22.質問と納得 (5月1日修正&加筆)
いろいろなことがわかります。
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22.質問と納得
「10年前にはもう私に決まっていたと?」
「うむ、おぬしに決まっていたのである」
「10年、ずっと見られていたと」
「うむ」
おおう、ストーカー自白だよ。いやここは「神に見守られていたー!」とか言って喜ぶところなのか。
「おぬしの世界の神に足りない物を1つずつ譲り受けて、ダンジョンに設置すること10年。ようやく呼べたというわけである。うむ、感無量である!」
ニルヴァス様、涙拭いちゃってるし。
「じゃあ味噌と醤油とみりんと酢とソースはダンジョンには無いんですか?」
そうだ、私は無いと思って頼んだのだ。工場やレシピまで。
「あるのだが、魔大陸にあるのでな。なんとか交渉して現物だけは譲り受けたが、ダンジョンに設置する権利は交渉できておらんのだ」
「魔大陸? 交渉ですか?」
「うむ、ダンジョンの創り方を教えてくれた魔神が住んでおる。おぬしの世界に食材を譲り受ける案も、そやつが出したのである」
「交渉とは?」
「おぬしの世界の神は、1つの物は1度しかくれぬのだ。早い者勝ちとやらで、我が先に獲った物、あやつが先に獲った物とがあり、先に獲った方がダンジョンや地に植え増やす権利が得られるのである。相手の物が欲しければ交渉せねばならん」
「そんなことになっていたんですね…」
うん、びっくり。
本当にびっくりだ。
「交渉でもらった現物の、今ある物が無くなれば、また交渉でもらうのですか?」
「交渉が成立しておるので、生やしたりダンジョンに設置しないのであれば、数はいくらでも増やせるのである。工場とレシピは、おぬしが欲しいと言ったので創っただけであるぞ」
あ、そう。じゃあ工場無くて良かったんかい。
「じゃあ醤油も味噌もみりんも酢もソースも使い放題だと?」
「うむ、その通りであるな」
「欲しくなったら言えばいいのですか?」
「む? 異空間収納部屋の中で念じれば良い」
「助かります」
無くなる心配が無ければ、節約せずとも良い。自分たち用にガンガン使っていこうと思う。
「ああ、話が戻りますが」
そう、あれも訊かないと。
「肉がダンジョンにしか無いって言われたんですがね。こっちでは、ダンジョン以外で動物を狩って食べるとか、飼育して食べるとか、しないんですか?」
鳥はいたんだよね。あれ撃ち落として食べたりしないのだろうか。
「すでに食べられる動物は絶滅しておる。今おるのは食べるところが無いほど小さいか、毒を持った種のみであるな」
「絶滅って乱獲でもしましたか? それとも病気とか?」
「知らぬ。我がひと眠りしておった間にそうなっておったのだ」
「はあ」
神様のひと眠りって何年だろうか。寝て起きたら動物がほぼ絶滅していたとか、少なくとも100年か200年ぐらい?
「我が眠りに入っておる間に民族同士で争いがあったようであるが、他民族を排除して王都を構えた民族がおってな。その者らは肉が主食であったゆえ、そのせいかもしれぬとは考えておる」
「では今いる人々は、その民族の子孫ですか」
「貴族など身分の高い者達はそうであるが、平民の中には他民族の生き残りもおるぞ。そんなわけで我が目覚めた時には、飢餓で人の数がかなり減っておったのだ。そこで我は魔神と一緒におぬしの世界から作物を譲り受けて植え、ジャガイモや人参など年中採れ、大きく育つものだけが栽培されるようになった、というわけである。ダンジョンにあるのは選ばれなかった野菜たちなのだ」
民族同士で争うのは、別に珍しくもない。大きく育つ物しか栽培しないのも、ただ単に一つが大きければその分大勢が食べられる、もしくは1人当たりがたくさん食べられると判断された結果に過ぎないだろう。
そう言うと、ニルヴァス様は「そうであったかもしれぬな」としきりに頷いていた。
「放っておこうって気にはならなかったのですか」
「放っておけと言われたのであるが、できぬ事はできぬのである」
胸を張って言ったニルヴァス様が眩しい。この世界の人たちは、ニルヴァス様にもっと感謝すべきだと思った。
食材が元いた世界と同じものが多い理由、市場に並んでいる畑の作物の種類が少ない理由に納得がいった。だがまだ残っている疑問もある。
「しかし、なんで肉がそのままドロップするんですか? ホルモンとレバー、手羽先とか、まあ唖然としてしまうものもありましたし。牛とか豚をドロップさせれば良かったのでは?」
「そこは世界間の縛りであるな。生き物はそのまま持ってこれぬゆえ。おぬしも一度死なねばならなかったのは、その縛りのせいであるのでな」
「ああ、それが縛りですか」
「うむ」
そうか、そういうことね。生きていない肉塊ならいいと。
「だいぶ疑問が片付きました」
「何かあれば、また訊くがよいぞ。おぬしには期待しておるでな」
「ありがとうございます。ニルヴァス様が食材頑張って集めてくれたおかげですよ」
とりあえず訊きたいことは訊けたかな? 何か忘れてないかな~?
