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さあ美味しいモノを食べようか  作者: 青ぶどう
73/91

72.試着は順調に。 【サラダの豚バラ肉載せ】

試着の続きです。

順調です。


今回は料理パートではなくて、裁縫パートが入ります。面倒な方はそこは飛ばしてどうぞ。

 仕立て屋に行くと、親方の上辺だけの営業スマイルが心からの営業スマイルになっていた。何があったのだろうか。親方だけでなく従業員も何故か当たりが柔らかくなっている。これぞ寄り添う接客の見本! のような……。どんな心境の変化なのかわからないが、正直助かった。これなら今後も付き合えそうだ。


 こちらでも3サイズの仮縫いが終わっていた。とりあえずパーラで作ってみたと差し出されたそれは、さすが本職と言える出来栄えで、中を私が、大を立候補したバルが試着することになった。恐れていた着替えを、試着室でと言われて安心する。以前も言ったが、この世界では下着を付ける習慣が無いのだ。


 店の奥にあるそこへは、私には女性、バルには男性が付いて案内してくれた。履き替えて試着室の鏡を見ると、股引ももひきっぽい。求めているのは確かにこの形なのだが、やはりアレが無くてはイマイチ恰好が付かないな……。鞄から暑期用の布で作ったサラシを出し、足首から膝に向かって巻いていく。曲げた時に膝周りがゆるくなるように少し裾を持ち上げながらを意識して。


 うーん、少しキツく締め過ぎたときは伸縮を付与すればいいか。地下足袋はやっぱ黒が無難かな? 色々と考えを巡らせながら巻き終わり、立ち上がって鏡を見る。黒ズボンに黒いサラシ、そしてここに黒い地下足袋を装備することを思い浮かべる。これで上衣まで黒にしてしまうと、完っ全っに! 日本古来のあの職業になってしまう。サラシを黒にするのはやめるか……。白と薄いこげ茶色の薄布もひと巻ずつ買うことにした。


 試着室から出ると待っていたバルが目を見張る。


「巻く布の色を白か薄いこげ茶(ヘム)にする予定だけど、こう履くつもりなんだよ。今の靴には合わないけど、靴屋に頼んでる地下足袋にすれば格好いいから」


 と教えてやると、ほーとかへーとか物珍し気に見ながら付いて来た。うむ、歩いていて膝やももにはストレスが無い。先程しゃがんだ時、お尻まわりにも問題が無かった。履いた感じは理想に近い。後は広い所で少し動いてみてだな……。ああ靴屋まで歩いて行ってみようか。いや、先に布屋に寄るか。白と薄いこげ茶も買って、ちゃんと合わせてから靴屋に見せれば、靴屋にもイメージが掴みやすくなるだろう。よし、そうするか。


 作業場に戻って披露したが、どうにもサラシで裾を巻くのがよくわからないと首を傾げられた。しかも黒に黒で巻いているから、見え辛くわかりにくい。バルと私を見比べて、脱ぎ着が楽なバルの方で充分ではないかと言われ、バルにした説明を繰り返した。ならばそれを見たい、と仕立て屋の親方も一緒に付いて来ると言い出す始末。余程私の言う『格好いい』が疑わしいらしい。構わないが、靴屋に頼んだソレが出来てるとは限らないからとは釘を刺しておいた。



 そこから布屋に戻って在庫にあった暑期用の白と薄いこげ茶をひと巻ずつ買い、布屋の作業台を借りて仕立て屋がサラシを作った。この時に知ったのだが、こちらの世界では1センチぐらいを1マヴル、1メートルぐらいを1ラダムと言うようだ。実際に1マヴルが1センチと同じかどうかは知らないし気にしない。そのうちにマヴルとラダムの感覚も身に着くことだろう。


 ここで作業をさせてもらえるように布屋を説得したのは仕立て屋だ。親方同士、仲がいいようで微笑ましかった。そうやってできあがったサラシを興味津々な視線の中で巻いていく。まずは私のを白で。その後でバルの方には薄いこげ茶を巻いてやる。「裾を上にずらして巻くことで膝に余裕ができるから動きやすいんだよ」と教えてやると、バルが屈伸やジャンプで試して「ホントだ!」と喜んだ。それ以外の人達は、布屋も含めて「でもサラシが無い方が見た目がいいぞ」と眉間にシワを寄せながらサラシスタイルに不満顔だ。


