33.晩ご飯のその後に。 【チーズ焼きパン】
晩ご飯の後のことです。
料理パートあります。面倒な方はスルーでお願いします。
晩飯の後、ヨリが。
「ソル、ちょっと皆に話したい事があるんだけど」
と言い出した。
それは何だと訊いたら。
「明日のダンジョン、肉屋も連れてっていいかなって話」
俺はそれを聞いて唖然としてしまった。
ロジから肉屋との事を聞いていたので肉屋に思うところは無いが、まさか一緒にダンジョンに潜る話が出てくるとは、全く考えていなかったのだ。
「今言っちゃったし、後は皆に訊いておいてくれるかな」
そう言ってヨリは小屋に入って行った。
明日は1日出かけるので、先に作っておくのだと言う。
「ご飯の仕度」と聞いて自然と顔がゆるむ。昼と夜に食べた物が口の中に蘇ってツバが…。
いかん! 顔を引き締める。
また的当てに行こうかと話しているユジたちの所に行って、その事を話した。
ロジとロンは「ヨリが言うなら」と賛成した。
他はいまいちどうでも良さそうだった。今は的当てで掴みかけている何かを掴みたい。そんなところだろう。
俺だってそうなのだが。
そういえばどのダンジョンに潜るのかは聞いていない。
俺はヨリに訊きに行く。
誰かに訊きに行かせろ?
別に忙しいわけじゃない。しかもヨリが居るのはすぐそこの小屋だ。自分で行くほうが楽でいい。
「ヨリ、どこのダンジョンに行くんだ?」
言いながら入り口から覗き込むと、料理番のおっさんたちが俺を見ていた。
うお。
料理番が全員居る。それが動きを止めて俺を見ていた。居心地が悪い。
ヨリはその中で俺に背中を向けて、何かを一生懸命にかき混ぜている。
早く返事を聞いて退散したい。
さっきのは聞こえなかったのだろう、声を大きくしてもう1度訊いた。
「ヨリ! 明日はどこのダンジョンにする気だ?!」
「ああ、ソルか。肉屋たちは粉ダンジョンに行く日だって言ってたよ」
ヨリがやっと俺に気付いてこっちを見て答えた。
返事が聞けた俺は、さっさとその場から逃げる。
粉ダンジョンか。
粉ダンジョンには、毎日2つの班が潜る。粉2種類とハチミツを獲りに行く。
明日役人に渡す分は集まっているから、その2班と交代してもらえばいいな。
ハチミツと粉2種類は、2日に1度役人が取りに来るのだ。
あとはパン屋に粉2種類を30袋ずつ、毎日持って行ってパンと交換している。決まってる量とは別に、前日の売れ残りも入れてくれる優しいパン屋だ。
そういえば分配はどうなるんだろうか。
皆が集まっている所に戻ってロジに訊いた。
「獲れたのを全員で同じように分けたよ。ヨリがそこは言い張るんだよな」
それを聞いてまた思った。
不思議な女。
いきなり俺たちを助けて、さっさと居なくなって、次の日には森に行ったらいきなり能力開発だと言い出し、良く分からん付与を付けられたり。
まあユジとターヴが付与と治癒を覚えたのには驚いたがな。
そんで飯作るって言ってたかと思うと、飯だけじゃなくて小屋まで作っちまうし。
……飯、美味かったな。いやそうじゃなくて。
夕方帰ってきたかと思うと、弓と槍をボンと渡してとっとと飯を作りに行っちまったんだった。
金とか本当にどうしてんだ奴は。後で「寄越せ」とか言わないだろうな?
そういえば飯に使ってる材料だって金がかかってるはずだ。野菜はどうやって手に入れてるんだろうか。
ダンジョンで獲ったものまでポイポイ出して、村の全員に食べさせるなんて普通にやることなのか?
