Decorator
みなさん、お久しぶりですこんにちは。そしてこんばんは。
作者の代弁者の紫乃宮綺羅々でぇ~す。元気してました?
第八話が完成したのでアップしまっす!
さて、今回の第八話をもってアンブレイド番外編(以下略)を完結しまっす!
いや~無事完結してよかったよ! まぁ、私は相変わらず出番がなかったけどね! でもね、アンブレイドバトルでは出番がないけど間宮冬弥が作品を書き続ける限り私はまえがきに出るけどね! だって代弁者だからね! 私は。
では、さっそく最終話をお楽しみください。それではっ!
◆
「よし、気を取り直して……」
妻沼駅に着いて、アルバイト先である妻沼パルモのスノバの手前で気を持ち直すわたし。このまま沈んでなんていれらないし。
「紫さん。赤さん。おはようございます」
触ると開く自動ドアを開き、カウンター内にいた紫さんと赤さんに挨拶の言葉をかける。
店内に入りさらに気持ちを引き締めた。沈んだ状態のままだと、仕事に支障をきたしちゃうかもしれないし。それに……刹那くんにlPodの代金も支払わないといけないからバイト中でのミスはできないし。休んでもいられない。
「凪紗ちゃん!」
「ナギちゃん!」
「ふぇっ!」
カウンターの中にいた赤さんと紫さんのふたりがわたしを見つけると周りに集まって、紫さんに至っては抱きついてきた。
「ど、どうしたんですか!? お客さん見てますよ!?」
「いいの! ホント無事で良かったよぉ〜」
「聞いたよアンブレイドのバトルしたんでしょ! ケガは大丈夫なの?」
「あ……」
そっか。ふたりはわたしの事を心配してくれたんだ……
「はい。ありがとうございます。でも大丈夫です。今日病院にも行ってきましたし。いたって健康です!」
「そっかぁ〜よかった〜」
「ナギちゃん。今日はムリしないで休んでも良かったんだよ?」
気を使ってくれる赤さん。でも、わたしは休めないんだよね。
「いえ、このまま出ます。今日はシフト入ってますし。そのために来たんですから」
「でもぉ、そのホントに大丈夫なの?」
「はい! しっかりと稼がないといけないので」
心配してくれている赤さんには申し訳ないけどここは出勤します!
「わかった……じゃあ、ムリしないでね」
「はい、あ、そうだ。紫さん。後でシフトの相談したいんですけど」
「シフトの? わかった。じゃあ後で聞くね」
「はい。じゃあ、着替えてきます」
「うん、あ、凪紗ちゃん。着替えたらさっそくだけど、そこのお皿とカップ洗って。洗い終わったらコロンビアコーヒーの豆をバリスタに補充しておいて」
「はい!」
わたしは元気良く返事をすると、更衣室へと向かっていったのだった。
◆
「ふぅ……」
午後八時。
バイトが終わり帰宅の途の新京連の電車の中でわたしはひとつ外の風景を見つつため息をついた。
(結局。日曜日の午前のシフトは入れなかったな……)
紫さんに『日曜日の午前中からシフトってはいれませんか?』と申請しても『日曜日の午前は人手は足りてるから入れないよ。こっちとしてはできれば夕方からの勤務の方がありがたいんだけど……ダメ?』と言われてしまった……
(そんなに、うまくはいかないかぁ……まぁしようがないよね……)
ドア付近で手すりを掴み外を見る、景色は速いスピードで流れていく。
刹那くんに会えるかもしれない期待があったんだけど玉砕したか。
「刹那くん……」
わたしはカバンの中を見る。中には水に流せるポケットティッシュ数個に貰った『ばなっしー』のぬいぐるみ。
それと、刹那くんが買ってくれた『lPod』がある。
(今日はすごく楽しかったなぁ……刹那くんとふたりで病院行ったり、ご飯食べたり、お買い物したり。今度はいつこんな風にふたりで出かけられるのかなぁ……)
電車では毎日のように会ってるけど……今日みたいに一緒にいられるのはいつの事になるんだろう?
(お金返さないといけないし……とりあえずは給料日のあとかなぁ……)
長いなぁ給料日までは。それに……
「クリスマス・イヴのあとだしなぁ給料……イヴに……」
クリスマス・イヴに会いたいなんて思ってしまうだけで顔が真っ赤になってしまうほどわたしの顔は赤面してしまう。
そんな妄想にふけていると前橋駅に着き、電車を降りながら『明日も、明後日も会いたいな』と思うわたしだった。
◆
「ううっ……」
午後十時半。わたしはパソコンの前で悪戦苦闘をしている。
さっそくlPooを開封してパソコンに繋げてみたけどパソコンがlPodを認識しない。なんで?
lPodの画面は点灯しているけど、画面は英語で書かれていて何て書いてあるのかさっぱりわからない始末。イラスト的にもたぶんケーブルを刺せって言ってると思うんだけど……
「ケーブルは刺してあるのに……」
lPod付属の転送・充電ケーブルを刺してPCに繋げてるのに……なんで?
「う〜んやっぱ反応なしかぁ……これじゃあ曲が転送できないよ……やっぱり刹那くんの言うとおりMP3とやらにしないといけないのかなぁ……」
ダメもとで音楽管理・転送ソフトの『RiniaGo』を開いてみる。やっぱり反応しない。
「なんとかならないかな?」
わたしではわからないのでとりあえず、お姉ちゃんに聞いてみる事にした。
◆
「ううっ……」
結局、お姉ちゃんでもわからなかった。理由は『私はlPodを使っていないから知らん』との事。
「お姉ちゃん……せめてネットで調べてくれてもいいのに……」
そんな気の利かないでいて、冷たいお姉ちゃんの部屋を後にして自分の部屋へと戻る。
そして、ベッドで寝ころびながらスマホのネットで色々と自分なりに調べてみた。
「あ、あくてぃべーしょん? えるちゅーんずのダウンロード? ネットで復元? 初期化? う〜ん……わかんない」
まったくわかんない語句でわたしを悩ます。まぁ、ダウンロードはわかるけどね!