「だから靴だって!」


 再三の私の主張に、今度は布屋まで「気になる」と靴屋まで付いてくることになった。……だからね? 仕立て屋にした説明をもう1度繰り返し、私と肉屋たち、そして仕立て屋と布屋の親方は、若干の視線を集めつつ靴屋へと向かったのであった。



「おお! 待ってたぜ!」


 靴屋に入ると待ってましたとばかりに親方が迎えに来た。が、私の所までは来ずに、しきりに手招きを高速で繰り返しながら奥に戻っていく。どう見ても付いて来いって言われてるよね。こりゃもしかしなくても仮縫いが済んでんのかなと期待が高まる。親方の後を追って奥に進んだ。


 昨日来た時には気付かなかったが、どうやらこの店は奥に長いようだ。入口すぐの部屋には壁に沿って作られた木の棚に、出来上がった靴が陳列されていた。壁の中ほどには等身大の鏡、真ん中のスペースには椅子がいくつか置いてある。その奥にカウンターがあって、店員が1人店番をしていた。私が知っているのは、このカウンターまでである。おや昨日と同じ青年ではないか。昨日と同様、今日も素敵な笑顔で会釈をしてくれる。うふふ、顔ゆるむわ~。


 今回手招きで呼ばれたのは、そのさらに奥の作業部屋だった。入ってすぐに大きな作業台の上に載せられている地下足袋を発見する。近付いて観察。見た感じ、仮縫いは終わっていそうだが……。


「履いてみてくれよ」


 やはり出来ていたか。頷いてさっそく履きにかかる。仮縫いの糸がぶち切れてしまいそうで怖いので、こそっと糸に強化を付与した。それから作業場の椅子を借りて、まずはサラシを外してから地下足袋を履く。地下足袋の上部分は最初からサラシで巻いて留めるつもりだったので、膝下くらいまでくるように長く作ってもらってあった。踵側は足首の上から左右に開くように。そこまでは普通の足袋とあまり変わらない作りだ。


 しかし留め具は無い。留め具にすると足の太さまで考えなければならなくなる。今後肉付きが良くなっていくはずなので、太くなっても大丈夫なように留め具はやめたのだ。その代わりのサラシというわけである。

 開いている左のパーツ端を右に引っ張り、右のパーツ端を左に引っ張り、そうして自分好みの締まり具合になったところで白いサラシを巻いて留めていく。緩んでしまうかもしれないので地下足袋だけをまずしっかり巻き留めてから、もう一本サラシを出してズボンを布屋でやったように少し膝側にずらして巻いていった。両足ともそうして出来上がりだ。


 立ち上がって全員に見せようとしたが、作業台もあり足元の見晴らしはよろしくない。入ってすぐの部屋に戻ってからにした。そこにある鏡に全身を移して出来上がりを確認する。ついでに毛皮屋でもやったように、前後左右にステップを踏んで、履き心地をチェック。おお動きやすいな。しかし、やはり3枚重ねの布なので足裏には不安が残るか。石など踏めば悶絶モノだろう。靴底は当初の通りに付与で強化だな。見た目も想像通りに仕上がっている。うん、サラシを薄いので作って良かった。そうでなかったら足首から脛にかけてが太くて不格好だったに違いない。さて皆の反応は───。


「悪くないな」


「ジカタビと言ったか? 靴を替えただけでこれだけ変わるとはな」


 仕立て屋と布屋のお眼鏡にはかなったようだ。肉屋たちの方は……と見れば、バルはさっそく靴屋に足のサイズを計ってもらっていて、他の4人は自分の番を待ってソワソワ。


 迷いを捨てたかのようなスッキリとした顔になった仕立て屋は、とりあえず残りの色で3サイズを急いで作ると奮起して、布屋と一緒に帰って行った。ちゃんと寝てからにしてねと後姿に声をかけたが、あれは聞こえているのかどうか。布屋が苦笑していたので、彼には聞こえていたと思いたい。そして願わくば彼から仕立て屋に伝えて欲しい。心の中で敬礼して見送った。


「ねえ親方、この地下足袋って足計らなくても作れる?」


「んや、親指のでかさや甲の幅と高さが人によって違うからな。ちゃんと計らんと駄目だな」


 ん~~~、ポルカの皆を連れてきたとして計ってくれるだろうか。来るのが駄目なら向こうに連れてって計ってもらうか。うーーーーん……。


「なあ親方、ヨリは仲間の地下足袋も作る気でいるんだが、計ってくれるか?」


 おおっ?! ちょうど計ってもらっていたバルが、私の悩みドストライクな事を訊いてくれた。グッジョブ!