「あ、調味料ダンジョンに、わさびと和がらしと生姜がありませんでしたけど、どこかにあるんですか?」
「む? 生姜であればその辺りの森や山で鑑定すればどこかにあるはずであるぞ。わさびと和がらしは魔大陸のダンジョンにしか無いであろう。あやつに先に獲られてしまったのである。目下交渉中ではあるがな」
「是非とも頑張ってください。ところで私はその魔大陸というところに行けるんですか? 大陸と言うからには、今いる大陸とは違うのでしょう」
「うむ、今いるのが人の住む大陸で、魔大陸は海を挟んだ向こう側にあるのだがな」
「海」
そうか、海があるのか。大陸が空飛んでるとかは無かったか。
「魔力の壁で遮断しておるので海を渡っては行けぬようになっておる」
「ではどうやって」
「海沿いにあるダンジョンのボス部屋まで行けば、魔大陸と繋がっているのである」
「海沿いというからには、魚介類がドロップするのでしょうね?」
「うむ。魚であるな。エビやイカなども設置した覚えがあるのである」
「魚介ダンジョンはそこまで行かないと無いのですね?」
「うむ。魚介ダンジョンはそこにしか無いのである」
「了解です」
いい情報が聞けたな。
「他のダンジョンの情報も聞かせてくださいよ。特に出汁関係が欲しいですね」
「ふむ。出汁は乾物ダンジョンに設置したのである。おぬしが使っていた鰹ぶりなんとかというのと、追い鰹なんたらというのがあるのである」
「は? どこですか? ソレどこですか?!」
私がこよなく愛する出汁まで持ってきてくれてあるらしい。あれは是非とも確保したい。
テーブルの上に身体を乗り出して問い詰める私に、ニルヴァス様が退いている。
「うむ。大陸の北、ここからであれば真っ直ぐ西に向かえばあるのである。そこには麺ダンジョンも設置してあるので、我はうどんが食べたいのである」
ニルヴァス様は麺類ではうどんがまず食べたいらしい。
「じゃあネギも要りますね。竹輪かカマボコも欲しいですよ。有るのと無いのでは、非常に味が変わります。ちなみに私の好みは竹輪です!」
「む、竹輪とカマボコであるか。ふむ……ふむ。乾物ダンジョンに空きがあるの。おぬしがそこに行くまでには乾物ダンジョンでドロップするようにしておくのである」
「お願いします!」
ふむふむ目をつぶって、何やら調べていたのだろうか。ニルヴァス様は竹輪とカマボコを約束してくれた。
私だってうどんが食べたい。ほうれん草も唐辛子もあることだしね!
「あ、天ぷら! エビは魚介まで我慢するとして、野菜の天ぷらしましょうね! あ、薄力粉とベーキングパウダーが要る!」
「む! 薄力粉とベーキングとやらは、ここのおぬしがまだ行ってないダンジョンにあるぞ! 粉ダンジョンにしてあるゆえな! ネギならショウガと同じでその辺りの森や山にいくらでも生えておる!」
食べたい物の材料が揃いそうな予感にニルヴァス様も前のめりになってきた。
そして粉ダンジョン。私のテンション上昇は止まらない。
「他に粉ダンジョンには何があるんですか?!」
「うむ! ハチミツと片くり粉とドライなんとかとコンソメとシナモンである! あと何かあったのであるが、なんであったか…?」
「ドライなんとかって、もしかしてドライイーストですか?!」
「うむ、そんな名前だったようであるかな!」
おおおおおお! ハチミツに片くり粉にドライイーストにコンソメにシナモン!
ん? 何で粉ダンジョンにハチミツとコンソメ?
いきなり私、冷静に。
「粉ダンジョンに何故ハチミツとコンソメが?」
「む? たまたま空いていた場所に設置したのあるぞ?」
「粉ダンジョンだから粉しか無いというワケではないんですね」
「うむ! まあここ10年で増やしたものには、そういう物が多いのである!」
「まあいいです。片くり粉とドライイースト、コンソメがあると聞いては、じっとしているわけにはいきません。今から行ってきます」
「うむ。何ができるか楽しみにしているのである!」
「はい! コンソメあれば、ポトフももっと美味しくなりますから」
やー、腕が鳴る鳴る! ん? そういえば私、昨日まともに寝てないのに全然眠くないな。
「ニルヴァス様、そういえば私、疲れない、眠くない、トイレが近くないんですが」
うん、時間を確認。もう0時を回っている。
「ぬ? 疲れて眠くなってしまえばダンジョンや旅先で危険であろう? 排泄の類も同じであるぞ? 眠くなくとも寝ようと思えば眠れるし、しようと思えば排泄もできるのである」
「そうですか」
神様仕様だった。
とにかく行こう粉ダンジョン! ドライイーストでパンパンパンパン~~~~~!! 片くり粉で唐揚げ唐揚げ唐揚げ唐揚げ~~~~~!!
うどんの前に作れる物がいっぱいある。まずはそれを目指すのだ。
食材ダンジョンを鳥居祭壇を使ってショートカットして上層に出て、そこから最加速で南のダンジョンを目指す。上層のモンスターは当然無視。朝9時までに戻ってこなければならないからだ。
1日でダンジョン3つか。疲れない眠くないって捗るな~~。
ニルヴァス様の用意周到ぶりに、本当に感心する。しかも欲しいって言った食材をすぐ用意してくれるとか、ほんと頼れる。
美味しい物が食べたい同志への尊敬を胸に。私、頑張るよーー!!
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疑問がだいぶ解消しました。
ヨリは新たなダンジョン情報に興奮。ニルヴァス様は新たなメニューの予感に興奮しました。
次はポルカからお送りしたいと思います。
ニルヴァス様の性格では、飢餓状態になっていくのを見過ごせないですよね。




