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さあ美味しいモノを食べようか  作者: 青ぶどう
71/91

70.伝言

すみません、お店訪問まで辿り着けませんでした。


誰かから伝言をもらいます。

「玄米、アーモンドプードル、ホワイトリカー、粉砂糖、焼き菓子用チョコチップ、クーベルチュールチョコレートのホワイトとミルクとビター、クレ〇ジーバジルにクレ〇ジーソルト、水あめ、板ゼラチン、全部いいよ」


 ニルヴァスが渡したメモを、渡された時と同じように読み上げて、更にそこに昨夜追加した水あめと板ゼラチンも加えて許可を出したトーラス。それを聞いたニルヴァスが破顔する。


「ヨリが喜ぶであろう」


 メモを受け取りながら頷いたニルヴァスも、とても嬉しそうだ。そのメモを渡して寄越したトーラスは、そんなニルヴァスに「助かるよ」と礼を言う。礼を言うのは自分の方だと、礼を返そうと口を開いたニルヴァスを片手を上げてトーラスが制して、言う。


「いいところに目を付けたね、彼女。今回だけで12種、こちらからの魂は600も減った。しかも、君たちが食材をたくさん仕入れてくれるから、他の神にも売れ行きが良くてね」


 どうやらニルヴァスとイリス以外とも食材の交換をしているようだ。ニルヴァスとイリスの世界には人が足らなくて、むしろ魂までもらえて助かっているのだが、それも解っていてこのトーラスという男神は皆まで言わせないようにしているようにニルヴァスには感じる。


 何だかんだと他人の事情に入ってきては助言をして手助けをして、結局は丸く収めてしまうこの男神と、放っておけないヨリと、神相手にも物怖じせずに助言混じりに説教をたれるカズユキ。面倒見がいいのはそちらの世界の普通なのだろうか。そんなことを考えながら、辞去しようと会話をまとめに掛ろうとしたニルヴァスであるが。


「ニルヴァス。彼女に伝えてごらん。『イリスが〇タオのドゥーブル・フロ〇ージュを交換した。彼女は甘いモノに目が無いよ』と」


 ニルヴァスには暗号にしか聞こえなかった。イリスは甘いモノが好きだが、それが何だと言うのだろうかと首をひねってトーラスの言った言葉を反芻する。内容がわからなくとも、記憶するぐらいはできるのだ。そこはさすが神といったところであろう。わからないことを隠そうともせずに首を捻るニルヴァスに、トーラスが目を細めて追加した。


「そのまま言ってみなよ。彼女ならきっと楽しいことになると思うから」


 よくわからないまでも頷いたニルヴァスは、そちらの世界での共通認識なのだろうと理解を早々に諦めた。己のすべきは、一言一句間違えずにヨリに伝えることだと気付いたのだ。忘れぬうちにと脳内で繰り返しつつ消えたニルヴァスに、それを見送ったトーラスが笑みを深めた。


 ここは神々が談笑している声が、常に響き合う神域の広間だ。自分たちの会話が聞かれているのを承知で、わざと普通の声で話した。ニルヴァスもイリスも声をひそめるタイプではないので、それが食材と使徒情報の拡散に大いに助かっている。宣伝効果抜群だ。おかげで他からも「使徒と食材をセットで」という依頼が途切れない。


 転生待ちの魂はまだまだあるのだ。本当は食材1つにつき魂100個と言うことも考えたのだが、他の神々にも売り込む場合を考えて50個に抑えたのだ。そのくらいならば魂の足りている世界でも交換に乗り気になってくれるのではと考えたのである。そうして神域でわざと交渉しているところを見せて、新たな取引先が寄ってくるのを待っているのだ。


 交渉する魂は愛し子たち。当然ヘタな世界にはやれない。取引前に情報収集は抜かりなく行うのだ。それには女神たちのかしましい世間話に飛び込むのが一番。今日も新情報を求めて、トーラスは女神たちの輪に加わるべく、広間を渡り歩くのであった。彼がどこに移動したのかはすぐにわかる。その都度切なげな声の後に、華やかな喜色溢れる声が上がるので。






 +    +    +





「うまっ!!」


 ふふふ、そうだろう? ロジ少年のひと声に顔が緩む。皆が舌鼓を打って夢中でスープを食べている様を見ながら、私も楽しむべく肉団子をスプーンで半分に切り、スープと共に舌に載せた。


 んんんんん~~~~! コンソメと野菜が己のダシを相互に差し出し合って生まれるこの至福の味に、肉団子からしみ出た肉汁が加わって、もうね、飲み込みたくないくらいに美味い!! いや結局は飲み込むわけだがね?


