表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さあ美味しいモノを食べようか  作者: 青ぶどう
68/91

67.あるモノとないモノ 【肉団子のスープ、冬瓜のスープ】

納得いく出来になるまでちょっとかかってしまいました。遅くなりましたが、よろしくお願いします。


料理パートあります。

 食後は明日の朝のスープの準備をした。肉団子のスープだ。コンソメスープにハンバーグの種をミートボールにして入れるだけ。本当は出来立てが美味しいから朝にやりたいが、作る量が多いと時間が掛かる。夜のうちに作って、時間停止をかけると説明してから始めた。


 定番になっている野菜の角切りコンソメスープの仕度をして火にかけ、隠し味の砂糖ひとつまみを入れる。本当はみりんを使いたいのだが、まだ魔大陸からの設置権利をもらっていないから、またも代用品で我慢だ。ああ、早くみりんと醤油と酢と味噌の素晴らしさを皆と語り合いたい。


 さて、コンソメスープが煮立つまでに肉団子の種の用意を完了させねばならない。全員が一丸となって肉団子に入れる人参と玉ねぎとセロリとしいたけを、みじん切りにする。それが終わったらボイフたちに頼んで作ってもらっていた牛と豚の挽肉を、冷却を付与したボウル10個に同量ずつ入れて、臭み消しにショウガ汁とナツメグを少々入れてから、木ベラで挽肉がしっかり潰れてペースト状になるまで練る。


「やっぱこの匂いはたまらんな」


 まったくもって同感だが。……ガザよ、今のその顔、残念過ぎて君のファンたちには見せられないぞ? ああほら、鼻全開で鼻の下が伸びてて目尻が垂れて、おまけに口が半開きだ。

 今まで教えたメニューの中でも、特に挽肉にナツメグを混ぜた時の匂いがお気に入りのようだ。ガザだけでなく他の4人にも、ハンバーグを教えた時に顔面崩壊の兆候はあったが、調理小屋に常駐しているだけあって、ガザの顔面崩壊進行度が顕著過ぎる。肉屋というのが関係しているかもしれない。だってホスさんたち料理番は崩壊していないので。───このギャップを可愛いと豪語できる奥さんが見つかることを祈っておこう。



 手を止めずに皆で練りまくって、そこにみじん切りにした野菜たちを投入。しっかり混ざるように木ベラで混ぜる。木ベラで混ぜるのはもちろん手の熱で挽肉の鮮度が落ちるのを防ぐためだ。


「冷却を忘れず、練り終わったモノには時間停止を忘れずに!」


 私がビシリと少し大きめの声で言った事に全員が頷いた。4人の新人もいい顔になったではないか。ふふふ。

 ここに来る入れ替わり組は料理を覚える事が目的ではないが、それでも1日ぐらいでだいたいが使い物になるようになる。私が抜けている間にもホスさんたち料理番に指導を受けているのだろう。野菜を切る手つきはまだ危ないが、居場所が無さげなソワソワした感じが抜けた。そうなれば早い。調理技術が無ければ無いほど、付与は発現しやすいようだ。ゆえに単調な作業を少し扱い辛い食材で行うといいんじゃないだろうか。つまりはチーズの薄切りか肉の薄切りが最適。それが私の観察結果だ。


 魔力の扱いに慣れているから早いのかもしれないし、ホスさんたち料理番の例もあるので関係が無いかもしれない。そのあたりは個人差としか言いようが無いだろう。ちなみにホスさんたちには未だにハッキリと「付与と身体強化使えてるよ」と言っていなかった。意識したらできなくなるって人もいるかもしれないという考えが今もまだあるのだ。言うのが怖い。私はただのビビりだからな。


 大鍋が沸いてきたので計量スプーンを2本ずつ持たせる。1本ですくって、もう1本でこそぎ落とすのだ。こうすれば肉団子のサイズもだいたい同じに作れるし、手で丸めなくてもいいから鮮度も落ちにくい。ボウルを持つ係とスプーンでこそぎ落としていく係で1組になってもらった。


 ちなみに肉団子を投入する時は強火が鉄則である。肉団子をどんどん入れていくと、どうなるか。冷えたモノが入るので汁の温度が下がっていくのだ。そうなれば肉団子同士がぶつかって崩れやすくなるし、鍋底に張り付いたりするのである。強火で一気に表面を加熱して固めて、それを邪魔しないように数個入れたらちょっと待つという肉団子の随時投入が望ましい。


 握らないから食べる時はホロホロのフワフワ、肉の旨味と中の具材から出たエキスと浸み込んだコンソメのハーモニーが至福この上ない1品なのである。形の悪さなどその美味さの前には問題にもならんのだよ。ぬふふ。


