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さあ美味しいモノを食べようか  作者: 青ぶどう
43/91

42.それぞれ。2 分配とノルマ。

前話で入りきらなかった分と、後半は分配です。





 右からにじり寄るヨリに、ビエルはまだ気付いていなかった。ぼーっとしているわけでは無いが、皆との会話には入らずに、少し元気が無い。



 +    +    +



「ビエル」


 ヨリに呼ばれて振り向いた。

 ヨリは兄さんを釣り上げる名人だ。兄さんともあろう者が、ヨリには簡単に釣られてしまうのだ。

 まあその釣られる兄さんを見てるのは面白い。けど巻き込まないで欲しいなと思う事もあるんだよね。

 今の状況もそのせいでなったと思えば責める気は起きないんだけど、さすがに泊まり込みはやりすぎだと思う。

 そっちの事はともかくとして、僕はヨリにお礼を言わなくちゃならないのだ。あの声が無かったら、僕は今でも身体強化を上手く使えていないと思ってるから。


「ヨリのおかげで、何とかなってる。ありがとう」


 ヨリが笑みを浮かべて「ビエルが頑張ってるからだよ」と返してきた。

 うんやっぱり。

 ヨリって僕の知ってる女の人と違うなあと思う。

 僕の所に集まってくる女の人や女の子たちは、こういう時は「嬉しい! じゃあどっか連れてって」とか「ビエルのためだもの」とか言ってくる。それはそれで別にいいんだけど、ちょっと疲れる時もある。


 ヨリは「どこか連れてって」じゃなくて「一緒に行かないか」って誘ってくる。…行く所はボス部屋で、全部1人でやっちゃう現実味の無い強さにはびっくりだったけど。

 誰かに着いて行くんじゃなくて、「着いて来るか?」って訊いてくるんだよね。完全に主導権はあっちだ。

 そんで答えも出ないうちにいつも決められてって言うか、兄さんがヨリの言う事に釣られて返事をして決まってしまう。


 結果は今までに無いくらいの大量の収穫だったし、「ハンバーグ」ってのも美味し過ぎたし、今回は身体強化を覚えてしまうとか本当に驚きな事になってるわけだけど。


 ヨリを見ると「ん?」って見返してくる。彼女は無表情なんだけど、実はその無表情にもいろいろあるんだと少し判ってきた。

 彼女の無表情は、基本、顔に力が入っていないのだ。今もそうだ。だから別に怒ってるわけでも楽しくないわけでも無い。ヨリの無表情は話かけ辛くないのだ。むしろ何を言っても受け止めてくれそうに感じる。

 だからついつい弱気な事を言えてしまったり。ああ、ほらまた、普通ならこんな事女の人に言えやしないのに…。


「僕だけ逃げる時に身体強化を覚えたなんて、恥ずかしいな」


 僕が「あはは」と自虐的に笑うと、ヨリが真面目な顔で首を横に振った。


「あの場合は、一度後ろに下がるのが普通だよ。たまたま身体強化が出たから後ろに跳びすぎたように見えたけど、使えなかったらそのまま戦ってたんじゃないかな?」


 そう言われて使えなかった時のことを想像してみる。……うん。確かに少し後ろには下がっただろうけど、僕は戦っていただろう。


「うん、本当だ…」

 僕が、驚きながら想像した結果を伝えると、ヨリがうんうんと頷いた。

 なんだか皆より臆病な自分に嫌気がさしていたんだけど、今ので違ったようだと気付けた。


「ヨリってお母さんみたいだね」


 僕はポロッと言ってしまってから、ハッ! と気付く。

 ヨリは20歳はたぶん超えている。そしてダンジョンなんかに潜っているってことは……ああああああ~~~、僕のバカ~~~~~~!!!!


