復縁のためのその1
俺は次の日、マコに幾つもメールを送った。
「なあ、マコ、ほんまにごめん」
「ごめんなさい、これからお前に言われたこと気ぃつけるから」
「ごめんなさい、俺が悪かったわ」
「もう一度、会って話そう。お願いや」……
出勤時、仕事の合間、トイレに立ったとき、昼休憩……。
思いつくままに、メールを送った。
仕事もマコのことばっかり考えて、手につかんかった。
マコから返事は一切、こおへんかった。
なんで、返事してくれへんのや。
俺のメール、読んでへんのか?
もしかして、俺のメールはもう拒否しとるんか?
もどかしいような苛立ちを覚えたとき、マコの言ってたことを思い出した。
マコは。今の俺のような気持ちを十年間繰り返しとったんか。
帰り際、隣のデスクの降辺さんに。
『吉井君、ため息はつくたびに幸せが逃げていくんやで』
と、嫌みっぽく言われた。
気がつかへんかったけど、仕事中、俺はわざとらしいくらいのため息をアホほどついとったらしい。
マコ。マコ。
なんで突然、こんなことなったんや。
予兆も何もなかったやないか。
何がお前に起こったんや。
堪忍袋の緒が切れたにしても、十年間は長過ぎるやろ。伸びきっとたやろが。
それとも。
十年経って、今更、他に好きな奴でも出来たんか?
帰ってから、俺は夕飯を食う気も起こらんくて、シャワー浴びると部屋にこもった。
パソコンを開いて、放りこんだままにしていた写真の画像を起こす。
ああ、マコ。
お前、かわいなあ。肌も綺麗やなあ。
スタイルもええ方や。
数少ない旅行先での写真のマコを見る。
ああ、最初の方のマコや。
マコに出会ったときのバレー部の写真が出てきた。
お前、おもろかったなあ。
元バレー部やったと思ったら初心者で。アタックするときの踏み込みの足がいつもこんがらがっとったな。最後まで直らんかったよな。
……一目惚れやったんや。
笑った顔がかわいなあ、思て。
ほわーとした、おっとりした雰囲気と。
低めの甘めの声と。
絶対にもう年上の彼氏がおるんやろうな、と思っとったら、風の噂でフリー、て聞いて。勝手に心の中でバンザイしとったんやで。
話しかける勇気もなかったし、チラチラ盗み見るのが精一杯やったけど。
実質、どんなもんかわかってもおらんくせに、まあ、あの子とやったらこんな感じかな、と夜の相手、あのときマコには何回もしてもらったな。
勇気出して、告白して、付き合い始めて。
ああ、夢中やったな、あのときは。
毎晩ひたすらメールのやり取りして。飽きることなく。
なんで、それ、続けんかってんやろ。
じわり、と俺は涙が滲んできた。
ホンマに俺ら、終わってまうんか?
お前と別れたら、俺はこの先どないしたらええんや。
その先の人生が、俺には想像つかへんかった。
俺は他のツレみたいに女の気ィ、惹くことなんか出来へんし。今までそんな努力したことないし。
ええデートスポットも知らんし、マメなメールも出来へんし、洒落たカッコも分からんし。
うう、こんな俺に、お前は十年間も付き合うてくれとったんやな。
この先、俺、ずっと独りやぞ。
どないすんねん。
……いや、でも今、結婚せえへん独身男女が増えてる、ていうしな。俺も仲間入りか、はは。
将来は俺みたいな独身者がゴロゴロしとるかもしれんな。それやったら心強いわ。
考えながら、俺は飲み屋の姉ちゃんを必死で口説いている将来の自分の姿をリアルに想像した。
……うう、マコ。
『お願いや。もう一度、考え直してくれ』
俺はその日の最後になる、十何通目かのメールをマコに送った。