「それに……なんで説明書がないの?」
lPodには説明書がなく、代わりに『クイックスタートガイド』なるものヒラヒラの薄い紙が一枚入っているだけだった。それには最低限の事しか記されて無く、詳しくはオンラインマニュアルを参照との事。
「ううっ……お手上げだよ……どうしよう……」
仰向けになり大の字になって天井を見上げる。
「刹那くんに……」
ふと、右手に持つスマホを目の前まで持ってくる。
アドレス帳から刹那くんのメアドを開いてそのままタッチ。メール作成画面に移る。
「よ、よし……思い切って刹那くんに聞いてみよう!」
わたしは体を起こし、ベッドの端に座ってメールを打ち出したのだった。
◆
「刹那くん! すいません、遅れました!」
夜が明けて日曜日の朝の午前八時五十分。
昨日と同じ雲一つない晴天。
わたしはリーナにあるスノバに来ていた。そして遅れたことを謝罪している。
「いいよ。俺の都合でこんな早い時間を指定したんだし、むしろ早い方だよ」
「でも……二十分も……」
「いいって。寒かったでしょ? とりあえず荷物を置いてコーヒーを頼んできなよ。暖まるよ」
「はい」
わたしは刹那くんの対面のイスに荷物やらマフラーを置いていく。
「あ、パソコン持ってきてくれた? 持ってきてるならちょっといじらせてほしんだけど、いい?」
「あ、はい。ちょっとまってくださいね」
わたしはカバンからノートパソコンを取り出し刹那くんに渡した。
「ごめんね。へぇ〜薄いし結構いいパソコンだね。lPadくらいの大きさかな?」
あの後わたしがメールした内容を刹那くんが返答してくれた。
刹那くんはlPodの初期設定のやり方とか専用音楽管理をソフトのダウンロードとか色々と教えてもらったんだけど、そもそもわたしのパソコンはネットに繋がらない。その事をメールしたら、じゃあ初期設定をやってあげるって流れになって今日に至った。
待ち合わせ場所は、金曜日に森羅カンパニーの医療施設に行く予定を立てた新妻沼駅のショッピングモールの『リーナ』にある二階にあるスノバ。刹那くんが午前に予定があるから朝の八時半の待ち合わせ。そして現在、八時五十分。
ううっ……せっかく日曜日にも会えたのに遅刻しちゃったなぁ……
ちなみに遅刻した理由はめざまし時計の電池が切れてしまっていたことだ。まぁ……あとは服を決めるのに集中して時間を気にしてなかったってことぐらいだね……
でも、それでも昨日と似た格好になっちゃったけど……
あ、刹那くんは昨日と違う色のコートだ。ううっ……服買おう。絶対に。でもその前に刹那くんにお金を返してからだけど。
◆
「……うん、これで大丈夫だね」
刹那くんはわたしが持参したノートパソコンでlPodを繋ぎ初期化って作業とアクティベートっていうlPodの有効化の作業。それと専用音楽管理ソフトのダウンロードとインストール。それに付け加えて初期設定もしてくれた。ついでに音楽ファイルをMP3に変換できるソフトもダウンロードしてインストール。そのソフトの操作方法と音楽ファイルの変換の方法も教えてくれた。
でも……ノートパソコンを打っている刹那くんも……なんかいい! できる男性って感じでかっこいいよ!
「ごめんね。パソコンを持ってきてもらって。俺が昨日専用管理ソフトの事を言ってればよかったね」
刹那くんはわたしのノートパソコンを打ちながらわたしに謝ってくる。
「ううん、いいんですよ。わたしがlPodにしたいっていったんです。だから刹那くんは気にすることないです」
「そう言ってくれると助かるよ。でも……ごめん」
刹那くんはパソコンから顔を上げてわたしの目をみて謝ってくれた。ホントに刹那くんってば。
「もう、刹那くんは謝りすぎですよ!」
ホントにもう。刹那くんはすぐ謝るんだから……でも、それが良いところだよね! ……欠点でもあるけど。
「そうだね。色々なひとにそう言われるよ」
そして、また刹那くんはパソコンに視線を落とす。
「そうですよ。でも、わたし今日初めて知ったんですけど、わたしのパソコンってネットに繋がるんですね?」
わたしは自分のパソコンが外でネットに繋がることを初めて知った。結構長い間使ってたんだけどなぁ……
「うん、このパソコン自体はそんなに古い機種じゃないから。無線LANを搭載してるんだ」
「むせんらん? ですか」
「そうだね。極端でいて簡単に言えば凪紗ちゃんが持ってるスマホみたいなものだよ。スマホも単体でネットに繋がるでしょ?」
「ああっ〜」
わたしは妙に納得してしまった。
「Hi-Wiスポットっていうネット接続できる場所ならこのパソコンはネットに接続できるけど……凪紗ちゃんにはおすすめしないかな?」
「そうなんですか?」
「うん。公衆無線LANスポットって無料で誰でも繋げられる反面、セキュリティが甘いからね。ウィルスとかの悪意のあるプログラムに感染する恐れがあるんだ。それとだいたい各スポットごとに事前登録しないと使えないし。使うにも意外と面倒なんだよ」
「へぇ〜」
なんか……刹那くんって色々な事知ってるなぁ〜それに引き替えわたしって……ううっ……何も知らないなぁ……
「うん、もうすぐ終わるかな」
刹那くんは画面をじっと見て何かをしている。
「なにやってるんですか?」
