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さあ美味しいモノを食べようか  作者: 青ぶどう
17/91

17.塩ダンジョン ボス部屋にて

 ボス部屋です。

 ********************************************

 17.塩ダンジョン ボス部屋にて



 下層を走り抜ける。

 ザーラの居る地面を走るより天井を走ったほうが早い。そう途中から気が付いた。邪魔が無くなったので更に加速。

 魔法の考察に5分ほど時間を取られたが、それから10分もかからずにボス部屋前に着いたと思う。


 ボス部屋前にはもう一つの部屋があって、当然ながらザーラが居た。肉屋たちとロジ少年を出す前に、私はそこを「鎌鼬かまいたち」で範囲攻撃する。これいいな。範囲攻撃ってあこがれてたんだよね。

 砂糖と唐辛子と黒砂糖の壺を拾った。通過しながら見たが、どの部屋にも赤と青のが1匹ずつ居た。

 あれらが必ずコレらを落とすなら、下層のレアは別の物ということだ。帰りのお楽しみである。


 私はローブを脱いでぶわりと広げて振るう。肉屋たちとロジ少年がポンと出てくる。

 時間停止がかかっているので、彼らは入れられた時のまま立って出てきた。


「ボス部屋へようこそ」


 逃がしはしない。逃げられはしない。

 ロジ少年は頷いて、「ふっ」と気合を入れた。

 肉屋たちは状況が解っていなかった。

 キョロキョロして景色が変わっていることを不審に思っている様子だ。

 教えてあげる。


「下層跳ばしてボス部屋にきたんだよ」


 肉屋たちがこっちを見て固まった。






 +    +    +





 ヨリが「ボス部屋行こう」と馬鹿なことを言い始めたから、俺たちは口々に罵った。「あほか」「ばかか」「行けるわけない」「殺す気か」などなど。

 ヨリはそれに表情を変えたりも言い返したりもしなかった。ただ、消えた。

 と思ったら広い部屋に居て、どこに居るかもわからずに俺たちは周りを見渡す。

 そこにヨリからの爆弾発言があった。


「下層跳ばしてボス部屋にきた」と。


「「「「「はあ?!」」」」」


 俺たち全員が素っ頓狂な声で叫んでいた。


「だって時間が無いっていうからさ。先にここやれば後は帰るだけだから、時間の節約になるかと思って」


 いやボスなんて普通やらないだろ? 下層も無理なのに「じゃあボス部屋ね」って意味判らんわ!

 思ったので言ってやった。ヨリはイイ笑顔で。


「言ったじゃん。下層にはもっといいものがあると思うって。下層には何と砂糖と唐辛子と黒砂糖があったんだよ? じゃあボス部屋にはどんな良いものがドロップするのかって、気になるのが普通だと思うんだけど」


「思わない。そのなんとかってドロップ品も解らんしな」


 鼻を鳴らして即答したら、「ええ?!」って顔された。こっちが「ええ?!」だぜ。


 とにもかくにもボス部屋はすぐ先にあると言う。

 訳も判らず無抵抗にここまで連れてこられたってことは、俺たちは最初から連れて来られる予定だったってことだな。パーティーを組んだ時には決まっていた運命だったのかもしれん。


 どうせ逃げても、ヨリがいなければ下層を突破することなどできないだろう絶対に。あのシェルターはボスにも効くんだろうか。それを願いつつ俺は特大鞄をよいしょっと背負せおう位置を直して仲間たちの所に行くのだった。






 +    +    +






 目の前が見たことない景色になったとき、「ああ、着いたんだ」って思った。

 俺はヨリから「ボス部屋まで行く」と聞かされていたし、あのシェルターとかいうのもすごかったし、正直ボスもイケんじゃないかって思い始めたとこだ。

 もちろん死ぬのは怖いけど、じゃあ生きてて良いことあんのかって訊かれると……「ある」って言えねえんだよな。


 今まで一番うまかった飯はヨリが作ったものだし、毎日必死になって塩集めてパン買ってポルカに持ってって。そんな毎日で良いことっていうと、パン屋のおばちゃんがおまけくれる事かなってぐらいだ。

