29.ポルカでご飯を。 【野菜の浅漬けサラダと発酵パン】
やっとスラムの村でご飯を作ります。
料理パート長いです。面倒な方は飛ばしてください。
話も長いです。すみません…
これからポルカの村に行けることになった。
採れたモノとダンジョンのモノで、私がご飯を作ると言い出したからである。
まあいろいろあって警戒も薄れたのだろう。
歩きながら皆を見る。
1号くんのユジは嬉しげにソルたちに話をしている。
2号くんのターヴは、皆から「良かったな」としきりに肩を叩かれていた。ロジ少年は治った指を見せながら、嬉しそうに説明中だ。
3号さんのロンさんは、私の横を歩きながら、あーでもないこーでもないとボソボソ言っている。
うむ。平和である。
明るい顔は、やはりいい。彼らが暗い顔してたってワケではないが、まあ雰囲気がね。
さて私は訊かなくては。
「ねえロンさん、いつも何作って食べてるのかな」
邪魔をしてしまって申し訳なかったが、ロンさんが答えてくれる。
「大鍋にジャガイモを切って入れて茹でる」
「他には?」
「それ以外には無いぞ」
「塩か何かかけて食べる?」
「塩は茹でる時に入れる」
ふむ。想像の範囲内だ。
ロジ少年の粉ふき芋への食いつきぶりを見て、そうじゃないかなとは思っていたのだ。
さて次だ。知りたいのはこっちが本命なのだから。
「鍋の大きさと、数を教えてもらえる?」
「んあ? 鍋は…こんなもんか。これが20個あるな。鍋1個で20人分は茹でるぞ」
ロンさんは、腕を動かしてサイズを教えてくれた。
てことは、400人くらい居るのか?
「ポルカの村にはどのくらい住んでるのかな」
「ああ、250人てとこだろうな」
思ったより少なかった。それでも250人分か。結構時間がかかってしまいそうだ。
午後にも予定があるので、手早くできる料理を脳内で検索する。
とりあえずさっき採ってきた野菜たちが入っている異空間収納に「洗浄」を付与して、野菜たちを洗っておくことにした。
何を作るにしても、料理とは野菜を洗う作業から始まるのである。肉だけの料理であれば別だけども。
さて次は私の収納に入れていた、白菜と人参とセロリと椎茸とエリンギとキャベツと玉ねぎを、別の袋に「異空間収納」と「洗浄」を付与して放り込む。
これにはロンさんにも協力してもらった。私が持った袋から野菜たちを出し、ロンさんに洗浄を付与した異空間収納袋を持ってもらって入れたのだ。
これでずいぶんと楽になった。
全員の目が私たちに釘付けになっていたから説明する。
これは袋に「異空間収納」を付けて魔法で水を入れて「洗浄」を付与したんだよ。と。
付与を覚えたユジと、そんな使い方をしたことがないと言うロンさんが、すっごく真面目に聞いていた。
「よし、これで着いたらすぐ作れるね」
満足気に言った私に、ロジ少年が近付いてきた。
「ヨリ、何作るんだ?」
ロジ少年の質問は、全員の気持ちであるようだ。
別に隠すことでもないので言う。
「野菜をコンソメスープで煮て、そこに肉団子を落とす。後は、パンを焼こうかな」
そう、鍋しかないからね。
とりあえずはダンジョンで採れた野菜と、さっき採った野菜、そしてダンジョンで獲れたコンソメと肉を使っていきたいと思う。
ん? そういえば、食器はあるのだろうか。
「深いお皿ってある? こんくらいの」
ジェスチャーで、どんぶりぐらいのサイズを伝える。
「あるわけないじゃん。俺たち、手で食べるんだぜ」
「そーだよね」
そーだよね…失念していた。ニルヴァス様に作った白菜ポトフに肉団子を入れたい私は、どんぶりとフォークの存在を失念していたのである。
うううう~~ん。作るにしても私が作ると石でしか作れなさそうだな。それじゃ重いだろうし、洗うのも大変だろうし。うう~~~ん。
買いに行くには時間が無いし、数が売ってるかも判らない。異空間収納にあるのを出すか。
ニルヴァス様には作った物をお供えすればいいだろう。
あとフォークもだな。
そういろいろ計画していた私だったが、あえなく野望が潰えた事を知る。
ポルカの村に行ったらば。
もう大鍋たちにジャガイモが茹でられ始めていたのである。
村には、土で作られた小屋が並んでいた。
道もあり、広場もあって、調理はその広場の角で行われていた。
石を積んだコンロに大鍋がフタも無く載せられている。
森に行ったメンバーが広場に来て大鍋を見ると、申し訳なさそうに私を見た。
申し訳なさそうにすることは無いのだ。私に悪いとか思わないで欲しい。鍋を使わないものを作ればいいだけなのだから。
「じゃあスープは夜にするとして、肉でも焼こうか」
私の言葉にロジ少年がパッと顔を明るくした。
うむ。いい顔になったね。
「さあロジ、手伝ってくれるよね」
勢いよく煽ってみせると、ロジ少年は喜んで、そして固まって落ち込んだ。
どうしたロジ少年?!
