2.神様のホンキと出発
異世界にやってきました。
まずは色々、確認ですよね。
確認ってほんと大事です。
********************************************
2.神様のホンキと出発
感じる風は気持ちよく、草と土の匂いがする。
ぐるりと見渡せばちょっと遠くに森と山が見える。川や湖は見えない。潮の匂いがしないから、海も近くはないんだろう。
耳を澄ますと風の音がかすかに聞こえるのみで、人の気配は無かった。
声を出して伸びをして、首や手首、足首などを回して自分の新しい身体を確かめる。
10歳も若返ったので、関節の軽さが違う。そう、10年前はボキボキ鳴らなかったんだよ。
さて、次に重要なのが、ニルヴァス様と詰めた設定が生きてるかどうかの確認である。
まず、鑑定スキルというものは絶対欲しいと言っておいた。
食材が元の世界とまったく同じならいいが、そうでないモノをこちらの世界で尋ねれば、かなり怪しまれる。
何に使うかまでは判らなくとも、名前と毒の有無、生食可能かどうかくらいは判らねば、命の危険もありうる。
足元の草にさっそくかけてみたら、「雑草。食用不可」と草の上の空間に文字が出た。
昔やっていたオンラインゲームのようである。懐かしい。
空を飛ぶ鳥にかけてみると、かなり豆粒に見えるくらい遠いのに、文字は判別できたので、ある程度遠くても鑑定できることがわかった。よしよし。
次に、でかい異空間収納。もちろん中の空間は自由に設定できるようにしてと希望しておいたがどうだろうか。
味噌、醤油、みりん、酢、ソースが無ければ、至高の御飯は作れない。(あくまで私基準)
素人の私ではとても作れない云々を力説したところ、それぞれ専用の作業空間を作ってくれることになっていた。
もちろん作り方など知らない素人なので、レシピと機材はニルヴァス様が用意してくれると言っていたが果たして…。
何もない目の前に、入り口をイメージする。蜃気楼のように空気が揺らいだかと思ったらドアが現れた。
私が住んでたアパートの、トイレのドアが。
…しばし熟考。うん納得。そういえばドアは玄関とトイレにしか無かった。木のドアを連想したからトイレのになったっぽい。
納得したところで開ける。ドアノブを回すと手前に開いた。そして目の前には幅広の廊下が奥に伸びている。左右の壁は白くて高く、それぞれに引き戸が5つずつ等間隔に続いていた。
入り口を閉めるとドアが消えて白い壁になった。また入り口をイメージしたら、ドアが現れて外に出れたので安心して、心おきなく異空間収納の探索に乗り出す。
手前から順番に行こう。まずは我が心の調味料達を探さねば。
なんとなく引き戸同士の間隔で、調味料部屋は左側、作業部屋は右側と予想する。
5つずつというのは、お願いした調味料の数だ。それぞれがそうなのだろう。
はい一つ目、味噌樽発見、白味噌、赤味噌(私の好みで八丁味噌である。)麦味噌。素晴らしい。すぐに脳内を味噌料理が駆け巡る。ぬ、唾液が。
二つ目、茶色い醤油甕が部屋中に。刺身、刺身、刺身~~~~~~~! なんとニルヴァス様は、刺身を食されたことが無いと言っていた。すぐさまお供えしてさしあげたいな!