「ウィルスチェックだよ」
「ウィルスチェック?」
「うん、ごめんね。お節介かもしれないけど一応チェックしておこうと思ってね」
「いえ、いいですよ。それよりも、ちょっとどんな感じか見てもいいですか?」
「いいよ」
刹那くんはわたしが見やすいようにパソコンを反転して画面をわたしに向けてくれた。
ウィルスチェックなんてやったことないからどんな感じなのか見てみたいし。
「あっ!」
「どうしたの? ウィルス感染があった?」
「あ、いえ……その……」
ううっ……しまったなぁ……パソコンの壁紙を『ばなっしー』から変えるの忘れてたぁ。
「恥ずかしい……」
両肘をテーブルについて両手で顔を覆いながら顔を隠した。
「恥ずかしい? なにが?」
刹那くんはわたしの思いも知らないで気さくに声をかけてきてるけど……は、恥ずかしい。
「えっと……パソコンの壁紙を刹那くんに見られちゃったのが恥ずかしいなって……」
「壁紙? ああ、そんな事か。いいんじゃないの、ばなっしー。好きなんでしょ?」
「はい」
「ならいいと思うよ好きなキャラを壁紙にしても。少なくとも俺は気にしないよ」
「ううっ……」
そんなパソコンの画面には『ウィルスチェック中』と表示されていて、その下には時間経過と現在の進行状況を示すパーセンテージとステータスカラーバーも表示されている。そのカラーバーももうすぐ終わりを告げるくらい右端まで延びていた。
「もうすぐ終わりますね。あ、終わりましたよ?」
とにかく話題を変えたかったわたしにはとりあえず、画面に視線を落とすと『ウィルスチェック完了』との文字が躍り出た。これは話題変更のいい変化だぞ。
「あ、終わった? ちょっとごめんね」
刹那くんはパソコンの画面を自分の方に向けて画面の確認をする。
「よし、感染はしてないね。これでよしっと」
刹那くんはパソコンを閉じてわたしに返してくれた。
「あ、ありがとうございます。なんか色々としてもらっちゃって……」
「ううん、いいって。それとそのウィルスチェックはクイックって言う簡易的なものだから。もし気になるようなら三凪先輩に訊いてフルスキャンでチェックしてみて。それと余計なことかもしれないけど、デスクトップのファイルはちゃんとフォルダにしまった方がいいよ。なんか画面がごちゃごちゃしてるし」
「あ、えっと……そんなにごちゃごちゃしてます?」
「正直に言うとかなり。あ、でもファイルは開いてないから安心して。うんファイルも多いし、そのファイルも名前が似たり寄ったりであれじゃあパッと見、なんのファイルか判断が難しいんじゃないの?」
ううっ……確かにそうかも……ファイル名は『宿題』とか『課題』とか『テスト範囲』とか『部活』とか『テスト開始日』『学年末テスト日程』とかだし……
「なんかファイル名考えるのメンドくさくて……それにスマホで打ったことのまとめみたいなもので……あまり開かないですし……」
「う〜ん、ならいっそファイルを削除するか、ひとつフォルダを作ってそこに放りこんだ方がいいね」
「そ、そうですか?」
「うん、削除しないとなるとファイルが溜まる一方だし、あまりたくさんあるといくらテキストファイルといえハードディスクを圧迫してるかもしれないし。パソコンの動作が遅くなるかもしれないよ? 一度いらないファイルは削除したほうがいいかもね」
「はい……善処します……」
「うん、その方がいいよ」
「はい。あの……ホントに何からなにまで……ありがとうございます。なんかお礼します!」
「お礼なんていいって」
「でも、ホントに色々としてもらって何もしないなんて……」
何かお礼をしないとわたしの気が収まらないよ。こんなに色々とお世話になりっぱなしなのに、何もしないなんて……なんかわたしにできる事はないの?
「本当にいいって」
「でも……なんかさせてください」
何かないの! 何か見つけろ、わたしぃ!
「ん〜といってもねぇ〜」
「じゃあ……せ、刹那くんの専用メイドさんに……」
「ん?」
「な、なんでもないですぅ!」
な、何言ってんのぉ! なに刹那くん専用メイドって?! なに刹那くんの身の回りのお世話しようとしてんのぉ! そりゃさ! したいよ刹那くんのお世話。そしたらずっと一緒にいられるし。ううっ……わたしのバカ……この前の東山さんと悠木さんの会話の影響かなぁ……これ。
「専用の……なに?」
「な、なんでもないんですぅ! ひ、ひとり言ですぅ!」
「そうなの?」
「はい! 忘れてください!」
ふぅぅううぅぅぅぅぅううううぅぅう〜〜なんとかやり過ごしたけど……どうしよう、ホントになんか出来ることないのかなぁ?
「ふぅ……」
はちみつをたっぷりと追加したキャラメルマキアートをひとくち含む。ん? コーヒー……あ、そうだ!
「じゃあ、今度わたしがバイトしてるスノバに来てくださいよ。好きなコーヒーお安くしますよ」
「ホントに? 俺はうれしいけど凪紗ちゃん的には大丈夫なの?」
「はい! あ、でもあまり大きく値引きはできません
けど……」
「もし、値引きしてくれるなら今度行こうかな? 飲みたい期間限定のコーヒーがあるし」
「ホントですか! ぜひ来てください!」
やったぁ! 朝の電車以外で会えるチャンスかもしれないぞ!
