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さあ美味しいモノを食べようか  作者: 青ぶどう
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65.ソア様宅に肉を。  ロジの近況

久しぶりのロジ少年目線が入ります。



「裁縫用のハサミと針を10個ずつ」


 私は、再び店屋が並ぶ通りに来ていた。インナーを作るのにマイ裁縫道具が無い事に気が付いたのだ。移動に手間はかからないとはいえ、一度村に戻ってから買い忘れに気付くのは精神的に疲れる。気付いて本当に良かった。

 先程は糸屋にも行って大量の黒糸を買った。その前には定規と布に印を付けるための平たい石っぽい物も。その平たい石っぽい物は、鑑定をしたら『サミ石』と出た。爪で削れるぐらいもろいから、チャコペンのように使うのだろうと当たりを付けて買った。後はハサミと針があれば、すぐにでもインナー作りが始められるというわけで、何軒かある鉄製所のひとつでお買い物中なのだ。


 この世界では製鉄所で素材を金属板にして、鉄製所でその金属板を小物商品に加工して、鉄工所で大きな商品を作っている。私は鉄製所と鉄工所にしか世話になった事が無いので、製鉄所には行った事が無い。個人的にはこの世界の金属がどうやって造られているのか見てみたい気が満々なのだが、用も無いのに突撃するなんてと後回しになっている。用がある店の方が入りやすいよね。え? 意外に小心者? 意外って言うなコラ。

 そんな1人突っ込みをした後、店主らしき人がハサミと針を用意してくれている間に、ソア様宅での事を思い出す。


 まずは服が縫えるかの確認からしたのだが、そこは大丈夫だった。貴族の娘の花嫁修業は、裁縫と料理なのだそうだ。頼もしいことこの上ないね。

 次に奥さんと幼い子供たちでは、森や山に行くまでに時間が掛かり過ぎるという見解を伝え、ならば自分たちが採りに行くついでに採ってくるから、その代わりに平民の服を縫って欲しいと提案した。

 私の中では素敵なギブ&テイクだと思ったのだが、奥さんが悩んでる様子だったので尋ねてみたら、奥さんの姉と妹、ソア様の兄2人の家も同じように苦しいのに、自分の家だけが食べ物を手に入れる事に対して罪悪感を覚えると教えてくれた。


「ならばその方たちも、ご一緒にどうですか」


「えっ?」


「服が少なくとも250枚は欲しいのです。縫ってくださる方が増えるのはとても助かります」


 そうそう、奥さん1人じゃ絶対無理だからね。是非ともお仲間を増やしてくださいよ。


「上衣1枚で、肉も入れて食材30日分でいかがでしょう」


 私の言葉に奥さんは驚愕。そんなもらえないとおののいていたが、優秀な冒険者だから買うよりも安く用意できると言って納得してもらった。まあアレだ、安くって言うより労力しかかかっていない。現在はボスまで終わって1時間かからないから、1日みっちり潜れば……ねえ? 服を縫ってもらう方が時間も労力もかかると思うんだこれが。

 森と山に案内して少し指導するだけの事に報酬など要らなかったのだが、タダでは悪いって気持ちが微笑ましかったので、1日3食計算で肉を2塊付けてあげようと思っている。服を2枚縫えば60日分だ。これで少しは顔色が良くなるといいのだがね。


 少し考えたいと言う奥さんに肉と野菜の入った袋を置いて来た。現物を見た方がどのくらい貰えるのかが解りやすいだろうと考えて用意しておいたのだ。それとは別に差し入れとして10日分ほどの食材の袋も。

 ソア様宅以外も巻き込むからには、ソア様宅だけ量を増やして渡す事は出来ない。妬みやひがみで上手くいっている人間関係を崩したくはないのだ。よって服1枚で渡す量は均一にして、差し入れをする事にしたのである。どう考えたってこのきっかけを作ってくれたのはソア様と奥さんだから、他と全く同じでは気分的によろしくない。報われるべき人は報われて然るべきである。