一番警戒していたロンさんは、森から帰って来る時にはヨリと親し気に話していた。
俺が考え過ぎなんだろうか。
だが村をまとめる者として放っておけない事がある。
ヨリと話をすべきだな。ヨリの手が空いた時がいい。
小屋の方を見て、そう決めた。
その時、小屋の中で何かが揺らいだ気がした。
今まで感じたことが無い揺らぎ。こう火が揺れるような。ん? 強くなったな。
ユジたちも感じたようだった。皆で顔を見合わせる。
俺は気になって仕方が無いので、またおっさんたちの視線を浴びるのを覚悟で小屋に向かった。
+ + +
「明日の下拵えをするよ」
私は小屋に居るおじさんたちに宣言をした。
おじさんたちは、昼の後、街のポルカの子供たちへのご飯を手伝ってくれた人たちだ。
私が作り始めたらいつの間にか集まってきて、見よう見真似で手伝ってくれ始めたのだった。
中でも1人のおじさんが、私の隣にピタリと位置取り、食い入るように私のする事を見ていた。
そして今もそのおじさんは私の横にピタリ。
ふむ。
私はこのおじさんたちでちょっとした事を試してみることにした。
「魔力増幅」とめっちゃ小声で付与する。声に出せば、触れずとも付与ができる。
料理番全員に付与してみた。
そして作業を続ける。
明日の朝ごはんは、夜に残ったパンを使ってサンドイッチにしようと考えている。夜に残ったパンは、ダンジョン組で分けるにしては量が多かったのだ。
始めは2食でと考えていたのだが、やはり朝は大事だ。
私1人が食べるわけにもいかない。
なので、それを皆の朝ごはんに回して、お昼はまた別に作ろうと思ったのだ。
昼はダンジョンに潜って居ない。先に何か作り置きしようと考えて、薄パンを焼くことにしたのである。
生地は平パンと同じ材料だが、薄く伸ばしていくやつだ。しかし、ぺらっぺらよりは少し厚めに。
計量カップと計量スプーンを人数分用意した。
自重? 自重って言葉はかなり自由度の高い言葉なのだよ。ふはは。
材料を計って用意するところから、全員にボウルを1個ずつ用意して同じようにやってもらった。
覚える気のあるうちに教えないといかんよね。
そして両面を焼いている間に、アスパラガスを斜めにスライスして、玉ねぎもスライスした。
塩漬け肉も出して、細い薄切りにしていく。
そしてチーズを出してこれも薄切りに。
ちなみにこの石板に、小石を付着させてスイッチを作ってみた。
押しながら言うだけ。「火力調節音声式」と「接触時発声式」を付与したのだ。
これで私がいない間にも使えるはずである。
試しにもう1つの石板の加熱は、おじさんたちにやってもらった。
ちゃんとできたので良かった。
一度石板を冷ましたいので、薄パンを焼いた後に一度「消火」する。その間に肉の仕度だ。
鳥のムネ肉を半分の厚みに切った後、削ぎ切りにしていく。普通のサイズならそんなことをしないで、皮の方を下にして、即削ぎ切りだ。
薄切りにするのである。
普通に切ると上手に薄切りにできないので、手を添えて、斜め下に包丁を入れていくのだ。
切るのに邪魔な皮は、全員分の量が溜まってから使うので取って収納だ。
おじさんたちは削ぎ切りに苦戦していたが、まあちぎれたのは何かに使えばいいので、気にしないでどんどんやってもらう。
私は鳥ムネ肉が逃げないように、まな板に「固定」をかけてやっていたのだが、ふっと魔力が揺らいだのを感じた。
ん? 私は揺らぎの方向を見る。揺らぎの元は眼光鋭いおじさんであった。
滑る鳥ムネ肉に、他のおじさんたちが奮闘している中、彼だけがただ静かに鳥ムネ肉に向き合っていた。
そこだけが無音の世界のように集中しているおじさん。ゆっくりと丁寧に削ぎ切って行く。
思わず見つめてしまっていると。
再び魔力が揺らいだ。
ゆらゆら動いて、その動きが大きくなって渦を作り始めた。
私は自分の分の鳥ムネ肉を削ぎながら、それを見続ける。
その時、入り口の方で気配がした。
ソルたちが覗いていた。
ロンさんと目が合った。小さく頷き合う。
隣のおじさんが鳥ムネ肉を半分、削ぎ終えそうだ。
私とソルたちに見られているのに気付かずに、おじさんは黙々と削いでいる。
見ていて気が付いた。
鳥ムネ肉が逃げない。包丁を入れる時に抵抗が無さすぎる。
これ、もう発現してるんじゃないだろうか。
むう? 叫ばずとも発現するのか。
叫ぶ人と、叫ばない人がいるのだろうか。
鳥ムネ肉の削ぎ落としが終わった。
おじさんが自分の力に気付いているのかは、訊けなかった。
訊いたとたん、使えていたのが使えなくなったりするかもしれない。
無意識でやってしまう人は考えるとできない。かもしれないので。
とりあえず皆で切った鳥ムネ肉をボウルに入れて、水と塩コショウと砂糖を少々入れて、手で揉む。