 それを全部入れ終わったら中火に下げる。火を入れ過ぎると肉団子が硬くなり過ぎて味が落ちるから、お玉でゆるくかき混ぜながら肉団子の表面が全部白くなったのを見計らってフタをして弱火に。後は肉団子が全部浮き上がったら火を止めて出来上がりだ。全部の大鍋に時間停止をかけて終了である。


 今夜の作業はこれで終わり。そう告げて調理小屋を出た。


「ちょっと出掛けてくるね」


 と広場に居るソルたちに声を掛けてダンジョン方面に走り出す。


「あ、インナーも作らないと」


 自分たちで縫うにしろ他に頼むにしろ、どう作るかが決まっていなければ進められない。この後ニルヴァス様にご飯を作ってから、また領主館の書斎に行こうと思っていたのだが、先にインナーを作ってみるべきかな。そんな事を考えながら最寄りのダンジョンに飛び込んで範囲探索を掛けて人目が無い事を確認してから異空間部屋に滑り込んだ。









「あれ? ニルヴァス様?」


 珍しいことにニルヴァス様が先に来ていた。いつもの場所にお座りになっている。


「おぬしに礼を言わねばならんと思ってな」


 そう言われてニルヴァス様を見ると、とてもご機嫌な様子だ。となると、思い当たる事は1つしかない。


「奉納は喜んでいただけたようですね」


 ニンマリと確信を持って言うと、ニルヴァス様が大きく頷いて顔をほころばせた。おう、ここまでの笑顔は初めて見たな。さすがに神様だ、光ってい……はしないが神々しさが増してるような。


「うむ。感無量であった。良い者達であるな」


「でしょう?」


 ガザやホスさんたちを褒められて、胸を張ってそう答えた。別に私がそう育てたわけじゃない。元々いい人たちだったのだ。そこが誇らしくて、ついつい我が事のように胸を張ってしまったのだ。つっても張る胸など微々たるモノであるから気付かれなかったとは思うが。


 何にせよ、いい関係を築けている相手を褒められるのはいいものだ。ニルヴァス様に負けず、表情筋が緩む。話がひと段落ついたかなという空気に、ああそういえばとコンロに湯を沸かしに向かったが、そこに着くまでにニルヴァス様の言葉で足を止めることになった。


「後はおぬしに知らせもあったのでな」


 今までこんなふうに『知らせがある』と改めて言われた事は無いような気がする。わざわざ言うってことは、深刻な知らせなのだろうか。身体をニルヴァス様の方に向け直す。

 ふむ? 表情も雰囲気も重くない。ということは、悪い知らせでは無いのか。いい知らせ? まさか昨日の今日で、もう寒天とかが手に入ったとか? いや前回だってそんなに日にちは経っていなかったのだ。ありえる。


「もしかして、私が頼んだ食材のことでしょうか」


「うむ」


 おおおおおお~~~~~!! マジでか! ニルヴァス様のその自信ありげなふんぞり返りから推測するに、いい知らせに違いない。私はニルヴァス様の前の椅子に滑り込み、輝く瞳で『待て』をする。


「純正ココア、バニラビーンズ、ゼラチン、寒天、すべておぬしの世界の神と交渉成立したのである」


 焦らしとか、ためるとか、そういった精神攻撃とは無縁のニルヴァス様は、すぐに教えてくれた。敬愛すべき神様である。


「であるが、どこのダンジョンに設置したものか悩んでおってな。おぬしに訊きに来たというわけである」


 なるほど。どれをどこに設置するか、私の希望を叶えてくれるらしい。ならば近場に設置してもらうしかあるまい。


「純正ココアとバニラビーンズは近場がいいです。寒天とゼラチンは得体の知れなさ仲間で蒟蒻こんにゃくがあるダンジョンでどうでしょう」


 私の提案に、ニルヴァス様は検索モードに入った。その間に私も考え事に勤しむことにする。

 純正ココアとバニラビーンズがいけたなら、アレとコレもいけそうだ。となるとアレもか。紙と鉛筆を創造して、さっそく思い付いた順に書いていく。コレとソレが駄目かもしれんが、まあ訊いてペナルティがあるわけでもない。モタモタしている間に設置権を奪われてしまう事を思えば、どんなモノもまずは訊くべしだ。


「うむ。寒天とゼラチンは設置できたのである。近場で空いておるのはバルファンの南隣のトレモアであるが、そこで良いか」


「はい」


 私が返事をすると、またもや目をつぶって検索モードに入ったが、今度は検索ではなくて設置だから設置モードと名付けるのが正しいだろう。……見た目に変わりは無い。どっちでもいいか。