「はいよ」と渡された包みと交換で代金を払うと店主から思いがけない事を言われた。


「アンタ、俺らの間で有名になってんぜ。金払いのいい上客だってな。ウチでも何か注文してくれねえかね」


 有名に? 鉄製所と木製所と布屋と古着屋と毛皮屋と仕立て屋と靴屋。そして今日は糸屋。大量買いした店などそのくらいだ。……ひと月も経ってないのにそんだけ大量買いすれば有名にもなるか……。必要だと思ったことをしているだけなのに、有名だ有名じゃないとか騒がしいことだ。どちらにしろ私がそれで自重するということはナッシングなので気にしない事にする。


 店主はそう言ったものの、あまり期待はしてなさそうに見えた。営業トークというヤツかね。

 少し脳内を漁って、優先順位でまだ作っていない物を引き摺りだす。収納袋から村で使っているのと同サイズのフライパンを出して渡した。


「じゃあこれ、250個作って欲しいんだけど」


 これは先日別の店で頼んで作ってもらったフライパンである。そっちは別の調理器具を作ってもらっていて忙しいだろうから、ちょうどどこに頼もうかと思っていたのだ。仕事が欲しいほど暇だと言うなら、是非とも頑張って作ってもらおうではないか。


「大きさをこの半分で、取っ手は熱くならないように木を被せて固定してね。フタは~」


 個数でピンときてもらえたと思うが、服を縫ってくれるお宅へのプレゼント用である。だってソア様宅で鍋を借りた時に見えた、取っ手の付いた平たい鉄板。どうやらあれで焼き物をしているようだったのだ。簡易鉄板と思しきソレでは、野菜の蒸し焼きもできないし、鳥肉の中まで火が通らない。人生において大いに損をしていると断言できる。よってプレゼントと言う名の押し付けなのである。村でだって最初はビビられたけど今じゃ普通に使っている。これは完全なる善意だ、うむ。


 フライパンとフタとフライ返しで1セットとして作って包んでもらう事を頼んで、銀貨10枚を渡した。初めて作る物ばかりだから失敗もあるだろう。その補填も入っていると言うと、店主が腰を抜かして泣いた。忙しい人である。店先で座り込むのは恥ずかしかろうと、人生初のお姫様抱っこでカウンターの椅子まで運んでやった。凝視されながら運ぶのは居心地が悪かったとだけ言っておこう。


 む? 初お姫様抱っこが美女だったら良かったのにと私だって思ったよ? 後から。でも人命救助と言うか人恥じんち救助だったから仕方ない。次の機会には美女か美少女を抱けるように期待だけしておこうと思っている。いや趣味じゃなくてお姫様抱っこっていうのはそういうモノだろう? 私の中でもそうだというだけの話だ。抱っこされるのは、やはり美女か美少女が美しかろう? ワキワキ。おう私の腕が美女をご所望だ。願わくば性格も美しい美女を抱っこしたいものである。もちろんロジ少年は美少女枠で───ぬお至福っ!! やりたいけどロジ少年の尊厳の為に、私はグッと我慢して妄想だけにとどめる。


 一般認識と妄想は置いておいて、店主には急ぎだから別の鉄製所と協力してやってもいいからと言い含めた。どう見ても店が小さく、従業員が居なかったからである。もしや1人でやってるのだろうかと、店主を店の奥に運んだ時に心配になってしまったのだ。まあそんな一幕を挟みつつ、急いで村に向かう。今日は待ちに待った焼き鳥の日なのだから早く帰らないと!







