プロローグ〜勇気〜
カン、カン、カン……。
胃が縮むようなイヤな音や。
いや、タマはもうさっきから縮みあがっとるけど。
恐怖への秒読み。
瞑っていた目をうっすら開けると、真っ白な木材を組み立てた向こう側に下界の景色が小さく見えた。
あわてて目を閉じる。
風が強く、身体全体を吹きさらす。
晩秋の風は、ただでさえ精気を失っている俺の身体に染みて、底冷えがした。
あかん。
目を閉じたら。
俺の隣は空っぽ。
他の席はペア同士で埋まっている。
前席に座っている女子高生たちが
「きたきた、頂上や」
と、はしゃぐ声が聞こえた。
長島スパー◯ンドの目玉、ホワイトサ◯クロン。
全長1750m、高さ45m、最大速度100キロ超えの世界最大級の木製コースター。
俺はそれの前から二番目に座っている。
カン、カン……。
……カン。
上る音が途絶えた。
一瞬の静寂。
来る。
正念場や。
俺の人生を賭けてな。
一番前の女の子たちが、本格的な悲鳴をあげる前にもらす、引き笑いのような声をあげた。
目を、開けるんや。
俺はこじあけるように瞼をあげた。
上半身を押さえつけている安全レバー。
汗だらけの手に力を込め、それにしがみつく。
……俺の『死に場所』は、ココや。
上を向いていた身体が水平になった後。
俺の身体は浮遊しつつ、下界へ向けて一直線に落下したーー。