「純正ココアはそこの粉ダンジョンに、バニラビーンズは豆ダンジョンに設置でかろう」


いです」


 まだ行ってない南隣。枝豆と小豆目指して早く行きたいと思っている所だ。これで楽しみは倍増した。今日と明日で書斎の手記を読み終わるだろうから、明後日なら行けるかな。でもな~、もしレアだったら人数居ないと一晩ではゲットできないかもしれない。確認しよう。


「レアドロップですか?」


「純正ココア以外はレアドロップであるな」


 ふむ。寒天とゼラチンとバニラビーンズは、はっきり言って私の中での緊急性は薄い。それらは後でいいとしても純正ココアは欲しい。めっちゃ欲しい。でも、純正ココアを生かすためには、アレも欲しいんだよね。


「ニルヴァス様、欲しいモノを紙に書いてみました。この世界にあるモノ、魔大陸にあるモノを教えてください」


 先程書いた紙をニルヴァス様にすっと差し出す。それを受け取ったニルヴァス様は、紙を見ては検索モードになってを繰り返した。どうやら半分ぐらいはこの世界か魔大陸にあるようだ。


「うむ。もち米とチョコレートとコーヒーとヨーグルトは魔大陸であるな。アーモンドはこちらの豆ダンジョンの下層にあろう。他は無いのであるが、訊いてみぬと判らなぬな」


 ふむ。思ったよりもゲットできそうなモノが多いな。もち米が魔大陸にあるならソレももしや……という悪い予想は外れてくれた。アレが手に入るかもしれないと思うと心が躍り出しそうだったが、まだゲットできると確信したわけではない。もしかしたら米と同じだと認識されていて不可かもしれないのだ。ぬか喜びは絶望への第一歩。決して楽観はしてはならない。

 だが、だいぶ傾向がつかめてきた。どうやら魔大陸は製菓材料を、ほぼ仕入れていないのだ。バニラエッセンスはあるようだが、コレもソレも放置されているとは。


「ニルヴァス様、これ全部、お願いできますか」


「良いが、似た名があって我では覚えられぬな。この紙をそのまま出すしかあるまい」


 それで構わない。もう一枚紙を出して、ニルヴァス様が在ると言ったのを抜いて書き出す。そしてそれをニルヴァス様へ。受け取ったニルヴァス様はすぐに立ち上がった。あれ、もしかして今からすぐに交渉に行くのだろうか。いつになくニルヴァス様の腰が軽い。


「今すぐ行くんですか」


「うむ。早い方が良かろう。食している間に先に設置権を獲られぬとも限らぬ」


 確かにその通りだ。時間差だったなんて事になったら悔やんでも悔やみきれない。ってゆーか悔しくて号泣すると思う。ニルヴァス様と私は、食材ゲットへの闘志に燃える目を交わし、強く頷き合った。欲しい食材は向こうが気付く前にゲットせねばならんのだ。今回その糸口が見えた気がしたので、時間を見つけて一覧を作って、何があって何が無いのかをチェックする必要を切に感じた。決意を胸をたぎらせていると、ニルヴァス様が「では行ってくるぞ」と告げる。だいたいその後にはパッと居なくなるのだ。急いで声を出す。


「あ! まだ訊きたい事があるんですが!」


 と焦って引き留めようとした私に、ニルヴァス様は思いもかけなかった言葉を寄越した。しかもかなりの呆れ顔、じゃない諦めた顔で。 は? と思った時には既に居ない。えーーと、ニルヴァス様は今なんと言った? 半分停止した脳みそで一生懸命に思い出す。何とか思い出した言葉は────、


『声に出して我に問いかけよ。使徒の声はどこに居ても聞こえるゆえな』


 ────だったような……。ってことは、私が訊けば返事が来る? え、でもどうやって? 


「ニルヴァス様、結果が分かったら教えてくださいね?」


 恐る恐る問いかけると、一拍置いて「うむ」と返事が。聞こえてくると言うよりは、脳に響くという感じだ。あ、こうやって来るわけね。もっと早く教えてくれれば良かったの……に……ん? 違和感が胸をかすめる。こういう時は大概自分の思い違いで恥ずかしい想いをするのだ。ちゃんと思い出そう私。本当に教えてもらってなかったか? 