「あ、ごめん凪紗ちゃん。俺そろそろ行かないと」
「ふぇ?」
刹那くんはスマホの時計を見て、残っていた少量のコーヒを飲み干しカバンを手に取り身支度を始めた。
「ごめんね。凪紗ちゃんはゆっくりしててって、ごめんじゃあ」
コートを羽織り二回謝った刹那くんはコーヒーカップをカウンターに返して、やつぎ早にスノバを出て行ってしまった。
「えっ、えっとぉ……」
残されたわたしはとりあえず、キャラマキをひとくち飲んだのだった。
◆
「これからどうしようかなぁ……」
とりあえず、あの後小一時間くらいスマホでネットやアイリーンとコネクトのチャットのやりとりでゆっくりと過ごしたけど……
「買い物でもしようかな」
アイリーンも妻沼に来ないって誘ってみたけど用事があるとかで来れず。そんなわたしは今、これからの事をどうしようか悩んでいる。
「ん〜」
妻沼をぶらぶらと目的も無く歩く。近くの店に入りウインドウショッピングを楽しんで、パルモへ行き同じくウインドウショッピングをした。そしてバイト先のスノバに顔を出し、百均に行って予備の電池を買い、最後にモルボルにあるtsumuyaで一度聞きたかった『キャロライン・ぱむぱむ』のCDを借りて、約二時間くらいの滞在で家に帰ったのだった。
◆
「お、きたっ、読み込んだ!」
家に帰り、さっそく刹那くんから教わったとおりにlTnuesにMP3に変換した音楽ファイルを読み込ませてみる。
結果。見事にわたしの二百近い音楽ファイルはMP3化されていた。
「後はlPodをパソコンに繋げれば……よっし!」
パソコンはlPodを認識してそのまま曲を転送。二百近い音楽ファイルは約十分ほどで転送完了したのだった。
◆
「おっし、ちゃんと聞こえる。心なしかなんか音が良くなってる気がする」
イヤホンを耳に装着して『ミュージック』アイコンから適当な音楽を再生させてみる。
音が良くなってるのは、スノバで刹那くんが言ってた『ぶらしーぼ効果?』ってヤツかもしれないけどね。
「うんオッケイ!」
曲がちゃんと再生されていることを確認すると再生/停止をタッチして曲を止めた。
「とりあえず、プレイリストは今度作るとして……」
借りてきた『キャロライン・ぱむぱむ』のCDを取り出し、パソコンにセット。
「しゃかりきばんばんだけっと」
インストゥメンタルとカップリングのチェックをはずして『インポート』ボタンを押す。
CDドライブの稼働音が数秒鳴り、画面にはわたしが選択した一曲がリストアップされていた。
「うん、取り込みも大丈夫そう」
そのままlPodに転送。一通り動作を確認し終えてるとCDとlPodを取り出しシャットダウン。パソコンを閉じる。
「ふぅ……なんとかできた……これも全部刹那くんのおかげだなぁ……」
刹那くんとの朝のスノバで過ごしたことを思い出す。
「そうだ、刹那くんにお礼のメールしないと」
そのまま机に置いてあるスマホを手に取りメールを作成。
「今日はありがとうございました。おかげで無事lPodに曲が転送できました。って……う〜んなんか堅し短いかなぁ……」
あれやこれや悩んだあげく送ったメール内容は『今日はありがとうございました。無事lPodに転送できました。それと再生も問題なくできました。これで通学の時に退屈しなくて済みそうです。
じゃあ、明日の朝のいつもの電車で会おうね』と最初と大して変わらないメールを送ったのだった。
「明日も……短い時間だけど刹那くんに会えるんだ……」
ドキドキする胸を押さえわたしの気持ちは明日の電車へと赴いていた。
◆
「ピカピカの制服だぁ……なんか入学の時を思い出すなぁ……」
朝起きて制服に着替える。制服はもちろん土曜日に交換してらった新しい制服だ。
交換してもらった真新しい制服に身を包み、鏡の前でその自分の姿を見て一年前の自分と重ねる。
「なんだろ? なんか制服が『軽い』感じ……あ、ナノミスリル繊維ってのが織り込まれてるから軽いんだっけ?」
土曜日に森羅カンパニーの受付のひとが言っていた事を思い出し、ひとり納得するわたし。
そして、お気に入りに加わったスパッツを履いて朝ご飯を食べて家を出たのだった。
待っててね刹那くん! 今、会いに行きます!
