10.ポルカの事情 (2日目) (5月1日修正)
道具屋に行きます
残酷表現ありです。
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10.ポルカの事情
朝が来た。子供たちは一晩で少しは回復したように思う。昼間は一晩で考えていた色々なことを試してみようと思う。とりあえずは朝ご飯だね。
テーブルと席をまず増やす。年長者を班長と副班長にした、だいたい10人ごとの班を作って各班に役割分担を決めさせる。
「皿を配る」2人。「湯冷ましを注ぐ」副班長1人。「湯冷ましを配る」2人。「粉ふき芋を配る」1人。「さつま芋を配る」1人。「レーズンを配る」1人。そしてそれを「監督して補助する」班長1人。
役が付けられないほど小さい子もいるし、まだ弱って動けないでいる10人は外してある。
そこでふと気付いた。そういえば赤ちゃん居ないし、歩けないほど小さい子も居ない…んんー?
それは道具屋で訊くとして、役割を子供たちが決めている間に食器の入った袋を各テーブルに置いていく。
湯冷ましは、私が夜中に沸かしては瓶に入れて保温しておいたのを置いていった。
てか子供たち、めっちゃヒソヒソ話し合ってる。声が出ないんじゃなくて安心したけども、悪だくみのように見えてしまうな。
そこからは戸惑いながらも子供たちはちゃんと働いて、ご飯を終了した。使った食器は入っていた袋に戻してもらう。
えええ? 汚れたの入れちゃうの? って思うよね? 大丈夫! 「洗浄後乾燥」かけてるから。うふふん。
そして、皆が御飯を食べている時に、今日のお昼は私が居ないことを皆に伝えた。「お昼も用意するから、さっきみたいにして食べてね」と班長と副班長を集めて、ついでに弱った子供たちの看護も交代制でお願いしておく。
子供たちはコクコクと頷いて、約束してくれた。
さてこんな朝早くから、道具屋が開いているだろうか。
そう思いながら道具屋に向かうと、すでに開いていた。
「お……来ました」
「おはようございます」と言いかけてやめた。こちらで使われていなかったら、説明に面倒だ。
「おう、お前さんか」
店主は笑顔で迎えてくれた。さっそくカウンター奥の席に誘われるが、その前に付与されていない中の袋を50枚とポシェットを買った。
店主はお会計をしながら、ちらっと付与された物が並んでいる方を見た。私も釣られて見る。特大鞄が無くなっていた。
付与されていないほうの棚には、特大鞄が5個並んでいる。
「付与して欲しいものあったら、しましょうか」
店主の視線の意味を察して、そう申し出る。店主は驚いたが、私は空気で悟る、外国人に言わせると「ファンタスティック」国の出身なのである。このぐらいは容易いよ。なあ諸君?
「じゃあ、あの特大鞄を3つほど頼めるかね?」
「3つほど」というのは、3つ以上やってもらいたいときに出る言葉である。3つでいいなら、「3つ」と言う。
「3つでもいくつでも、報酬をもらえればやりますよ」
昨日の袋であの報酬である。銀貨5枚(銅貨で5000枚)の特大鞄でどれだけの報酬になるのか、予想もつかないよ。ふひひ。
結局5つ全部やった。店主はその場で全部の鞄に付与した私に驚いていた。
店主の言葉の端々から読み取るに、付与魔術は魔力を使って付与するので、大きな「異空間収納」を5つも連続で付与するなど、普通はしないらしい。
昨日の鑑定で要領を覚えていて良かった。
報酬は1つで銅貨3500枚で、その5倍である。銅貨で17500枚(角銀貨1枚と銀貨7枚と角銅貨5枚)。あと9回くらいで黒剣の値段になる。すごいな。
ちなみに、自分で稼いだ分は別の袋に入れることにした。ニルヴァス様に頼らずに済む分はそうしたいと思ったからだ。
そういったことを終えて、やっとカウンターの奥に落ち着く。
さて、話とは何だろうか? 促すように店主の顔を見る。店主は一息ついてまずは頭を下げた。
「昨日はみっともないところを見せたね」
「いえ気にしてません」
