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さあ美味しいモノを食べようか  作者: 青ぶどう
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15.肉屋懐柔作戦 ナツメグの秘密  (4月20日修正)

黒い粒が「粒コショウ」である事や使い方は、一部の貴族と肉屋しか知りません。

企業秘密です。



 味の判る肉屋たちは、ヨリに気に入られています。



 ********************************************

 15.肉屋懐柔作戦 ナツメグの秘密




 パーティーを組んですぐ、その場に12匹のモンスターが湧いた。

 話し合いが終わって皆が腰を上げた、ちょうどその時だった。

 湧いてすぐターゲットに跳びかかってくるモンスターたちに、全員が武器を振るって対処する。ロジはヨリの素早い誘導で円の中心だ。ロジを除く俺たち6人は、初撃で一匹ずつ仕留めている。残りは6匹。

 すぐにそれぞれが自分の近くのモンスターに肉薄してこれを仕留めた。

 湧くのが解っていたとはいえ、上出来の部類だろう。これは怪我をしていた2人が、ヨリの治癒で体調も戻ったからというのが大きい。


 ロジが走ってドロップ品を集める。心強い大人たちに囲まれて、いくらか強張りが溶けてきたようだ。

 ロジが、集めてきたものを全員の真ん中に置いた。粒コショウが11瓶。オレンジの壺が1つ。

 ヨリがオレンジの壺が欲しいと言った。俺たちはもちろん粒コショウの瓶が欲しい。が、ヨリがそこまで欲しがる物が惜しくて、俺もオレンジの壺が欲しいと言った。

 ヨリはごねて来るかと思ったが、すぐに快く譲ってくれた。…独り占めしたい物じゃないってことか?

 残りの粒コショウの瓶を俺以外の皆が一つずつ取り、残りの5つは次に回してダンジョンの奥へ。

 そうやって何回かやってくうちに俺たちは、結局1人1回はオレンジの壺を手に入れていた。


 このダンジョンに潜り始めたころに、俺たちだって何かに使えないかとコレを何度か拾って帰って使ってはみたのだが、そのまま舐めてもまずいし、肉に振りかけて焼いてもまずいし、腸詰に入れても変な味がするし、塩漬けに混ぜてもうまくはなかった。いったい何に使うものなんだろうか。

 ヨリは確信を持って欲しがっている。俺はそれが何なのか知りたい。


「ガザ、何考えてる?」


 ボイフが声を掛けてきた。いつもより小さい声で、探るような眼をしている。


「オレンジの壺の中身が知りたいだけだ」


 俺たちが散々失敗してきたことを思い浮かべたのか、ボイフが言った。


「薬につかうんじゃねえのか? あの味はそんな感じだぜ」


「そうだったらそれでいいのさ。お前だって知りたいんじゃないのか」


「そりゃ判るもんならなあ」


 ボイフが片口だけで笑む。


「訊いたら教えてくれんかね。独占する気も無いようだし」


 俺の提案にボイフが眉間にシワを寄せた。この幼馴染は、ほんとに表情が豊かだ。見ていて感心する。


「訊いてみなきゃ判らん。どっちにしろ、もう少し仲良くならんことにゃあ、無理だろうさ」


 ボイフに言われて頷いた。確かにもう少し仲良くなるべきだ。とりあえずは休憩の時に積極的に話しかけるべし。俺は心にメモしてボイフを追いかけるのだった。





 +    +    +





 ふふふ。気にしてる気にしてる。

 皆がオレンジの壺が気になって仕方ないようだ。

 結局、肉屋は全員が1つずつ壺をもらっていた。


 彼らはコショウとハチミツを自分たちの商品に使っている。私が気が付いたのはもちろん市場で匂いを嗅いだ時だ。

 店頭で腸詰と塩漬け肉を焼いて販売していたので、買って食べたのだ。

 匂いで予測できてはいたが、食べてすぐにコショウが使われているのが分かった。腸詰にはハチミツまで入っていると思われる芳醇な香りまでしたし、腸詰と塩漬け肉の両方が、程よい塩分具合だった。美味い!

 つまりだ。彼らには美味しいものが判り、なおかつ美味しいものを作るための努力ができるということなのだ!


