ラスト
俺が寮に居ったとき、片思いしてたマコに勇気を出して思い切って、初めて電話した。
めちゃめちゃ緊張して、無我夢中で告白したら。
マコはうん、と言うてくれた。
天にも上るような気持ちで俺はマコの帰りを待った。
そうしたらマコは旅行から帰ってすぐに俺に会いに来てくれて。
『好きです。付き合ってください』
て言うてくれたんや。
なんでまたそっちから告白してくれんのかな、と少し疑問に思ったけど。
こういうことは電話じゃなくて直接言うのがええと思ってそうしてくれたんかな。
なんてエエ子や。
と、また俺は舞い上がった……。
「……え? あの電話、告白やったん……?」
そう言うマコの様子に俺はやっと十年前の真相がわかった。
「聞いてへんかったんかい!」
あの、俺の、一世一代の告白を!
死にそうなほど緊張して言うた、告白を!
あのとき、お前は聞いてへんかったんか!
「だってあんた、めちゃくちゃ声小さくて、聞こえへんかったんやもん!」
「聞こえへんだら聞こえへん、て言えや!」
「言うても変わらんかったんや。しつこく何回も言うたらあんた、怒ったみたいやから。嫌われたらかなん、て思って、適当に相槌打ったんや」
「分かってへんのに相槌打つほうが失礼やろが!」
どおりで、あのとき少しおかしいと思たわ!
すぐ簡単に、うん、はいはい、と返事するなんて。思ったよりこの子、軽い子やな、いや、こんなもんなんかも、と戸惑ったのを覚えとる。
「え……あの時、なんて言うてくれたん?」
マコが、なんかいやらしい顔をして俺に聞いてきた。
「そんなん覚えてるかいな!」
「思い出して。もう一回、言うて」
ふざけんなや。恥ずかしくて今更言えるかい!
「ええやんか、そんなんどうでも!」
俺は怒鳴って、マコのほっぺたに自分の顔を押し付けた。
……ああ。
お前の匂いや。
ホッとする。
「……明日にでも籍入れに行こうや」
お前の気持ちが変わらんうちに。手遅れにならんように。もうお前が逃げられんようにしてまいたい。今すぐ俺のもんにしてまいたい。
腕の中のマコが微かに笑った。
「……大安の日にした方がええんちゃう?」
……冷静やな。お前は。くそ。
「……せやな、一番近い大安の日に」――
――『男はゴムバンドのようなもの』
俺はあの言葉を思い出した。
確かに、ジョン グレイ先生が言った言葉は当たっとる。
だけどそれは、男が女から離れてはびよんとまた戻ってくる、という意味ではなくて。
俺の場合、女が逃げようとするのを逃さんように必死で追ってくらいつく、ていう意味やった。
確かに女が離れたのにあわてて、追いかけると。失いそうなモノの大切さにやっと気付く。
グレイ先生が言うように想いが深まる気はするわ――
「……なあ、ホンマにジェットコースター乗ったらウチと戻れると思っとったん?」
腕の中でマコがふふ、と笑った。
「……少し期待しとった」
「アホかいな。相手がジェットコースター乗れへんだけで嫌になるって、どんだけ何様な女やねん」
何様って、だってお前はマコ様やないか。
お前と元に戻れるんなら、俺は何でもする気やったんや。
「虹色のガラスのネックレス、もらってくれや」
まだ、あれは家に置いてあった。
俺が持っていても宝の持ち腐れや。
「……あんなん着ける機会ないもん」
「家で着けたらええやんけ」
どんな格好しとってもええ。俺が買ったもんを着けてるお前を見るのが嬉しいんやないか。
「……ふふ。ホンマはなんてウチに言うたか覚えとんのやろ?」
「しつこいな、覚えとらんっちゅーねん」
やめい、その顔。
ホンマ、いやらしい女やな、お前は。
いやらして、頑固で、思い込みが強くて、すぐ人の言葉に左右されて、本やテレビの言葉鵜呑みにして。
フラフラと気持ちが揺れ動く、騙されやすい女やと思う。一度、キャッチセールスにコイツ、引っかかって高い化粧品買わされよったし。
でも、そんなお前がやっぱり可愛いて、俺は好きやわ。
これからもずっと俺はこうなんやろう。
十年経っても変わらんと、最初の頃と同じようにやっぱりお前が好きやってんから。
他の女に行こうとは思わんかったんが不思議やわ。
ああ、なんでマコなんやろう。なんで俺が好きなんはこの女なんやろう。
なんか悔しいわ。
世の中には他に女がいっぱいおるはずやのにやで。世界の半分は女やろが。
――でも。
間に合うた。
間に合ったんや。
こいつを、失わずに済んだんや。
腕の中の確かな温もりが嬉しくて、俺はその感触に浸った。
どうしようもなく身体の奥からこみ上げる多幸感と満足感に耐える幸せを感じて、俺は唇を噛み締めた。――
〜END〜