 んむんむ。まだ噛みはしない。舌の上で存分に転がしてから、上あごで挟んで潰すのだ。ジュワ~~~~……とろける美味さに恍惚となって、そこでやっと歯の出番である。おふう、美味い。沁みる。

 先にスープだけ飲み込んで肉団子のみに酔いしれるのも良し、スープと共に混ぜ合わせて堪能するも良し。私は交互にしてどちらも楽しんでいる。ウマウマ。


 大きな深いどんぶりに注いだ肉団子スープは、あっと言う間に無くなってしまった。美味かった……。次はフランスパン風のパンに、バターを塗って食べる。皮の固さとバターが、とてもよく合うのだ。よく合うなら皮の味じゃないかと突っ込まれそうだが、あくまで固さと主張したい。もちろんロールパンや食パンでも美味しいのだが、フランスパン系が持つこの皮の固さは、抗えないほどの感動をくれるのだ。あ、ちなみにジャムには食パン、レーズンパンにするならロールパン推しである。チョコチップパンにするのもロールパンかな。あ~~、焼き菓子用のチョコチップ、ゲットできますように!


「ヨリ」


 おおう、ニルヴァス様だ。もしや交渉の結果が出たのか。しかし周りに人が多すぎるな。よし、水を飲みに行こう。本当はパンを食べながら水分を摂るのは好きではないのだが───カフェオレとかにパンを浸けて食べるのも出来ない。パンがべちゃっとなるのが苦手なのである。少数派だというのは知ってるが、時折同じだと言う人と遭遇すると、幼馴染に再開したかのように盛り上がった。その時精神年齢だけ5歳ほど若返った気になったものだ。懐かしい。


 私と言えども、ここで「トイレ」とは言えないぐらいには乙女部分を微弱ながら残しているのだ。いや本当にトイレだったら躊躇せずに言ってしまうけどもね? ほらそれを嘘のネタにするっていうのに抵抗があるわけで。え? 淑女なら本当にトイレに行きたくても、トイレとは言わない? 茶摘み? お花摘み? お花畑? うん、どれもこの世界の人、特にポルカでは通じ無さそうだ。いや通じたところであっちの世界でもお手洗いかトイレとしか言わなかった私に、使いこなせるワザではなかろう。無駄な足掻きだな。


 そんなことを頭でこねくり回しながら、席を立って調理小屋の中の水瓶に行って水を少量だけ飲んだ。周りに人は居ない。これならばいいだろう。ニルヴァス様との通信開始だ。


「なんでしょうニルヴァス様」


「うむ。肉団子のスープ、たまらなく美味であるな」


「ありがとうございます。食材の事ですか、もしかして」


「うむ。先程やっと結果が出てだな。喜ぶが良い。すべて交渉成立である」


「───!!」


 ふおおおおおお!! と叫び声が出そうになるのを、かろうじてこらえた。もしかして全部いけるのではないか。半分ぐらいでそう思って、もう半分は駄目だった時に備えて諦めを用意しておいたのだが、本当に全部通るとは。達成感と、読みが当たっていた喜びに自然ガッツポーズが出る。


「どこに設置するかを決めねばならぬであろう?」


 大興奮時に、ニルヴァス様がそんなことを言ってくるから。


「そうですね。とりあえずホワイトリカーは果物ダンジョンの領地に設置ですね。チョコたちと玄米はうちの領地にしてください。クレ〇ジーバジルとクレ〇ジーソルトはミゾノの領地がいいでしょう。アーモンドプードルと粉砂糖は、本当なら王都かうちがいいんですが、うちはもういっぱいですし王都は何がドロップするか周知されてますから無理ですかね。じゃああまり潜られていないどこかでいいです」


 まくしたててしまった。しかも早口で。ほら、大興奮中だから……。


「……」


 おや反応が無い。設置中かな? そう思ったらため息が聞こえた。どうしたニルヴァス様。


「おぬし、どういう基準で設置場所を決めておるのだ? 我には解らぬぞ」


 待っていたらそんな事を言われた。どういう基準って……。


「すぐ使いたいのは近くに、後は材料との相性ですよ。この大陸って領地同士で交易しないでしょう。だから、クレ〇ジーバジルとクレ〇ジーソルトはオリーブオイルと合うのでミゾノに、玄米は私がすぐに米をゲットできるようにバルファンに、チョコたちは2つともの理由からバルファンだし、アーモンドプードルと粉砂糖は、卵と薄力粉と砂糖とバターが揃わないとなんで、王都かバルファンなんですよ」