本当に気にしていないので即答する。それよりも話だ。
「昨日、話していなかったことがあってね。私が話せる状態じゃなかったもんだから、今日来てもらうようにお願いしたわけさ」
ふむふむ。頷いた。
「剣はあるかい?」
ローブの中から出してテーブルに載せる。鞘に入った黒剣を見て、店主は言う。
「この剣はな、お前さんが名前を付けてやらなきゃいかん」
「名前ですか」
鑑定したので名が無いのは知っていたが、自分が名付けるということは考えていなかった。だってそこに並んでる武器にも名前なんて付いてなかったし。
「剣は名前に引っ張られるからな。よく考えて付けるといい」
「そうします」
店主が息を吐いて身体を起こしたので、話は終わったと見ていいだろうか。黒剣をローブにしまった。今度はこちらが訊きたいことを訊こう。
「街のことで訊きたいことがあります」
「ほう?」
「南の壁際に住んでいる子供たちのことです」
「ポルカの事か。何が知りたい?」
店主が腕を組んで促した。どうやらあの子供たち全員がポルカと呼ばれるらしい。スリの子供もそう呼ばれていた。しかしポルカとは何だろうか。
「ポルカとは何ですか」
「なんだ、あんたポルカを知らんのか」
「私が居た村には居ませんでした」
「なら居ないかもしれん。ポルカってのは捨て子の事さ」
捨て子か。捨て子というのはあっちの世界にも居たが、身近では無かった。そんな話を聞いたりテレビで見るたびに、自分の幸運に感謝したものだ。
「どういう理由で捨てますか」
「再婚して子供が邪魔になったり、不義の子供の扱いに困ったり、お金が無くて育てられない奴が子供を捨てに行くってのは聞いた事があるが、だいたいは娼館で生まれた子だな」
どこの世界でもその辺りの事情は同じらしい。それにしてもだ。
「赤ちゃんや歩けないような小さい子供がいませんが」
そこで店主が見直すように私を見て、数秒の絶句の後に言った。
「お前さん。ポルカに行ったのか」
「行きました」
私の肯定に、ため息をついて肩を落とした店主は、顔をうつむけてボソボソと話しだした。
「この街には、歩けるようになるまでは子供は捨てちゃいかんという決まりがある。だが、捨てちゃいかんとは決められてるが、殺しちゃいかんとは決められとらん。あの子らは、親に歩けるまでは育ててもらえた、数少ない運のいい子供たちだよ。まあ、娼館の子らが多いだろうな。ポルカのやつらは子供を作らんからな」
「あの子たちは、どうやって生きているんですか」
「ポルカの大人たちが、生活の面倒を見ているはずだ」
これで食べ物とボロ布の疑問は晴れた。しかし。
「昨日、半日ほどいましたが、大人には会っていません」
そう、会っていないのだ。他の場所にもポルカがあるのだろうか。
「毎日は来ていないんだろう。ポルカの大人は街の外にあるダンジョンの周りに住んでいるからね。14歳にもなれば大人の中に入り、ダンジョンに潜る。一番稼ぎの安い、塩ダンジョンなら子供でも入れるからね」
塩ダンジョン? 塩しか出ないのだろうか。
「塩ダンジョンですか?」
「ここらでは、そこからしか塩が獲れんからな。だから塩ダンジョンと呼ばれてる」
「他のダンジョンのことも教えてください」
思わずダンジョンの情報が聞けるなんて実にラッキーである。
「この周辺に、3つのダンジョンがあるのは知っているだろう?」
頷いた。
「一つが塩ダンジョンで、この街の北にある。低位冒険者はここに潜る。あとの二つは中位冒険者が主に潜ってる。中級ダンジョンの片方が南にあって、粉ダンジョンと呼ばれてるな。上層では小麦粉が大袋単位でドロップするから、この街では助かってるよ。他にもよく判らない粉が出るそうだが、正体が判らんから拾ってこない。西の方に3つめがあって、そこは肉以外は得体の知れん物が多すぎると、冒険者からはゴミダンジョンと呼ばれておるよ」
ニルヴァス様は、もっと心躍るように言ってくれたのにな。知らない食材、本当に拾ってこないんだね…。でもあれ?