 僕があわあわして横を見たら、ヨリが「ビエルたちのお母さんは、素敵な人なんだね」と、うんうん頷きながら言っていた。

 ヨリの反応に「あれ?」と思ったら、後ろから「ぐふっ」と声が聞こえた。

 振り向くと、肩を震わせて笑いをこらえているバルが居た。そのバルに隠れるようにしてもう1人。サイダだ。

 サイダもバルに隠れながら笑っていた。


 ヨリが相手だと、ついつい僕は気が抜けてしまうらしい。いつもなら女の人に絶対そんな迂闊な事は言わないのになあ。


 僕が頭をガリガリ掻いて自己嫌悪していると、ヨリが「ん?」っと首を傾げてきた。いや言えないって。

「ごめん」とか言って「なんで」って言われたら、もう終わりじゃん。

 僕は「うん、次からはもっと自信を持ってやろうと思ってさ」とごまかすしかなかった。

 ヨリは満足そうに頷いたよ。


 ヨリが別の人のとこへ行った後に。

 バルとサイダがまだ笑いながら、「お前ってあんなに迂闊だっけか」と僕をからかって来た。


「ヨリ相手だと、なんか調子が狂うんだよね」


 そう、街の女の子を相手にするのと何か違うんだよ。


「惚れたか?」


 言ったバルの方を見る。少し考えて首を横に振った。


「そういうんじゃないんだよ」


 そういうんじゃないんだよ。そもそもそっちの対象になる気がしない。

 僕の返事にバルとサイダも少し考えて、「そうだな。そういうんじゃないな」と真顔で言った。


 僕らは「うんうん」と頷き合って、その話は終わったのだった。




 +    +    +




 実はバルとサイダがビエルの後ろに居たのは、ビエルが落ち込んでいるのを心配していたからだ。

 落ち込んでいる理由は長い付き合いもあり気付いたものの、自分たちが何を言ったところで慰めにしか聞こえないだろう事も解る。

 よって声を掛けるタイミングを計りながら、ビエルの傍にこっそりと待機していたのだ。そこにヨリが来て解決してくれたのを、2人は感謝しながら盗み聞きをしていたのだが。


 街ではガザに次いで3番目に人気の高いイケメンのビエル。そんなモテモテな幼馴染が女に迂闊な発言をかますという珍事に、バルとサイダは笑いを殺しきれなかったのである。


 そんなヨリとメンバーの、そしてメンバー同士のささやかな交流を混じえつつ狩りは続く。

 彼らは魔力の扱いに徐々に慣れ始め、身体強化のみを覚えていた者も魔力を使った遠距離攻撃などを試したり、付与を試したりし出した。そして、そういった事で活発に意見交換も行う。

 誰に言われずとも、すでに能力開発の研究所みたいになっていた。そしてそれを聞きながら満足気に頷くヨリ。



 そうして彼らは1時間半ほど進んで、引き返した。今日は中層の5層目の半分まで行った。

 帰りのためにとった時間は2時間半。翌日は上層を突っ切って中層から始めるつもりなので、今日のうちに上層で茶色い小麦粉を多めに獲っておきたかったのだ。

 帰りは行きの時より当然早い。そして上層では16人でパーティーを組んで、1部屋35匹から38匹のコウモリを5秒もかからず仕留めて行った。


 身体強化を使う時の魔力の振り分けが、たった半日ほどで格段に速くなっているということだ。

 今日の始めでは3対2や1対1でやっていたのだ。それが今では1対2~3で時間がほとんどかからない。

 たぶん今の倍増えたところで、1対2でかかる時間とそれほど変わらないに違いない。モンスターが増えれば密集率が上がって次のターゲットまでが近くなる分、移動時間が減るのだから。


 1層につき10部屋ある。そして上・中・下層がそれぞれ10層ある。つまり上層だけで100部屋ある計算だ。

 ドロップ品を集めるのも当然身体強化でこなし、1部屋を7秒ほどで済ませて次へ向かう。もちろんヨリの指導の元にそうしている。そうすることで1層ずつを70秒ほどで済ませていた。

 そんな狩り速度で上層を駆け抜けた一行は、予定した時間よりかなり早く出口まで帰ってきてしまったのだった。




 +    +    +




「今日どれだけ獲れたかを言うよ」


 ここは粉ダンジョンを出てちょっと村の方に進んだ辺りだ。ダンジョンを出てからここで仕分けをし終わり、本日の戦果を読み上げる。


「15人中15人に能力が発現! はい拍手!」


 私が拍手をしたら、皆が首を傾げつつパチパチと手を打ち合わせた。ぬ、こっちでは拍手は無い?