 私にとっては自明の理。全くもって悩む必要のないことだ。


「料理って、ある程度決まった組み合わせで出来るんです。だから、同じ領地内のダンジョンでまとめておけば、料理になりやすいかなと思います。まあ組み合わせに辿り着く前に、かなりの研究が必要になるとは思いますが」


「そうすれば料理はすぐに発展しそうであるのか」


 んなわけがない。中国4千年と言うではないか。料理を舐めたらいかんのだ。期待に輝き始めた声にノンノンと指を振る。もちろん脳内だけで。


「ニルヴァス様、私の元居た世界では、一番料理が研究された国でも4千年かかったそうですよ。食材設置し始めてから何年です?」


「……む? 2千年ほどであろうか……」


「まだ半分ですね。がんばりましょう」


「……うぬ……」


 ニルヴァス様のお声が、どう聞いてもしょんぼりーぬになった。


「大丈夫ですよ。村の皆もガザも覚えがいいし料理を気に入ってくれてます。ってことは、私が作る料理がこの世界の人の口に合わないという最悪の事態は免れたんです。各地を回りながら料理を作っていれば、千年も経てば多少は発展しますよ」


 大丈夫だと、意識して声を柔らかくして励ます。甥っ子には成功率が高いテクだが、ニルヴァス様には効くかどうか。


「ぉお! おお! そうであるか! ヨリは頼もしいな! そういえば、あの者たちからの奉納を受けられるようになった褒美がまだであった。何でも言うが良い。我は今、気分がいいのでな!」


 加減が難しい。ニルヴァス様の気分は浮上し過ぎてしまったようだ。ヴァ〇スと唱えたらどんどん上がって行った浮遊城のごとく。……いきなり褒美だと言い出されたが、思い付くことなどアレらのことしかないぞ?


「味噌と酢と醤油とみりんの設置権が欲しいです。そうでないとポルカで味噌汁も作れませんし、ドレッシングも作れないんです」


 食べたいときに異空間部屋で作ればいいのだが、自分だけが美味しい思いをしているのは罪悪感が半端ない。積極的に設置を狙っていきたい4種である。しかし言ってはみたものの、無理だろうとは思っているのだ。寄越すつもりがあるなら、もっと早くくれるだろうからね。


「……」


 案の定、黙ってしまったニルヴァス様に、肩を竦めて息を吐いた。


「他に何か考えておきます」


「うむ。設置の方は任せておけ。おぬしの希望通りにしておく」


「はい。あ、クレ〇ジーバジルとクレ〇ジーソルトは麺ダンジョンのレアドロップにして、レアだった麺類を通常ドロップにするといいと思いますよ。チョコたちは、新しいダンジョンを創るか、今あるダンジョンから行ける隠しダンジョンでも創ったらどうでしょう? もういっぱいですもんね。今後もまだまだ増えるでしょうし」


 私的には隠しダンジョンを強く推したい。隠しダンジョンにすればダンジョン場所の設置に頭を悩ませなくていいし、既存の祭壇で行き来ができるのも大きい。更に麺ダンジョンのレアドロップの素麺が、通常ドロップで手に入るようになる。私にとっては一石三鳥なのだ。ぐふふ。


「増えるというか、おぬしが増やすのであろう?」


「ふふ。もらえるモノはもらいましょうね」


 使う予定はすぐに無くても、そのうち使うであろう食材はゲットしておくべきである。あわよくば魔大陸と交渉できるモノをゲットしたいとも考えているのだ。何が当たるかわからないので、とにかくガツガツ食材を漁っていきたいと思う。


「ならば隠しダンジョンにしておこう。食材ダンジョンの野菜部屋に、魔力を流せば開く扉を創ればよいか」


「いいですね。難易度はどうします?」


「中級で良かろうと思っているが」


「今は魚介ダンジョンだけが上級でしたっけ?」


「む? ……そうであるが、それがどうしたのだ?」


 おやおや。ニルヴァス様、ちょっと間が空いて声が硬くなったのは何故でしょうかね。上級ダンジョンが実は1つではないとか? 中級ダンジョンが実は上級ダンジョンに進化しそうだとか? どっちにしても興味深いな。