 さあ気になるお答えは? 


「あ? 客なら誰の足だって計るぜ。だが多すぎると誰のを作ってるのか忘れちまうかもしれんから、5人ずつ来てくれると助かるな。表から入り辛かったら、作業部屋の奥の倉庫にある裏口から入んな。裏の小道から入れるぜ」


 それを聞いて私は疑問符いっぱいで言われたことを考えた。え? どゆこと? 


「ヨリ、あいつら連れて来てもいいってよ」


 私の混乱をよそにバルが爽やかな笑みで結論を出してくれた。え? 本当にいいのか? 他の4人の見解も同じなのだろうかと見やると、恥ずかしいことに見られていたらしい。目が合って頷かれた。そうか、いいのか。でもな。再度確認を込めて肉屋たちを見ると、今度は強く頷かれた。まじで? ほんとか? ……親方はポルカの事だって解っているのだろうか。店を出たら肉屋たちに訊いてみよう。


「じゃあそれ出来上がってから連れてくるよ」


 5人分てことは、私のと肉屋たちのでちょうどになる。そう思って言ったのだが。肉屋たちは首を横に振った。


「いや、俺たちのは最後でいい。あいつらのを先に作ってやれよ。俺らは待てっからな」


 え、じゃあ今計ったのはどーするんだ。誰のか忘れるって言ってたじゃないか。首が知らずかしいでいたらしい。苦笑した靴屋の親方が言う。


「こいつらはガキん時から知ってんだ。名前と顔が一致すりゃあ間違えやしねえよ。だがアンタの仲間とは会ったこともねえからな。そんで5人ずつって言ったのさ」


 なるほど! 素晴らしく納得のいく理由にようやく頷けた。そうして5人ずつ連れてくる事を約束して靴屋を出た。早ければ午後にでも連れて来たいが、これを訊かないことにはね。


「ねえ靴屋の親方は、仲間がポルカだってわかって言ってたの? それとも冒険者だと思って言ってたの?」


 あれだけ確信を持って頷いていたのだ。しかも親方の『入り辛かったら裏口から』発言。マンガなどではソレで察するカッコイイ場面が多いが、現実では確認が大事だと思う。連れてったら「ポルカだと思ってなかった」とか「帰れ」って言われるかもしれない。思い違いは『解ったつもり』から起こるのである。皆に悲しい思いをさせるためにやっている事では無いのだ。


「布屋と毛皮屋と仕立て屋と靴屋の親方たちは、皆知ってるぜ。換金した時、お前の『尾鱗』は何だって訊かれたからポルカだって教えといたからな」


 ボイフの返事に目が点になる。……『尾鱗』てなに? 初めて聞いたから当然知らない。この世界の常識っぽいので、またも訊けない。後で隙を見てニルヴァス様に訊くしかない。

 それはともかくとして私の仲間がポルカだと、昨晩それを知ったわけだよね。昨日と今日とで布屋と毛皮屋と靴屋は態度が変わらなかった。仕立て屋に至っては驚きのビフォアーアフター。


「親方たちは信じていいってこと?」


「そーいうこと!」


 ビエルが間髪入れずに笑って太鼓判を押した。他の4人もしっかりと頷いてくれた。肉屋たちの笑顔と頷きに、胸が熱くなる。仲間がポルカだと胸を張って言えはするが、それを言うと断られるかもしれないから言わずに作ってもらおうとした。それを悪いこととは思わないし、これからだってやるつもりでいるが、そうしなくて済む店が出来たことが嬉しかった。店に迎え入れられるポルカの皆を思い浮かべて涙が込み上げてきそうになったが、んっ? と思い立ち、グッとそれを押し戻す。


 ふう、喜ぶのはまだ早かった。迎え入れられたからといって、対応が良いとは限らない。昨日の仕立て屋のように突き放した対応をされるなら、行かせない方がいいだろう。午後だな、午後。5人を連れて来て確かめよう。メンバーは───。









