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さあ美味しいモノを食べようか  作者: 青ぶどう
23/91

23.その時 ロジは。   (3月26日修正&加筆)

「ロジ! 起きろよロジ!」


 俺は揺すられて目を覚ました。


「悪いハギ、疲れて寝ちまってた」


「いいよほら、帰ろうぜ」


 俺はハギと歩き出した。街が左に遠ざかる。

 俺たちポルカの大人は、村を作っている。肉ダンジョンを超えた奥。そこで暮らしてダンジョンに潜るのだ。村には俺ぐらいの男から爺さんまでいっぱいいる。女は居ない。女は街のポルカからそのまま娼館や店の下働きにもらわれて行くからだ。

 寝ている間にだいぶ暗くなっていた。俺とハギは急いで歩く。


「おうロジ、ダンジョン中でよう…」


 ハギが隣から聞きにくそうに訊いてくる。

 俺たちは時々、湧きのために無理やりダンジョンに連れてかれることがある。まあそんな奴らは冒険者崩れか街の人間にしか居ない。ちゃんと潜る奴らは俺らみたいな足手纏いを嫌がるからだ。

 ハギは俺がそういうのに捕まったと思ってるんだろうか。あんとき手を振ってみせたのにな。


「あん? ありゃ雇われてさ。あの中の女がダンジョンが初めてだっつーから」


 言ってみて、本当のことではあるが、なんか違うなーと感じた。


「まあ恩人でもあるし、仲良くなってな」


 うん、これがしっくりくるか。

 ハギがそれを聞いて目に見えてほっとした。


「そっか」


 それに笑いながら言う。


「だから手え振っただろが」


「そんなんびっくりして見てるかよ」


 歩きながらダンジョン内でのことを話す。飯が美味かったこと、途中で肉屋の連中に会ったことも。まあボス部屋のことを話す前に村に着いたのは良かったかもしれねえ。絶対ウソだって言われっからな。



 村に入りながら下層に入るときの話をしようとしたら。


「ロジ! ソルさんが呼んでる。すぐに来いってさ」


 村に入ってすぐに言われた。俺たちの小屋に向かう途中だった。

 話を止めてハギと顔を見合わせる。


「俺行ってくるわ」


「おい?」


「何のことか解ってっから」


 たぶんポルカの子供らに飯を持ってくのが遅れたことだろう。

 ポルカの子供らに持ってく水は、ここの裏の川から汲んでいく。俺が昨日じゃなく今朝汲んでたから、そりゃ判るだろう。子供らの誰かが取返しのつかないことになっていた可能性もあった。叱られるのは当然のことだ。

 俺は神妙な気持ちでソルさんが待つ小屋に向かった。


 ここでは小屋1つにつき、俺たちみたいな身体の小さいのは8人ずつ、中くらいのは5人ずつ、大きいのは3人ずつ住んでいる。ソルさんは大きいから3人小屋だ。


 ソルさんの小屋の前に立ち、深呼吸してから声をかける。呼ばれたときしか来ないし、呼ばれることもめったにない。緊張する。


「ソルさん! 来たよ!」


 声をかけた。とたんバタバタと扉に向かって来るいくつもの足音。びびっていると扉が勢いよく引かれ、6人の男たちが飛び出してきた。


「うぇ?!」


 思わず声が出ちまう。顔こええし。あれ、でも何でソルさんとこに6人も? てかソルさんいねえし。

 6人の中にはソルさんがいなかった。あれどこだと思っていたら。


「バカ! それじゃあロジが入れやしねえぞ!」


 ソルさんの声が奥から聞こえてきた。あ、居たと思ったが、じゃあこの小屋に7人も大きい男たちが居るってことか? と思ったら、なんだか怖くなってきた。まあそれだけの事をしたのは自分だ。しょうがねえよな。

 俺は覚悟を決めて小屋に入ったのだった。



 小屋に入って全員が座った。小屋の中にはさっきの6人とソルさん、俺、それに元冒険者で付与術師のロンさんの9人が居た。すっげえ狭い。9人が座って俺と対面するためには、俺は小屋のかどに座るしかなかった。

 全員に見られる俺。え、俺が自分から言い出すの待ってるってことか? 覚悟は決めてきた。さあ言うぞ!


「あの! 飯持ってくのが遅れて、反省してる。ごめんなさい」


 言って頭を思い切り下げた。

 ん? 待っても誰も何も言ってくれない。怒られるんじゃないのか?

 顔を恐る恐る上げてみると、目を丸くして首を傾げている男たち。

 あれ? 違ったのか?

 中の1人が言った。ソルさんといつも一緒にダンジョンに潜るミノさんだ。


「それはもう聞いてる。子供らは全員無事だったんだろう?」


 俺は頷いた。そういえば塩ダンジョンに入る前、塩ダンジョン小屋で待機してるサグ爺さんに言ったんだった。


「今度から気を付けろよ」


「うん」


 それで終わった。あれ? これで終わりか? 帰っていいのか? いいならいいって言ってくれるよな?