 +    +    +




「ロジ、行くぞ!」


 先に走り始めたハギ(23話登場)に急かされて、俺も走り出した。ダンジョンに向かって。


 俺たち塩ダンジョンに潜る5人は、大人の班とパーティーを組んで潜るようになっていた。25人ぐらいのパーティーを組んで、ボス部屋まで狩りをしながら突っ込む。ボスを1回やったら休憩して、もう1度ボスをやってからまた戻る。そうすりゃ帰りも狩れるから1度でかなりの量が獲れる。肉ダンジョンでも粉ダンジョンでも同じようにやってる。役人に渡す分は、その1回で獲れちまうようになった。本当にすげえ。ちょっと前までの辛さが嘘みてえだ。


 1日潜ったら、次の日は自由だった。森と山に野菜を採りに行く時もあるし、行きたい奴はダンジョンに行く。まあ街の奴らが来る休日はダンジョンに近付かない。前までは手伝えなかった畑の手伝いもできるようになったし、街の子供らに飯を持って行くのも、交代制じゃなくて自由の日に行けるようになった。5人で行く事もあるし、ソルさんたちやホスさんたちが行く事もある。つまりは行きたい奴が行くようになった。皆だって子供らの事を気にしてたんだなと、こうなってから判って嬉しかった。だって俺ん時もそうだったって事だろ。


 子供らはよく笑うようになった。街の奴らが乗り込んでくる事だけが心配だけど、それも最近は聞いてない。なんつーか、すっごく気持ちいい日が続いてる。このまま、このまま続かねえかなあ……。村で一緒に暮らせりゃ守ってやれんだけどって、子供らのとこに行くたんびに思う。村に連れてけばいいってもんでもない、とロンさんに教えてもらって難しいことなんだって知った。


 2度も潜れば役人に渡す分と俺らが食べる分なんか充分あったけど、昨日の前の日からはダンジョンに潜るついでにドロップ品を貯め込む事に決まって、潜る日は一日中潜るようになった。

 能力に慣れるために自由の日にもダンジョンに潜る奴が多かったから、量はどんどん増えてる。飯の時にそう教えたら、ヨリは「すごいすごい!」と喜んでくれた。へへ。

 貯まってきたボスドロップの宝飾品と武器は俺たちじゃどうせ売れやしないから、宝飾品の方はヨリに渡してる。もらい過ぎだっつってヨリはしぶしぶ受け取ってた。



 ヨリが布屋に行くと言い出した。ボイフたちに「連れてって」と。

 俺はあんまりヨリに頼まれごとをされてないのに、肉屋たちはよく頼まれごとをされている。特にガザが。

 俺にも何か頼めよなって思っちまう事は内緒だ。恥ずかしくて言えやしない。だから俺は今日もダンジョンに潜って、野菜を採る。野菜を採るよりモンスターやってる方が時間が掛からないから、最近じゃ自由の日に野菜部屋に来るようにしてんだよ。そうすりゃモンスターだけ集中して狩れる。そうするようになって気付いたんだけど、野菜を採るのとモンスターをやるのは違った。野菜を採る方が難しい。


 身体強化をモンスターをやる時みたいに全部にかけると、野菜を潰しちまう。何度か失敗した俺たちは、力を強くしないように、速さだけを上げる方法を皆で試しながらやってる。だいぶ思うようにできるようになってきて、それがまた楽しい。気を抜くと身体強化が解けちまうか、また全部にかかって潰しちまってギョエッってなるけど。

 それのおかげか、モンスターをやる時に力配分ができるようになった。魔力操作が上達してる証拠だってヨリは言ったけど、確かに上層と中層と下層で配分を変えると、ボスをやる時にかなり楽になるって気が付いたんだよな。上達してるのが解るって、すっごく楽しいんだな。それが解ってからは、時間があればダンジョンに入り浸ってる。今一緒に野菜部屋に居る奴らは、皆俺みたいな奴らだと思う。もちろんハギもその仲間だ。


「おう、コレでけえな」


「俺のがでけえよ」


 ヨリが『ナス』って言ってたやつだ。実はまだ食べたことがない。今日はソレを使うと言っていたから、すっげえ皆楽しみにしてる。今日の夜飯はなんだろな~~。





 村に戻ると、めっちゃいい匂いがしてた。調理小屋を覗くと『石板コンロ』と皆が呼んでるのの上いっぱいに、何かが並んでいた。匂いはたぶん鳥肉だ。しかも柔らかい方。何度か食べてるうちに、匂いを嗅げばどの肉なのかが解るようになった。