「ヨリ……鉄板が無いとできないんだろ?」
ああ、そんなことは気にしなくても良いのだよ。
さっき石の器の事を考えていた時に、思い付いた事があってだね。
「大丈夫だよロジ。石で焼くから。」
そう、石焼きステーキにすればいいのだ。
どこかの店で、石焼きハンバーグなる物を食べたことがある。石の上で、ちゃんと焼けていた。
石の板など私にかかれば軽い軽い。火力は私の魔法があるではないか。ふはははは。
ご機嫌な私とは違って、ロジ少年は首を傾げて困惑顔である。
まあ見ていなさいって。
私は魔力を地面に向けて広げて、石を集めて砕いて圧縮してという作業を繰り返す。そうして細長い、テーブルのような石板を作りあげた。それをソルとユジに持たせ、今度は煉瓦っぽいのを土を圧縮して作り、それでさっきの石板が載るサイズのコンロを作る。その上に石板をセットしてもらって。
砂埃の中で調理はしたくない。ソルに「小屋を建てていいか」と尋ねた。
いいと言われたので、さっき作った圧縮煉瓦を大量に作って、中央にコンロと作業スペースを持った小屋を作った。土をけっこう使ったので(使った分は減ってるらしい)、この小屋だけ周りから一段下がる。
今後もリフォームを繰り返すだろうと思い、少しゆとりを持って大きめに作ってしまった。
「ごめん、小屋じゃなくなった」と。
真顔で謝罪したら許された。良かった。
空いたスペースに、ここで切ったりなどの作業ができるように石テーブルを造った。流し台と、単体コンロ5つも壁際に並べて造る。
反対の壁には樽を3つ出して並べた。この樽は食器を洗ったり、野菜を洗ったりする用だ。
最初は街のポルカの子供たちのお風呂用に買ったのだが、結局他のことに使ってしまっている。また買っておこう。
ちょっと思い直して、肉焼き用と同じ石板コンロを、もう一つ作る。人数的にもう1つ欲しいだろうと考えたからである。
石板コンロを増やしたのでレイアウトを少し変えることにした。
作業台に対し、石板コンロを縦に並べて、素早くコンロの両側に回れるようにしたのだ。これで両方のコンロの間に立って、両側を見れる。いいんじゃないかコレ?
