44.肉屋 IN ポルカ村 【レーズンパンとシュガーパンと野菜の生ハムもどき巻きと、鳥モモ肉と野菜の塩コショウ焼き】
晩ご飯です。
「肉屋入りま~す!」
はい、調理パート有りです。面倒な方はどうぞスルーしてください。
調理小屋に入ると、料理番のおじさんたちは、すでに頼んでおいた事を済ませてくれていた。
「皆ありがとう。じゃあやろうか」
ローブを脱いで収納鞄に突っ込む。料理の時はビラビラが邪魔なのでそうしているのだ。
そうして手を洗ってと。
「肉を並べるよ」
揉んでおいた豚肉を皆で並べていく。冷たい石板にどんどん並べていきながら、半分ぐらい並べたあたりで2人に塩コショウをかけていってもらう。
その上に切っておいた玉ねぎとキャベツをどさどさ載せて弱火で加熱だ。
そして肉のボウルを出して空いた石板コンロの真ん中の段に、切っておいてもらった平パンを、切り口を下に並べていく。そしてそこにも弱火で加熱。
もう加熱はスイッチで出来るので、おじさんたちにやってもらっている。
私は玉ねぎとキャベツの上にも塩コショウを振り、コンソメの粉末をパラパラと掛ける。
終わったら中火にして、今日買ってきた木製フライ返しをシャキーンと用意した。
「ハイ、ハイ、ハイ、ハイ」と有るだけ配って行く。
広い石板コンロに山盛りの野菜たちを、私1人でひっくり返すなんぞ馬鹿げているのだ。8人の両手にフライ返しが握られた。
だがジュウジュウと肉が焼けるまでは待つしかない。その間にバターをボウルにどかっと入れる。
そしてそれが終わったら明日の準備も進めていく。
ぬるま湯を入れたボウルにドライーストをどんどん振り入れて、そこにレーズンもどきをバラバラ入れて、砂糖をフランスパン風のより少し多めに入れて。もちろん料理番のおじさんたち全員が手伝う。
入れ終わったら粉の用意も手伝ってもらって、イーストちゃんがブクブクし出したらフランスパン風のパンを作ったのと同じように叩きこねるが、レーズンを入れる時は、塩が足りないと美味しくないので、塩も少し多めに入れた。
途中で肉がジュウジュウ言い出したので8人にはそっちの面倒を見てもらった。ひっくり返したらまた放置で、玉ねぎにじっくりと火を通して行くのだ。…フタが欲しいな。
そしてまた一緒にパン生地を叩きこねてもらって丸めてボウルに戻し、石板コンロの一番下の段に保湿をかけて放り込む。
全員でやると回数が少なくて済むから、本当に助かるな。
そして玉ねぎ具合を見てから強火にして、後はジャジャッと炒めて完成だ。
石板コンロの真ん中の段で焼いていた平パンも、焦げ目が付いていい具合に焼けている。
おじさんたちを2手に分けて、野菜炒めを載せる係と、パンにバターを塗っていく係に分けた。
どんどん載せて、どんどん渡す。
載せていたらソルが来て、「明日、早朝の班と一緒に、肉ダンジョンに行こうと思うんだが」と言われたので、「うん分かった」と返事をした。
今日は早朝の班に朝ご飯を食べさせてあげられなかったから、明日こそは食べさせてあげたいと思っている。
配膳が終わって外に出ると、ボイフたち肉屋組が見えた。手には皿を持って、今日一緒に行ったメンバーと一緒に、1人ずつが別の集団の中に居る。
少し緊張しているが、彼らの事だし今日のメンバーも付いている。心配はしなくて大丈夫だろう。
そして調理小屋に戻り、恒例の供物を捧げる。
「今夜またそっちに行きますね」
と今日は一言添えた。そしてそのまま足を肩幅に開いて腕を前で組んで長丁場の構え。
ん? 今日の私は一味違うわけだよ。ほら…見たいじゃん? どんなんか見たいじゃん? だから私は「休め」の姿勢で待つのだ。まあ腕は前で組んでいるから、「休め」ではないかもしれんが。
「ニルヴァス様、冷めますよ?」
冷めてしまうよニルヴァス様。どうやって料理が消えるのか、早く見せておくれ。
「ククク」と待ち構えていると、「ヨリ!」と呼ばれた。
反射的にそっちを見てしまう私。「っあ!」と思って顔を戻した時には……。
「や…やられたっ」
また次回に持ち越しか。まあいい、またの機会を待とうではないか。
私はすぐに切り替えて、自分を呼ぶ声に「は~い」と部屋を出て行った。
おほう。呼んだのは我が友ロジ少年ではないか。これはささっと行かないと!