 何だかんだと時間が過ぎていて、村に戻るとちょうどお昼ご飯の仕度の真っ最中だった。それを途中から手伝い、ソア様も交えて食事を始める。


 この世界に来て初めてのサラダの豚バラ肉ステーキ載せは美味かった。噛むごとに感じる脂身のシャリシャリ感。脂身と脂身の間にある肉のブリブリ具合。脂ぎった口を洗ってくれる、肉汁と肉の余熱によって甘みを増した少ししんなりしたサラダ。そして試食の時の注意点をしっかりカバーした、ハチミツたっぷりトースト。どちらも初めて食べるので、皆の食いつきがすごかった。


 唸り声と鼻に抜ける感激の吐息、そして繰り返される「美味い」という言葉。その中で何かをこらえるような顔で食べている料理番たちと他6人(ガザ、シガ、ダンジョン組4人)。わかる。顔が緩むのが止められないんだよね? 口が勝手にニヨニヨして食べ辛いんだよね? 嬉しくてしょうがないんだよね?


 自分が考えたメニューを自分で作り、それが皆に受け入れられる喜びまでが、実は料理を作る醍醐味セットなんではないか。そのうちの1つでも欠ければ、その醍醐味は半分くらいになってしまう。欠けるのが最後のだったなら、半分どころかゼロになりかねない。持論ではあるが、まあ最後が欠けるのは誰でも嫌だよね。そうならないように頭を搾るから、受け入れられた喜びもひとしおなんだよね。ふふ、良かったね。


 食事中は何のコンタクトも無かったが、終わって片付けが始まると、すぐにソア様が突進してきた。いや育ちのいい貴族様なので、実際には突進してきたわけではない。あくまでもそう感じるほどの勢いを感じたのだ。私に向き合ったソア様は言う。


「食材の件、よろしくお願いできますか」


 おお、瞳はやる気に燃えて身体には気迫が漲っている。私がここで「やっぱり止めましょう」と言い出しても、説得してみせると決意しているのかもしれない。そんな気迫だ。


「何人の方がやってくれそうですか」


「私の妻と妻の姉妹、姉妹たちの婚家の者たちで12人です。まずは妻の姉妹たちに、条件とお借りしたモノを見せて話しましたら、彼女たちの夫の姉妹たちにも話が広がりまして。……こんなに増やして良かったでしょうか……」


 昨日の今日で12人も言い出してくれたのなら上出来過ぎる。ソア様はじっと聞き入っている私が怒っていると勘違いしたのか、最後の方はしょんぼりしてしまった。いや、そうじゃない、喜んでるんだよ。


「いえ、思っていた以上に多かったので驚いてしまったのです。奥様にも言いましたが少なくとも250枚は欲しいので、もっと増やしていただきたいくらいですよ。奥様にお礼を申し上げないといけませんね」


 ソア様を安心させるために、笑顔で弁解する。その甲斐あってソア様は元気になって、そう至るまでの経緯を教えてくれた。


 姉妹のそれぞれの家に訪問して話をすると、最初は当然ながら疑われたのだと言う。無理も無い。けれども報酬内容の袋から食材を全部取り出してテーブルに積み上げてやると、唖然とした後に『やる』と決めたそうな。


 まずは妹の所へ行ったので、その妹を引き連れて姉の所へ行き、二人で説得して姉を引き込んだ。姉妹の夫たちは帰宅後にその話を妻から聞いて、夜にも関わらずいきなり訪問してきて質問攻めをしたのだそうだ。そりゃ奥さんが騙されてるんじゃないかと心配にもなるわな。


 話を聞いて現物を見て納得してくれた旦那様方は、それだけでは終わらなかった。そこから何と自分の姉妹にもこの話をして欲しいと、普通であれば不作法と言われる約束無しの夜の訪問に付き合わされたんだって。しかも7カ所。妹の夫の姉妹が2人、姉の夫の姉妹が3人、そして夫の姉妹の、その夫の姉妹のとこにも連れて行かれて。……奥様の姉妹の旦那様方、アグレッシブだな。


 おかげで昨夜はあまり寝れていないとソア様は苦笑するが、今までで一番生気に溢れた顔をしていた。その調子で広がっていけば50人はすぐに確保できそうだ。友達100人ならぬ、お針子200人計画なので、どんどん増えてもらえると助かる。え? 人数増え過ぎると服すぐできちゃうじゃん? その後は食材を渡す口実が無くなるじゃん、って? ちゃんとその先も考えてあるから大丈夫だ。次の段階に進む為にもだね、『材料費タダで一着作れば食材1カ月分もらえるよ~』という見え見えのエサだけど、食らい付いてくれなければ困るのだ。肉も増し増しにしといたし。