こうして一晩くらい置くと、身がぷりぷり(ぶりぶり?)になるのである。
これは某スーパーの調理場で働いていた妹に教えてもらったワザだ。
鳥ムネ肉よりは鳥モモ肉のほうが効果を抜群に感じる。
唐揚げの前日は、いつもこうやって仕込んでおいたものだ。うむ。
今回は唐揚げではなく、サンドイッチ用の具なのでスライスにした。
ソースも無しで、焼く時に塩と粗びきコショウでさらに味を付けてスライスチーズと一緒に挟む予定だ。
鳥ムネ肉を揉み込んで石板コンロの下に冷却をかけてボウルをしまう。
このまま朝まで入れておいて、朝に焼くのだ。
起きたらすぐ焼ける。楽って最高だ。ふふふ。
石板コンロが冷えたので、皆でチーズを並べた。
「娘、こうでいいのか?」
「娘、離すのはこのくらいか?」
おじさんたちに「娘」「娘」と呼び掛けられるので、「ヨリって呼んで」とお願いした。
そうしたら、「俺は」「俺は」と自己紹介の嵐になった。
やばい、覚えられるか私?! 密かに焦りながら教える。
「チーズは溶けると広がるから、広げ過ぎってくらい間を空けてね」
ちなみに隣の眼光鋭いおじさんは、ホスという名前だった。
ボスって言い間違えそうな予感しかしない…。
他のおじさんたちも真剣で真面目なのだが、ホスさんは誰よりも真剣に、誰よりも真面目に私を見て、真似をする。
いちいち訊かないでも出来ているのを見ると、見て盗めるタイプの職人さんを思わせた。
チーズの上にスライスした野菜をパラパラと重ならないように並べる。薄パンを被せた時にはみ出さないように、薄パンの大きさを意識した範囲に並べるのだ。
そこに細く薄切りにした塩漬け肉を散らした。
そして薄パンを真ん中に載せる。
弱火で加熱スタートだ。
この時、フタはいらない。
弱火で野菜にじっくり火を通す。パンがフタの代わりになってくれるのだ。
チーズを焦がし過ぎないためでもあるので、弱火で辛抱強く待つのである。
好みで粗びきコショウを振ってから具を載せてパンを被せてもいいし、マヨネーズやピザソース(もちろんケチャップも)をパンに塗って、塗ったほうを具の方に向けて載せてもいい。
具に火が通るか心配だったら、最初はフタをしておいて、後でとってもいいと思う。
とにかく弱火で放置して、チーズがぶくぶくなってきても放置。
端っこが茶色くなってきたらフォークでもフライ返しでもいいので、フライパンから外してチーズ面を上にして皿に載せるのである。
このチーズ焼き、フランスパンを輪切りにしても、上下2分割にしてやっても、どっちも美味しいし、食パンでもできる。ロールパンでもマフィンでも、平らな面があれば、どんなパンでも出来るのだ。
もちろん自分で開発したわけではない、頭が上がらない例の場所で検索したのである。重宝しまくりだ。
これなら失敗したパンでも美味しくごまかせて助かるしね!
しかしだ。熱い時に食べれば火傷で上あごをやられ、冷めた時はチーズの硬さで上あごをやられるという、どっちにしても気を抜くと危険な代物だ。食べる時には気を付けて欲しいと思う。
そこで、パンの厚みを薄くすれば危険回避に繋がるという助言も付けておきたい。うむ。
あ、あとチーズの味によってはしょっぱくなりすぎるので、それはパンの厚みで調節してくれたまえ。
さて、チーズが茶色くなるまでに昼のスープの準備をしたいと思う。
最初のうちはチーズ番は不要なので、全員で野菜を切る。
人参、セロリ、白菜、ゴボウを1センチの角切りに。しめじはある程度の房に分けて、頭からザクザクと輪切りにしていく。木くらげは適当な千切りにする。
それを全部大鍋に入れてコンソメを投入。コンロに載せる。
そこに水を入れる。運ぶ前に水を入れてしまうと重いからである。
具が小さくて水分が多いスープなので、最初から強火でいく。
そして沸騰してくるまで放置である。
その間にチーズ具合を見る。
できたものから、皿に載せて行くのだ。
そうしているうちに次々と出来上がるので、皆が忙しくなった。
すぐ食べるのも美味しいが、時間が経つとチーズがカリカリミシミシして、また別の美味しさがある。
これならダンジョンの弁当にも良かろう。
チーズが合体しないように離して置くので、何回かやらねばならんが。
沸いたスープのアク取りをしながら、石板を冷ましてはチーズたちを載せてを繰り返した。1人3枚くらいは食べれる計算だ。
もちろんその繰り返しの間にもやることはある。
キャベツを大き目の四角のざく切りにして、玉ねぎはくし切りの薄切りに、豚肉はひと口大の薄切りにする。
豚肉はボウルに入れて塩コショウと水で揉んでおく。
