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さあ美味しいモノを食べようか  作者: 青ぶどう
14/91

14.想い錯綜(さくそう)す。 

 肉屋さんたち、けっこういい人たちです。


 ヨリは良いことを思いつきました。

 ********************************************

 14.想い錯綜さくそうす。


 礼を言われた後、お互いを値踏みしながらの自己紹介が行われた。

 助けた男たちは名乗った。「肉屋の〇〇」だと。やはり肉屋であった。私にとって重要なのは、その一点のみである。

 道具屋で見た特大鞄を持っている男が自己紹介した。「牛肉持ってる?」と彼に訊きたい。名前を一気に言われたが、私は人の名前を覚えるのが苦手なので、悪いが聞いた端から忘れてしまった。

 私は「冒険者のヨリ」とだけ自己紹介する。

 さっきから全然寄ってこないロジ少年を手招きして紹介しようとしたのだが、ロジ少年が肉屋たちにびびっている感じを受けて迎えに行くことにした。


「おーい、おいでよ」


 困った顔をしたロジ少年は、私が近づくと小声でボソボソ。


「俺、いいよ」


 自己紹介には加わらないと言う。

 まあ街だポルカだってのが関わってくるんだろうけど、今回助けに入ったのはこちらだ。あちらが文句を言うならボコボコにするのもやぶさかではない。


「もし文句言うやつが居たら、そいつボコボコにするから大丈夫だよ」


 意識して笑顔を展開。ロジ少年は引きつりながらもやっと笑顔を見せた。


「こええなあ」


 それで覚悟が決まったらしく、私のローブの背中をつまんで着いてくる。


 なんだこれ、可愛いぞ…。


 こんなことは35年の人生で一度も無かったと思われる。女児にすらそんなことされなかった。愛すべき少年である。

 頼られたお姉さんは、ちょっと張り切る。


「彼は案内人を頼んだロジくんです」


 肉屋たちに紹介する。展開した笑顔はその時には引っ込んでいたが、努めて友好的に言う。…笑顔って表情筋痛くなるからさ、そんな長くは続けたくないんだよね。

 彼の背中に手を添えて、私の横にそっと押し出す。

 ロジ少年はガチガチに固まってしまっている、ので。場を和ませるために言ってみた。


「私の友人なので、いじめないよーに」


 …あれ? 皆固まっちゃった…もしや間違えた?




 +    +    +




「冒険者のヨリ」だと名乗ったその女は、黒いローブに黒い髪、茶色混じりの黒い瞳をしていた。

 体型はローブで判らないが、さきほどの戦闘を見るに、かなり絞り上げられた身体をしているのだろう。

 何と言ってもあの速さ。自分には目で追うので精一杯だった。


「ガザ。ボイフんとこの5軒隣の肉屋の次男だ」


 俺が言ったとき、女がじっと見てきた。なんだか、目力を感じる。目が逸らせなかった。

 弟のビエルが名前を言ったら、女はそっちを見て、頷いた。

 俺だけをじっと見たってことは、俺に惚れでもしたのかもしれない。近所じゃ美丈夫ってんでちょっとは有名だからな。

 その後、女が後ろを振り向いて手招きした。そちらを見ると、ボロを着た汚い少年。見た感じポルカの奴だろう。見覚えがあるな。確か上層でよく見る奴だ。なんだってそんな弱いのがこんなとこまで来てんだか。


 来ない少年を女が迎えに行って、ボソボソと何か話している。その様子なら、奴隷のように女に無理やり連れて来られたわけでも無さそうだ。少し安心した。

 女の後ろに隠れるように来た少年は、まだおどおどしていて、女に背中を押されてやっと女の後ろから出てきた。ガリガリの身体に目を走らせ、憐れさに顔が歪む。

 ポルカの奴らを可哀想だとは思うが、俺たちだとて貴族の怒りを買うなどすれば、すぐに同じ生活になる。貯蓄はそんなときに街を出る為のものだ。同情はするが他人の面倒までは見ることができない。

 呑気な奴らは、そんな事を考えもせずにポルカの奴らを邪魔だと言ってるが、俺はいつも「明日は我が身だ」と自分に言い聞かせて身を引き締めている。


 少年の紹介は女がした。「ロジ」という名前だと判った。そしてその後、その女は「いじめないよーに」と微かに口の端を上げて圧力をかけてきた。


 ぐっ…おっ…うごけない…。


 圧力はすぐ消えた。良かった、勘違いだった。俺は惚れられてない、うん。





 +    +    +






「私の友人」


 今、女はそう言った。

「友人」てなんだ?