あらかた設置できたかなというところで、小屋の中を水魔法で洗浄して、乾燥させた。
実はこの乾燥、付与でなるのか、火魔法と風魔法が発動しているのか、私には判らない。
付与を意識すれば付与で、火魔法と風魔法を意識すればどっちか判るのだが、ただ「乾燥」させるイメージを念じても現象は起こるのである。だがまあ結果は同じだ。使えればいいと思う。…こんなんばっかかも私。
小屋に居た全員が同じ目にあったのは、まあ風呂に入ったとでも思って許して欲しい。
よし、準備は整った。
私は収納袋から、牛肉を取り出して、袋の中で洗っておいた人参とキャベツも出す。
キュウリは洗ってなかったので、出して洗った。メニュー変更になったからね。
まな板と包丁、塩コショウも取り出す。今回は初心者用に粉コショウを使うつもりだ。
両方の石板に強火で「加熱」を付与した。
実はこのコンロ、3重構造にしてある。
一番上を鉄板と同じように使い、その下に2段、オーブンにしようと棚を作ってあるのだ。
そこに透明瓶を加工し直した引き戸の扉を一面に付け、「耐熱」と「強化」を付与してあった。
オーブンは夜に使うので、とりあえずは石板だけ加熱だ。発酵用に、その熱でコンロの下の2段が温まるようにはしておく。
牛肉は、かたまりを横半分に切ってから1センチの厚さで切っていく。
石板はまだ熱くなってはいない。
人参はひと口で入るくらいの細長い薄切りに、キュウリは厚めに斜め切り、キャベツはひと口大にざくざく切って、ボウルに入れて塩と砂糖で揉む。ニルヴァス様に作ったナスの浅漬けと同じようにするのだ。
あまり揉み過ぎても新鮮さがなくなるので、キャベツのシャキッと感が残るぐらいにしておく。
それをボウル30個分作った。身体強化で加速して切っていったのを、ソルたちに手伝ってもらってボウルに入れ、それを私が揉んでいったのだ。もちろんロジ少年も率先して手伝ってくれる。
切ったのをボウルに入れる作業って、量が多いと地味に大変だ。すごく助かった。
まだ石板は熱くならない。結構時間かかるな。
待っている間って何かしたくなるんだよね。
例えば次のご飯の仕度とか。
よし、夜のパンの仕込みでもするか。
あ、ジャガイモに付けれるように、バターも作っておこう。
そこで生クリームの壺をいくつか出し、それに「攪拌」を付与する。量が欲しいので、自力でのバターは諦めたのだ。放置で良し。
そして大き目のボウルを30個出して水を入れる。ボウルに対して水は少ないが、ここに粉を入れていくので、大き目にするのである。
ドライイーストを入れる水は多めに用意しておく。だが1つのボウルの水の量は多すぎてもいけない。
量が量なのでドライイースト液が足りない時に使うためである。ドライイースト液が余った分だけまた粉を出すほうが楽だ。食べる人はたくさんいるし、余れば異空間収納にポイすればいい。
「保温」をかけて水がぬるまったところでドライイーストを振り入れて行く。保温は高すぎるとドライイーストの働きを潰してしまうので、本当にぬるめで。
私の場合ドライイーストを小麦粉と一緒にボウルに入れて、そこにぬるま湯を入れて行くレシピだと発酵が上手くいかなかった。私が下手なのだろうが、こうすると確実に発酵が先に判るので安心するのである。
そこに砂糖を大匙1杯パラパラと入れた。これはドライイーストの働きを助けるためだ。
この砂糖、私はパンによって分量を変える。
ピザ生地を作る時は入れずに。
フランスパン風のパンを作る時には少なめに。
ロールパンや食パンを作る時は普通に。
まあ作る人の好みだ。作ってみて何度か配合を変えることが多い。
今回はフランスパン風のパンを作りたいので、砂糖は少しだけだ。
作ってみてまた変えるかもしれないが、とりあえず今回はこれでいこうと思う。
ドライイーストが動き出すのを待っている間に、大きめのボウル20個に茶色い小麦粉を計量カップで計りながら出した。人数が多い。いつもならカップ3杯くらいで充分なのだが、ここは5倍の15杯入れていく。
カップ3杯の小麦粉で、5個作る計算でいくつもりである。1つのボウルで25個。少なくとも500個は焼けるだろう。
茶色い小麦粉を強力粉として使う。
私は強力粉が100パーセントのパンが好みだ。歯ごたえ、喉ごしが好きなのである。
粉の配合は個人の自由なところがパンの楽しいところだと思う。
薄力粉100パーセントで作る人もいるし、強力粉と薄力粉を混ぜる人もいる。もしかしたら、強力粉100パーセントで作る私が少数派かもしれないが、美味しければいいのだ。
ドライイーストの発酵具合を見て、もう少しだと思ったので、先に肉を載せていこうと思う。