 ニルヴァス様の蒔いた種が、ちゃんと芽吹いていたのである。ニルヴァス様の努力を涙して聞いた私は、そのことに大きな喜びを感じているのだ。うむ。

 な、の、で。

 私、ヨリは、彼らにナツメグの使い方を伝授したく思います!

 心の中のニルヴァス様に向かって、直立不動の敬礼で私は宣言させていただいた。





 +    +    +





 倒せば30分湧かないと教えてもらった俺は、今までほどビクビクしないで済んでいた。

 おかげでドロップ品を回収するという、せめてもの仕事ができるようになった。

 ヨリが肉屋の連中のうち、2人が話しているところを見てニヤニヤしていた。

 そしてその顔を急に引き締めると、斜め上を向いてから、小さくだけど強く頷いた。

 …ほんと何考えてんのかな。

 いつもは無表情でも纏う空気がゆるめなヨリ。そのままでボス部屋行くとか言ってる奴が今見た感じ、何かにやる気を見せている。

 …これ以上何にやる気出すってんだか。

 俺、ロジは。肩をすくめてヨリを眺めていたのだった。





 +    +    +




 考えていた以上に肉屋の男たちは強かった。

 助けた時は、たまたま怪我してしまったのだろう。抜かりなく集中して仕留め、終われば笑顔を見せたり話をしたりといったように、上手く自分達をコントロールしていた。

 あれから5階層くらい降りたんじゃないだろうか。

 彼らが考えている以上に一戦が早く済んでしまっているので、すでに来たことが無い階層なんだとか。

 私にしても人数が増えたおかげで、早く大量に粒コショウが手に入り、ナツメグに至ってはすでに5壺もある。結局レアがゲットできなかった上層も帰りに手伝ってもらえないだろうか。

 5階層降りて、私の体感ではダンジョン入りして2時間半ほどだ。遅めのお昼をロジ少年と食べているから、まだお腹は空いていない。

 肉屋の男たちが夜御飯を食べるのはだいたい夜の7時ごろらしい。特大鞄の男が、鞄のサイドポケットから懐中時計に似たものを取り出して、「あと4時間はあるな」と教えてくれた。

 まだまだ行けると狩り進み続けて2階層降りて。お? もしかしてアレ降りたら下層じゃない? って感じの場所まで来た。

 肉屋の男たちが相談しようと近寄ってくる。私は当然行く気だが、彼らは帰るつもりかな?


「ヨリ、俺たちは帰ろうと思ってるんだが」


 リーダーが代表して言ってきた。私は懐柔作戦その1を決行する。


「このメンバーなら行けると思うんだけど」


 揺るぎなく言ってみる。さらに。


「下まで降りたら、まず私が1人でやってみるから、他の皆はそれを見て、行けそうなら進まない?」


 どうだろうか。

 とまどう男たち。


「私は下層でドロップするものが、このナツメグよりもイイモノだって思ってるんだよね」


 オレンジの壺を取り出して、そう言う。まずは名称の提供からだ。

 案の定、特大鞄の男が身を乗り出して訊いてきた。


「それは、ナツメグっていうのか? 何に使うんだ? 何で知ってる?」


 こういうのを矢継ぎ早って言うんだろう。

 うんうん、きみ気にしてたもんね。食いついて来たご褒美に、もう一つ。


「これはね、肉料理に使うんだよ。」


 爆弾だったかな? 肉屋の男たちが目を剥いた。そして若い3人が口々に言ってくる。


「ウソだ!」

「ああ、ウソだろう!」

「使ったぞ! 不味かったぞ!」


 しかも年長者2人は舌なめずりして少し近づいてくる。


「ヨリ、教えてくれ。ソレは何に使うんだ」

「俺らだっていろいろやったが、使ったほうが不味くなっちまったんだぞ」


 これは思った以上の食いつきだ。特に特大鞄のほうの目が坐ってしまっている。リーダーは目を光らせつつ私の様子を探っているようだ。うむ。


「これはね、ある状態の肉に、ほんとにちょっと入れるだけでいいんだよ。それ以外の状態の肉には合わないし、入れすぎても不味くなっちゃうしね」


 肉屋5人が黙り込みながら考え始める。

 いいねいいね~! 美味しいものを食べたい人って、こうだから応援したくなるんだよね!

 同志は大事にしたい私である。アレもコレも教えた~~~い!!