いそいそと行ったら、「あれヨリの皿は?」と言われて思い出した。
「あっ、そういえばあそこに置いたような?」
お供えをする時に、後ろの台に置いた記憶がうっすらと。
ニルヴァス様を目撃するのに夢中で、すっかり忘れていたようだ。
「あはは。取って来る」
その後、ロジ少年たちと美味しくご飯を食べた。
一日の成果が満足いく出来だと、ご飯てすっごく美味しいね!
ロジ少年は今日もまた斜め上を見上げて、目を閉じて食べていた。「うめえ」「うめえ」と言いながら。
「うめえ」は作ってる人への最高のご褒美だ。特にロジ少年のは、私への至高のご褒美となる。
私はロジ少年を撫でくり回したい衝動をぐっと我慢して、野菜炒めをもぎゅもぎゅと噛み締めた。
+ + +
俺たちはヨリに教えられた通りに歩いて、ポルカの村までやってきた。
初めて来たのだから緊張する。どこから入ればいいのかも、勝手に入っていいのかも判らずに立ち止まる。
少し待つとロンが走ってくるのが見えた。
「待ってたぞ」
笑顔でそう言ったロンは、さっさと俺たちを泊まる小屋まで連れてってくれた。「もうすぐ飯だ」と、荷物を降ろしてすぐにまた連れ出された。飯は広場で食うんだそうだ。
広場は人でいっぱいで、皿にパンと何かを盛られた皿を持ってる奴と、そうでない奴がいた。
ロンが「おい、俺たちも皿をもらいに行くぞ」と急かす。
一番びびりのビエルはキョロキョロびくびく。バルとサイダは興味深そうに周りを見てるし、ガザに至ってはすぐ近くの知らない奴の皿を凝視してやがる。恥ずかしい奴…。
「おい、行くぞ」
その視線を剥がしたくてガザをひじで突つく。「おう」と半分上の空で返事をしたガザが、動く気配を見せないので「お前の分、無くなっちまうぞ」と脅してみた。効果は抜群で、すぐにロンの後を追いかけ始める。俺たちはそんなガザに呆れ笑いで続いた。
皿の上に載っていたのは平パンと、肉とキャベツと玉ねぎがごちゃ混ぜになった何かだった。
だが匂いはいい。パンの方には何かドロッとしたものが塗られていて、溶けてパンに浸みこんでいる。
パンをスープに浸けて食べることはあるが、どう見てもスープでは無い。だが何だろう、こっちもいい匂いだ。
思わず顔を近づけてクンクンとそれぞれの匂いを嗅いでいた。そして「しまった。恥ずかしいマネを…」と焦って周りを見たら、俺と同じことをしてる奴がいっぱい居て助かった。ガザの奴も当然やってたしな。
「紹介するぜ。ボイフってんだ」
ジルが俺を男たちに紹介した。
俺は「どうも」と頭を下げる。
居心地は良いわけは無かったが、悪すぎるわけでも無かった。
睨まれてはいない。ただじろじろと見られまくるってだけだ。
「おう、今日はソルたちが世話になったそうだな。礼を言うぜ」
1人の男が言うと、座っている男たちが場所を開けてくれた。どうやらこの集団の頭はその男らしい。
ジルがそこに「悪いな」と言って座る。その隣が空いているところを見ると、そこに座れって事なんだろう。
だが一応声をかけるべきだろうと俺は思った。
「ここ、いいか」
空いた所の、ジルとは反対の隣になる男に訊く。男は俺に頷いて「おう、座んな」と言ってくれた。
「ボイフだ。よろしくな」
座ってからそこに丸くなって座っている男たちに言った。まあ挨拶は基本だろう。
座ってる男たち全員が頷いたから、まあ受け入れられたと考えていいと思うが。
俺の弟たちもガザのとこも、1人ずつユジやミノに連れられて行った。俺と同じように紹介されたんだろうが、うまくできてるだろうか。