◆
「刹那くん、おはようございます」
わたしはいつもの時間の電車で刹那くんに挨拶。そしてそのまま刹那くんの隣に立つ。
「おはよう凪紗ちゃん。おっ、制服が綺麗だね。交換してもらった制服?」
「はい。そうです」
「いいね。新しい制服で気分一新って感じだ」
「ん〜どうでしよう。別に制服のデザインが変わったワケじゃないですから……でも、気分は一新されて気が引き締まる感じかな?」
「そっか。で、どう? lPodはちゃんと動いてる?」
「はい! ばっちりです!」
制服の上着のポケットからlPodを取り出し、刹那くんに見せる。
「うん、快適に動いてそうだね」
「はい」
新妻沼〜新妻沼〜JP総武線はお乗り換えはこちらの駅ですぅ〜
流れる社内アナウンス。このアナウンスが聞こえると……
「じゃあね。凪紗ちゃん。また明日」
「あ、はい」
ドアが開くと大勢の人達たちと一緒に降りてしまう刹那くん。
前橋駅と新妻沼駅はとても間隔が短くて、とても悲しい気持ちになる。
「おはよう、アイリーン……」
「おはよう凪紗。いつものごとく恋する乙女の顔ね」
「そう?」
「そして、ついでに神夜さんがいなくなると出てくるいつもの悲しい顔」
いつもの会話をアイリーンと交わし登校するわたしとアイリーンだった。
◆
「告白しないの?」
学校に着くなり昇降口でアイリーンがいきなり、そんな事を言ってきた。
「えっ、いきなりなに!? ん……そうだね、うん……したいよ。いつかね……そのうちに……」
答えるわたし。
「いつかね……そのうちねぇ。それじゃ先にも後にも進めないわね」
そんないつになるかわからない告白をアイリーンに宣告して昇降口を上がり教室の扉に手をかける。
「アイリーン。年末のコミバだけどさ。ホントに行くなら新妻沼で待ち合わせでいいんだよね?」
「ホントに行くから新妻沼よ。遅れないでよ」
「はぁ〜い」
コミバの待ち合わせの確認を話しながらドアを開け、教室に一歩踏み込む。
「あ、来た! 雪見さん、瀬尾さん! 登校してすぐでごめんだけど、スマホ見せて!」
教室にはいると同時に、悠木さんがそんな事を言い出してきた。
そんな悠木さんの声でわたしの『いつもの日常』が始まるのだった。
●アンブレイドバトルをしたら年上の彼氏ができました(予定)Ex.S〜エクストラステージという名の番外編〜・完
●終章/ココロ
「白銀の姫騎士……銀髪碧眼のサナ……か。イマイチぱっとしない」
ネット上では今、アンブレイドバトルで『色付きマテリアルプレートで雪を使う少女』の二つ名なのか異名なのかを決めるサイトが盛り上がっていた。
「この状況をあの女の子が見たらどう思うんだろ?」
教室の窓際でわたしはそんな疑問が生まれる。
空は晴れ。だけどわたしのココロは濁っている。雲ひとつない綺麗な青空だけど、わたしのココロは汚れている。
キィ……
車イスから軋む音。
「でも……」
そんな汚れているわたしは思う。あの女の子にはふさわしい『二つ名』がある事を。
そして、わたしの指はスマホを操作してそのサイトにふさわしい『二つ名』を刻む。この名前があの女の子に届くようにと願い、そして祈る。呪うように。
「よし……あ」
打ちを終わると同時に授業開始の五分前のチャイムが鳴る。
わたしは車イスに手を当てタイヤを自分で動かして席に戻る。
そして、一時間目が終わり、教室移動の時にわたしは知る。
わたしが願い、届くことを祈った二つ名があの女の子本人によってあの二つ名になった事を。
「ありがとう。そしておめでとう……『白い雪のプリンセス』」
わたしは感激の余韻に浸ったままスマホをしまい、教室を出たのだった。
◆
「私はあんたを勝手に助ける。あんたは勝手に救われる。これでなにか文句があるの?」
わたしと同じ年くらいの女の子。大きな態度と横柄な言葉でわたしを助ける、救うと言う。
わたしは出会う。出会った。お伽話しのお姫様のような名字と男の子のような名前を持つ女の子に。
●終章/ココロ 完
●おまけ/どういうことなの?
「奈留、どういうことだと思う?」
「雪見さんが翠のメイドになるって話し?」
「違う、違う」
悠木翠はスマホをいじりながら疑問を抱いていた。
時は遡るは、雪見凪紗が初めてのアンブレイドバトルが終わった次の日の金曜日。時間帯は夕方。ギターケースを持った悠木と悠木のカバンと自分のカバンを持つ東山はコスプレ同好会の活動が終わり廊下での会話から始まる。
「じゃあ、どういうことってなにが?」
「雪見さんと瀬尾さんのコネクト。なんで鏡の外と中で繋がって通話できたと思う?」
「ずいぶんといきなりな話ね」
悠木の疑問はそれだった。本来は鏡の外から鏡の中へは電波が届かないはず。電波が届かないという事は通話もネットも不可能なはずが一般的である。
「あのふたりのコネクトは鏡の中と外で繋がった。しかも通話もしてる。不思議と思わない? 変だと感じない?」
「確かに通話出来たことは不思議だけど……もしかして翠はスマホでそれを調べているの? ひとに荷物持たせて? とりあえずあぶないからスマホゾンビはやめなさいよね」
悠木はスマホを見ながら歩いている。そんなながらスマホの悠木を東山は『ゾンビ』という名称で表現して注意した。
「うんごめん。でもすごく気になるんだ。で、検索をかけても鏡の外と中でコネクトできたなんて事例はないんだ」
一通り検索をかけ終えた悠木はスマホを置き、東山の方へと視線を向けた。
「何が違うんだろ……」
「実際にコネクト見せてもらえば? 瀬尾さんか雪見さんのどちらかの。でもさ、そんなに気になるなら、なんで今日ふたりに聞かなかったの?」