 しかしそのためには、まずはゲットできていない調味料や食材が必要なのである。


「一緒に下層に来てくれるなら…その使い方、教えるけど?」




 男たちはまた集まって相談し始めた。

 私はヒマなのでロジ少年のところに行く。


「ロジも知りたい?」


 ロジ少年になら何でも教えてあげたい、駄目なお姉さんの私は訊いた。


「教えてもらっても肉なんて、めったに食ったことねえし」


 滅多に肉を食べない。

 私は考えた。市場で見た肉は腸詰と塩漬け肉以外は値段が一緒だった。一番安い肉で10キロほどの塊で大銅貨3枚だ。

 1キロ買ったとしても銅貨3枚。1キロ買ったぐらいでは皆の口には入らないだろう。だから買わないのか。

 でもロジ少年は「食べたことがない」とは言わなかった。むむ。


「お肉はどうやったら手に入るの?」


 野生の動物でも狩るんだろうか。


「西のダンジョンで、大人たちが獲ってくる」


 ん? 肉がダンジョン?


「肉ってダンジョンで獲れるの?」


 何おかしなこと言ってんだって感じで見られた。


「ダンジョン以外でどこで獲れるっていうんだよ?」


 この世界では肉はダンジョンからしか獲れないらしい。

 えと、じゃあ牛乳とかレバーとかどうするんだろうか。レバーはともかく、牛乳は無いと困るな。私の好きなホワイトソースが作れない。


「じゃあロジたちが肉食べれるのって、どんな時?」


 野生の動物を獲るなら「獲れたとき」。買って食べるなら「いつもより儲かったとき」。私が読んだことのある本で、あまり肉が食べれない人たちは、そんな感じだった。スラムの人たちはどんな時なんだろうか。

 ロジ少年が頑張って思い出している。…そんなに食べれないんだ。


「う~~ん。時々ドロップするいい肉が、たくさん獲れたときだと思う。茹でたのがこんくらい出る」


 人差し指と親指で輪っかを作って教えてくれるロジ少年。しかも茹でるって、味付けはどうしてるんだ。

 訊きたくないけど是非とも訊きたい。


「味付けはどうしてるの」


「そんなんあるわけねえじゃん。でも噛むと味あるしうまいぜ」


 まさかの素材の味のみ。


「焼かないの?」


 調味料無いなら、焼いた方が美味しいと思う。塩くらい振って欲しいけど。


「焼くなんて、鉄板無いとできねえじゃん。俺らには高くて買えねえよ」


 …そうか、鉄板の問題か。このダンジョン出たら作ってあげないとだな。


「そっか、ダンジョン出たら鉄板作ってあげるね。美味しいお肉を焼いてあげよう」


 つい可哀想で頭をなでなでしてしまった。ボサボサでガビガビだ。お風呂も作らないとだな。うん。


「美味いってホントか?」


 手を放して、思い切り大きく頷いて見せたら。ロジ少年は「にへ」っと笑った。


 ほんとーに可愛いな!!


 私があくまで無表情の裏で萌えていたら、肉屋たちの話し合いが終わったもよう。

 全員がこちらを見ている。


「決まったかな?」


 答えを促すが、彼らの緊張具合を見れば判る。答えは。


「下層には行ってもいい。だが、悪いがあんたで駄目なら俺たちは絶対に無理なんで、まずは下層のモンスターを見てからってことでいいか?」


 なるほどなるほど。慎重でよろしいね。まあ、モンスターがいきなり今の5倍強くなるっていうなら、私も警戒が必要だろうけどね。


「じゃあ私がまずやって相手の強さを観察して、行けそうなら行くと」


「そういうことだ。頼めるか」


 私が言い出したことなのに、「頼めるか」なんて、好感がもてるね。


「湧きが欲しくて頼んだのはこっちだから」


 とっておきの本心からの笑みで頷いて見せた。

 だってさ、これで肉屋のペースに合わせずにサクサク進めるようになるんだもん。顔がほころぶのも当然だって!





 ************************************************

 この世界に来てまだ2日くらいしか経っていませんが、少しずつ疑問に思うことが出てきました。


 肉屋にタイムリミットがあると知って、牛肉よりボス部屋まで一気に行ってしまいたいヨリです。

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