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さあ美味しいモノを食べようか  作者: 青ぶどう
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4.粉ふき芋とニルヴァス様 【粉ふき芋】

 異世界最初の食材をゲットします。

 ********************************************

 4.粉ふき芋とニルヴァス様



 ニルヴァス様に奉納されているのと同じらしい白いドロドロスープ、それを不味いと思うのに店に出す人。もしそれでこの世界の大部分の人が納得してしまっているなら、ニルヴァス様の言う『食文化の向上を待てない』にかなりの同意を示したい。うーーーん、台所欲しいわ。すっごく欲しい。持ち運べる&誰にも邪魔されない台所。異空間収納に作るか。


 てかあそこ、結局ニルヴァス様が作ってくれてるのか自分で作ってるのか解らんのよね。

 とりあえずジャガイモをゲットするために、ここは何て答えるべきか…。

 おじさんの衝撃のセリフにフリーズしたが、いざ出せた答えは、


「茹でて食べますから」


だった。何せショック&フリーズで考える時間がね? 無難に答えられただけでも褒めて欲しい。心中では地団駄踏んで叫んでいたんだよ。


 ぬううううううう! そんなことしないよ! ホントは粉ふき芋作るんだよ!

 茹でて食べるだけなんて、世の中のそういう生活してる人には悪いけど、申し訳ないけど出来ない!

 材料が塩とジャガイモしか無くても、私は粉ふき芋にしたいのだ! ってね。

 パセリもあるんだから、私の中では粉ふき芋に決定済みである。よって塩もゲットしたい。切実に。


「塩も少しでいいので売ってもらえますか?」


「〇〇も少しでいいのでもらえますか?」この言葉には、申し訳ないけどもという気持ちが入っているように思えるが、実のところ、非常に欲求が伝わってくる言葉であると私は思っている。

「少しでいい」と言いながらも、「なるべくたくさん」という意図が見えるし、「もらえますか」という言葉には「もらえるよね?」という、もうすでに希望が叶えられることが確定しているかのようなニュアンスを感じるのである。

 いつもならばそんな事は言わない。でも今は言う。あえて言う。だって塩が欲しいんだもん。粉ふき芋を作って口内をリセットするんだもん!


 おじさんはジャガイモを2個と小さな丸っこい黒い壺を一つ、テーブルの上に載せてくれた。何かの革をなめした物でフタされて紐で留めてある。こういう時は鑑定あるのみ。「塩、ダンジョン」


 んんんんん? ダンジョン?

 この世界ってダンジョンあるんだ。異世界っぽいな。ちょっとワクドキしちゃうぜ。


 値段は、ジャガイモが1個銅貨2枚で、塩がひと壺銅貨10枚だった。それらを入れる袋もお願いして、合わせて銅貨20枚。袋より安いジャガイモに心の中で合掌申しあげた。


 てか1個で銅貨2枚てことは、薄さを考えるに確実にジャガイモが4分の1も入ってないあのスープの値段は銅貨1枚もしてないわけで、てことは利益を考えると多分あのパンだって銅貨1枚もしていない。

 高く見ても原価が銅貨1枚の定食。

 銅貨4枚のジャガイモの塩ゆでは、きっと半分くらいの量なんだろうな。だったら私は、銅貨2枚で4分の1個の粉ふき芋を食べたい。味より量ってのには、確実に限度があると思う。


 考察を終えながら村を出た。

 向かうのは街、と言いたいところだが、村が見えなくなるまで歩いたら森だか林だかに分け入った。トイレではない。異空間収納に入るためである。

 丈が私の背より少し高いくらいの茂みを発見。ガサゴソと掻き分けて入っていく。嬉しいことに蜘蛛の巣も毛虫もいなかったので、ジャストマッチングな茂みの隙間を探して、ガサゴソ移動しまくる。


「おお」


 思わず声が出てしまったほどの素敵な隙間を発見する。理想的である。

 ……はっ! 思わず体育座りでぼーっとしてしまった。


 心を残しながら異空間収納に入ると、あれ? こないだと違う。

 目の前にまたすぐドアがある。廊下も引き戸たちも無い。

 開けてみると、8畳くらいの板間の部屋に、台所と四角いテーブルと2つの背もたれの無い丸椅子。台所の横の壁には食器棚が見える。天井は2メートルくらいかな。少し低い。


 台所の前に進むと、入り口からは死角になっていた右の壁にドアを発見。

 大きめの引き戸になっているソレを開けてみたら、最初に異空間収納に入った時の景色になった。見て回るとそのままだったので、ほっとする。

 味噌とか醤油が消えたんじゃなくて、心底安心したのである。

 もう一つのドアを開けて、水洗トイレを発見した。ニルヴァス様、ブラヴォー過ぎる!!

 ニルヴァス様を讃えながらスッキリ。さていよいよ調理なのだが…


 このキッチン、日本版である。しかし今後この世界で生きる私に必要なのは、こちらの世界のキッチンなのである。よって、私は便利を捨てて、不便を学ばなければならないのだ。

 欲しいのはこっちの立派なキッチンなんだよね。

 目を閉じて念じる。こっちの立派なキッチン、こっちの立派なキッチン、こっちの立派なキッチンンンンンーーーー!!