「うん、聞こうと思ったんだけど……それよりもコスプレの衣装が気になってさ。休み時間はコスプレ作りに専念してたんだよね」
「あ〜そういえば休み中なんか作ってたね」
「ん〜見た方が早いか……うん、なら雪見さんか瀬尾さんに見せてもらおうよ」
「えっ、もしかして今から……ってちょっと、翠!」
誰もいない廊下を疾走して悠木は教室へと向かった。それに付いていくように東山も駆けだしていた。
◆
「いないかぁ……」
教室に付いた悠木は勢いよく横開きのドアを開ける。しかし生徒が数人いるだけで目的の人物の姿は見えなかった。
「帰っちゃったんじゃないの? 私たちも帰ろうよ」
「そうかも……でも……ねぇ小倉さん石原さん! 雪見さんか瀬尾さん見なかった?」
教室で喋っていた小倉結奈と石原七織に悠木は声をかけ、雪見の存在を確かめた。
「雪見? あ〜私は見てないなぁ。結奈は?」
ハキハキと喋る石原。髪は肩ぐらいまであるのセミロング。見た目で活発そうなとかわるくらい表情がコロコロと変わる。
「ん〜確かふたりで一緒にいるところを昇降口で見たよ。靴にはきかえてたから帰るんじゃないかなぁ?」
そう答える小倉。小倉は背中くらいまである長い髪を首元で結い、そのまま肩口から胸の前で垂らしている。その見た目から大人しそうな感じで清楚。
そんな正反対のふたりは親友同士。その事を知った悠木のクラスメイト達ほぼ全員が『意外』と口にしたのは言うまでもないだろう。
「う〜んそっかぁ〜」
悠木はふたりの返答を聞いてがっくりと肩を落としていた。
「なに? 悠木は雪見を探してるの?」
そんな疑問を石原は悠木に投げる。
「うん、ちょっと聞きたい事があってね」
「ふぅ〜ん」
と、小倉はさも興味なさそうに生返事を返したのだった。
「……ねぇ、ふたりって今ヒマ? もしかしてだけどヒマしちゃってるの?」
「今? まぁ、ヒマといっちゃあヒマかなぁ……もうすぐ帰るし」
小倉はすでにコートを着ていて、石原は首に白いマフラーを巻いていつでも帰れる状態だった。
「へぇ〜ならさ帰る所悪いんだけど、ちょっとだけ付き合ってくれない?」
「今から? まぁ、私はいいけど……結奈は?」
石原は隣に寄り添う小倉に問いかける。
「私も……七織が行くならいいよ」
「わかった。うん。いいよふたりで付き合う。けど、なんの用なの? もしかして女同士でデートぉ?」
「違う違う。ちょっとした実験」
「実験?」
「実験?」
「実験?」
石原と小倉、そして悠木の隣にいた東山も悠木の『実験』の言葉に見事なハモりを披露したのだった。
◆
「まったく。翠、あんたそのためにそのギターケースを持ってきたの?」
「まぁまぁ、はい奈留。お兄ちゃんに黙って持ってきたからあまり乱暴に扱わないでね」
四人は体育館に移動しダンス研究会が使っている畳五畳くらいある大きな鏡の前にいた。
そして悠木はおもむろにギターケースを開け中から『アンブレイド』と呼ばれる傘を取り出し東山に渡す。どうやらギターケースの中はアンブレイドのしかも戦闘用のが入っていたようだ。
「ねぇ、翠のその気になったらとことん追求するクセ、なんとかならないの?」
「なんとかならないよ。この性格のおかげでクオリティの高いコスプレが作れるんだから」
「……まぁ……そうなんだけど」
悠木が自分で言うとおり、悠木が作るコスプレの衣装は完成度が極めて高い。コスプレイベントでは悠木のコスプレ衣装を撮影するためだけに来ているひともいるくらい有名だ。
その完成度は高さの理由は悠木のこだわりと凝り性にある。それは気になったらとことんまでに作り直して、自分が納得できるまで直す所だ。それ故に結果、原作に近い衣装が出来上がるのである。
だが、その引き返えとしてイベント前日に衣装が完成する事がざらにある。しかも最悪イベント中に完成することもしばしば。そしてなにより、自分が気に入ったアニメ・ゲームの衣装しか作らないと言う職人肌の一面もある。
「あの、話しているところ悪いんだけど、実験ってなにするの?」
「あ、そうそう、それ。私も聞いてないんですけどぉ?」
小倉の疑問に東山も乗り、悠木に問いただす。
「えっと……まずはふたりにはごめん。これからやる事は『あるふたりがやった事の再現』なんだけどホントならその当人の雪見さんと瀬尾さんに頼むべきなんだけど……ふたりがいないから……そのごめん」
悠木はふたりに深々と頭を下げた。
「なに謝ってんの? それってつまり私と結奈は雪見と瀬尾の代わりって事でしょ? 気にしないって」
石原は表情をコロコロと変え、悠木の謝罪を受け流す。
「私も気にしないよ。それに何を再現するかわからないけど、私たちを代わりに立てるってことは人物に左右されない実験でしょ? 何かの条件立証かな?」
小倉もアプローチは違っているが石原と同じ思いだった。
「ふたりともありがとう……でもさすがだね。小倉さんは。さすがは学年テスト三位。うん、そう。これからやるのは鏡の中と外で『コネクト』が繋がるかどうかなんだ」
「コネクトって、あの無料通話アプリの?」
自分が知っているコネクトかどうかの確認を悠木に投げる小倉。
「コネクト? 繋がるわけないじゃん?」
そう答える石原。それが一般の答えだった。
「そうだけど、そうじゃないんだ」
「どういうことなの?」
小倉の疑問。悠木は自分が思っている疑問をふたりに簡潔に話したのだった。
◆
「なるほど……雪見のコネクトと瀬尾のコネクトがねぇ……う〜ん」
「確かに不思議だね……鏡の中と外。繋がるはずないのに……」
小倉は頬に手に当て、石原は腕を組みそれぞれ考える。
「うん、わかんない」
