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ジョン グレイせんせいの恋愛論 ケイスケの場合

「その日は用事があってあかんねん。しばらく忙しい」


 すぐにマコから返ってきたメールを読んで、俺は拍子抜けした。


 ……その日、お前の誕生日やで?

 折角、俺、休み取ったのに。


 がっかりした。いや、非常に残念に思った。

 今回はプレゼント、もううて準備してたのに。

 ……ま、まあええか。

 後日に渡せば。


「時間が出来たら教えて」


 俺はそう返信した。


 珍しいな、そんなにあいつ今忙しいんか。

 俺はその時、呑気にそんなことを考えてた。


 忙しいから会えへん、というパターンはいつも俺で、あいつからそんなん言われたんはこれが初めてやったかもしれへん。

 俺の仕事は不定休で時間が不規則で、休みをとるのが難しかった。身体がキツく、休みの日は爆睡か、ストレス解消のためにツレとツーリングに行くのがお決まりやった。

 この10年間、あいつの誕生日、俺の誕生日、クリスマスやバレンタインを共に過ごしたことは少なかったと思う。ちょうどその時に仕事が忙しかったのもあるし、あえてこだわらなくても会えるときに会えたらええやん、と俺はそういう考えやった。

 あいつもそれに文句は言ってへんかったし。

 珍しい女やと思う。

 普通、女はもっと記念日にこだわると聞いてるし、会う回数が少ないと怒るらしいし。


『陸の女で珍しいで、そんなんお前。絶対、相手浮気しとるわ』


 船乗りをしとるツレがそう言った。

 でも、あいつは浮気はしてへん。自信ある。もうかれこれ10年もつきおうとるんやし。そんなんやったら、とっくにもう他の男んとこにいっとるはずやろ。


 俺にしては、初っ端でラッキーな女をつかまえたと思う。

 俺が疲れて一人でいたい時は、俺のことほうっておいてくれたし。俺から連絡とるまで待っててくれた。かなり長く音信不通でおっても、それを怒るわけでもなく、いつも嬉しそうに相手してくれた。

 だからあいつと居ると、すごく安心した。

 マコだけはありのままの俺のこと好きでいてくれてる。

 ホンマに俺のこと好きなんやな。


 マコと付き合うて、もう今年で10年目や。

 最近、俺の周りは結婚ラッシュで。

 流石にそれを考えざるを得なかった。


 今年で30歳。現在日本人の初婚年齢の平均。

 一旦考え出すと、止まらなくなった。


 場所は。時間は。なんて言う。


 ワクワクした。

 それを聞いたあいつの顔を想像する。

 嬉しそうに微笑んで承諾してくれるものやと、俺は信じこんでいた。


 外人はびっくりするような手の込んだプロポーズをしよるけど。俺は日本人やし、あそこまでキテレツなのはせんでもええやろ。

 でも、それなりに舞台は整えんとな。

 ベタやけど、夜景の見える丘とか。浜辺とかか?

 それとも思い切って、旅行先の海外でどうや?

 せや、イタリアとか。

 あいつ、「冷静と情熱のあいだ」好きやったし。

 前にあいつと旅行したんはいつやったかな。


 ……確か付き合い始めのころに、下呂温泉に一発、やない、一泊二日の旅行に行ったかな。

 その一回だけか。


 じゃあ、でかい旅行に行くなんて初めてやし、あいつもテンション上がるやろ。


 妄想はどんどん膨らんだ。

 そんな時に今回のプレゼントを買うた。


 以前、マコと会うとった時にふらっと入ったアンティークの店で。

 虹色のガラスを連ねたネックレスを見たことがあった。アイリスガラス、ていうらしい。

 チェコでオーナーさんが買い付けてきたもので、金具の部分の細工ができる職人は現在ではもう居ないとか。

 あんなん初めて見たし、素直に綺麗やと思ったから、二人でシャボン玉みたいやな、としばらく見てから店を出た。

 後日、その店の前を通り過ぎて。

 あいつにそのネックレスを買おうと思ったんや。


 ……サプライズ、になるか?

 もうすぐあいつの誕生日や。これをプレゼントするか。


 この10年間、俺たちはお互いにプレゼントを贈り合うようなことはほとんどなかった。

 相手の誕生日(まあ、ほとんど当日じゃなくて後日になったけど)を祝うときは、その時の食事代を出すだけやった。

 俺もあいつも物欲が無くて。

 あいつは普段から装飾品つけへん女やったし。貴金属の興味もなさそうやった。

 でも、このネックレスにはあいつも興味もっとったみたいやし、あげたら喜ぶと思う。


 早速オーナーに言って購入しようとしたら。

 ……値段にびっくりした。


 こういうもんを今まで買うたことないから俺は面食らった。

 こ、こんなに高いもんなんか。ま、まあアンティークやしな。


 でもこんなん序の口か。今からもっともっと金使うようになるんやし。驚いてられへんな。


 俺はオーナーに綺麗に包装してもらったネックレスを持って、店を出た。

 ホクホクした気分やった。

 誕生日にこれ渡して、気分が盛り上がったところで、イタリア旅行を提案してみよう。

 あいつの喜ぶ様子を頭に浮かべた。

 俺のこと、惚れ直すやろ。


 そして。


 あいつに誕生日の予定を聞くメールを送ったんはそれからすぐのことやった。

















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