51.クリームシチュー 【クリームシチュー、レアチーズケーキ】
はい、また料理パートです。
面倒な方はスルーでお願いします!
ケーキも食べて満足した私は、ボウルにザルをセットして布を敷いて、完全に分離したモノをそこに載せた。
これで水分が抜けるまで放置なのだが、最終的には布で包んで絞るのである。
砂糖と酢と生クリームを用意して、まずは生クリームに分量の半分の砂糖を入れて、泡立てる。
ツノが立つまでしっかりと泡立てるのだ。
それに「時間停止」をかけて、カッテージチーズを絞る。そして別のボウルに入れて、残りの砂糖を入れて、しっかりと練る。グリグリグリグリ混ぜる。
市販のクリームチーズでやると、この時硬くてやりにくいのだが、これならばそんな事が無いのだ。
しっかり混ざったら、そこに生クリームを少し入れて練る。それを少しずつ繰り返して、ゴムべらでも混ぜれるような硬さになったらゴムべらに変えて、それからは切り混ぜるように混ぜていく。
そこに酢を加え、しっかり混ぜて味を見る。…もう少し甘くてもいいか。
砂糖を少し足して混ぜて、また味見。…よし、OKかな。
酢も砂糖も味見をしながら足していけるのがいいんだよね。
ケーキ型を出して「不着」をかけて流し込み、畳んだ布に落として空気抜きをした。そしてその上にさっきとっておいたケーキ生地のスライスを載せて、生地を潰さない程度に軽く押す。
これで1日冷やせば食べられる。あ~~~、明日が楽しみだ~~。
さて終わったぞと。
振り返ったらまだニルヴァス様がそこに居た。
そういえば湯冷ましで一服する前に作り始めてしまったのだった。
ケーキの時の湯冷ましは、あれは口をさっぱりさせるためなので一服では無い。
椅子に座って湯呑みを持つと、しっかり温かかった。
「ありがとうございます」
私が温めたのではないから、当然ニルヴァス様しか居ない。礼を言ってひと口飲む。
ふわああ~~、満足だ…。
米を食べれて、ケーキも食べれて、明日はレアチーズケーキまで食べれる。うん、やり切った感がすごい。
のんびりと一服していたら、ニルヴァス様が「そういえばである」と切り出した。
「そういえばであるが、米10キロと交換で、鍋いっぱいのクリームシチューが欲しいと言われたのであった」
「……ん?」
そういえばこの間、ワサビと和がらしをニルヴァス様がもらってきてくれた時は、私が作った朝食と交換したのだと言っていた。
ワサビと和がらしの壺は、塩の壺サイズでそんなに多くは無かったから、レーズンパンと野菜巻きで量的には釣り合いが取れているのだろうと納得したのだったが。
…そうか、米もそうだったのか。ならばあの10キロに見合う量のクリームシチューを作れという事なのだろう。
それにしても不味いな。「交換」という条件であるのに、交換する前に食べてしまったぞ。
「ぬ? クリームシチューを鍋いっぱいというのは、駄目だったのであるか?」
私が考えるのに没頭していたのを、どうやら困っていると勘違いしたらしい。ニルヴァス様が眉尻を下げながら訊いてくる。
「いえ、米を食べる前にクリームシチューを渡さなければ、なんかズルをしたみたいで嫌だなと考えてました」
「ぬ? そうであるか?」
「そうですよ。交換ですから、ちゃんと交換が終わってから食べるべきだと思います」
うん。どうにもやってしまった感がある。私も確認しなかったから同罪だな。
「次からは私も気を付けますから、これからは食材の名前の前に交換条件を先に教えてください」
ニルヴァス様にお願いする。だって先に食材の名前を聞いたら、きっとまっしぐらで他の事など吹き飛んでしまうだろうからね。
「うむ」
ニルヴァス様はしっかり頷いてくれた。私も強く頷く。
もし次回も同じような事があれば、こちらの品が用意できてから交換してもらわないといけないかもしれないな。…あれ、名案出た。
「ニルヴァス様、名案が浮かびました!」
姿勢を良くして、ビシッと手を挙げる。「ハイ先生!」な感じで。
ニルヴァス様はビクッとなって一瞬固まり、「うぬ、何であるか」と訊いてくれた。…少し声が大き過ぎてしまったかな。
「両方の品が用意できてから、交換すればいいんじゃないでしょうか?」
「む…」
私の言った事にニルヴァス様が少し考えて。
「ふむ。イリスに訊いておこう」
そう言った。その名前は初めて聞くが、それが魔大陸の神様の名前だろうか。
「魔大陸の神様は、イリス様というお名前なんですか?」
興味津々で訊いてしまう。名前から想像するに、細くたおやかなイメージだ。キレイ系だろうか。カワイイ系だろうか。それとも妖艶なタイプか。
だが神様の容姿を興味だけで訊くのは、やってはいけないような気がするのでしない。
「うむ。そのうち会うかもしれぬぞ。イリスは最近ここによく来るのだ」
私が居ない間に来ていると。