 そう言われることを期待していた俺は、すぐに諦めることになった。ソルさんが。


「今日、肉ダンジョンで黒い女に会った。お前の名前を言っていたが、知り合いか?」


 そう訊いてきたからだ。

 俺はびっくりしたが思い直して冷静になった。だってヨリのやつ、肉ダンジョンに行くって言ってたしな。頷いて言う。


「俺の恩人だよ。昨日、ポルカの子供らを助けてくれたんだ。俺が遅れちまったせいで飯が無い子供らに、飯くれて他にもいろいろしてくれたんだ」


 俺はそれから細かく教えた。ヨリがやってくれたこと。ダンジョンでのこと。肉屋の連中とのこと。

 今度はボス部屋のことも、異空間収納で運ばれたことも話した。もちろん飯を2回も食べたことも。

 信じてくれないかもと思いながら、見えないくらい速いことと、信じられないくらい簡単にモンスターを倒してしまったことも言った。


 付与魔術で持ち歩ける安全な場所を作ったところと、魔法攻撃ができるところにはロンさんが強く反応し、治癒と異空間収納で運ばれたところに他の7人は反応していた。

 中層に入るときに渡された金のことと今日の収穫品のことを言うと、狭すぎる小屋にこの人数では確認できないと、小屋の後ろにある空き地に移動して使い古された布を広げた。

 俺がまず金の袋を出してそこに置くと、シガさんとジルさんが数え始めた。それを任せて、他の物をどんどん出していく。


 塩83壺。コショウ48瓶。砂糖125壺。黒砂糖14壺。氷砂糖2袋。短剣2本。クシ1個。ネックレス1個。時計1個。


 はは。出してみるとすげえ量だ。

 俺1人なら、いいとこ塩が30個だ。街のやつらも来てるし、すぐ疲れちまうし、そんなに思うようには狩れねえ。

 それが今日は…。うん、びっくりするよな。

 俺は俺以上にびっくりしている皆を見ながら、ソルさんの方へ寄って行った。

 短剣と時計だけは自分が欲しい。ヨリがせっかく「もらっておきな」と言ってくれた物だから。






 +    +    +






 金は数え終わっていた。角銅貨100枚が10あった。あの女はバカなのか。こんな大金を…。

 並べても並べても終わらないドロップ品に、唖然とした。


 黒い女はポルカの子供らとロジの恩人だった。

 街のポルカを見に行きたくて仕方がないが、今は夜で門も開かない。我慢するしかなかった。

 ロジは黒い女とダンジョンに入り、下層はおろかボスまで倒したと言っていた。

 助けてもらった時にも「下層に行く」と言っていたのだ。ソロで臆面も無く中級ダンジョンの下層に行くのなら、初級ダンジョンである塩ダンジョンならボスなど容易いのかもしれない。


 14歳から俺も潜っている。ここらのダンジョンの中層までで装飾品がドロップしたことは無かった。なら下層から下しかない。ロジはウソを言うほどひねてはいない。なら事実だろう。

 ロジが何か言いたそうに見えた。


「ロジ、言いたいことは言っておけ」


 こういうのは獲ってきた者の意思を反映しなければ、後々不和の元になりかねない。言いたいことがあれば言ったほうがいい。

 俺に促されて、ロジは遠慮がちに言った。


「あの…時計と短剣は、俺がもらってもいいかな」


「お前が獲ってきた物だ。それぐらい当然だな」


 大きい声でハッキリ言ってやった。後で揉めるのはゴメンだ。これは他の奴への通達でもある。


 仲間の物を盗む奴がいるとは思っていない。

 スリをして捕まった奴が帰ってこないなんて経験は、どの世代でも子供の時に経験済みだ。俺たちが金品など売りに行けば同じ結果が見えている。

 この村に来る歳まで生きてる奴で、そこが分かってない馬鹿はいない。懸念したのは分配方法だ。


 収穫物は全部、村全体の物だ。そこから役人に決められた量を渡し、余裕があれば街に売りに行く。時々買いに来る奴もいるが。

 今までは肉とか塩とかだったからそれで済んでいたが、武器と金品となれば分けにくい。人数分あるわけじゃないからな。


 短剣は塩を獲るロジたちくらいしか使わないが、2本を5人で分ければ争いになるかもしれない。そうすれば仲違いから険悪になることもあるだろう。

 せっかく上手くいっている関係を壊す理由を作りたくないのだ。


 ならば獲ってきた本人に渡した方がいい。文句を言う奴が居れば「獲ってきたのはお前か」と言って黙らせればいいからな。


 そう考えてロジに短剣2本と時計を渡した。それをそこに居る全員が見守る。

 この村では今は俺が頭領だ。その俺と一緒にダンジョンに潜るやつらは側近のようなもの。その前で俺が決めて、反対する者が出なかったって事で、それらは間違いなくロジの物となった。