夜には戻ってくるつもりでいるので、それも鳥ムネ肉と同じように冷却をかけて石板コンロの下に突っ込んだ。
キャベツと玉ねぎは豚肉から出た油で焼きたいので、ここでは切ってボウルに入れ、時間停止をかけて空いている石板コンロの下に突っ込むだけにする。
焼くのは帰ってきてからだ。
朝の野菜用には、浅漬けサラダを作る。
今回は肉屋の所で作った唐辛子入りにしてみることに。
乾燥した赤唐辛子を種を抜いて粉砕し、パラパラと入れて混ぜ込んだ。
輪切りにすると、当たった人がヒーヒー言いかねないからな。
冷却して石板コンロの下にポイだ。
明日の晩ご飯のパンは、パン屋で交換してもらう平パンが来るそうなので、それを食べようと思う。
まあ少し手は加えたいがね。
私は昼、バターを作った壺にまた生クリームを入れて、攪拌させてバターを作った。
冷めたチーズ焼きパンたちはチーズ面を向かい合わせてくっつけて、2枚セットで収納袋に入れていく。
ダンジョン組の分も班ごとに分けて入れた。
ちなみにスープはダンジョン組の分は無い。スープを飲んでチャポチャポしたお腹では、戦闘しにくいからである。お腹痛くなりそうだしね。
そんなダンジョン組には、キュウリと人参をスティックに切って(ただの縦切り)塩揉みしたのをパンとは別の小袋に入れておく。異空間収納といえど、パンと一緒に水気のあるものを入れるのは、どうにも我慢ならなかったのだ。
はい、準備完了。えーと。
おじさんたちも一緒に確認してもらう。
明日の朝は、鳥ムネ肉を焼いて、チーズと一緒にパンに挟む。そんで浅漬けサラダ。
明日の昼は、ホスさんたちがスープを温めて、チーズ焼きパンを配る。
明日の夜は、ホスさんたちがパン屋さんのパンを上下に切っておいて、私が戻ったら肉野菜炒めをして、パンを焼く。
皆が頷いてくれたので、確認終わり。
朝の集合時間は指定しない。時間を言っても時計が無い。皆適当に起きてくるのだそうだ。
自由集合にしておいた。
使ったものを洗おうと作業台に溜まった洗い物を振り返ると、戸口でこちらを見ているソルたちと目が合った。
……途中から存在をすっかり忘れていた。
「ずっと見てたんだね」
「目が離せなくなっちまったんだよ」
ロンさんが苦笑しながら答える。
ソルたちも頷いた。
「興味あるなら、やってみればいいのに」
言ってやる。自分で食べたいモノを作れるって、幸せなんだけどな。
「いや、圧倒されちまって」
ロンさんの言葉にソルたちも頷いたが、中の2人が頷く途中で何かを考えている様子。
そのうち1人はロジ少年だ。
おお? 教えるよ! おねえさんが優しく教えるよ?!
もう1人は皆より背が高い切れ長の目をした無表情な男。え? 人の事は言えない? 分かっているとも。
洗い物をボンボン樽の中に入れて行く。
「何してんだ?」
ロジ少年が訊いてきた。
「ん? ここに入れて。はいスタート」
この樽には「洗浄後乾燥」がかけてある。もちろん異空間収納も。
隣の樽には「洗浄後排水」と異空間収納。
その隣の樽には、料理用の水が「満水」で入っている。
どれも石板スイッチの応用で「音声発動」を付けてある。
説明したら、唖然としていた。
おじさんたちは昼の片付けの時に教えたので、もう驚かずに使っている。
ん? おじさんたちのほうが順応早い気が。
普通は若者のほうが早そうなんだけどね。
まあいい、すべて完了だ。
私は別に疲れても身体が凝ってもいないのだが、「うううう~~~~ん」と大きく伸びをした。
これはまあクセだね。
やれば気持ちいいし。
おじさんたちもやっていた。
「ほい、お邪魔だよ~~~」
ソルたちをどかせて、外に出た。
作業が捗ると空気が美味い!
大きく深呼吸して、唖然としたソルたちを置いて歩き始めた。
どこに?
もちろんダンジョンに行くためだ。
減った食材を獲りに行きたいなと思ったのである。
その後は異空間収納へ行って、ニルヴァス様に作ってあげたいモノを作るのだ。
ん? 逆のほうがいいかな?
先にニルヴァス様に作って、残りでダンジョンに行く。
うん、いーんじゃない?
今後の段取りを頭でグルグルさせていたら。
「ヨリ。ちょっと話せないか」
ソルの声に引き止められ、ピタリと止まって考える。
ん? 私も何かソルに訊きたかった事があったような……。
えーーーと。えーーーーーーと。……何だっけ。
影の薄すぎる男、ソルが出てきました。
彼は本当はこんなに影が薄いハズではなかっ……これからです!
料理番のおじさんたちは、元はダンジョン組です。まあそれを言うならほぼ全員なんですけども(笑)
ダンジョンに潜っていた期間がソルたちより長かったので、たぶんソルたちより能力開発が進むと思います。
ソルたちより楽しみ…ではないですよ?!