神様って何が原因で機嫌悪くなるか解らないイメージがあるのだが、ニルヴァス様を見てるとそのイメージがぼやけてしょうがないのだ。食材ダンジョンのボスにアレを設定させるとかいう、うちの世界の神様は意地悪そうだけども。
ニルヴァス様と気が合うのならば、そんな怖い神様ではないだろう。そのうち会えると言うなら、その時を楽しみにしたいと思った。
「さてと、じゃあクリームシチュー作りますから、出来たらすぐ持って行ってくださいね」
「ぬ?」
「ワサビも米も、無理難題言わずにくれたじゃないですか。そんな相手を待たせたら、こちらの誠意を疑われます。今後の取引にも響きますよ」
ニルヴァス様に言って、さっさと作業を始める。クリームシチューは時間がかかるのだ。
まずは入れる具を出す。人参と玉ねぎとシメジと椎茸とエリンギと豚肉だ。
ジャガイモは入れない。家族のリクエストで入れた事があるのだが、ホワイトソースの味が少しぼやける気がするのだ。私が作りたい味と違ってしまうのである。
野菜たちとキノコ類を切って、大きな鍋にボンボン入れて、コンソメを入れて、水をヒタヒタくらい入れて中火で加熱を始める。
それとは別の鍋に、コンソメをどかっと入れて、水を入れて強火で加熱だ。
このコンソメの汁はホワイトソースを練るための水分だ。どうしてコンソメ汁を別で用意するのかという理由であるが。
牛乳を入れると味が薄まる。それを計算して野菜を煮る水を濃いめに味付けすると、味が濃く付き過ぎた野菜に困るのである。時間が経てば味は均一になるが、味見をした時と後では味が変わってしまうのだ。
だから、野菜を煮る水には普通の濃さでコンソメを入れて、別鍋に具無しで濃いめのコンソメスープを作って、それで練ってくのだ。
ではとろみの素を作っていきますよと。
厚手の鍋か、テフロンの深みのあるフライパンがお勧めだ。
量が多い時は、小分けに作る方が疲れないと思う。量が多いと水分を飛ばすのが時間かかるしね。
ゆえに深めのフライパンを3つ出し「不着」をかけてバターをボンボンボンと入れて、弱火にかける。
バターが溶けるまでに薄力粉を用意する。バターと同量だ。
先にバターを溶かしてそこに薄力粉を入れていくのだが、一度に入れると上手くいかない事もある。そういう人にオススメなのが、2~3回に分けて投入する方法だ。
入れる時に火を止めるのもいい。焦らないで済む。
まずは火を止めてから、薄力粉を半分ずつそれぞれのフライパンに入れる。それを竹べらで練り終わったら、残りの粉を2回に分けて入れて、その都度練る。
練り終わったら弱火で加熱だ。
竹べらで練り練りしながら加熱する。それを私はけっこう長いことやる。
そこを適当にやったせいか、コンソメで伸ばしてく過程をパパッとやり過ぎたせいか、どちらか解らないがその結果いまいちな出来になってしまった事があったので、丁寧にじっくり時間をかけるようになったのである。
バターがにじみ出るようになったら、濃い方のコンソメ汁をお玉に半分すくって入れる。
すぐにジュワーっと水分が、ホワイトソース種に吸い込まれるのと蒸発で無くなってくる。それを竹べらで練り練りして、またそこに同じ分だけコンソメ汁を入れて、同じように練り練り。
この「練り練り」には、まんべんなく水分を行き渡らせて種の濃度を同じにすると共に、炒めるというか、火を通す意図がある。
これをしっかりやるとコクが出る…んじゃないかと私は思っているのだ。
だから、練~り練り練~りしっかりやる。
そして「少し種の量が増えてきたな」と思ったら、コンソメ汁をお玉1杯にしていくのだ。その時には加熱を弱火から中火にする。
ちなみにこのコンソメ汁を入れていく量は、最初からお玉1杯でもいいのかもしれない。20年近く試行錯誤を繰り返して今のやり方になったが、当然もっと上手いやり方があるだろうなと思っている。
私のは調理実習で教えてもらったやり方に、自分なりにアレンジを加えただけなのだ。でもまあ家庭料理だから自分が美味しければいいじゃないか、と開き直っている。
それをひたすら繰り返し、どんどん種がブワブワしていく。竹べらで混ぜる時、一緒に種がブルンブルンとくっついて回るのがちょっと楽しいし、可愛く見えても来てしまうという不思議。大事に手間をかけて練ってるせいに違いない。うむ。
具を煮てる鍋がグツグツ言いだしたので、薄切り肉をしゃぶしゃぶの要領で入れていく。その方が綺麗に肉が開いて、スプーンですくった時の見目や食感も私好みになるのだ。
この作業、これだけの量に見合った肉ともなればかなり時間がかかったけれども、私は身体強化を使ってしゃぶしゃぶをやり切った。
もちろんアクが浮いてきたら取る。この作業をしないと、ホワイトソースが汚くなるのだ。
丁寧にやっている間に野菜にも肉にも火が通る。
そうしたら先程練ったホワイトソース種に、このコンソメ汁も加えて更に練っていく。具が崩れないように、なるべく押さないようにお玉で汁を掬おう。汁は残っても問題ないので、グイグイ野菜を圧し潰さないようにね。そして練る作業を繰り返す。この時も基本お玉一杯ずつだ。