いや、バルとサイダは心配しちゃいないが、ビエルがな。いやガザの方が初対面だとちょっと心配か。
座って周りを見ながらそんな事を考える。
特に問題も無く全員が座り終えると、ソルが立って「食っていいぞ」と声を掛けた。
待ってましたとばかりに、全員が皿のものを食い始める。
俺もフォークでソレを刺して口に入れた。
「んん?!」
シャキシャキしたそれらの歯ごたえと、噛み応えがありつつも硬すぎない豚肉。それに何でしてあるのか判らない味付け。いや、塩コショウは分かるんだが、それだけでこの味は出ないだろう。
キャベツと玉ねぎは生のまま食べるか、塩漬け肉や腸詰と一緒にスープにするか、肉を焼くのと一緒に焼いて食べるだけだった。こんなふうに肉と野菜が混ぜ合わされたようなのは、初めて食べる。
ひとつひとつ食べて、一緒に食べて。一緒に食べた方がうまいと感じた。
「これうまいぞ。パンがいつもと違う味だ」
誰かの声にパンの存在を思い出して、そっちも食べてみる。
「な…んだこりゃあ」
思わず言っちまったら、同じ輪に座ってた全員が俺を見た。…びびったに決まってる。なんでもないように見えるかもしれんが、内心はびびりまくりだ。
ジルが「どーした?」と訊いてきたのに助けられた思いで、
「パンが美味すぎてびっくりしちまったんだよ」
と弁解する。そしたら俺を見てた全員が顔を緩めて頷きだした。
「ヨリが来てからずっとそうだぜ」
「ああ、びっくりばっかだな」
「うまいよな、飯」
「弁当もうまかったぜ」
とジルが混ざる。そうしたら1人が「おうあれな」とうんうん頷いて。
「俺らは朝早かったから、帰ってきて食ったぜ」
「あれもうまかったな」
「肉屋。あ~、ボイフだっけか。お前も食えたのか?」
いきなりわいわい会話が始まって、俺も質問されてそのまま巻き込まれた。
ジル、お前は俺の恩人だぜ。
飯が終わって「ヨリんとこ行くぞ」とジルに連れられて行く。手にはさっき一緒だった彼らの皿と自分の皿を持っている。ジルも持っていた。「どうせヨリんとこ行くから、持ってくぞ」とジルが言い出してこうなったのだ。
すっかり笑顔で話しかけてくれるようになった男たちが、「おうありがとな」と口々に言って散って行く。明日の朝も早いから、もう寝るんだそうだ。
「ボイフ、明日あいつらと一緒に肉ダンジョンだぞ」
見送っていた俺は、「は?」っとジルの方を見る。
「10人居たぞ?」
10人と俺たち16人で26人だぞ。上層ならまだいいだろうが…。
「明日は上層の日なんだよ。だから教えるのにはいいだろうって言ってたぜ」
「ああ、なるほどな」
26人で26匹なら心配はいらないな。
「今から話し合いするから、広場にそのまま残れってさ」
「ああ分った」
皿を持って行った俺は、調理小屋で激しく驚いた。皿が消えてく樽、石で出来たでかい机、壁に並ぶいくつものコンロ。
そしてそこで何か茶色い物を平たく伸ばすヨリと男たち。
そして……そこに渦巻くたくさんの魔力。
「お、おいこれどうなってんだ?」
「ん? 知らん。ヨリとおっちゃんたちに訊いてくれ」
俺の質問には丸投げ発言が返ってきた。
「うお?!」
その声に入口を見ると、ガザが口と目を開けて固まっていた。その後ろからビエルとバルとサイダが覗き込んで、「すげ!」「わあ~」「ガザ早く入れ」とガザを押しながら入って来た。
普通、驚くよな? 俺たちがおかしいのか?