 生きて行くのが苦しい。そう思ったことが無いやつなんてポルカにはいねえ。俺はそう思う。

 街には住めず、ドロップ品は買い叩かれ、虫の居所の悪いやつに暴力を振るわれる。俺らはそんな存在だ。


 下層に入って肉屋の連中を消したとき。

 ヨリはホントにボス部屋に行く気なんだって解った。

 俺はヨリは止まらねえってことを確信して、「じゃあ付き合ってやるか」って気になった。

「死んでもまあいっか」って気にまではなってねえけどな。

 ってことで、俺は行ってやることにした。

 だから俺は気合いを入れた。肩に、腹に、足に、腕に。全身に力を入れて「ふっ」と息を鋭く吐いた。



「下層跳ばしてボス部屋にきたんだよ」


 ヨリが嬉しそうにそう言ったとき、肉屋の連中は素っ頓狂な叫び声をあげた。その後、ヨリになんだかんだと言い始める。

 俺は憐れみの目でそいつらを見る。

 教えてやりたい。「諦めが肝心なんだぜ」って。


 ヨリと言い合ってた特大鞄の男が肩を落として仲間たちの方へ戻って行く。無事諦めがついたみてえだ。

 いよいよボスだ。きっと死ぬまでに1度しか見られねえだろうから、しっかり見とくぜ!





 +    +    +





 レッツゴーボス部屋! の前に。

 まずは肉屋たちとロジ少年の安全確認をする。

 まあ例の付与小石を持たせるだけである。

「感知不可」は付けない。ボスに認識されなければドロップ確率が減る可能性があるからだ。

 まあそこは私のゲーム体験なのでアテにはならないが、確率を少しでも上げたいのは誰でも同じだと思う。


 私は調整し直した付与小石をロジ少年に持たせる。普通であれば、一番責任感のありそうなリーダーに持たせるところだろうが、私は一番大事な友人に持たせた。

 肉屋たちはロジ少年を守ってくれれば、自動的に守られる。頑張ってもらいたいと思う。もちろん無理やり連れてきたのでちゃんと彼らも守るつもりだ。

 そして作戦を立てる。しかし単純明快、ボス部屋に皆で入り、私以外は隅へ行ってシェルターで終わるのを待つというものだ。

 全員が確認後、いざボス部屋へ。



 ボス部屋は、部屋と言いつつ扉が無かった。なので、全員が部屋に入ったら扉が閉まるというイベントは無かった。

 よくある「アンギャー」という叫びで戦いが始まるわけでも無かった。ただ、でかくはあった。


 部屋の天井はかなり高く、広さも今までの20倍はあろうかというほど。真ん中より右あたりにボスは居た。

 見た目は完全にザーラだったが、サイズが部屋に合わせたのかってぐらい大きかった。「鑑定」すると「ザラス」と出た。安直な名前だが、私には覚えやすいかもしれない。

 そいつはゆっくりと私たちの方を向いて、太い尻尾をバタンバタンと地面に打ち付けだす。


 入り口脇に肉屋たちとロジ少年を追いやり、そこで大人しくしていてもらう。

 私はボスの注意を惹くように、剣を斜め下に構えてゆっくりと近付いた。

 その間にローブと服と靴に「吸着」「伸縮」「魔法防御」「物理防御」「毒防御」「精神防御」をかけていく。

「吸着」と「伸縮」で着ている物たちが身体に張り付き、動きに合わせて伸び縮みして動きやすくなった。

 ボスだから、何をしてきてもおかしくない。私はアニメなどでボスを何匹も見ている。油断は禁物なことくらい解っているのである。

 剣にも「強度強化」「魔法防御」「物理防御」「魔法攻撃」「毒防御」。

 思いつく限り付けていく。買ったばかりの剣を壊したくはないので「不壊ふかい」も付けた。

 こんなもんかな。後は追々、必要に応じて付けていこう。


「では、参る。」


 言って地面を蹴った。身体強化最大である。

 よく剣士モノのドラマとか漫画で見るこのセリフ、実はめっちゃ言ってみたかったのだ。だが、そんな機会はまず元の世界には無い。

 言ってみると、気が引き締まって気持ちよかった。自分の意識を切り替えるのにいいと思う。テンション上がるね!


