30.街へ そして肉屋訪問
今回はちょっと料理パートはお休みです。
街に戻って、あれこれします。
街に着いた私は、まず市場を巡る。
さつま芋を求めて徘徊するのである。
前回買えた場所を回って、どんどん買う。
大人たちの分も欲しいなとは思うが、とりあえず子供たちの分だ。
大人たちは自分で食べるものを作れるが、子供たちはそうではないからね。
うむ。300くらいは買えたかな。
市場に行くと、あのおじさんを発見した。
「おじさん、野菜欲しいな」
おじさんは私を見上げて、驚いた顔になった。
「お、おう。ねえちゃんか! 今度はどのくらいいるんだ?」
ん? やけに驚き過ぎというか。
「ん~、人参、白菜、キャベツ、玉ねぎ、ジャガイモ、全部20個ずつ欲しいな。あとは、あの芋がまた欲しいんだけど……」
野菜が並べられているラグを見渡すと、隅の方に山盛りになっていた。
やったね! さつま芋だけは、いくつあっても困らない!
「おじさん、あの芋全部」
私はビシッと芋を指差して言った。
おじさんは、その芋と私を交互に見て。
「ねえちゃん、まだこの街に居たんだな。家畜買うって言ってたけど、買えたのかい?」
ああ、驚いたのは私がもうこの街に居ないと思ったのに居たからか。納得である。
しかし。言われてみて思い出したが、前回さつま芋を買う時、「家畜のエサ」だと言われて、「家畜買うから」と言ったような。
あの時は家畜が何なのかも知らずに適当に答えてしまっていた。
確か貴族の持ち物だとニルヴァス様は言っていたな。
「うん、ご主人様が買って、私がエサ係になったんだ」
これなら無難かなと答えた私に、おじさんが「そうかい」と、さつま芋を売ってくれた。
やった~~~! おじさんは今回、300くらい持っていた。
さつま芋は直接、洗浄袋に入れた。他のものは斜め掛け鞄に。
さて、次は木製所と製鉄所を探したい。
鍋、フライパン、つまようじ、竹串みたいに長い串など、いろいろ作って欲しいものがあるからだ。
とりあえず道具屋に向かった。
袋も欲しいし、情報も欲しい。
「おう、お前さん。まだこの街に居たんだな」
顔を合わせてすぐに言われた。
この街に滞在する冒険者は居ないのだろうか。まあダンジョンでも見かけなかったしな。
「鞄がまた欲しくて。後は道具をいろいろ。付与して欲しいモノあったら、またやりますよ」
店主がいそいそと袋の大きいのを持ってきた。
付与して報酬をもらう。
私は付与のかかっていない袋と鞄、鎌や剣、弓などを、ごっそりカウンターに載せた。
店主は唖然としている。
「お前さん、こりゃ買い過ぎじゃないか」
「後で無いほうが困るんで」
村の大人たちは、これからもっとダンジョンに入るようになるのだ。
野菜を刈る鎌など、足りないくらいだと思う。
「そういえば剣に名前は付けてやったのかい?」
店主が勘定をしながら訊いてきた。
ハッ! していない! 忘れていた!