石板に肉を並べてもらうのを、ソルたちに手伝ってもらった。並べられた肉に塩コショウを満遍なく振っていく。まだ石板は温まり切ってはいないが、大丈夫、低温の間に載せても肉から脂が出るから、簡単にはくっつかない。まあ石板には「不着」もかけたしね。
テフロンなら大丈夫だが、石焼きはくっつくかもしれない。保険はかけておくに限るよね。
そっちはジュウジュウ言い出すまで放置で平気なので、パン生地作りに戻る。
シュワシュワと泡立って発酵しているドライイースト液に、まずボウルに入れた茶色い粉を2分の1入れる。
それを柄の長いスプーンでグルグル混ぜる。この辺りはチャパティもどきを作った時と同じである。
とろろのようになるまで混ぜて、そこに油をカップ半分ぐらいガッと投入。まあ例の奴が落としたモノではあるが、使うことに躊躇いは……無い。無いのである。うむ。
グルグル混ぜる。
グルグル混ざったら、そこに塩を入れる。カップ3杯の小麦粉に対して、小さじ1が目安だ。
先に塩を入れてしまうと発酵が悪くなるそうなので、私はいつもこのタイミングだ。
いつもお世話になっていた〇ックパッ〇の皆さまには頭が上がらんな。うむ。
更にグルグル、そこに残りの粉を入れる。実はここでドライイーストの発酵が成功しているかが判るのだ。
グルグル混ぜると、生地がだんだんフワフワというか、ブワブワしてきて、粉がまだ残りつつもかなり表面がふんわり膨らんでくるのが成功だ。
失敗な時は、ボソボソする。まあどっちでもパンにはなるが、一次発酵の時の膨らみが格段に違うのだ。
ここで石板コンロの片方の2段目と3段目に「加湿」をかける。保温は石板の加熱と同時にやっているので、あと欲しいのは湿度だけなのだ。
発酵の準備である。暖かければラップして放置でいいのだが、ここにはラップが無いし、ボウルの数もある。こうしておけば、パン生地が乾かずに発酵できるだろう。
今回は量が多いから、粉がだいぶ残っているのにスプーンが動きにくくなった。そしたらスプーンを抜いて、ボウルに着いた粉を指先にまぶしてスプーンの生地を落として。
そこからはボウルの中で手で混ぜて、粉っぽさが無くなったら、まず半分を作業台の石テーブルの上に出して、叩きこねるのだ。…あまり量が多くてもこねにくいんである。
ぐいぐい手の平の下の部分でこねると、水分が粉に満遍なく行き渡って生地が柔らかくなった。
柔らかくならなければ、そこにバターを入れてこねるか、ぬるま湯で指先を濡らして両手の平に伸ばし、それでパン生地をこねるのだ。
しかしここで余り柔らかくしてしまうと、一次発酵が終わった時に手やボウルに貼りつきまくるので注意だ。柔らかくなりすぎたら叩きながら生地を乾かして調度良くするか、台に小麦粉を少し出してこね入れる。
発酵すれば柔らかくなるので、叩きこねる時に手に貼りつかない程度にしておくのである。最初のうちはよく失敗したものだ。
いやしかし、身体強化って本当にすごいな~~~。パン生地こねるのがめっちゃ楽。
使えなかったら絶対この量のパン生地、一気にこねるなんて無理だ。
……なんか私、料理してる時に一番魔力を重宝してる気がするな。
バンバン叩きこねる音に、見ている男たちがビクビクしている。
いい具合になったので丸めてボウルに戻して、もう半分も同じようにしてから、先の生地と仲良く並べて入れて保温と加湿をしておいたところに入れる。一次発酵だ。
そこで肉がジュウジュウ言い出した。
火力を中火に落とす。焦げては困るのである。
片面を焼いている間に後の9つのボウルもこねて入れた。身体強化を速度に多めに振って、一気にこねたのだ。
たぶん手元が見えなくなっていたと思われる。
叩きつける音がズバババババ! って繋がっていたしね。
肉をひっくり返して、軽く塩コショウ。
ひっくり返すのは木でできたフライ返しだ。
残ったドライイースト液にも粉を入れてこねた。結局ボウルは30個できた。ということは1人3個は食べれる計算だ。
茶色い小麦粉は強力粉と同じ感じで良さそうだ。ひと安心する。
合間を見てこっそりカップ6杯の少量でも作っておいた。計算したら私とニルヴァス様の分が無かったからである。
ロジ少年に収納袋を渡して、木皿を出しておいてもらう。他の人にも手伝ってもらって作業台に積んでもらった。
もう片面を焼いている間に、バターを壺からボウルに出して塩を入れて練り練り。すぐ使うので、まあ洗わないでも良かろう。10個のボウルに分けて作った。スプーンを一応突っ込んでおく。
ロンさんに渡す時に「これ何だ」と訊かれたので「茹でたジャガイモに付けて食べるんだよ」と教えた。
さてと。
ジャガイモが茹で上がってきたようだ。大きく切って、一気に茹でるものだから、時間がやはりかかるのだろう。フタが無いし。
なかなかのタイミングじゃないかね?