 よそでご飯もらってる疑惑とか今回のとか、教えられていない事情が漏れ出るニルヴァス様との会話はとても面白い。それに関して考えるのも。


 え? 隠し事をされてる事に不信感は持たないのか? バカを言ってはいけない。神とは世界を創れる存在なのだ。そんなのが隠している事なんて面倒事以外無いではないか。大いに隠し事をしていただいて、そんで時々ポロっと垣間見えるくらいでちょうどいいのだ。私は今与えられた仕事で充分楽しんでいるのだよ。


 まあね。私を勧誘する時の『世界の食の向上は気にしなくていい』的な発言。あれは完全なる嘘かねだろうとは思っているよ? だってこの過保護っぷりで気にしていないはずが無いし、奉納されてご褒美出しちゃうくらいの喜びようだし、しかもさっきの発展するのか発言。……気にしまくりではないか。近々、それだけはバレてる事を教えてあげようと思う。いや、気付いていないフリで誘導するべきかな。


 ニルヴァス様がツンデレではないという可能性はゼロではないのだ。刺激をしないでそれとなく本音を出させた方がいいだろう。面倒事は嫌だが、自分にできそうなことぐらいは協力するさ。使徒だから。

 わずかな間に思考をまとめて、ニルヴァス様の硬い声には気付いていないふりで普通に答えた。


「そこのダンジョンと魔大陸が繋がっているのなら、隠しダンジョンを上級にして慣らしておくのもいいかなと思いまして」


「ふむ。良かろう、隠しダンジョンは上級にしておくのである」


 これで良し、かな。自分の中でこの会話は終了したなと区切りを付けようとしたその時である。ニルヴァス様がソレを言ったのは。


「そういえば、おぬしに伝言があったのである。『イリスが〇タオのドゥーブル・フロ〇ージュを交換した。彼女は甘いモノに目が無いよ』、とな」


「───は?!」


 思わず出た声は小さく、思ったより調理小屋では響かなかったが、それでも聞いたら何事だと訊かれそうなぐらいの声ではあった。口を押えて周りを伺う。誰も来ない……ふい~。それにしても、ニルヴァス様が今言ったのは、非常に重大な情報だということをニルヴァス様はわかっているのだろうか。


 あちらの世界の神が、私にわざわざ伝えろと言ったのだ。意味が無いわけがない。含みが無いわけがない。

 魔大陸の神様は甘いモノが好きだから、そこから交渉材料を探れと情報をくれたのだ、どう考えても。しかも材料だけではなく、出来上がったケーキまで設置できるという情報までプレゼントしてくれた。これは発破をかけられている? それとも出遅れたこっちの世界に情けをかけてくれている?


 例のダンジョンボスの件を知る前ならば情けの方に軍配が上がっただろうが、アレを指示した本人からの情報となると、発破のほうじゃないかと勘ぐってしまう。あちらの神の人格を疑いつつも、どちらにしても応援されてはいるようだと結論付けて、紙と鉛筆を出した。ちなみにこの紙も鉛筆も異空間部屋で創造したものなので、見つからないようにコソコソささっと書く。それを祭壇に奉納。


「交渉を、お願いします」


「うむ」


 さてこのメモ、どこまで通るだろうか。思い付く限りの名前を並べてみたが、実験的に書いたモノもある。これらが通れば私にとって、かなり嬉しいことになる。こちらの世界に来た事を、それこそ泣いて感謝するほどに。ワクワク、ドキドキ。駄目もとではあるが、期待がどうしても勝ってしまう。あんな伝言を寄越すなんて、期待しないわけがないのだ。もし駄目だったら、少しぐらいあちらの世界の神様を恨んでも許されるレベルで期待に浸食されて興奮気味だという自覚がある。水をもうひと口飲んで落ち着こう。スーハースーハー、落ち着け私! 


 結局5回水を飲んで、やっと落ち着けたのだった。







トーラスはヨリに助言を出しました。実はどのケーキでも許可が出るわけではありません。それなりに法則があります。


製菓材料がごそっと手に入りました。クーベルチュールチョコレートなど、食べる専門のカズユキは思い付きもしませんでした。アーモンドプードルの存在も実は知りません。フィナンシェは小麦粉で出来ていると思っています。



次話こそはお店まで辿り着きたいのですが、お店に行く前に新しい料理を教えます。料理パートの後に捻じ込めるといいのですが。


《ご報告》

実は前話を出したあたりで、念願のレビューを書いていただけました。お気づきでした? お気づきでない。はい私もまさか書いていただけるとは思っていませんでしたので、もう感激で! お礼を書く手が震えました。大変励みになります! ありがとうございます~~~~><

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