 まあいいか。気を取り直して収穫物を告げる。


「茶色い小麦粉1089袋。1人68袋。残り1袋」


「ベーキングパウダー127瓶。1人7瓶。残り15瓶」


「薄力粉786袋。1人49袋。残り2袋」


「ハチミツ392壺。1人24壺。残り12壺」


「みょうばん40瓶。1人2瓶。残り8瓶。残りについては、村でのご飯に使って欲しいとボイフたちが言ってくれたので、ご飯に使うね」


 小麦粉2種とハチミツの所でもっと声が上がるかと思っていたのだが、予想したほどの反応は無かった。

 肉屋組もポルカ組も、全体の数や1人ずつの数にはピンと来ていないらしい。

 ふむ。肉屋組のみとポルカ組のみで教えてやらないと、実感が無いのかもしれん。


 私が地面に書いた結果を言い終えて顔を上げると、ポルカ組と肉屋組が肩を叩き合っていた。

 それを微笑ましく眺めながら、自分の分から小麦粉2種を5袋ずつと他はしっかり1人分ずつもらう。そして別に用意した村のご飯用の収納袋に、分けた残りと私の分の残りの小麦粉2種を入れた。

 視線を感じて顔を上げると、ソルと目が合った。笑って頷いておいた。


「はい皆、しまってよ~」


 男同士の親睦は、これから村に帰ってからでも深められる。まずは収納して早く帰ってご飯を作りたい。動き出した男たちは放っておいて、ポルカ組の取り分をまとめて計算してみる。

 もちろん暗算なんて高度なスキルは持っていないので、石でガリガリ地面に書くのだ。


 えーと、あ、10掛ければいいだけだから、暗算でいけるわ。恥ずかし~~~!

 茶色い小麦粉680袋。薄力粉490袋。ハチミツ240壺。ベーキングパウダー70瓶。みょうばん20瓶。

 お、かなりいけたんじゃないかな?


 地面に影が差したので後ろを見上げた。

 袋に詰め終わった皆が覗き込んでいた。


「終わったなら行こうか」


 私が立ち上がると、ソルが訊いてきた。


「それは何の数だ?」


「ん? ボイフたちと私のを抜いた、ソルたち10人の取り分を合わせた数だよ」


 と教えてやる。聞いた皆がまたその数字を見下ろす。


「こんなに多いのか…」


 ソルが呟いた。

 ユジとターヴとロンさんが、目を丸くして数字を見下ろしている。それ以外のポルカ組は、じっとその数字を見ていた。


「いつもと比べてどうかな?」


 訊いてみる。ノルマの数が聞けたりすると嬉しいのだが。

 ソルが答える。


「いつもは1日目で2班で合わせて小麦粉を360袋獲ったら中層に行って、薄力粉を270袋とハチミツが135壺になるように集めてる。2日目には小麦粉を200袋獲ったら中層に行って、薄力粉を310袋とハチミツを155壺になるまで集めるんだ」


 ほうほう。私はその数を地面に書いて行く。


「2日ずつ同じダンジョンに潜るって言ってたよね。ってことは、2日で集めなきゃいけない数が決まってるってこと?」


 さあノルマを聞かせるのだ。

 ちなみにノルマの話は肉屋たちも興味があるようだ。いつの間にか寄ってきていた。

 今度はユジが答える。


「小麦粉と薄力粉は毎日30袋ずつパン屋に持ってってる。2日に1度、役人が取りに来るのが小麦粉が450袋、薄力粉が450袋、ハチミツが250壺だからな。そんだけを2日で集めなきゃなんないんだ」


 その量に肉屋組が目を剥いていた。5対3で中層で狩りをしていた彼らでは、何日かかるかという数だ。

 ふむふむ。ソルたちは2日で小麦粉を560袋集めて、薄力粉を570袋とハチミツを280壺集めるようにしていると。でもパン屋の分も入れてのノルマは、小麦粉510袋と薄力粉510袋とハチミツ250壺なわけだ。