収納袋からフォークを出して、使っていないボウルにドカッと入れてもらった。
それを広場に持って行って、取って行ってもらうように頼む。
肉が焼けた。
積まれた木皿に、ステーキを1枚ずつ載せていく。
それをどんどん広場に運んで配ってもらう。
そこに茹でたジャガイモを載せて、バターを塗ってセット完了だ。
野菜の浅漬けは、30個のボウルに分けて配る。これはサラダのつもりなので、皿には載せたくなかったのだ。
皆で分け合って食べて欲しいと思う。
今日のポルカのご飯は、じゃがバターとステーキと野菜の浅漬けサラダだ。
ああ、いい匂~~~い!!
サラダを配り終えて見渡すと、皆、すごいガツガツ食べていた。
見える範囲で2人以外の顔が見えない。皆が皿を覗き込むように食べているので、髪の毛か後頭部しか見えないせいである。
顔が見える2人のロジ少年とロンさんが、ゆっくりと味わっている様子に微笑ましくなる。
私は一度、調理小屋に戻った。
実は角に近い所に単体コンロを作り、その角とコンロとの間に、平らな台を付けた祭壇をこっそり作っておいたのである。
ジャガイモは無い。
「ジャガイモはポルカの人の分しか用意してない」と申し訳なさそうに言われたので、「この後に肉屋の所でまた料理を作るので、そっちでも食べるので気にしないで」と伝えたのだ。
なので、お皿に肉とサラダを離して盛り、フォークを添えて祭壇に置く。
「ニルヴァス様、ごはんですよ」
こそっと言う。
まあ変な人だと思われたくはないので。
自分のお皿に肉を載せて、部屋を出る時に祭壇を振り向いた。
祭壇の皿は、消えていた。
今度、消える所を見てみたいな。
そんなことを考えながら、私はロジ少年とロンさんのいる所に混ざりに行った。
「ヨリ、うまい! これうまい!」
ロジ少年が噛みながら顔を輝かせて、一生懸命伝えてくれる。
「ふんん~~! ふんん~~!」
と、それに頷きながらモグモグしているロンさんが、眉間にシワを寄せた真面目な顔で必死に私に何か言ってくる。
うん、判らない。でもまあ美味しいと思ってくれているのは伝わってくるので頷いておいた。
私は顔をニヤけさせながら、ボウルの野菜を盛りっとフォークですくって、バクッと食べた。
「ふふ~~~~ん!」
口いっぱいに頬張って「うま~~~~い!」と叫ぶ。
浅漬けサラダは美味しかった。野菜が甘い! 甘いよ~~~~!