「友人」が、そもそも何のことなのか俺には解っていない。ポルカの皆は身内だからだ。

 女のローブを軽く引っ張り女の意識をこちらに向ける。

「友人てなんだ?」

 ヒソヒソと訊く。そしたら女もヒソヒソと。

「言いたい事が言い合える、仲のいい人のことだよ」

 確かに言いたいことは結構言ってる。女も言う。でもそれは身内も同じじゃないだろうか。

「ポルカのやつらともそうだけど」

「ポルカの人たちは家族だよ。友人は、家族以外で、そうな人のこと」


 女は俺に解らないことがあると、いつも解るように、ゆっくり話してくれる。

 それは身内である、ポルカの人間にも難しいことだと思う。訊いても、「どうせ解らねえよ」とか「そのうち解る」と言われちまうのがほとんどだ。

 こうやって思い直してみると、俺はポルカの大人より、この女に話しかけるときのほうが緊張してないような。


 だって、訊けば応えてくれることを、疑わなくなってる。こんな会ったばっかの女を、もう信じ始めてるっていうのかよ?

「俺、まだ解んねえよ」

「いいんじゃないかな。こういうのは、感じるものだから」

「感じる?」

「うん。大事だなーとか。好きだなーとか。一緒にいると楽しいなーとか。喧嘩をしても、また仲良くしたいなーとか感じるんだよ」

 やっぱり丁寧に教えてくれたけど、ん? って思った。


「じゃああんたは、俺のこと、そう感じてるってことか?」


 それには「ふふっ」っと顔をゆるめてから。


「私はロジのこと、そう感じてるよ」


 そう言ったらクルッと向きを変えて肉屋の方に行っちまった。

 やばい。なんだこれ。めっちゃうれしい。そんでもって顔が熱い。

 …こんな顔、見せらんねーじゃんか。

 俺は全員に背を向けて後ろを見張ってるフリでごまかしながら、せめて次からは「女」じゃなくて「ヨリ」って呼んでやろうかなと思った。





 +    +    +




 ロジ少年は本当に愛すべき人物だ。

 35年の人生で、あんなに真剣に友人論をしたことなど無かったな。

 照れてしまったよ。


 うん、私はロジ少年のことを友人にしたいと思っている。短い間ではあるが、色々と尊敬すべきところがあって、非常に好ましいからだ。

 ひねてないし、紳士だし、家族のことを大事にしてるし、解らないことを知ろうとする姿勢もいい。

 お世辞も言わないし、人の嫌がることをする趣味もない。今まで話してきた中で、誰かの悪口を言うでもないし、誰のせいにするでもなかった。

 考えてみたら、私の周りには居なかったほど男前じゃん?

 すごいなロジ少年。14歳にして紳士だとは。

 私は改めてロジ少年を友人にしたいなーと思いながら、肉屋の男たちのほうへ踏み出した。


「ところで、4つの瓶はそちらの分だけど、後はもらっていいのかな」


 本当はすぐにでもナツメグを拾いに行きたいが、確認しておかないと面倒事になる可能性がある。私はぐっと平常心を装い、肉屋たちに確認する。


「もちろんだ」


 一番大きい男がそう言った。他の男たちに目を向けると、他の男たちも頷いた。

 よっしゃ、これでナツメグゲットだ~~~!