「ダンジョンて、宝石とか装飾品とかアイテムとか出ませんでしたっけ」
そうだよね。確かニルヴァス様がそう言ってたような。
「そんなんは下層に潜れるような中位でも上の方か、上位のやつらだけが獲ってこれるのさ」
肩をすくめて、店主は自分には関係ないとでもいうように言った。
「ダンジョンて、勝手に潜っても大丈夫なんですか?」
「お前さん、潜るのかい?」
「潜りたいですね」
「潜るなら知り合いのパーティーに頼んであげようか」
「まずは塩ダンジョンにして様子を見たいと思います。中級ダンジョンに行くことがあればお願いします」
とりあえずは塩ダンジョンに行く。ニルヴァス様が言う調味料ダンジョンだとしたら、コショウもあるだろう。
根拠は……腸詰と塩漬け肉かな。
どうやら話は終わったようだ。
昨日泣いた理由でも話されるかと思ったが、考えてみれば2度店に来ただけのほとんど初対面の私に、深い話をするのもおかしい。
私に伝えたい事は、剣の名付けの事だけだったようである。
確かにずびずば判別できない言葉で「剣に~」と言われても、絶対に聞き取れなかっただろうしね。
空気的に「今なんて言いました?」「もう1度お願いします」なんて言えやしなかっただろうし…。
そして私は道具屋を出て市場に向かう。夜通し考えてた物を買い集めるためだ。
ラグを19枚と毛布を23枚買った。毛布を多めに買ったのは、いよいよダンジョンに行こうと思ったからである。野営には毛布が欲しい。
さつま芋も発見したのでまた300個くらい焼き芋にした。もちろん私の分も入っている。
そしてポルカに戻る前に路地に入って異空間部屋に入り、残りのジャガイモを全部粉ふき芋にした。それぞれに粉ふき芋の瓶を10個とそれ用のスプーン、レーズンもどきの瓶を2つずつ放り込み、さつま芋を50個ずつ放り込む。ポルカに大人の援助があるのを聞いて少し安心したが、もし無くともこれで3日は保つだろう。
ポルカに戻って湯冷ましを作って瓶に入れ、それも袋に入れてから各班長に渡した。
「ダンジョンに行ってくるから、しばらくここに来ないかもしれない。これで食い繋いでおいて」
そう言うと、もう帰ってこないなという顔をする子が半分くらい居た。よし、これならきっと大事に食い繋いでくれるな。
起き上がれない子たちのドロドロスープと湯冷ましを多めに作って瓶に入れ。「時間停止」をかけた袋にぽぽいと入れて部屋の隅に置いて年長組に託す。
ついでにラグと毛布を積んで各家で使うことを言い、「治癒」を付与させた小石を渡しておく。あの優し気な女の子が、その石を大事そうに握りしめて頷いた。
私は街を出て北に向かった。手には焼き芋を握り、モグリながら速足で歩く。
斜め掛け鞄はローブから異空間収納に放り込み、装備は見たところローブの上から腰に付けたポシェットだけである。
気が逸る。
ニルヴァス様、ご飯はちょっと後ですよ。
コショウが手に入ったら、美味しい肉料理を作ってあげますからね!
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ポルカの事を教えてもらいました。
ヨリはダンジョンに行きたくて仕方ありません。
店主の話で、「上層」を「下層」に修正しました。
そういえば下に行くんですもんねw
ヨリはスラムが「ポルカ」と呼ばれている事を知りました。
道具屋の話の後に、すこし加筆しました。
2日目です。