そう結論に結論にたどり着いたのが早かったのは石原
だった。
「私もちょっとそういう話は聞かないなぁ……」
アプローチが違うが小倉も石原と同じ回答だった。
「うん、そうだよね。だからこそ『試そう、再現してみよう。実験しよう』なんだよ」
悠木は手に持つアンブレイドを三人に見せるように胸に前に持ってくる。
「じゃあ、わたしと奈留が鏡の中に行くから、ふたりはそのままここで待ってて。で、わたしと奈留が鏡に入って、そうだなぁ……五分くらい経ってからわたしのコネクトに電話して」
「うん、わかった」
「お願いね。じゃあ奈留行こう」
悠木と東山は鏡の前に立つ。
「さて、じゃあ建前上、話を平行線に持っていかないと。奈留ぅ〜どうしてもだめなのぉ?」
と、棒読みで悠木が話しかける。
「えっ!?」
「適当にあわせて」
小さい声で悠木は東山に囁く
「えっ、えっとぉ……うん、ダメだよぉ〜」
なぜか東山も棒読みで声を上げる。
「じゃあ、バトルで決めよう」
最後に悠木が同じく棒読みで決めた。
「これでよし、奈留。入り方は知ってるよね?」
「知ってる」
「じゃあ、行くよ」
ふたりは右腕を胸の前に突き出しアンブレイド水平に掲げる。
アンブレイドに反応した鏡はふたつの大きな波紋を立てて波打つ。
その反応を確認したふたりは鏡に入るために腕をさらに伸ばす
東山や左手の指先を鏡に。
悠木は左手のひらをひろげ腕を思いっきり突き、鏡に突っ込む。
ふたりが、光に包まれ、そしてふたりは消えた。
◆
「おっ、来たね」
同時に鏡に入ったのだがどうやら悠木が先に着いていて東山を迎える。
「なんかイヤな感じね。鏡の中に入るのって。身体と心が引き裂かれる感じ」
「うん、わたしもそれは同感。ホントにイヤな感じ……なんか『誰かに心と身体を触れてる』感じ」
悠木がそんな表現をすると『その言い方なんかイヤ』と東山が突っ込むのだった。
「でも……鏡の中って感じがしないね? 何も変わってない感じ?」
東山は体育館を見渡して鏡の中の感想を悠木に漏らす。
「そんな事ないよ。確実に変わってるよ。ほら見て」
悠木はそんな感想を述べた東山に自分のスマホを見せる。
「あ……文字が鏡に映したように反転してる……」
東山は悠木のスマホの時間を見て実感する。悠木のスマホの時間は『日曜金 04:71』と鏡に映したように右から読む形になっていた。
「奈留は初めてだっけ? 鏡の中?」
「うん……」
「じゃあ、月がふたつあることも知らないの? ジャッチメントビットも?」
「ジャッチメントビットは防犯のためって事はそれは知ってるけど……なんで月がふたつあるのかは知らない。翠は知ってるの?」
「月に関してはわたしもよくは知らないよ。ん〜さて、じゃあ五分どう潰そうか? せっかくだからバトルしようか?」
「イヤよ! なんで翠とバトらないといけないのよ」
「あはは、そうだね」
悠木はほおを指でなぞり、東山に笑いかけた。
◆
五分後。
「よし、五分たった。もし繋がるなら電話がくるはず」
適当に喋って時間をつぶした五分。悠木と東山はじっとスマホの画面を見る。
「……」
「……」
一分経過。
「……」
「……」
さらに一分経過。
「……」
「……来ないわね」
さらに一分経過。
計三分経過した所で東山が耐えられずに話しかける。
「どうする?」
「いったん戻ろう」
悠木はそう判断し東山に告げる。そしてアンブレイドの柄にあるパネルボタンを押し、右手を大きく外側から内側に薙ぎ払いクリスタルパネルを起動させた。
「どうするの?」
「とりあえずバトルの名目で鏡の中に来てるからわたしがギブアップするよ」
「えっ、そうなの?」
「うんそう。アンブレイドバトルは基本『完全決着制』で、勝者が決まるまで出れないんだ。まぁ、六時間すれば勝敗に関係なく強制的に出れるけどね」
「へぇ〜」
「よし、勝者は奈留になった。じゃあ出よう」
「あっ、待ってよ!」
悠木の後に東山は着いていき、自分たちが鏡の中へ来た鏡の前に立つ。
「帰り方は分かるよね?」
「入るときと同じでいいんでしょ?」
「それでオッケイ。じゃあ、帰るよ」
悠木と東山は入ってきた時と同じ動作で鏡に触れ、光が溢れだしたのだった。
◆
「あ、お帰り〜」
石原がふたりを迎える。
「電話してくれた?」
「うん、したけど……電波が届かないってアナウンスが出るだけだった」
そう答える小倉。その答えで悠木は『やっぱ、そうなるかぁ〜』と答えるだけだった。
「場所が関係してるのかなぁ」
「ねぇ、場所ってどこなの?」
悠木がそう呟くと小倉が悠木に問う。
「妻沼駅付近」
「妻沼かぁ……う〜ん……これが港区とかだったらありそうなんだけどなぁ」
「えっ、そうなの?!」
今度は悠木が小倉に食い入り気味に問う。
「う、うん……私も聞いた話だけど、ほらあそこって2003年の事故以来『完全封鎖区域』でしょ? 電波も荒れてるし、鏡の中のマナもすごく濃いって話しだし。だから電波とマナがなんらかの干渉を起こしてるのかなって……」
「それは初めて聞いたなぁ……マナと電波の干渉か……」
悠木は考えるように地面を一点見つめした。
「さっきも言ったけど『完全封鎖区域』だから入れないから無理だよね。なんかの別の事象が働いてるんだと思うんだけど……」
「うん、その事象がわかんないんだよね……」
「鏡の外の電波と鏡の中のマナか……もしホントに繋がるならマナと電波は鏡を介して『相互互換』ができるってことかも……」
「う〜ん、でもそれは『港区』でなら可能っていう事でしょ? 妻沼には電波とあるけどマナは微量。『完全封鎖区域』ほどのマナの濃さはないと思う」
「う〜ん……」