 しかし小麦粉が50袋、薄力粉が60袋、ハチミツが30壺、毎回残る計算なんだが。


「ねえ、多めに獲れたのは、どうしてるのかな」


 そう、毎回少しだけ残るのはどうしているのだろうか。

 皆の食事内容を見ていると、自分たちでは使っていないのだけは分かる。


「それは溜めておいて、昨日みたいな狩りのしにくい日に足すんだよ。だから毎日、出来るだけ多めに獲る」


 なるほどだ。いつもギリギリでは、もしもの時に困る。私は納得の頷きを返した。

 しかしまあキリの良いような、悪いようなノルマ数ではないだろうか。


「ねえ、何で役人の方の数が、450袋と250壺なのかな? 400袋と200壺か、500袋と300壺とかの方がキリが良さそうなんだけど」


 ねえ、そう思うだろう? 私の素朴な疑問に答えてくれたのはソルだった。


「数が決まった時は、どう頑張ってもそれしか獲れなかったんだそうだ。今じゃやり方も判って数も獲れるがな。だから多めに獲れた分は10日に1度の狩り辛い日に回して、数が足りてれば昨日みたいに休む」


 昨日、休んで良かったのかちょっと心配してしまっていたのだが、ちゃんと数が足りていたから休めたんだと知って安心した。


「じゃあ、今日獲れたので2日分の数はだいたい集まったわけだね」


 そう私が言ったら、「えっ! ほんとか!」とポルカ組が騒ぎ出す。ソルとユジとターヴとロンさんが頷いたとこを見ると、他のメンバーは数を見てもピンと来てなかったようだ。


「集める数は510袋でしょ。小麦粉は680袋あるから170袋も多く獲れてるし、薄力粉は490袋だけど、私が要らない44袋を足せば534袋になるから、24袋多くなる。ハチミツは240壺だけど、残りが12壺あるから、足せば252壺で2壺多いね」


 私が地面に書きながら教えると、ポルカ組は「おおおおお~~~~!」と雄たけびを上げて喜んだ。

 でも多分、「集める数より多く集まってるよ」って言葉に喜んでるのであって、数をちゃんと認識して喜んでるのは、さっきの4人だけなんだろう。

 その4人が私に向かって歩いて来る。しかも眉間にシワを寄せて眉尻が下がった顔でだ。


 これは「すまない」とか「ありがとう」とかの照れシチュエーションの到来を予感させる状況ではないかね?

 そういう事を言われると返す言葉に困ってしまう私は、必死になって考える。

「何も言うな。わかっているさ」と言うのは、あまりにも偉そうで無理だ。彼らの気持ち的にも立場的にも、ここは甘んじて受けねばならない場面であろう。


 私はグッと「何言われるのかわかりません」て顔と空気を、懸命に醸し出す努力をする。醸し出せているだろうか? ドキドキ。

 だって「ありがとうって言われるのが分かってるぜ!」って顔なんて、普通しないよね?!

 なので4人がいよいよ近くまで来て、言うぞって感じになった時に私は決めた。この流れを変える方法を。

 4人が口を開いた。


「ヨリ、ありがとな」

「すまないな」

「ありがとな」

「礼を言うことばかりだな」


 ぬおおおおおおおお~~~!!!


「うん。でもこれで明日から他の班を教えれるよね」


 そう、この空気を変えるのに必要なものは、新たな展開しかない。

 本当なら明日は下層に行こうと思っていたのだが、数があるなら明日潜る理由は彼らには無いのだ。まあ肉屋というかガザは片栗粉で釣ってはいるが。


 私の言葉に4人の眉尻が上がった。驚くと眉尻って上がるよね。

 照れシチュエーションは無事回避したと見ていいだろう。よしよし成功だ。







イメージは忍者集団です。壁を走り素早く動く。憧れです。

分配の話からノルマをやっと訊き出せたヨリでした。


数字がいっぱいで、文章よりもモンスターとドロップ品の計算にすごく時間がかかりました。

あんまり適当でも後で困ると思い、脳みそに溝が生まれるくらい考え…。

少し数がおかしいというご指摘がありましたら、受け付けますが具体的にお願いします。そのままその数で訂正するかもしれませんので! いやしたい!(笑)



ノルマをメモしておきます。


<ノルマ>

1日1回パン屋に…小麦粉30袋、薄力粉30袋。

2日に1回役人に…小麦粉450袋、薄力粉450袋、ハチミツ250壺。



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