そこに入ってきたユジを捕まえて、
「おい、驚く俺たちがおかしいのか?」
とコソッと訊く。そしたらユジが肩を一回竦めてから。
「昨日の夜に1人、朝には8人になってたんだと。後2人はまだだって見りゃ判るが、ありゃすぐに覚えるだろう」
ボソボソ話す俺たちに、ヨリが「お~い、そこに居たら邪魔。手伝う気が無いならさっさと出てよ」と言う。
「悪い、出てくわ」
手伝う気が無い俺たちはそそくさと外に出たが、あのでかいのが居ないのに気が付く。
「おい、ガザが居ねえ」
ビエルたちも気が付いて「あっ」と言って調理小屋を覗き込むと。
ガザがヨリに棒を手渡され、「はいこれで丸く伸ばしてね」と言われているところだった。
「おう」と返事をして、ヨリの向かいに割り込むガザ。ジルが「おっちゃん」と言ってた男たちは、嫌な顔1つ見せずにささっと場所を開けてくれる。
「えーと…兄さんは任せておいていいんじゃないかな?」
「そうだな。やる気満々だし」
「俺たちは広場に戻るか」
「…そうだな」
最後に俺がそう言って、調理小屋を後にした。と言っても広場は調理小屋を出て目の前なんだけどな。
+ + +
まさか手伝うと言い出すとは思わなかったが、ガザは私の前に陣取り、せっせとパン生地を伸ばして、皆と同じようにクルクルと巻いている。
いつか「やる」と言い出すだろうとは思っていたが、それは肉屋の家で教える時だろうなという予想をしていたからだ。
初めての場所と集団の中だというのに、ガザは臆する気配も無い。私にもその強さを分けて欲しいものである。
巻き終わったパンは石板コンロの真ん中の段にどんどん並べていく。ここで二次発酵をさせるのだ。
すべて巻き終わったら空いたボウルにまた粉と塩を入れて行く。今度は発酵させないパンを作るのだ。
「明日のお昼と夜の準備もしよう」
まあそういうわけだ。明日は早朝のに付いて行くが、その後はどうなるか判らない。皆に余裕があれば昼からの班にも付いていけばいいと思う。だから出来る準備はしておきたい。
小麦粉と塩を入れたボウルにぬるま湯を入れて押しこねて、薄パンを作るのだ。
たくさんのボウルの半分をまずこねてから、薄パンを広げる係と残りのボウルの生地を押しこねる係とに分ける。
ひたすら押しこね広げて、押しこねが終わった班が石板コンロで薄パンを焼いて行く。
焼き上がったのが冷めないうちに、1枚にバターをしっかり塗って砂糖を振り、何も塗っていない1枚を載せて上からぎゅぎゅっと抑え込む。
そして広げ終わった班に、私がやったようにやってもらう。
今回シナモンは止めた。シナモンは好みが本当に分かれる食材の1つだ。私の周りには苦手だと言う人が、かなり居たのである。
なので砂糖パン…身体に良さそうでは無いが美味しいんだぞ! シュガーパンと砂糖パンは同じ物なのに、なんでこんなに違うように聞こえるんだろうか。うむ不思議だ。今度からシュガーパンと言おう。
栄養は他のメニューで補えばいいのだ。
鳥モモ肉を削ぎ切りにしていって、石板コンロの上に並べて塩コショウをしっかりめに振っていく。焼いていくうちに脂に流されるので、多少振り過ぎかなと思うくらい振る。そしてひっくり返して反対も。
石板コンロを弱火から中火の間で加熱開始だ。