 味付けは塩コショウだな。香ばしい匂いと塩コショウの香りが堪らない。口の中が川になってしまいそうだ。それとは別に調理小屋の壁際に並んでるコンロの上には、ヨリが持ち込んだ『フライパン』が並んでいてフタがされていた。そっちからはたぶん、ニンニクってやつの匂いがする。この匂いも大好きだ。そんで美味い。


「ヨリ、覗いてもいいか?」


 俺はここに来ると、フライパンやら鍋の中を見たくなっちまう。だって美味い飯がどんなんか、見たくて堪らねえんだよ。フタ開けた時のぶわってくる匂いとか、グツグツ、ジュウジュウとか、ほんと幸せなんだぜ。だけど料理によっては開けない方がいいのもあるってヨリが言うから、いっつもヨリに訊いてから開けてる。今みたいに。


「いいけど、先に顔と手を洗ってからね」


「おう!」


 ヨリが石板コンロに並んでるのをひっくり返しながら、俺にそう言う。そういやダンジョンで野菜引っこ抜いたりすんのに、砂浴びたりしたしな。食べ物を作る時は、なるべく身体をキレイにしてやるんだとヨリが言っていたんだった。食べられない物が入るのは嫌でしょう? と言われて、やっとヨリの言っている事が解ったんだったな~あの時は。


 調理小屋の外に出て身体の汚れを叩いて落としてから、水場で手と顔を洗って調理小屋に戻る。早速フライパンのフタを開けて、ぶわっときた匂いを思い切り吸い込んだ。


 ああああああ~~~~~~いい匂いだ~~~~~~~~~。


 このぶわっとするのは開けてすぐの時だけだから、俺は次のフライパンへ向かった。隣のコンロだ。それのフタも開けて、また同じように吸い込む。


 ああああああ~~~~~~~~~~~~~~~。


 全部のフライパンでそれをやった後、満足して調理小屋を出たら。


「お前さ~……」


 とハギに呆れた顔で見られた。なんでだ。そういや前やった時もこいつは変な顔をしていた。


「なんだよ」


「さっきのってやらなきゃ駄目なのか?」


 何を言うんだこいつは。


「やらなきゃ駄目なんじゃなくて、やりたくなっちまうんだよ。匂いが良すぎて」


 アレを我慢できるハギの方がびっくりだぜ。ほら、ガザだって料理番のおっちゃんたちだってやってんじゃねえか。ヨリだってやってるぞ?

 そう言って調理小屋を見ろと言ってやると、覗き込んだハギが「うわあ……」と引いた。そうかハギには解らねえのかこの幸せが。可哀想に……。そう思ってハギを見ていたからか、こっちを見たハギがギッと俺を睨んで叫んだ。


「俺が可哀想みたいに見てんじゃねえよ!」


 そしたら調理小屋から誰かが噴き出す声がした。ヨリが蹲って背中を震わせてる。ガザもおっちゃんたちもこっちを見ないで石板の上のモノをひっくり返しながら笑っていた。ダンジョン組の4人は首を捻って何が起きてるのかも解っていない感じで、シガさんだけはいつものことながら無表情のまんまだ。

 なんだかそれが可笑しくなって、俺もブフッっと噴き出しちまった。そしたらハギも釣られたのかグフッと噴き出して。笑いまくった後に配るのを2人して手伝ったんだけど、配ってる間中ハギの鼻がヒクヒク動いてたのを、俺はちゃんと見てたからな? また変な顔で見て来たら、言って揶揄からかってやろうと決めた。






ロジ少年はヨリに妄想されまくってる事を知らない方が幸せだと思うのですが、知った方が安心するかもしれません……。どうかな……。


ロジ目線は久しぶりで楽しかったです!


次話は料理パートが入ると思います。



「異世界転生」に決定いたしました!皆様の暖かいご助言、本当にありがとうございました。今後はタグにそう付けさせていただきます!(お辞儀)

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