「もっといいですから、本当に」


 ソア様と奥様には負担を掛けてしまうだろうが、その分食材をまた上乗せしようと自分に約束して、異空間収納袋をそっとソア様に差し出した。


「この中に暑期用の布が2巻入っています。私がお邪魔する時には報酬の一回目をお持ちしますから、今決まっている12人の奥様方にやっていただいてください」


 袋の中にはやってもらう事が書いてあるメモも入っているから、と奥様にそう伝えて渡してもらうように頼んだ。よし、これで今日はソア様宅に行かなくてよくなったな。インナーのサイズ決めもなるべく早めにしてしまいたかったのだ。時間ができて助かったよ。


 ちなみにインナーのサイズ決めは、地下足袋よりずっと簡単だ。私が作ったのを着てもらって、メモ紙にどのサイズがいくつなのか書いていくだけ。ちょうど昼時で皆が広場にいたので、解散するのを捕まえて着せていった。いや大の男を捕まえて、無理やり服を脱がせるとかしていないから! あくまで説明をして自主的に協力してもらったので誤解しないよーに。


「これ着てみて。いや上衣脱いでから。そう。うん大丈夫だね」


「はい脱いで。これ着て。あ、小さいか。これは? 大きいね。中間かな。うん終わった。ありがと」


 こんな感じで見つけた人から順番に協力してもらったわけだ。とても協力的で捗ったよ。よし、私サイズが小で、私には大きかったのが大、そんでその中間の中を作る、と。大人が多いだけあって大がやはり一番多い。小はロジたち塩ダンジョンメンバー5人と私で、残りは中だ。これでヒマを見つけて作っていける。ああ、確かこの村にも裁縫ができる人が数人居た。皆の服を繕っているのを見た覚えがある。よし手伝ってもらって作り方も覚えてもらおう。


 思い付いたら即座に決行したい。あ、そうなると裁縫用の小屋も欲しいな。ソルを捕まえて作業小屋を作っていいか訊く。「さっき着せたのを手伝ってもらって縫うから」と理由を言うと、小屋の場所を一緒に考えてくれて、小屋ができた後は裁縫メンバーまで集めて手伝うように言ってくれた。


 ソル頼もしい! さすが頭領! 思ったが礼だけにとどめておいた。本心だとしても言い過ぎると薄っぺらく感じる事もある。それよりも一言のお礼の方が、より感謝を伝えられると思うんだよね。後は言い方。万感の想いを込めて言うわけよ。伝わらないはずが無かろう? ……伝わってたらいいんだけどね。


 さっそく小屋に10人を連れ込み、作ってもらいたいモノの説明をする。サイズは3つのみなので、まずは型作りからやっていく。と言っても私が作った時のように上衣を脱いで幅と長さを計っただけである。レキラ(綿ぽい)に書いて、切って型を完成させる。思った以上に簡単だったのか、10人の緊張の面持ちが安堵に変わった。一緒になって中と大も作り、型が3サイズ分出来上がった。さあ次だ。


 それを暑期用の薄布に留め針────こちらの世界では待ち針とは言わなかった────をして固定し、縫いしろを1マヴルぐらい足して切るように教える。縫い代がわかるように、型紙のとおりに線を書いてからだ。1マヴルをいちいち計っていたら時間もかかるしチャコペンも節約できる。こうしておけば縫い代が多かろうと少なかろうと、本体のサイズは変わらないからね。


 1人分の部品が出来た。と言っても前身頃と後身頃の2つしか無いのだが、線が書いてない方を中側にして留め針をしていく。ここが一番難しいけど、丁寧にやらないと失敗するからねと教えながら。何せ2つのパーツの線がズレないように、手前の線上から刺して、反対側の線上に針先が出るようにしなければならないのだ。しかも線上であればいいわけでは無い。どちらかに布余りが出来てしまわないように気を付けなければいけないし、それでも出来てしまった時はそれを周囲に散らしたり。私は高校の時に散々やったので慣れたものだが、やった事が無いと言う皆には難しいようだ。これは短い間隔から慣らしていくしかないか。