放置してる間に、二次発酵が終わったレーズンパンを焼く。二次発酵に使った中段を、そのまま200度まで上げて焼いてしまうので、そっちもスイッチを入れたら放置だ。
その間にレタスとキュウリと人参を、野菜洗浄の樽から取り出し、レタスは丸のまま、ざっくざっくと包丁で大きめに、キュウリと人参は細い薄切りにしていく。
私が身体強化を速さに振って切っている間に、他の人には塩漬け肉を頑張って薄く切ってもらう。
普通に切れば切りにくいことは解っているので、厚みを半分にしてから「冷凍」で凍らせて切ってもらった。
切れたのは「常温」の付与をしたボウルにどんどん入れてもらう。凍ったままでは折れてしまうからね。
野菜を切り終わったら、解凍された塩漬け肉の薄切りで、切った野菜を巻いていく。野菜は多めでなるべく小さくなるように、きゅっと締めるのだ。そうすればひと口でかなりの量の野菜が食べられる。
「何をしてるんだ?」とガザが目を丸くして訊いてきたので、巻いたのを包丁でひと口サイズに切って、ガザとホスさんたち料理番のおじさんたちの口に放り込んでいってやった。
おじさんたちは目を見開いて強く頷いてくれた。ガザは目を閉じてゆっくり噛んでいる。そして食べ終わってから。
「うまかった」
と神妙な顔で一言。せっせとまた肉を切り出した。「自分の肉を切り終わった人から巻くの手伝ってね」と言ったら、身体強化を使って切り始めた。なんでも自分でやってみたいタイプなんだろうね。まあそうなんじゃないかとは思っていたが。
途中でレーズンパンが焼けたので、1台の石板コンロにつき2人1組で取り出しと袋詰めをお願いした。これは朝ごはん用なので、どんどん入れてもらう。
それが終わったらシュガーパンの袋詰めをお願いした。今度は昼の分なので、ダンジョン組のは班ごとに詰めてもらうのだ。
鳥モモ肉がジュウジュウ言い出したので、もう少し待ってからひっくり返し、また放置。
皆が野菜巻きに回ってくれたので、私は2人と一緒にアスパラガスとエリンギの下拵えを始めた。
野菜洗浄の樽から山盛り出して、エリンギは放射状に6等分して、アスパラは長さそのままで根元の硬い皮だけ剥いていくのだ。
野菜を巻き終わったのはボウルに崩れないように入れて、「冷却」と「時間停止」を付与した石板コンロの一番下の段に入れる。
この生ハムもどきの野菜巻きは、朝ごはん用なのでレーズンパンと一緒に食べるのだ。朝はやっぱり手早く食べられるモノがいいだろう。
そして昼にはシュガーパン。
それには塩味系のモノを付けたい。だから鳥を焼いている。
鳥モモ肉の中まで火が通ったら、強火にして両方の表面に焦げ目を付ける。無くてもいいが、あれば香ばしくなるので付けるのだ。
焼けた鳥モモ肉は壺に入れていってもらう。食べる時は壺に手を突っ込んで食べてもらうつもりだ。
肉を焼いた脂が残っている石板コンロに、下拵えの済んだアスパラガスとエリンギを広げる。
中火で焼いて1つずつ味見をして、少しだけ塩コショウを振った。肉とは別の壺にポイポイ。
明日のお昼の完成だ。明日のお昼は、鍋ではなくて壺を囲んで食べることになる。…え、すっごい絵面だね?
しょうがないよ。タッパーが無いんだもの!