何がいいか考えはしたが、思い付かずに放置していたら忘れていた。
あんなに尽くしてくれているのに、申し訳ない気持ちだ。
「いいのが思い付かなくて」
うん、本当に思い付かない。それは本当だ。
付き合ってくうちに、ピンとくるのが思い付くんじゃないかと思うんだが、どうだろうか。
安易には付けたくないんだよね。無理にも付けたくない。やはり自然と思い付くまでやめておこう。
「適当に付けたくないんですよね」
そう言ったら、店主は嬉しそうに頷いてくれた。
店を出る時に、訊いた。
ここのダンジョンは、なんで冒険者が少ないのか。
「大陸の端だからだろう。王都からかなり離れているという話だし」
大陸の端で、王都からは遠い。なるほどね。
過疎ってる理由にはなる。
納得して今度は道具を作ってくれる所が無いか訊いた。
作って欲しい物を訊かれたので、細々した道具だと答えたら、木製所と製鉄所を教えてくれた。建物や乗り物など大がかりな物を作るのは、木工所と鉄工所だそうだ。
道具屋のある通りを、このまま西に行くとあると言う。
私は店主に「また来ます」と声をかけて店を出た。
まずは木製所に行く。
つまようじと竹串サイズの串と、串モノができるように少し太い串を、まずは100本ずつ頼んだ。
まな板を50枚頼み、パンなどをオーブンから出すための、柄の付いたちり取りみたいなのも説明して頼む。
木べら、お玉、フライ返し、菜箸も注文だ。どんな物か説明しても解ってもらえないものは、紙に書いて説明した。
泡だて器も、細くて弾力性のある木の枝で作れないか試してもらうことにした。もちろん研究費は私持ちである。
私の道具を渡してもいいが、作る人が居なければ壊れた時に困る。是非とも頑張ってもらいたい。
同じ理由で製鉄所では、片手で持てるフライパンを10個お願いした。でかい鉄板も4枚お願いする。
これは石板コンロの上に載せて使う用と、村の広場のコンロで使ってもらう用だ。
魔法で加熱できない人は、あの石板コンロは使えないからである。
鍋のフタも20個頼んでおいた。フタが無いと火の通りが悪いし、粉ふき芋を煽るのに無いと不便なのだ。
そして包丁だ。ペティナイフくらいの先がとんがった物、菜切り包丁(四角いの)、後は肉屋が使っている肉切り包丁。それぞれ30本ずつ頼む。
どちらの店でも、顔を出した時に、できた分だけお金を払ってもらっていくことにした。
終わって、街のポルカに顔を出す。
私はまず一番大きな家の子供たちを見に行った。
まだ動き回る元気はなさそうだったが、私を見て笑顔になってくれた。
うむ。笑顔に力が出てきたように感じた。
壁のコンロにまたジャガイモスープを作る。
煮える間に、持ってきた食料たちを一番年嵩の少年に渡した。もちろん焼き芋もの入った袋も。
少年が荷物を持って部屋を出ていくと、治癒の小石を渡した少女と、市場で助けた少年が来た。
「ご飯、ちゃんと食べれてる?」
と小さい声で尋ねると、2人とも笑顔で頷いた。
「また持って来たから食べて」
可愛かったので頭を撫でながらそう言ったら、2人は頷いてくれた。
どうして子供って頭を撫でたくなるんだろうな。
妹の子供を思い出しながら、そう思った。
ジャガイモスープと湯冷ましを、起きている子たちから順番に食べさせた。
食べる強さ、欲しがる量、身体に入る力具合をチェックしたかったのだ。
初日よりは、だいぶ力が入るようになったかもしれない。
噛めなかった子供は、ちゃんと噛めるようになっていて安心した。
家を出ると、外に子供たちが全員集まっていた。
私が「ダンジョンに行く」と言ったとき、落胆した顔を見せた子供たちも居た。
「また来るよ」
私が言うと、今度は皆が頷いた。
ポルカを後にした私は肉屋に向かった。
例の美味しい店に着く。
店に声をかけようとして気付いた。
肉屋の男たちの名前を、覚えていない!
少し考えた私は、2軒の店を行ったり来たりしながら覗くという「気が付いたら声かけてね」作戦を実行に移した。
いやまあ普通に不審者だよね。
てっきり肉屋の中にいると思って、そんなことをしていたのだが。
「ヨリ」
名前を呼ばれて振り向くと肉屋たちのパーティーのリーダーが道の先に立っていた。
呆れ顔をしている。
「店の中で働いてるわけじゃないんだね」
私が素朴な疑問を言うと、リーダーは大きく息を吐いて。
「店番じゃねえからな」
と、教えてくれた。
なるほどねっ!
私はリーダーに連れられて、店の裏の道を歩いた。
表と違って静かな通りだ。
それにしても静か過ぎないか?