 ぬううううん! 気合いを入れてニルヴァス様とのやりとりを最初から思い出す。記憶力などにまったく自信は無いのだが、糸口くらいなら思い出せるはずだ。なにせまだ会って間もない付き合いだ。思い出す事はそんなに多くはない。


「あっ」


 ───思い出した。

 ニルヴァス様の声を聞ける人が昔は居て、その人に野菜設置した時とか教えたって言ってたよ確か。しかも私を使徒にするのは、ニルヴァス様の声を受け取るためだって、思いっきりはっきり言われてた……。料理を作って奉納するって方にばっかり気が行って、完璧に忘れていたな。わざわざこの部屋に戻ってから質問攻めとかして、ニルヴァス様はおかしいな~って思ってたのかもしれない。それであの諦め顔か……ガックシ。


 力が抜けてテーブルに突っ伏してしまったが、訊きたかった事案について、私がニルヴァス様に問いかけるシーンを想像する。ん? あれ? これ周りに誰か居たら出来ないやつじゃないか? 誰も居ない空間に向かって問いかけるって、本当にやばい人認定されてしまう行為だぞ。小声で問いかける姿は、ブツブツ呟く要注意人物以外の何者でもない。


「……知らなくて良かった?」


 のかもしれない。いや、知らなくて良かったんだよ! どっか隅っこ行って訊けよとか、1人になった時に訊けよとか、皆が寝たら訊けばとか突っ込まれるかもしれんが、魔力で盗聴されるかもしれんし、語り掛けるのを視力強化で見られてしまうかもしれんだろう? いつも好き放題盗聴してるから、されたところで怒りはしないさ。でも変人だって皆に引かれるのは嫌だし、ロジ少年が近寄って来なくなったら涙目どころでは済まない。───ね? やっぱり異空間部屋で訊くのは間違っていなかったんだよ! ふははははは! 私復活!! ん? なんかニルヴァス様に訊きたい事あったけど、忘れてしまったな。……えーと。また思い出した時でいいか。




 復活ついでに明日用に一品作っておくことにした。せっかく例の愛用出汁と冬瓜をミゾノで手に入れることができたので、冬瓜スープを作りたい。歯ごたえを残しつつ味を浸みさせるには、作ってから数時間の寝かせが必要なのだ。一度完全に冷ますといいのは煮物と同じである。


 冬瓜を皮ごと4センチくらいの輪切りにしてから種を取り、それを放射状に6等分して皮を剥く。冬瓜の皮は硬いので剥く時は自分の手を切らないように気を張るが、黄緑色が残るぐらいに薄く剥くのが栄養価的に望ましいと聞いてから、頑張って集中して剥いている。治癒があるので怪我を恐がらずにスピードアップできるのが嬉しい。いや冬瓜の皮剥き、マジで怖いから。硬くてツルツルして、よく包丁が滑って「あっ! ぶな!」ってなるのだ。


 そこに乾物ダンジョンでゲットした、私の愛用万能だしの『鰹ぶり〇し』を4つ入れる。私の好みではあるが冬瓜は味付けが濃すぎると美味しくないので、薄めで作る。もちろん隠し味のみりんも忘れない。入れ過ぎると出汁がぼやけるので、本当に少しだけだ。小さじ1杯入れるぐらいだろうか。小鍋でやるなら数滴。入れる意味あんのかって? あるに決まっている。まろやか万歳。


 そんで中火で加熱を始めて冬瓜に火が通ってきたら味見をして、足りなければ出汁パックを追加して、濃かったら水を足す。仕上げに腸詰を切らずに入れるのだが、この腸詰を入れるタイミングがこのスープの一番のキモだったりする。食べる時にあとひと煮立ちだよというタイミングで入れるのだ。入れてから長時間経ってしまったり、何度も煮たりするとスカスカ、はっきり言って腸詰の旨味はゼロになる。ゆえに食べる前に入れて欲しい。お姉さんからのお願いである。よって今晩の作業は腸詰抜きで冬瓜スープを作って味見をするところまでだ。冬瓜を煮てる間にやりたいこともあるしね。


「さてと、インナー作るか」


 本当は今日の午後できたらいいなと思っていたのだが、買い物が予想外に増えたので結局手付かずのままだった。冬瓜が煮えるのを待つ時間も有効活用していきたい。材料をテーブルの上に出していく。

 むか~し習った寸法から型紙を作る方法なんて、10年以上経ってれば完全に記憶の彼方だ。マントルまで掘り起こしたって思い出せはしないだろう。よってここは思いっきり自由に作っていく。