「はい、後は晩ご飯の仕度だね」
皆にはチーズのスライスをお願いした。
私は片方の石板コンロを強火で加熱して、そこに大鍋をいくつか載せて水魔法で水を満たして大鍋にも「加熱」を付与する。お湯を早く沸かしたいのでダブルで付与した。
お湯が沸く間にほうれん草の根っこを処理して、加熱していない方の石板コンロには「冷却」をかけて大鍋を載せ、また水を満たして大鍋にも「冷却」を付与。
こちらは茹でたほうれん草を冷ます用だ。
お湯が沸くまでの間に椎茸の石突を輪切りにして、笠は厚めの細切りにしていく。
そしてお湯が沸いたので塩を各鍋に投入して、ほうれん草をドカドカと入れて。
菜箸で突っ込んで、硬めに茹だったところで、3人に手伝ってもらってボウルにほうれん草を出して、冷却された水の中に入れていってもらった。
それが済んだら茹でるのに使った鍋を片付けて、加熱したままの石板コンロを弱火にして、温度が下がったところにバターを溶かし、椎茸を載せる。
椎茸にじっくり火を通してる間にほうれん草を絞り、2センチくらいの長さに切ってまたボウルへ。
絞ったことでほぐれ難いので、1人にほぐしてもらいながらだ。
椎茸に火が通ったらほうれん草を入れ、塩コショウをして中火で炒める。
チーズを切り終わった皆には、今度は腸詰を1センチくらいの輪切りにする作業を頼んだ。
炒め終わった椎茸とほうれん草はボウルへ入れて石板コンロの一番下へポイ。
チーズは「時間停止」をかけた壺に入れ、腸詰も同じ付与をかけた別の壺に。
さてこれで明日の準備は終わった。
朝はレーズンパンと野菜の生ハムもどき巻き。
昼はシュガーパンと鳥肉と野菜の塩コショウ焼き。
夜はジャガイモと腸詰と野菜のチーズ焼きだ。
なのでホスさんたち料理番の皆には、いつでもいいので出来る時にジャガイモをひと口ぐらいの大きさに切ってから茹でておいて欲しいとお願いしておいた。
冷めてもいいので、茹でたらボウルでも鍋でも壺でも、何でもいいので入れて石板コンロの下に突っ込んでおいてくれるようにとも頼んでおく。
洗い終わっていた皿やフォークを収納袋に皆で移動させて、使い終わった鍋などをドカドカ入れていると、ガザがその樽を覗き込んだ。そして首を捻って後ろに下がる。
「樽に、洗浄後乾燥と異空間収納がかかってるんだよ」
教えてやると、「うちの店にも欲しい」と言い出した。
「自分で覚えれば? 私の付与があるうちに、覚えたいものさっさと覚えなよ」
私がやってあげるのは簡単だが、そうしてしまうと「自分で覚えたい」という意欲を摘むことになるだろう。せっかく覚え時なのだから、自分で覚えた方がいいに決まっている。
「ムッ」とへそを曲げかけたガザにそう言ってやると、見直したような顔で私を見て、「わかった」と頷いた。
明日は早朝の班と一緒にダンジョンに行くので、「早朝組の朝ごはんは私1人でいいから、後の事は任せるね」と料理番の皆に頼んでから、ガザと一緒に小屋を出た。
「ヨリ、付与を覚えるコツはあるのか?」
皆が集まって座ってるところに向かいながら、ガザが訊いてきた。
「ん~、これ冷やしたい、熱くしたい、もっと袋に入るようにしたい、剣を丈夫にしたい、切れ味を上げたいとか、元々ある物にするのが付与だからね。心底、こうなればいいのになって思えば、できるんじゃないかなあ」
私はそう思って使っている。ユジとロンさんはどうなんだろう。
「ユジとロンさんにも訊いてみるといいよ」
それにガザが頷いた。
皆はすでに話し合いを始めているようだ。私とガザは空いているところに「お待たせ~」と入り込んだ。
「ちょ、ここじゃなくて、そっち座れよ」
「え、ここがいい」
空いている所じゃなかったのかって? いやだなあ。私と彼らくらいの細さなら、充分ここも空いているのだよ。現にほら、誰をどかす必要も無く座れたじゃないか。
私は身体を捻じ込まずに、ロジ少年の横に密着して座ったのだった。ふはは。
肉屋組は問題なく受け入れられたようです。
ガザの入り込みスキル、半端ないですね。
料理番のおじさんたちの働きが目覚ましいです。ヨリは大助かり。
ガザもいきなり即戦力でおじさんたちには見直されたことでしょう。
次話は話し合いとニルヴァス様にご飯を作ります。(たぶん)