 留め針を終わらせて、端から縫っていく。付与で縫い目を吸着させれば簡単なのだが、付与が解除された時の事も考えてちゃんと縫うのだ。付与が解除された瞬間、昔のアニメのようにハラリ、いや~んとなっては困る。あれは他人だからいいのであって、大事なロジ少年があんな目に遭うのは許し難い。


 え? ソルとか肉屋たちは別にいいよ。大丈夫、減らないから。街の女性たちの目の保養になるだけだ。けどまあロジ少年だけあからさまに扱いが違うとひがまれそうだから皆の分もやるけども。ん? もう手遅れ? いやいやそんな。


 端はもちろん返し縫い、縫い方はなみ縫いだ。本当は丈夫さで半返し縫いか本返し縫いにしようかと考えたのだが、力加減が難しい。なみ縫いを2回やる事にした。一通りなみ縫いをした後で、糸の無いところに糸を出すように、またなみ縫いをしていくのだ。丈夫だし見た目もキレイだし簡単だしで、素晴らしく満足のいく出来となった。


 縫い終わったら縫い代を重ねて、その幅が半分になるように、そして切り口がギザギザにならないように丁寧に切っていく。本当に丁寧に作るなら縫い代にはまつり縫いをするのだが、まずは全員分を寒期に間に合わせたいので目をつぶる。切ったばかりでまだほつれていない縫い代の端に『吸着』を付与した。


 それから首と手首と裾の端の処理だ。薄い布なので1マヴル折って、もう一度1マヴル折る。そうすればほつれやすい端っこは中に入って、後はなみ縫い×2回で終わる。もちろん留め針をしないとズレてくのでちゃんとやるし、留め針が縫う時に手に刺さって痛いならば、留め針の後に大き目のなみ縫いを、縫う予定の傍にして針を抜く。それから本当に縫いたい所を縫っていくのだ。私は手首や首などの狭い場所はそうして、裾や腰などの広い場所は留め針でやっている。

 流れ作業でやっていくならば、大き目のなみ縫いをして留め針を抜いた方がいいかもしれない。留め針は数に限りがあるからね。


 手首の片方と首の縫い方を教えて、もう片方と裾を縫う間に、大と中の型を4つずつ作ってもらった。1つでは足りない。そしてできた型を使って、まずは小を5つ、大と中はとにかく出来るだけ切っていってもらう。


 出来上がった1着は表に返さずにそのまま見本にして、私はパーツ合わせに取り掛かった。5センチ幅から練習してもらおうと、まずは10着に留め針をしていく。10着分が終わったところで皆に1着ずつ留め針から縫い終わりまでやってもらった。まっすぐ縫うのはちゃんと出来ていたし、縫うのに苦労している様子も無い。これなら留め針さえ慣れてしまえばいけそうだ。


 様子を見ながら留め針を進めて、留め針をするのが無くなればパーツを切る。それぞれの1着が終わるころにはもう10着の準備が出来上がっていた。さて、靴屋に行かなければ。


「これ縫い終わったら、ひたすら布切っておいて。前と後ろを一緒にしておいてくれると助かる」


 大を多めに、休憩を入れることもお願いしておく。


「ヨリ」


 呼ばれて振り向けば裁縫小屋の入口にソルの姿があった。外にはシガとユジとターヴとミノがいるだろう。昼ご飯の時に頼んでおいたのだ。行く場所が靴屋であるとは言っていなかった。事情は行きがてら話す約束だ。頷いて立ち上がった。






 その行きがてらの説明。


「新しい靴を作るから、靴屋で足を計ってもらう」


 5人はあからさまに「は?」となった。想定内だ。


「……どーいう事になってる?」


 代表してソルが質問した。


「ちゃんと足を計らないと駄目な靴を作るから、今から靴屋に足を計ってもらうんだよ」


 簡潔に言って皆の顔を見ると、納得が全くいってないのがわかる。


「靴屋は私の連れがポルカだって知ってて、足を計りに連れて来ていいよって言ったんだけど、もしかしたら嫌な態度をとられるかもしれない。それを確かめるためにも行く。皆には嫌な思いをさせるかもしれないけど、行ってくれる?」