 布の両端を真ん中で合わせて2つに折って、待ち針を創造してずれないように留め、更に『固定』を付与して黒い布に白で線を書いていく。ハイネックにして、長袖で、ズボンに入れられるくらいの長さで。曲線など脇の部分にしか使わない。後は全部直線だ。腕は肩からまっすぐ横に、くびれも作らない。そこも真っ直ぐだ。その線通りに切って折れているのを広げると、前身頃と後ろ身頃の2つのパーツが完成した。それらを裏側を表にして縫い合わせていく。縫い上がったら『伸縮』を付与する。それを大きめと小さめで2つ作った。完全に付与頼み前提だから出来る荒業だよね。あっはっは。


 まずは小さめを着てみる。しっかり伸びて問題は無い。動いてみても問題なし。満足のいく出来栄えだ。

 大きめを着てみると、少し生地がたるんで見た目がよろしくないし、脱ぎ着する時も生地が余って伸びすぎた。これは小さめが必須だな。ロジ少年たち用に私より小さいのを1着、私より背が高いソルたち用に、私用にさっき作った大きめサイズで、そですそが長いのを1着作った。これで明日あたり着せてみてサイズ確認ができる。


「今日できて良かったな」


 時計を見ると2時間とかかっていなかった。波縫いだけで服が作れるとか、本当にすごいな付与。

 道具たちをしまい、裁縫の合間に冬瓜のスープから出しておいた出汁パックを鍋に搾り入れる。使い終わった出汁パックは例のごとく佃煮用に乾燥を付与した壺に入れるのだ。『まだ食べないでください』と書いた紙を鍋のフタに貼り付けておいた。


 次の予定は領主館の書斎だ。気になる手記を早く読みたい。異空間部屋の出口を書斎にして、誰も居ないことを確認すると早速隠し部屋に入り込んで今朝の続きの26代目分を持ち出した。







「ん?」


 35代目に差し掛かったところで、大きな魔力を感知して顔を上げた。この魔力の大きさと動きは、ダンジョンのボスが復活する時に似ている。急いで本を棚にしまい、領主館の屋根に上った。魔力を感じるのは東の方だ。そちらに向けて走り出す。貴族街の家の屋根を駆け、城壁と言って差し支えない街壁を駆け上がった。もちろん階段などは無い。身体強化と付与を駆使したに決まっている。


 街壁の上には通路があって、万里の長城やヨーロッパの城壁のように兵士がそこで見張りに立てるスペースがあった。見張りの間隔はお互いの姿がギリギリ確認できるぐらいかな。夜の暗さも手伝って、感知不可をかければ誰も私には気付かないだろうが、そういう時こそ慎重に事を進めるべきだよね。見張りと見張りの中間あたりにそっと滑り込む。


 この世界の夜は暗い。月はあるが星が無かった。その月を毎晩見てきたわけだが、満ち欠けもしない。常に満月。星のおかげで明るいと思ったことは無いが、無ければ暗さが増して感じるのだなと知った。


 もしかしたらこの世界では月と呼ばれていないのかもしれない。それを言ったら太陽も同じだが。しかしまあ太陽と月の呼び名が違ったところで問題は無い。この世界の仕組みがどうであれ、問題なく人が生活できているのであれば、いちいち気にすることでは無いだろう。知ったところで「へえ~」くらいしか言えまい。よってスルーしている。


 ただ、今この世界の夜を照らす唯一の満月の光の下で、その大きな魔力が緩やかに竜巻の形を取り始めていた。ダンジョンでは砂や水が巻き上がってモンスターになっていたが、これはどうやら草のようだ。魔力の竜巻がその辺りに生えている草を千切り巻き上げているのかもしれない。巻き上げられた草同士が擦れる音なのか、ザザザっと竹林に風が吹いたような音がしていた。

 月明りの下で気持ちのいい音を聞きながら、緩やかに渦巻く魔力に己の魔力回転を無意識に合わせてしまう。なんだこれ、癒される。眠ってしまいそうだと街壁にもたれながら見つめていると。


「鐘を鳴らせーー!!」


 東門付近の見張りからそんな号令が叫ばれた。鐘? 鐘などどこにある? ああ、東門の中にそういう部屋があるようだ。鳴らされ始めた鐘の音で、その出所が判明した。

 ガランガランと鳴り響く鐘の音、緩やかに渦巻く魔力の竜巻。これはもうファンタジー展開しかない。特等席でじっくりと見させてもらうべし。


 視力強化OK、魔力感知最大、範囲盗聴、範囲探索、範囲鑑定開始。さあ何が起こるか見せておくれ。




ニルヴァス様は、米の時にヨリの「欲しい」を舐めてました。それの反省が生きています。「食材交渉は迅速に」ニルヴァス様はお尻が軽くなりました。



レレモ発生まで何とかいけました。次回は狩りです。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