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待っていた?

 部活動の見学というより、優希君との懇親会という感じで見学は終えた。


 そんな誰もが憧れる男の子と付き合えるなんて、女の子としては喜ぶべきことだと思う。


 けど、もてる現実を突きつけられて、素直に喜ぶ余裕なんて舞子にはない。




「……優希君、書道部……決まり?」




「うん。やっぱり字が綺麗なのはいいよな。小笠原の書を見て、改めて思った」




 小笠原さんは、中学校一年にして既に二段の腕前だという。


 書道の知識がない私には、それがどれくらい凄いことなのかは分からない。


 ただ三年生たちが、私たちなんてやっと初段だよと言っていたのだから、相当な実力なのだろう。


 そんな小笠原さんと話す優希君は、いつも以上に知的でクールで、凛々しい顔をしていた。


「あの二人、お似合いだよね」と感嘆のため息を混ぜながらの上級生の言葉に、私まで激しく同意してしまうくらい、並んで座る二人は本当にお似合いだった。


 背も優希君より、ずっと低い小笠原さん。


 並んで歩いても、きっとお似合いなんだろうな。


 少なくとも舞子よりは全然、確実、絶対的に似合っているはずだ。




「舞子も、書道部入ろうかな……」




 優希君が、小笠原さんと仲良くする姿は見たくない。


 けど私の知らないところで、優希君が小笠原さんと仲良くなってゆくのも心配だ。


 そんな気持ちからため息混じりで発した言葉に、隣を歩く優希君が不快そうに眉間に皺を作った。




「そういうのはなしって言っただろう」




「だって……」




 優希君と話しをする時、桃のように頬をほんのりと染める小笠原さんに確信した。


 小笠原さんは、優希君が好きなんだと。


 そんな小笠原さんと二人っきりにさせて、仲良くなってしまうのが心配なんだもの。


 だって舞子、小笠原さんに勝っているところなんて一つもないし。




「ほら、美術部着いたぞ」




 舞子の気持ちなんてまるで気付いていない様子の優希君に、再びのため息を零しながら美術部のドアをノックする。


 正直、部活動の見学なんかしている気分じゃないんですけど。


 鬱々した気持ちで返された入室の言葉に、自分でもビックリするくらい沈んだ声音での「失礼します」の言葉と共に引き戸を開く。


 途端、書道部に入室したと同時に届いた声音など、まるで大人しいと感じるほどの喜びに満ちた声音が俯く頭に降り注ぐ。




「舞子ちゃん!?」




 親しげに呼ばれた喜び色の声音に、驚きに伏せていた顔を上げた。


 キャンバスの並べられた窓際から、眩しいほどの鮮やかな笑みで背の高い男の子がカツカツと近づいてくるのが見えた。




「遅かったね」




「あっ……あの……」




 にこやか過ぎる男の子の少し長めの髪は、暗い灰色のような不思議な色合いをしていた。


 縁なし眼鏡の向こうの瞳も色素が薄く、薄い青を纏ったグレーのきらめきを見せていた。


 リボンタイの色から、三年生であることは理解出来た。


 けれども色白で洋風な面差しをした見上げるほどの高身長の、ビックリするほどフレンドリーな男の子に、まるで見覚えはない。




「来てくれるの、ずっと楽しみに待っていたんだよ。今日来なかったら、明日にでも教室まで迎えにいこうと思っていたんだ」




「えっと……」




 まるでずっとずっと友達だったかのように親しげに話しかけてくる姿に、戸惑う舞子の前にスッと右手が差し出される。




日比野(ひびの) (あきら)。美術部の部長だよ。都展で君の作品を見てから、君が入学して来るの、ずっと楽しみに待っていたんだ」




 そう言って日比野先輩は、五月の青空のような爽やかな笑みを、彫りの深い顔いっぱいに広げた。




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