 目を開けたら…あれ元のまんま…。


「ニルヴァス様、こっちの世界の立派なキッチンが欲しいです」


 今度は誰もいない空間に向けて、はっきりきっぱり言ってみる。

 この間は声に出して言ったら、その通りになったから、もしかして…と思っている間に、台所辺りの空間がモヤッと歪んだ。

 何がどうなったのかわからないままに、煉瓦に見える石で組んだキッチンが出来上がった。


「ニルヴァス様、ありがとうございます」


 うむ、感謝はちゃんと言葉にせねばなるまい。私は笑顔で何も無い空間にお辞儀してお礼を言った。

 さて、まずはキッチンの使い方のチェックですよー。






「弱火が難しいな~」


「この煙、どこ行ってんだろ」


 蛇口から水が普通に出てくれたので、ジャガイモの皮をむいて角切りにして水にさらした。

 今はひたすらコンロで火加減を調節中である。なにせ薪での調理が初めてなので難しい。薪の量を調節するぐらいしか思いつかないのである。

 私が水だけを火にかけて、調節に苦労していると。


「ヨリ」


 名を呼ばれたので、さっと振り向く。居た。


「ニルヴァス様」


 そう、半裸のマッチョな神様がすぐ後ろに。


「ニルヴァス様、なんでそんな顔なさってるんですか?」


 眉間にシワが寄り、眉尻が下がってしまっている。これは最初にニルヴァス様って可哀想だなと同情してしまった時の顔に似ている。


「また不味いモノでも食べたんですか?」


 一番ありそうな事を聞いてみる。別に食べたくなければ食べなくても神様は死なないだろうけど、食べなければいけない理由でもあるかもしれないし。


「ヨリ、我はおぬしに、生きていくに困らない力を与える、と言ったであろう?」


 やけに区切って強調するようなしゃべり方である。首を傾げる私に、ニルヴァス様はおっしゃった。


「自分に鑑定は使ったのであろう? どんな力があるのか知っているのではないのか? 火の調節など、念じるだけで出来るのだぞ。水も自由に出せるはずだ。材料さえあれば、土魔術で瓶や透明瓶も作れるのだぞ? 暗ければ照らせば明るくなろう。明るすぎれば暗くもできよう。生活魔術全般、できるようにしてあるのだからな」


「えーっと」


 言いながら、私は自分に鑑定をかけていた。


「生活魔術ありますね、はい」


 でもね? 言ってもいいだろうか。

 ついさっきまで魔法の無い世界に居たのだ。使えるとも思えないし、料理に使うという考えが、まず起こらなかったのである。

 しかしここは異世界である。郷に入っては郷に従え。使うよ魔法! きっと便利だよ!

 ということで、


「弱火」


「中火」


「強火」


「消火」


「点火」


 すっご~~~~い! めっちゃ便利!


「ニルヴァス様ってワンダホーですね!」


 私なりに興奮のままに褒め讃えたのだが。


「わけがわからぬわ」


 ニルヴァス様は、フンと鼻を鳴らしてご立腹のご様子。


「素晴らしいってことですよ」


 私は全開の笑顔でニルヴァス様に意味を教えてあげた。ちょっと機嫌が良くなったようである。

 そのまま畳みかけるようにして言った。


「ちょっと待ってくれたら、すぐに美味しいモノができますので、このまま居てくださいな。」



 それから、さらしていたジャガイモの水を切ってフタ付きの鍋に投入、水を3分の1程入れる。

 フタをして中火にかけたら、パセリを洗って刻む。

 味見をしたら少し味が強かったので、布で包んでしっかり流水で揉み洗い。好みの味になるまで、味見しては、また包んで揉み洗いだ。

 そうしたらジャガイモの鍋が噴きこぼれそうになったので、フタをとって、少し鍋をゆすって、焦げついていないか確かめる。

 水が多めならフタをずらして中火のまま、水が少なめなら、フタして弱火にする。

 そうして、上のほうのジャガイモを一個試食して、火が通っていたら火を止めて、塩とパセリを振って鍋にフタをして、フタをしっかり押さえて振るう。

 手前下から、向こう上に向かって、よいしょよいしょと振るうのだ。量が少なければ簡単である。

 混ざったところで味見をして、好みで塩とパセリを追加したりもする。そして皿に盛って完成である。

 作りながら、チーズとベーコンも欲しいなと思ったりしつつ、2つの皿に盛って、木のスプーンを付けてテーブルに持っていく。


「ニルヴァス様、お待たせしました。粉ふき芋です。温かいうちが美味しいですよ」


 自分の分もテーブルに置いて、さきほど火加減を見るのに使っていたお湯を木のカップに注いで席に向かうその時、ニルヴァス様がソレを恐る恐る口に入れた。

 どうだろうか? 美味しいと言ってくれるといいのだが。

 料理というのは、自分が美味しいと思っていても相手もそう感じるわけではない。私は誰かに自分の料理を食べてもらう時、いつも緊張してしまう。


「うまい」


 パクリ。


「うまい」


 パクリ


「うまい」


 パクリ。


「うまい」


 ニルヴァス様が、ひと口食べるたびにそう言った。

 最後のひと口を食べきるまで、ひと口ごとに、言った。


 私は泣いていた。

 こんなにも自分の料理に「うまい」と言ってもらったことなどなかった。それは純粋にうれしかったのだが、それで感動して涙が出たのでは無い。

 こんな簡単な料理に。

 ジャガイモをゆでて塩とパセリを振った手抜き料理に。

 こんなにもしみじみと「うまい」と感じるニルヴァス様が。


 不憫なんだよ~~~~~~~~~!(泣)







 ************************************************

 台所もゲットしました。

 ニルヴァス様が不憫で、ヨリは涙が止まりません。


 やっと主人公の名前が出せました。予告通りに出せてひと安心です。


 塩の瓶を「茶色の瓶」から「黒い壺」に修正しました。


 明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします!

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