 隠し事はしない。ここで行かないと言われれば、靴屋を説得して村に連れてくという方法もある。


「……靴屋の態度が知りたいんだな?」


「そう」


 ユジに訊かれて肯定する。


「悪ければどうするんだ?」


「足の計り方を教えてもらって、私が計る。靴屋にはもう連れて行かない」


 本当はその靴屋にはもう行かないと言いたいが、それでは他の領地に行って新しい靴屋を見つけなければならない。けれども隣の領地ですぐに見つかるかもわからない。それでは時間が掛かり過ぎる。縁を切るなら全員分が出来てからだ。そう続けると、5人は『全員分』のところで「は?」と呆けた。言ってなかったから無理も無い。


「今の靴って動きにくいから、別の靴にしようと思って。1人だけに作るわけにもいかないから、皆の分も作ることにしたんだよね」


 呆けてる間に説明を済ませてしまおう。


「ああ、お金の心配はしなくていいよ。ボスドロップ換金したら、このくらいは買えるから。もらい過ぎなんだよね~ホント、これで返せて安心、安心」


 最後まで言い切った! あ、ついでに服たちの事も言ってしまおう。後で言うのも面倒だ。


「そうそう、後はさっき試着してもらった服と、上衣と下穿きも作るから。寒期に備えて防寒着ももう頼んであるし、また試着してもらうから、そのつもりでいてね」


 ん~、言い忘れはもう無いか? ミッションコンプリート? フリーズしている間に全部言ってしまおうと脳内を検索するも、もう出てこない。おし、ミッションコンプリート~~~~!!


 呆けた5人は動かない。歩かない。置いてくわけにもいかず、私も歩かない。フリーズが解けるのを待っていたが、ふと気付く。まさかフリーズしているからって、聞こえてないなんて事は───あ! もう1つ言うことが残っていた! 思い出せて良かった~~!!


「服のお金が気になるって言うなら、他の領地のダンジョンに一緒に行って欲しいかな~なんて……え?」


 調子に乗って言った途端、皆のフリーズが解けた。ユジとターヴは頭痛だろうか。指先で眉間を揉んでいる。あれ、ソルってば笑顔が怖いよ? シガはいつもの無表情───いや違う、身体強化で視力を強化しないと判らないぐらいのシワが眉間に刻まれている! ミノは? はあ呆れ顔。


 心配して見ていたら、皆が一斉に特大のため息を地面に投下した。そして顔を見合わせて頷く。完全に私は仲間外れで淋しさが半端ない。オロオロし出した私に、ソルが手招きを寄越した。犬のように喜んで向かう私。寄った私はソルたちを少し見上げる形となる。


 ソルがゆっくりと手を上げる。え? 頭? もしかして撫でられてしまうのか?! 後で思えばアホな期待をしたものだ。その手はゆっくりとおでこに降りて───期待にドキドキしている私に、バチンっと渾身のデコピンを喰らわした!


「いだあああああっ!!」


 服と髪には対物障壁やらが付いているが、顔には無い! デコにも無い! 痛い! めちゃくちゃ痛い! 撫でられると思って魔力の障壁も解いた自分のアホさ加減も憎い! 勝手に勘違いして期待したのも恥ずいいぃいいい!! ……うんもう埋まりたい。自分の掘った穴に……。


 デコピンされた理由がまったくもって解らないが、ささやかな気晴らしで気が済んだらしい5人は、靴屋にも他領のダンジョンにも一緒に行ってくれることになった。デコと乙女心? よ、お前たちの犠牲は尊かったぞっ! うっ涙が! 心の涙が止まらない~~~! 


 あ、でもフリーズの間もちゃんと聞こえてて良かったわ。ズビッ。




仕立て屋の親方は、劇的ビフォアーアフターのおかげで上客を逃がさずに済みました。仲良くなればイイ人なんです。

今回、ヨリの乙女心がもてあそばれました。ソルひどいな~。え? 自業自得?


さあ次こそは、領主様と遭遇できるハズ! その為の下準備は済みました! いけいけ私!! ←テンション上がってます。



活動報告にも書かせていただきましたが、さらに2つもレビューを書いていただけました。とても嬉しいです。励みにさせていただいてます。話に詰まると感想を読み直して元気をもらっているのですが、最近はレビューもそれにプラスされました。癒されます。

そしてこの作品を読んでくださっている皆様へ。本当に感謝しています。まだまだ頑張ります!^^




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