「後はいいのか?」


 訊いた。まあ塩と黒い粒以外は見たこともない物ばっかりで、何がなんだかわからないんだが。


「うん。明日ヨリとまた出かけるから、これだけあれば大丈夫だ」


 ロジが嬉しそうに爆弾発言をかました。

 俺たちは一斉にロジを見た。「また?」


「……その女と、また明日会う約束をしたってのか?」


 ノランが疑いながら訊いた。それはそうだろう。冒険者が俺たちを相手にすることはほとんど無い。

 今日はたまたまだったとしても、明日も会う約束など…。


「またダンジョンか?」


 俺が訊いた。冒険者はダンジョンに潜ってなんぼだからな。


「うーん、明日の午後は肉屋の連中と約束してたから、ダンジョンてことは無いと思う。朝9時に肉ダンジョンとこで待ち合わせだけど、ダンジョンには今日のうちに行くって言ってたし。あ、でも南の粉ダンジョンに連れてけって言われるかもしんねえ」


 3時間でダンジョンなんか、上層だけでなければ無理だ。


「そんな少ない時間じゃ、上層しか行けないぜ?」


 ユジが言った。同感だ。

 だがロジは首を振った。


「だって塩ダンジョンのボス部屋から中層まで3時間かかったかどうかだったし、移動と分配の時間のほうが長かったくらいだぜ? 俺だけ連れてくなら分配に時間なんかいらねえから、中層までは終わっちまうかも」


 俺たちじゃ考えられない速さだ。俺たちもそんだけ速けりゃもっと稼げるんだけどな。


 その女は「鑑定持ち」だと言っていたという。この知らない物の中身たちも知っていて、使い方まで知っているんだと。

 どんな価値があって、どれだけの値段で買い取ってもらえるかが俺たちポルカの人間には死活問題となる。肉屋には約束したという。なら俺たちにも教えてくれないだろうか。


 俺たちはラグに広げられたロジの戦利品たちをとりあえず異空間収納の袋に入れた。これをどうするかは使い道を知らないことには決まらない。


「なあロジ、明日じゃなくていいから、そのヨリって女ここに連れてこれるか?」


 脅しにならないように、ゆっくり力を抜いて話す。その女は俺たちの恩人でもあるし、物知りでもある。ロジに優しく、俺たちを助けるのにも一瞬のためらいも見せなかったのだ。

 まず。まずは今日の礼を言わねば気が済まない。ならば明日の朝ロジとの待ち合わせ場所に行けば会えるか。考えが変わったので、すぐに訂正した。


「いや、やっぱ俺らから行こう。明日の待ち合わせに俺たちも行く」


「あの…?」


 ロジが心配そうだ。あ? そう言えばロジには話していなかった。


「お礼を言いたいだけだ。肉ダンジョンでケガ治してもらったんだよ。俺は死ぬとこだったしな。ポルカの子供らの礼も言いたいし」


 言ってロジの頭をなでると、ロジは唖然としていた。


「ソルさん、死ぬとこだったって…」


 その頭をポンポンと軽く叩いて「もう戻っていいぞ。明日は9時だな」とロジを返した。

 その後、残りの8人で今後の方針を話し合う。

 まずは明日、ヨリって女に会う。そんで親しくなれればなる。やっぱ嫌なやつそうなら礼を言って終わり、ということになった。


 元冒険者でヨリと同じ付与術師のロンさんは、明日が待ちきれない様子でそわそわしている。ダンジョン内でケガをしているところを拾って以来ここに居る男だ。俺たちとはできない話がしたくて仕方ないのかもしれない。

 さて寝るか。

 俺たちは各々に割り当てられた小屋に向かった。




 +    +    +




 ヨリはソルさんたちを助けたらしい。

 そんで剣にいろいろ付与して去ってった。そう小屋に帰る途中で追いついてきたノランさんが教えてくれた。

 ローブばさってやったらユジさんたちが出てきてびっくりしたって話をされたから、「俺もそれやられた」と言った。仲間意識かな? ノランさんとちょっと仲良くなれた気がしてうれしかった。

 ヨリのことばっかり話して俺の小屋の前で別れた。去り際に頭をなでられた。…ヨリも肉屋もソルさんもノランさんも。今日はやけに頭なでられる日だな。

 そんなことを思いながら小屋に入った俺は、すぐにハギに捕まって同じことを言わされるハメになった。





 うーー、いい加減眠いんだけどな~~。

 結局話してる最中に、全員がいつの間にか寝てたって朝に気が付いた。

 あー、身体いて。今何時だ?

 時計を出して見る。うん、教えてもらったけど、やっぱ判んねえわ。

 顔洗って行くか。








ヨリがニルヴァス様と団らんしてる間のロジ少年です。


次はソルたちとヨリが再会します。

どういう展開になるんでしょうかね。



ソルがロジに短剣と時計を渡すあたりを、大幅に修正&加筆しました。

当時はまだ設定がうろうろしてる状態だったので、書き直せてスッキリしました。


ダルをジルに変えました。

認識の違いを表現するために、食材ダンジョンを肉ダンジョンに変えました。

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