オダレと醤油ダレがあります。まずは薬味を入れずに味わいます。これで2つだね。追いガ〇オダレにワサビを溶くのとショウガを溶くので2つ増えて。醤油ダレにワサビを溶くのとショウガを溶くので更に2つ増える、と。
ほら生湯葉だけなのに、堪能しようと思えば5種の調味料で10も皿が必要になるのだ。これをローテーションで食べるんだよ? 飽きるかな? まあ大好物でも食べ続ければ飽きるものだ。飽きるほど食べられる幸せに感謝を捧げよう。ニルヴァス様への説明も終わった。さあ、思い切り生湯葉を食べよう~~っと。
トュルリトロトロ、もごもごウマウマ。ああ、美味し!! やはり粉ワサビは素晴らしいな。どちらのタレにも合うし、溶いても載せても鼻に抜ける香りが堪らない。私は半溶けが好みだぞ! 粉ワサビって、辛いんだけど甘く感じるんだよね。ほんとファンタスティックだわ……。おおう、ショウガもいいね! 爽やかに口を洗ってくれる。ワサビ入りの方は甘く感じるのに対し、ショウガ入りは舌の左右部分が喜ぶんだよね。
さっぱり食べたいなら追いガ〇オダレがオススメかもしれない。鰹味が最高に絡んで美味いのだ。ワサビもショウガも、どちらも薄く感じるようになったら、生湯葉を浸ける時に落ちる豆乳と混ぜて一緒に飲むのだが、それぞれにまた美味い。ワサビはもう口内が喜ぶ。ショウガなんかは咽喉が気持ち良くてだね? いや、ほんとに気持ちいいんだよ! 飲んでもらえば判る。是非やってみてくれたまえ。
ニルヴァス様はむうむう、うむうむ言いながら全部の味をローテーションし続けた。今現在は温冷共に4箱目である。私はニルヴァス様の皿が空にならないように足しながら自分も大いに堪能したが、豆乳の濃厚さに両方とも一箱ずつでギブアップした。まさか生湯葉をくどく感じる日が来るなんて思いもしなかったよ。これは飽きたうちに入るのだろうかね? あれだ。醤油ダレで食べる分はザルにあけるか布巾に載せるかして豆乳を切るといいかもしれんな。……うぷ。
私のお気に入りは温冷共に追いガ〇オダレにショウガを溶いたのと、冷の醤油ダレに練りワサビを溶いたやつだった。あと少しをその2種でかき込んで、湯冷ましを飲みながらニルヴァス様の給仕に集中する。せっせとタレに薬味に生湯葉にと足して、結局ニルヴァス様は生湯葉を計12箱召し上がった。私の2箱と合わせて14箱。あと1箱しか残らなかったのは、さすがニルヴァス様と言うべきだろう。足りて良かった。
ニルヴァス様は湯冷ましで一息吐いて、生湯葉とは実に不思議な食べ物であるな、と。味が少しだけ変わるせいなのか、溶けていかないトロトロを舌で探りながら食すのが楽しかったと感想をくれた。まさにその通りで、私も身を乗り出して「でしょう?」とドヤ顔で賛同する。
そうなのだ。一つの味を厳選して出されるのも美味しいが、食べ比べこそが贅沢極まりない食べ方だと思うのだ。蕎麦やうどん、ラーメンに豆腐、他にもそういう素材はあるだろう。タレの数だけ、薬味の数だけ食べ比べられるなんて、贅沢だよね。ラーメン屋さんで全種のスープを食べたくなるのは、私だけではないはずである。
生湯葉の余韻に浸りながら時計を見れば5時半。ニルヴァス様の堪能速度が速いおかげで、村の朝ごはんの仕度には間に合った。よし行くか。湯呑みをカラにして席を立つ。ああ、そうだ。
「隠しダンジョンの方はどうなっていますか?」
メモには希望層を書いておいたのだ。上層には玄米を、中層にはクーベルチュールチョコレート各種、そして下層にケーキたち。ボス部屋には私のとっておきのチョコレートケーキを指定しておいた。なぜケーキたちを上層に持ってこないのかという理由には、とりあえずはケーキたちを自作できるようになるまでは普及させない。そういう考えが私にあるからだ。
そもそもケーキたちの許可をもらったのは魔大陸との交渉の為であり、今のこの大陸に普及させればケーキ技術の取得&向上の芽を摘むことにもなる。だから隠しダンジョンでも下層以下にしたのだ。
ゆえに隠しダンジョンの入口を分ける必要があった。
隠しダンジョンの上層への入口は、通常ダンジョンの上層と中層を繋ぐ通路に。
隠しダンジョンの中層への入口は、通常ダンジョンの中層と下層を繋ぐ通路に。
隠しダンジョンの下層への入口は、通常ダンジョンの下層の最後の部屋とボス部屋を隔てる壁の隅っこに。
そして隠しダンジョンのボス部屋への入口は、通常ダンジョンのボス部屋の最奥に。
上層と中層の入口はすぐに判るように、下層とボス部屋の入口はすぐには判らないようにして欲しいとお願いしてあった。玄米とクーベルチュールチョコレートは材料だから、どんどん狩って欲しいのである。入り口のデザインや仕組みをどうするかは、ニルヴァス様にお任せだ。
「うむ。上層と中層はすでに設置が済んだのであるがな」
ほう! じゃあもう行ってもいいんだな?!
「下層とボス部屋のドロップのさせ方に行き詰っておる」
ぬ?
「ドロップのさせ方、ですか?」
「うむ。ドロップする時というのは、少し高いところから落ちるであろう? それだと中身が崩れるのだとあやつが言うのでな」
言われてみると、「ドサッ」も「バシャッ」も確かに落ちてこなければ出ない音ばかりだ。砂山や草などでちゃんと衝撃が考えられていて感心した覚えがあった。それをやってもケーキたちは崩れるか。
「───確かに崩れるでしょうね」
特にプリンパフェがな。
生湯葉と粉ワサビへの愛が溢れすぎてなのか、ちょっと文章が定まらず時間がかかりました。
隠しダンジョンの設定の話し合いが始まりましたね。ケーキをドロップさせる方法は次回です! そして許可が下りる条件も……。
隠しダンジョンの入口の辺りを、少し直しました。11月19日、ワサビで食べる表現を加筆しました。