 つかつかと近付き、無事にナツメグをゲット。それからコショウも拾っていく。コショウはこれからいくらでも使うだろうから、いくつあっても困らない。


 私が拾っている間、肉屋たちは動かなかった。助けてもらった手前、自分達の分を主張する権利が無いと考えてるようである。まあ正しいよね。

 拾った中から4つ粒コショウの瓶を渡すと、「ありがたい」と言って受け取った。ホッとした顔。

 近付いたついでに、怪我した2人に治癒をかける。「治癒もできるのか」と驚いていた。

 さて、ここからが本番である。是非とも彼らにOKしてもらわねばならない案件があるのである。

「ところで、提案なんだけど」

 顔を上げて彼らの顔を見る。

「まだ奥に行く気があるなら、パーティー一緒に組む気ない?」

 5人と2人が合体すれば、モンスター湧きが最大14匹。こんな好機は逃すべきではないだろう。

 それに、腸詰や塩漬け肉にコショウとハチミツを使うことを知ってる彼らから、他のダンジョンのことも訊き出したい。

 よって肉屋懐柔作戦にとりかかりたいと思う。





 +    +    +





 俺たちは、顔を突き合わせて相談中だった。

 ヨリという女の提案に、乗るかどうか。

 ヨリは、俺たちの目当てがこの黒い粒であると判っていた。さきほど4個渡してきたから、商売敵とはまた違いそうだが。

 治癒が使えて腕も立つ。悪い奴でも無さそうだ。

 組んでみて、そこらへんを探ってみればどうか。


 結論が出た。


「提案に乗ろう。こちらに入るか、そちらに入るか、どうする?」


 交渉は一番年長のボイフの役目だ。

 俺たちとしてはパーティーのリーダーはボイフのままがいい。だからヨリたちがこっちに入ると言ってくれた方が助かるが、強さは格段にヨリの方が上だ。

 助けてもらった事を踏まえると、ヨリの方に入れと提案されれば断れない。


 ヨリはそこにこだわりが無いようで、迷わず「そっちに入るよ」と自分たちのパーティーを解散した。

 ヨリとロジがパーティーに加わり、作戦会議だ。


 ここのダンジョンのモンスターは、倒せば30分はそこに湧かない。その間は警戒せずに作戦が立てられる。ヨリとロジは、そういう事は知らなかったと言った。まったくいい加減なやつらだ。次いでモンスターの特徴も教える。


 ここ中層のモンスターは湧いてすぐ襲ってくるが、一度防げば警戒して攻撃をいったん止める。そこをなるべく1対1で仕留めるのだ。しかしモタモタしてるとすぐにまた一斉に跳びかかってくる。つまり、一度防いでから、いかに早く仕留めるかにかかっている。


 そういったことを話し合い、治癒ができるヨリに後衛を任せたいと伝えた。ロジはさらにその後ろだ。ヨリが「自分が守るので問題ない」と請け負った。


 ドロップ品に関しては、ヨリが強くオレンジ色の壺を回収することを希望したので、首を捻りながらも俺たちは同意した。分け方は、倒した時に、その都度等分に分けて、数が合わなければ次に分ける分に回すということになった。

「異空間収納」に入れれば本人にしか数が判らなくなり、普通の袋に入れれば瓶や壺が壊れる可能性と、時間が経てばドロップが全部でいくつかなど、誰も判らなくなるという理由からだ。


 それから、どこまで行くかを話し合う。

 時間で決めるのか、どこまで行くかで決めるのか、ドロップの回収数で決めるのか、だ。

 俺たちは時間だった。いつも晩飯まで奥に向かい、晩飯を食べて戻ってくる。

 ヨリが「じゃあそれに付いて行こうか」と言ったら、隣のロジが眉間にシワを寄せた。

 ロジくらいの子供であれば、中層は命に関わるから当然のことだ。


「大丈夫だ。守ってやるから」


 可哀想に思って、ロジに声をかけてやった。ロジは思わぬところから声をかけられて、びっくりしている。

 なんだ、こいつ、可愛いじゃないか。

 俺はロジに片目をつぶってニヤリとして見せた。





 +    +    +





 最初はびびっていたが、肉屋の連中は、悪いやつらじゃなさそうだった。

 俺がパーティーに入るのも、守られているだけで何もできないのにも嫌な素振りを見せない。

 でかい鞄を背負ったイイ男なんかは、「大丈夫だ。守ってやるから」とウィンクなんかしてきた。

 …いや死ぬかどうかってことは、中層にいる間は心配はしてねえよ?

 なにせヨリが居る。ヨリがいる限りは欠片も心配はいらないだろう。心配は別のところにある。

 ヨリはさっき、肉屋の連中に、「そっちに付いて行く」と言ったのだ。下層、さらにボス部屋までノンストップで行くと言っていたヨリが。しかも無表情なのにウキウキして見える。…一体何を考えてやがんだか。





 ************************************************

 ハンバーグまで行けませんでした。

 ダンジョン出てからになるかもしれません。

 時間がだいぶ経ってるように感じますが、まだお昼にダンジョン入ってから、夜になっていません。



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