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誕生日1週間後1 

 誕生日を過ぎて。

 一週間も経ったけど、あいつから連絡はこおへんだ。

 1日、1日過ぎるにつれて、俺は待ちきれなくなった。

 そんなに今、忙しいんか?

 考えて準備していたことを早く実行に移したくて、俺はメールした。


「ちょっとでもいいから、会える日ある?」


 旅行するんやったら、早く予定決めてしまいたいし。

 1日経ってから、メールが返ってきた。


「夕方、少しやったら」


 いつも、マコはすぐに返信してくれる。

 そんなに忙しいんやろか。


「明日は? 」


 ええよ、という返信に、俺はじゃあ駅前の喫茶店で待ってる、と送信した。


 次の日。

 仕事帰りに待ち合わせの場所の喫茶店で。

 俺はウキウキしとった。

 なんや、サプライズするってのはええもんやな。どういう反応するのかが楽しみで。

 新鮮や。今までももっとすれば良かった。

 店のドアを開けて、マコが入ってくるのが見えた。

 おお。

 なんか、違うな。

 マコは髪を後ろでひっつめにしとった。

 この何年間マコはずっとショート、ボブの繰り返しやった。短いのが似合うとったけど、俺がマコに出会ったときの髪型はポニーテールやった。あの髪型が俺は一番好きやった。

 マコは襟足の生え癖が逆毛で、ショートにすると襟足が浮いて決まらへんからいやや、てあいつは言うとったけど。まとめた髪型にするとうなじが綺麗におさまる。


 最初にマコに出会ったとき、揺れる束ねた髪と剥き出しのうなじがたまらんくて、うおお、と思った。


「髪、大分伸びたんやな」


 俺は十年前の事を思い出して、少しにやけてもうた。


「そら、伸びるわ。会わんうちにな」


 マコは素っ気なく返して、テーブルを挟んで俺の前のソファーに座った。

 あれ、なんか虫の居所が悪いんか?

 マコの雰囲気に俺はうろたえた。

 マコは俺と会ってるときにこんな態度をとることは滅多にない。

 疲れとるんかな。


「そんなに忙しかったんか?」

「まあな。……洋梨タルトと、レモンスカッシュ」


 マコはメニューを見ながら注文を取りにきた店員さんにそう告げた。

 レモンスカッシュ? 珍しいな。

 マコは冷え性で、夏でもだいたい飲み物はホットやった。


「誕生日、おめでとう。もう過ぎてもうたけどな」


 俺は膝の上に乗せていた箱に手をやった。


「ああ……せやな。ありがとう」


 マコはにこりともせえへんだ。やっぱり、機嫌が悪いらしい。

 今日、無理に呼び出して悪かったかな。俺も疲れとるとき1人でさっさと休みたいしな。しまったかな。

 なんとなく、俺はまた箱から手を離してもうた。


「なあ。今度、二人で旅行、行かへんか?」


 俺は少しドキドキしながら言った。

 マコは俺の顔を見た。


「海外とか。長くてでかい旅行、行ったことないやろ。イタリアとか。お前『冷静と情熱のあいだ』好きやったやんけ。ドゥオモとか、観に行かへんか?」


 マコが目を輝かせて喜ぶと思った。

 でも、マコは表情を変えずに俺を凝視したままやった。


「……どうしたん」


 予想していたのとは違う反応に俺はたじろいだ。


「いや、今年で10年目やろ。記念に」

「…… 休み、そんなにとれるん?」

「お、おう。職場の顰蹙ひんしゅく覚悟で、とったるわ」

「……」


 マコは黙って俺を見つめた。

 な、なんや。イマイチな感じやな。

 じゃあ、どこでもええわ。ムードさえあるとこやったら。


「お前がそんなに休みとれへんか?……じゃあ、アジアにしとこうや。韓国とか台湾とか。二泊三日ぐらいで」

「……」

「日本にしとくか? 北海道とか沖縄とか。お前が好きなとこでええで」

「……」

「もっと近場でもええで?」


 俺は夜景と海辺の関西デートスポットを思い浮かべた。


「六甲山とか。白浜とか。日帰りでもええやん」

「……」


 マコは返事をせえへんだ。

 反応の薄さに俺はもどかしさをおぼえた。


「お前……どうしたんや。疲れとるんか? メールになかなか返事せえへんし」

「……あんたがいつもしてることや」


 低い声でマコが答えた。

 その時やっと俺は違和感を感じ始めた。


「え?」

「あんたはメールに返事返すの、一週間後とかザラやろ」


 そ、そのこと怒っとるんか? でも今さら? 今までずっとそうやったやんけ。


「そ、そうやな。悪かったな」

「……自然消滅はどうかな、と思ったんや」


 マコが告げた言葉はあまりにもさらりしていて、俺はその言葉を聞き逃しそうやった。


「……え?」

「でも、10年も付き合うとったらな。そうはならへんよな。それまでも、ホンマに付き合うとるんか分からんくらいのデート数やったしな。メールすんのもあんたの気が向いたときだけや」

「な、なんや。お前どないしてん」


 俺はマコの態度と言葉に混乱していた。


「お、落ち着けや。ゆっくり話そうや」


 まだなんとかなると思っとった。ゆっくり話して謝って、今晩一緒に過ごせばおさまるかと思った。


「今晩、どっかに泊まってもええし。な? お前の言い分聞くから」


 ふ、とマコが唇を歪めて笑った。


「ええん? ……今日、スキヤキDAYやろ?」


 スキヤキDAY。

 俺の家族のツキイチの慣習。月末の最後の金曜日の夕食はスキヤキって決まっとって、その日だけは夕食に間に合うように家族全員がはよ帰って食卓につくのがきまりやった。


「か、かまへん。そんなん。今日くらい」


 俺は焦っとった。どうにかして、この状況を変えたかった。


「今まで速攻帰っとったくせに。今日は違うんかい。お母さんに聞かんでええん?」

「エ、エエ。そんなんどうでも」


 そんな事より今、マコと離れたらアカンと、俺は本能的に感じた。


「あんたと別れようと思うねん」


 マコが唐突に告げた。


ジョン グレイ先生の恋愛論〜マコの場合〜と交互に更新します。

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