気になって訊く。
リーダーは答えた。
「今日は休日だ。仕事が休みの奴らが組んで、ダンジョンに狩りに行ってるからだろう」
え? 街の人もダンジョンに潜るんだ。
たくましいな街の人。
「きみたちは今日は行かないの?」
私との約束で予定が変わってしまったなら申し訳ないな。
そう思って訊いたら、リーダーが首を振った。
「街の奴らが来る日は狩りにならんからな。俺たちは、その日に休むんだ」
ほ~~~~。
ついでにダンジョンに冒険者が来る頻度を訊く。
「めったにこねえな」
「冒険者と話したりする?」
「いや、奴らは奴らで纏まってるからな。こっちもわざわざ声をかけたりしねえ」
「そうなんだ」
ダンジョンでドロップする物は、冒険者とそうでない者とで情報共有はされていなさそうだ。
私の中では、冒険者は宿とか酒場で呑んでいて、わりと街の人と交流していそうなイメージなんだが。
「冒険者って、この街だとどこに泊まるの?」
「冒険者なんてめったに来ねえし、旅人だって来ねえからな。飯屋に泊めてもらうしかないんじゃないか?」
「へえー」
飯屋と聞いて、私が見た飲食店を思い出す。
ここの飲食店は、肉と酒がメインのようだが、それらにしても品数が少なかった。
メニューは肉を焼くか、腸詰と塩漬け肉を焼くか。それと酒だ。
それにしても冒険者だけでなく旅人も来ないのか。…交易って概念があるのかすら不安になってきたな。
連れてこられたのは、わりと大きめの家だった。
リーダーに付いてそのまま玄関を入る。
「お邪魔します」と言うものなのか、そうじゃないのか悩んで、玄関で止まった。
リーダーが振り向いて、「入れよ」と言ってくれるが……戸惑っている後ろでガチャリと音が。振り向く間も無く私の横を通って「おうボイフ入るぞ」とドカドカ上がり込む男。確か特大鞄を背負っていた釣りやすい男だ。その男が数歩進んでからピタリと止まり、振り返って私に言った。
「何してんだ入れよ」
自分の家じゃないのに「入れ」はどうかと思うが、「お邪魔します」は言っていいようだ。
「お邪魔するね」
言って入った私の手の平は汗でびっしょりだった。
人の家にお邪魔する機会なんて、35年で数えるくらいしか無かったのだ。緊張するに決まっている。あー今ので、すごい疲れた…。
入って特大鞄の男を追う。もちろん今は背負っていない。そういう覚え方をしているってだけである。
リーダーと特大鞄の男は覚えているが、後の3人は顔を見れば「見た事あるな」程度だ。
毎度の事ながら人を覚えない。いや申し訳ないとは思うけどね。
廊下を曲がって、台所に出た。
台所と四角い食卓がある部屋だ。
他にも部屋があるのだろう。家の綺麗さを見て、なかなかいい暮らしをしているんじゃないかと推測した。
「さて、昨日ダンジョンで獲れたモノの使い方を、教えてくれる約束だったよな」
特大鞄の男が、腕を前で組んで仁王立ちだ。
そんな眼光鋭くしなくても教えるのだが。
私は食卓に並べられている壺たちを見て、言う。
「一緒にやるってのもアリだよ」
それには3人のうち1人が。
「俺たちがいきなりやって、できる物なのか?」
「肉切ってるんでしょ? なら野菜だって切れるよ。それさえできれば、後は難しくないと思うんだけど」
だって今回は、ハンバーグなのだ。野菜をみじん切り、肉をひたすら叩き切る。
うむ、切れればできるだろう。
さあレッツクッキン!!
肉屋のお宅にお邪魔しました。
ヨリは友人が少なかったので、友人宅への訪問経験がほぼありません。
前回料理パートが長かったので、今回は短めにしました(笑)
次回は引きずりまくったハンバーグです!
ヨリがボイフのお宅に上がるあたりを修正しました。ちょっと解り辛かったので。(6月8日)
木製所は造語です。木工所と区別したかったので、こうしました。