三つ目、私の心の友みりん君の瓶がズラリ。みりんを使わない人もいるみたいだけど、私はよく使う。てか無いと泣く。みりんは、醤油と砂糖を繋ぐ架け橋だと思う。
四つ目、酢。ガラス瓶のように透明な瓶に入っている。鑑定すると「透明瓶」とある。ガラスとは言わないようだ。
酢はドレッシングには欠かせないし、私は甘酢味の漬物が大好きだ。香辛料が使われてないなら、卵と油と塩と酢で、マヨネーズ様を作るべし。ああ、生野菜欲しい、サラダ食べたいなー。
五つ目、ソース。うん、頼んでおいた通りの濃いめだ。醤油と区別するためか、甕の色が黒い。トンカツ、フライ、ハンバーグ。すぐに思い浮かぶのは3種しかない。だが、この3種が世の中に無くなることを思い浮かべてみて欲しい。…ダメだ、涙が止まらない。ね、ソースって偉大過ぎるよ。
涙を拭いて廊下の反対側へレッツらゴーである。
廊下の奥まで来ていたので、反対側は奥から見ていく。
各部屋は予想通り作業部屋になっていて、でかい鍋やらいろいろあった。
レシピは壁に貼ってあり、蒸したりつぶしたり漉したり、材料を入れるタイミングなども書いてあって、本当にニルヴァス様最高だと思った。
やれと言って全て丸投げされても出来ないものは出来ないのである。
元の世界に存在したダメ上司どもは、是非とも見習うべきだと思わんかね諸君。
すべての部屋を見て回り、ふと思った。そして声に出た。
「食材用の部屋も欲しいんだよね。冷蔵庫と冷凍庫あったら言うことないし」
ぉおおおお~~~、ニルヴァス様ファンタスティックです!!
壁にドアが4つ追加された。
うん、ニルヴァス様、美食のためになんでもする気だ。
揚げなすの肉味噌掛けが、いかに美味しいかを語り聞かせたのが効いたようである。
そして、絶対に困るであろう調理器具は、こちらの世界にある素材で作ってもらうことにした。
ほとんどが木製ではあるが、表面がしっかりと磨かれていて、まったく不満の出ない出来栄えだ。
私が使っていた調理器具とキッチンを、解説しながら見せたのが良かったのかな。
それらは後から増えた部屋の一つに用意されていて、棚には木製の食器類もどっさりあった。
とりあえず、小~大のボウルと泡立て器と計量カップに計量スプーン、5種の調味料を入れた小~中の蓋付の瓶たち、おたまとフライ返しと菜箸と両手に持ち手が付いた、これは鉄製ぽい中華鍋と、自分用とお供え用にいくつかの食器がリュックに入って私の背中で揺れている。
斜め掛け鞄には、手ぬぐいらしき布が5枚、お金が入った革袋、元の世界の竹みたいに節のある筒状の物。振ってみると液体だったので、飲んでみたら水だった。
けっこうな大荷物だと思うのだが、ほとんど重さを感じない。何かの不思議アイテムなんだろう、助かってるから気にしないことにした。
その後、自分を鑑定したら、ニルヴァス様が色々考えてくれたんだということが良く判った。ほんとにいいのかってくらい色々。長くなるのでここでは割愛したいと思う。
ニルヴァス様は、ここまでしてくれた。私も約束を守りたいと思う。信頼には応えたいタイプである。
ニルヴァス様との会話を思い出す。
ニルヴァス様が唯一食べられるのは、「祭壇にお供えされたもの」なのだそうだ。なので私に求められているのは、「祭壇を作り、料理をお供えすること」である。
「行ったばかりで右も左も何もわからない。まだ美味しいものが作れるかもわからないがいいのか」と訊くと、それはいいのだと言う。
「不味いものには慣れておるでな」
胸を張って笑顔でそのセリフ、どんだけ不味いものばっかなんだろう。
祭壇なんか作り方知らないよと言ったら、石でも木でも土でも、地面より少し高くして、その上に置くなり前に供えるなりすればいいらしい。ニルヴァス様が可哀想になって、思い出した今もちょっと泣きそうになってしまった。
まあいい。まずはこの世界の食文化に触れてみなければ何もわかるまい。
どんな食材があるかチェックしないことには動きようがないから、まずはこの世界の料理を食べる。私には何もないところから料理を作るような芸当はできないのである。
てことで出発である。
さて街はどっちかな…。
確か「探索」というスキルをもらっていたので、さっそく使ってみる。
「ここから一番近くの街」
目を閉じると脳裏にこの辺りの地図が思い浮かんだ。行ったこともない場所がすぐに解るなんて、なんて素晴らしい。
「こっちか」
右に歩き始める。ここから目的の街までの真ん中あたりには村があるので、そこで何か食べるのもいいかもしれないな。
************************************************
神様の本気を感じました。
おかげでやる気が非常にアップ。
さあ次こそは実食!
1月3日、収納空間を異空間収納に変更しました。
スマホの方が読みにくいとのご指摘で、段落を多めに、「」内の。を取りました。