悠木と小倉は自分が思う『事象と原因』を語る。
「ちょっとぉ! ふたりで話してないでわたし達にも説明してよ!」
「翠。あんた頭良くないのに難しい話ししてんじゃないわよ!」
業を煮やした東山と石原がふたりに問い詰める。
「ごめんふたりともごめん。今わかんないし積んでるんだよね。それと奈留。頭良くないはヒドくない? 泣きそうなんだけど?」
「泣いてないでしょうが!」
東山は悠木にそうツッコんだ。
「ごめんね、悠木さんの言うとおり話してるけど全然解決してないんだ。まったくわかんない状態」
「う〜ん、そっかぁ……ならさ、わかりそうなひとに聞いたら?」
石原がそう三人に提案する。
「解りそうなひと?」
「解りそうなひと?」
「解りそうなひと?」
と、三人個性もなく同じ言葉を同時に口に出した。
◆
「B組に行くの? 七織、もしかしてB組の今井さん? 学年テスト一位のあの『今井浅乃』さん?」
「そう」
四人が向かうのは二年B組。そこは石原が名指しした人物が在籍するクラスだった。
「じゃあ結奈。今井さん呼んできて」
「えっ?! 私が!?」
石原の突然の行動に面を食らって驚く小倉。小倉にしてみれば石原が呼んでくるものだと思って気を抜いていた。
「だって、私は一度も今井さんと話した事ないも〜ん」
「だったら私だってあまり話したことないよ……」
「いいじゃない。頭いい同士話がはずむんじゃない? ほら」
「痛っ!」
石原は小倉の背中を思いっきり叩き気合いを入れた。
「ううっ……じゃあ、悠木さんか東山さん……付いてきてくれないかな?」
「あ〜がんばれ!」
と、声援を贈る悠木。
「がんばって! 小倉さん」
と、声援を贈る東山。
「ううっ……誰も付いてきてくれないんだ……」
観念したのか小倉はB組のドアに手をかけたのだった。
◆
「お、帰ってきた」
「今井さん。いなかったよ」
数分後、B組の教室から出てきた小倉は廊下で待つ三人に報告し、歩み寄る。
「そっか、帰ったのかな……」
「うん、もしかしたら科学部にいるかもって言ってたけど、もうすぐ下校時間だから」
悠木の言葉に小倉は付け加えて科学部にいるかもと言う。
「そうだね……アトケンかな……うん今日はここまでだね。ありがとう。ふたりとも付き合ってくれて」
「うん」
「そっか」
悠木の言葉に小倉と石原。
「じゃあ、今日は終わり」
「うん。だね」
東山の言葉に答える悠木。
「じゃあ、私と結奈はこのまま帰るね」
「わかった。ありがとう」
すでに帰り支度を終えて悠木と東山に付き合ってくれていた石原と小倉。
そのふたりに悠木はお礼を述べて見送った。
「うん。じゃあね」
「バイバイ」
「またね〜」
去っていくふたりに手を振る東山。
「さて、じゃあ、私たちも帰ろっか」
「うん……ごめん奈留。わたしちょっと科学部に行ってくるよ」
「えっ?! アトケンじゃないの?」
東山は悠木の言葉に驚いた。
「やっぱり小倉さんの言ったことが気になるんだ。で、少しでもこのココロの闇が晴れるならわたしは、行くよ」
悠木は天井を見上げ、凛々しく東山に告げる。
「カッコよく言ってるけどそれ、だだのワガママだからね」
「あはは……」
「来週でもいいんじゃないの?」
「うん、ごめん。奈留は先に帰っていいよ」
「あなたたちは何をしてるのかしら?」
ふたりの背後から聞こえる突き刺さるような声。
「あ、新生徒会長の……」
「斎藤よ。所でもうすぐ最終下校時刻よ。もう部活は終わってるはずでしょ?」
振り向くとそこには新生徒会長の斎藤千佳と隣には副会長の中原麻子がいた。
「えっとぉ……か、科学部に用事があって……」
「科学部? なら安心しなさい。さっき今井さんと宮野くんが帰ったわ。あのふたりで最後だから科学室は誰もいないわよ。用事なら来週にしなさい」
「今井さん……帰っちゃったんですか? ホントに」
繰り返し同じことを斎藤に訪ねる悠木。
「ええ、藤原先生に怒られてふたりで仲良くがっくりしながら帰ったわ」
威圧的で高圧的な態度と凍り付くような冷たい冷めた声で斎藤はふたりに言葉を漏らす。
「そっか……」
「納得したならそのまま科学部に行かず、自分の教室へ戻りなさい」
「わかった」
「よろしくね。では麻子。私たちも帰りましょう……あら? いない? 麻子?」
「あ、私は先に帰るから。千佳はひとりで帰って」
B組のドアを開けると中原はすでに帰り支度を終えて今まさに帰ろうとしたところだった。
「麻子。私はあなたに好意を抱いているわ」
そう言い、斎藤も教室へと入っていったのだった。
「翠。アトケンは来週だね」
「そうだね……今日は帰ろっか」
結論が出て、悠木と東山は自分の教室へと戻った。
そして、その後。教室で生徒から『秋穂先生』と慕われる担任教師の川上秋穂がいて数学の授業中に寝ていた件で怒られたのだった。ついでに東山もだが。
◆
「もう、翠のせいで私まで先生に怒られちゃったじゃんか!」
「ごめん、奈留ごめんって」
新京連の新妻沼駅。時刻は午後八時近い時間帯。
東山は悠木にご立腹しているのだった。
●おまけ/どういうことなの? 完
お久しぶりです。間宮冬弥です。
まずは最後まで稚拙な作品を読んでいただきありがとうございます。
ここまで読んでいただいた方はご存知だと思いますが、今回の八話でアンブレイドバトル番外編は最終話になります。最後までお付き合いしてくださった皆様。たいへんありがとうございました。
次回作はアンブレイドバトル~になるか別の作品になるかまだまったく決めていませんが、次回作がありましたらぜひ再びお付き合いしてくださいますことを願います。
それでは、この辺で失礼します。