 ふた蹴りでザラスに肉薄する。ザラスの下に入り込み、首とおぼしきところを狙う。腰だめした剣を、気合いと共に上に向かって突き込む。

 当然手が届かないので、踏ん張りの為に風魔法で足場を作った。目の前のザラスの首に突き入れる瞬間、手首を内側に素早く回す。

「ドバン!」と音がして、突き入れた場所から緑の液体が大量に降ってきた。


「うえ、臭。」


 臭さから逃げたくて、素早くザラスの下から抜けて距離をとった。「ぺっ」と口の中に入った分を吐き捨てる。


「苦い」


 速さは最速のままゆるめない。首を抜いて駄目なら、やはり頭か心臓か。そう思ったので頭を狙うべく剣を構えなおして頭部に向かって蹴り跳んだ。…ところでボス戦は終了した。


 頭部に剣を突き込む前に砂になっていたのである。大量の砂を追う形で私も着地。「吸着」と「伸縮」を解除して着ている物を元に戻した。


 うーむ。まさか一撃で終われるとは思っていなかったが、そうなってしまったな。ニルヴァス様の言う通り、ダンジョンのモンスターごとき云々は本当であったようだ。

 下層モンスターさえもまったく手応えが無かったから、そうなんだろうなーとは思っていたが、まさか一撃とか。

 タダで楽に材料が手に入るなんて、あっち居た時より助かるな~。


 元ボスだった砂の山を見て考察を終えた私は、後ろを向いて隅っこにいる肉屋たちとロジ少年を大声で呼んだ。解るように横に大きく手を振って。


「おおおお~~~い! ドロップ探すよ~~~~!」


 せっかく練習したのに、魔法攻撃使う暇無かったな。





 +    +    +




 ヨリが消えて「ドバン!」て音がして、あの緑の吹き上がったのを見たとき、「あ終わったな」って俺は解った。

 ダンジョン入ってすぐのとき、ネラ相手に壁にめり込むような突きをかましてたヨリだ。本気になればもっとすごいだろうとは思っちゃいたが。

 俺だってボスが相手だからビビっちゃいたし、ヨリが勝てるかも判らなかった。

 けど、あの「ドバン!」と緑のやつを見たら解った。「勝ったんだ」って。



 砂の山の上でヨリが大きく手を振って叫んでいる。

 さすがに笑顔で嬉しそうだ。

 俺は呆けてる肉屋の連中に声をかけ、ヨリのところに走って行った。






 +    +    +





 俺たちはボスにビビりながら、入ってすぐの壁に張り付いていた。

 俺はでかい鞄を壁に押し付ける。

 シェルターが半透明の水色で、存在をアピールしてくれているのが心強い。

 俺たちが壁に張り付くのを確認したヨリが、ゆっくりとボスに近付く。ボスがヨリと睨みあっていた。


 俺はハラハラしまくっていた。

 目を離さずに見ていたつもりだったが、ヨリが急に消えちまった。あれ? っと思ったら「ドバン!」て音がして、ボスから緑の噴水が天井に届くぐらい上がっていやがった。

 その噴水から目が離せないでいたら、いつのまにか噴水が緑から灰色に変わっててよ。


 俺たち?

 声も出せずに、動けもせずに見てただけだよ。ヨリに呼ばれるまで口開けたまんまでな。

 ったく、ボスやる冒険者ってのは、皆こんなんなのかよ。化けもんだな。

 ヨリが大きく手を振って叫んだ。


「兄さんたち、ドロップ探すぜ!」


 ロジに声をかけられて、俺はハッと我に返った。

 走り出してたロジの後ろを、全員で追いかけた。





 ************************************************

 ボスを倒しました。

 肉屋たちは唖然。ロジ少年は悟りの境地。


 次はボスドロップを見つけます。さあ何でしょうか。

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