うまうま。
それを見た周りの人たちが、同じようにフォークでサラダをすくって食べ始める。
其処此処で「ん!」「ん~!」という声が聞こえだす。ふはは、美味かろう。
肉は当然ながら、サラダもあっという間に無くなった。
中でもジャガバターは、ものすごく皆に衝撃を与えたらしい。
バターの作り方を訊かれ、生クリームが獲れるのが肉ダンジョン(私の中では食材ダンジョンだが)の下層だと教えると、ソルを筆頭に森に行ったメンバーの目が変わった。
私はそこでもうひと押ししておく。
「付与と治癒があれば、あとは身体強化使えたら、たぶん楽勝だよ」
メンバーの目がギラリと光った。
その意気込みなら身体強化を覚える日も近そうだ。
思惑通りである。
人は美味いものを一度食べたら忘れないし、それがもう少しの苦労で手に入るなら諦められない。
料理も早く覚えてくれるといいのだ。私が作れるモノを全部教えてあげたい。
そして自分たちで考えた料理を、いつかでいいから是非とも私に食べさせて欲しい。
そしてレシピを教えてもらうのだ。
私は満足な顔で談笑するポルカの人たちを見て、改めてポルカの生活向上をモットーに頑張ることを決意した。
その後、ジャガイモをもらって粉ふき芋をまた大量生産して、平パンを作った。
街のポルカの子供たちに持って行く用である。
薄パンではなく平パンにしたのは、そっちの方が食べた感があるからだ。
借りた大鍋はベコベコと変形していたので、直しておいた。怪力でではなく、土魔法で。
粉ふき芋を煮ている間、平パンをこねるのをポルカの人たちが手伝ってくれた。
先ほどジャガイモを煮ていた人たちが料理番だったようで、その人たちが率先して動いてくれる。
女性が居ないな。そう思いつつ、作業を進めた。
石板にどんどん載せて焼いて、収納袋に入れていく。
手伝ってもらって手が空いた合間に、一次発酵が終わったパン生地を、1つのボウルで25個になるように丸めて台の上に並べ、固く絞った布巾をかけて、15分~20分のベンチタイムをとる。
その後、麺棒を出して縦の楕円に伸ばし、手前からクルクル巻いていく。
ちなみに普通、フランスパンは楕円に伸ばしたら両側から内側に巻いて、専用の硬い布で包み、洗濯バサミみたいなもので両端を止めて二次発酵する。
だが私は持っていなかったので、普通に片側からクルッと巻いて、端っこを下にして二次発酵していた。
大丈夫だ。問題ない!
巻きあがったものは、加湿と保温のかかった、一次発酵にも使ったところに並べていく。
平パンをこね終わって手が空いた人たちに、麺棒を渡して同じようにやってもらった。形が歪もうと気にしない。どんどんやってもらう。まさにアメーバ形になっていたが、巻けば問題無いのである。
二次発酵の場所が足りないので、もう1つの石板コンロの下にも「保温」と「加湿」をかけた。
巻いてもらっている間に、粉ふき芋が煮えた。
塩を振り入れて煽り混ぜ、そこにパセリを振って、さらに煽り混ぜる。
料理番の人たちが見ていた。
この鍋にはフタが無い。街に行ったらフタを探して、是非とも彼らにもやってもらおうと思った。
できた粉ふき芋を瓶に入れていく。
それが終わると、パンも巻き終わっていた。
これで1時間弱、二次発酵をして焼くのである。
焼ける匂いと一緒に食べて欲しいので、片付けやら話やらして時間をつぶして待つ。
二次発酵が充分と見たところで、時間停止をかけた。
これで発酵しすぎることがない。便利過ぎるな付与魔術。
さあ出かけよう。
時間を潰している間に調理小屋で寝泊まりしていいという許可をもらえた。
今から街に行って、肉屋との約束の時間までにさつま芋が買えるといい。
そんでそれを街のポルカの子供たちに持って行って皆の様子をチェックだね。
「行ってくるね」と手を振って村を出る。
すぐ加速だ。時は金なり。
さつま芋、あるといいんだけどな。
私の頭の中は、オレンジなお宝の事でいっぱいであった。
品数が増えるだけで、こんなに話が長く…。いやパンだ! パンのせいだ!
今回はジャガイモが茹で上がるまでに他のメニューをそろえ、これから出かけるので時間のかかるパンを先に準備するために、いつも以上にスピード重視で淡々と作りました。
ご助言をいただきまして、フランスパンをフランスパン風のパンと変更しました。
ご助言をくださる皆さま、いつも感謝しております。ありがとうございます^^
フランスパンでは無く、ロールパンではという疑問をいただいて、実は巻くのは私個人のやり方だったと思い出し、そこの部分を少し加筆しました。
あのセリフが書きたかったわけでは……。
お待ちかね(?)の料理パートでした。
でも大したモノ作ってないのに、長い! 長いよ~~~~><