お玉で掬って溢してみて、トロリと流れ落ちる程にホワイトソースが緩くなったら、今度は具の鍋の方に移し入れる。これは逆でも構わない。大きい鍋の方に移せばOKだ。それを中火で加熱しながら竹べらで野菜を潰さないように混ぜていく。掬い切れなかったコンソメ汁は、ここで混ざるから残っても問題が無かったのである。
さて、次はまだまだとろみが強いそこに牛乳を少しずつ加えていきながら、その都度混ぜていこう。別の鍋で温めておいたものなら、お玉一杯ずつでいいし、冷蔵庫から出してすぐのものならお玉に半分ずつかな。
どちらも一気に入れると、ホワイトソースがぽちょぽちょと分裂して、「牛乳の中に浮かぶドロドロした粒」スープが出来上がってしまうので要注意である! (昔やった…)
牛乳の量は味ととろみを見ながら決める。
とろみが強い時に味が薄くなりすぎたら濃いコンソメ汁を足せばいいし、とろみがちょうどいいのに味が薄ければ、まずは塩コショウを入れてみる。それでも味が足りなければ、少量のホワイトソースを濃さを増したコンソメ汁で作って、大鍋と同じくらいにゆるんだら、大鍋のホワイトソースと合体させて混ぜる。
ホワイトソースは冷めるとろみが強くなるので、一度冷ましてみるという手もいいだろう。
同じ理由で、私はすぐ食べない時はコンソメを濃いめにしておいて、温め直す時に牛乳を追加する。もちろんお湯を足す時もある。
あとは、牛乳が足りないけどとろみも強くて味も濃いならお湯を足したり(もしかして暴挙?)、とろみが足りない時は、観念してホワイトソースを頑張って練ったり。
うむ、実験のようだな。
……かなりいい加減かもしれない。でも料理なんてそんなもんじゃないかな? 私は自由に生きるのである。
人生観を込めて完成したクリームシチューを、ニルヴァス様と少量ずつ味見した。
「うん。美味しくできましたね」
満足の出来を己で褒める。いつもの事である。
お向かいではニルヴァス様が、食べながら頷いてくれた。よし、合格だね!
「じゃあニルヴァス様、それを食べ終わってからでいいので、これをすぐに届けてくださいね」
鍋を指し示す。寸胴とも言うべき大鍋だ。
さすがにこれだけの量を作るのは初めてだったから、気分は「給食のおばさん」だ。
「……これだけの量、本当に食べるんですかね」
何日分だろう。っていうか何回分だろうか。
毎日クリームシチューを食べるのか。私なら3日も続けば飽きるよな。…「時間停止」をかけておくか。
これならば、「食べたいな」と思った時に食べてもらえばいい。
「たくさん作り過ぎたかもしれないので、時間停止を付与しておきました。ちゃんと伝えておいてくださいね」
カチャリとスプーンを置いて、食べ終わったニルヴァス様が布で口を拭き拭き言う。
「大丈夫であろう。身体は我より大きく、いつも山盛りの料理を食しておったでな」
……イリス様って、ニルヴァス様より身体が大きいのか?! しかもニルヴァス様基準の「山盛り」ってどんだけ…。
キレイ系とカワイイ系と妖艶系の女性像が掻き消えて、代わりにニルヴァス様を超える、大柄ながっちりしたマッスル系の女性が脳内に鎮座した。そのマッスル女神はニカッと笑って歯なんかも光っている。
「…作り過ぎたのではなくて、安心しました」
まあ神様なんて、常人の予想を超えてて当然だよね。 ニルヴァス様も半裸のマッスルで歯が光る系なんだし。
山盛りの大皿料理を向かい合って食べながら、時折笑っては歯を光らせているマッスルな男女を想像した。
もちろん男性の方はニルヴァス様だ。そして女性の方は。
ニルヴァス様より身体が大きくて、料理も山盛り……。
いかん! 想像の限界だ! イリス様の顔がまったく想像できん!
私はイリス様を想像するのを投げ出して、食後に作ったレアチーズケーキをニルヴァス様の前に置いた。
ああ~すぐにさっきの映像が戻ってきてしまう。イリス様の口から上が真っ白な映像が。
「これは明日の夜にならないと食べれませんからね! クリームシチューは、絶対にすぐに持って行ってくださいよ?!」
その映像を振り切るように、若干強めにニルヴァス様に念押しをした。
ニルヴァス様は私の剣幕にちょっと引き気味ではあるがコクコク頷いて、逃げるかのように鍋を持って消えた。
1人残った私は。……結局何をしてもその映像が頭から離れなかった。
「ううううう~~~~!」
もう! 想像した私のバカ~~~~!!
ものすごい量のクリームシチューが出来ました。
「鍋いっぱい」ってどのサイズの鍋なのか、指定しないと危険ですよね。
カズユキの存在を知らないヨリは、情報不足によりとんでもない想像をしました。
次話はクリームシチューをもらったカズユキたちのお話です。
それが終わったら、いよいよ領主編の予定です。




