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More drive

お久しぶりです。こんばんは。そしてこんにちは。

作者の代弁者の紫乃宮綺羅でぇ~す。みんな元気してた?


アンブレイドバトル~(以下略)番外編の第六話が完成したのでアップしまっす!

途中短編を挟んだけど、約一か月半ぶりくらいのアンブレイドバトル~(以下略)番外編の続きですよ!やったね!


あ、それと最初に言っておくけど、今回のお話で『家電の値引き交渉』が描かれているけどこれねぇ、一部は創作の作り物で一部は実際に間宮冬弥さくしゃがやったけど失敗した値引き交渉だからね。ホントにやっちゃだめだよ。で、結局買わずに買ってきたから笑えるよね! あはは!


じゃあ、その事も踏まえて本編を読んでね。


それでは、本編をお楽しみください。ではっ!

「値引き交渉ですか?」

「うん、lPodも一緒に買うから安くしてって作戦で行こうと思うんだよね。だからレコーダーを安くするために使っていい?」

「いいですけど、それってlPodも安くなったりしますか?」

「う〜ん、ごめんね、lPodは安くならないんだよ。このメーカーが自社製品の値引きを許してないらしくて」

「そうなんですか」

「ごめんね。チカラになれなくて」

「いえ、そんなことないです。刹那くんのせいじゃありませんから」

 lPodが安くならないのは刹那くんのせいじゃないのに……そんな謝らなくてもいいよ。


「ごめんね。じゃあ、何色がいい?」

 刹那くんが視線をlPodの棚へと移す。


「そうですねぇ」

 わたしも同じようにして棚に視線を落とす。


「う〜んどれにしようかな……」

 さっきまではイエローやグリーンがいいなと思ったけど、パープルもいいしピンクもかわいいなぁ。


「あ、ちなみに刹那くんは何色を使ってるんですか

?」

 どうせなら……せ、刹那くんと同じ色にしちゃおっかなぁ! お揃いのlPodで、デ、デートとかできたらいいな! なんてね!


「俺? 俺はこのnanoシリーズじゃなくて、こっちを使ってるんだ」

 そう言って刹那くんが指さす先にあったのはスマホぐらいの大きさのわたしが買おうとしている機種とはまったく形の違う機種だった。


「これですか……ごっついですね」

 持った感じは『重い』って印象だな。それでいて液晶の発光も綺麗じゃない。よく見ると再生されている曲のジャケット画像がギザギザしててなんか『ぼやけてる』って感じ? あ、画面全体がぼやけてる? それと液晶の下にはなんか大きな丸いボタンのようなものがある。たぶん再生と停止のボタンだと思うけど……


「重いし画面も綺麗じゃないですね? これもlPodなんですか?」

 購入を考えているlPodとは大きさが違う。それに液晶もなんか鮮明じゃないなぁ……


「うんこれもlPodのひとつだよ。液晶の解像度が低いのはスマホや凪紗ちゃんのクォークマンで使ってる液晶とは根本から製法が違うからだよ」

「ふぅ〜ん」

「うん。やっぱり凪紗ちゃんにはこっちだよ。それは値段が高いし。興味なさそうだし」

「そうですね……あ、いえ別に興味がないとかじゃなくて!」

 ううっ……さっきの『ふぅ〜ん』って返答があまりにも軽かったから刹那くんに『興味がない』印象を与えちゃったかも……


「いいって、それは大量に音楽を持ち歩くひと専用みたいなモノだし」

 刹那くんは笑顔を見せながら、わたしの買おうとしているlPodへと視線を戻す。


「もう、違うのに……」

 わたしも同じく視線を戻した。


 違うのに。興味がないってわけじゃなくて『大きくて持ちづらそう』って思ってただけなのに……もしかしてアイイリーンとかと一緒に買い物をしてたときも、こんな軽い返事をしてたのかなぁ……それで刹那くんと同じ感想を持ってたかも……ううっ……これは反省しないとな……


「うん、反省とアイリーンへの謝罪は後だ。今はこっち」

「ん? なに?」

「あ、いや、何でもないです。う〜……どれにしようかなぁ〜どうしようかなぁ〜」

 意識と視線を棚のlPodへと戻す。


 やっぱりグリーンにしようかなぁ〜でもパープルもなんかいいなぁ〜でもピンクもかわいいし捨てがたいなぁ〜


「色々あって悩むなぁ」

 悩む。こういう買い物は悩んじゃうんだよね。あっという間に決断するひとが羨ましいよ。そんな事を思う優柔不断のわたし。


「う〜ん、どうしようかな」

 クォークマンがシルバーだったから、ここはグリーンにしようかなぁ〜


「でも、パープルにしようかなぁ〜」

 このクールな感じの色使い。ブルーより濃いめがいいよね。


「う〜ん」

「……凪紗ちゃん。決めるのに時間がかかるようなら俺、レコーダーの売場に行ってるから」

 業を煮やしたのか刹那くんはわたしにひとこと言って、レコーダー売場へと向かおうとしていた。わたしはすぐに振り向いて『あっ、えっと! すいませんすぐに決めます!』と焦って返答したのだった。


「う、う〜ん」

 あうぅ……時間をかけすぎちゃったかな……わたしっていつもこう。買うからには自分が納得して買いたいって思いが先行して選考に時間がかかっちゃうんだよね……あ、シャレになっちゃった!


「あ、いいよゆっくり決めてて、二十分くらいしたら迎えにくるからその時に何色か教えてね」

「あっ……ううっ」

 刹那くんはその言葉を残してレコーダー売場へと向かい歩きだしてしまった。


「ごめんね。刹那くん。あと五分で決めるから」

 わたしは刹那くんのご厚意に甘え、色の選定へと戻るのだった。




「お客様にお知らせいたします。本日予定しておりました、タイムセールはすべて終了いたしました」

 と、店内放送。


「もしもし、どうした?」

「え〜と、すいません。昨日テレビでやってたカメラってどれですか?」

「あの、電池ってこの階で売ってますか?」

「プレステ4でブルーレイ再生? 無理だから。プレステ3で視ろ!」

 わたしの真後ろで混じる大きな声。


「ねぇ、洗濯機って向こうじゃないの?」

「おもちゃ売場ですか? 二階になります」

 棚を挟んだ前方でも同じく聞こえてくる話し声。


「う〜ん……う、うるさいなぁ……」

 エドバシカメラ店舗内はひとびとの色々な喧騒で溢れている。


 刹那くんがレコーダー売場にいってしまい、ひとりになるとわかる店内の喧騒感。


 店内に溢れる色々なひとの声がわたしの耳に入り無遠慮に耳に入り、無意識に耳から抜ける。


(できれば、ゆっくりと静かに選びたいんだけどなぁ……まぁ、無理だけど。でも、刹那くんが待ってるし。ゆっくりもしてられないんだけどね)

 なんて事を心で思う。そうだよね。刹那くんが待ってるんだもん。


「よし、集中して決めるぞ!」

 意識をlPodに集中させてわたしはlPodのカラーを選んだ。



 ◆



「えっと、どこだろう」

 10分くらい悩みに悩んで、集中して決めて選んだ色は『グリーン』決まった色を刹那くんに伝えるため、レコーダー売場で刹那くんを探していた。


「おっ、ここかな?」

 約一、二分歩いてなんとなくそんな感じの売場へと到着し、刹那くんを探し出す。


「あっ、いた!……ん?」

 あまり広くはない売場の一角で見覚えのあるミリタリーコートの後ろ姿を発見。あの『踊る大調査線』のコートはまさしく刹那くん!


 なんだけど……なんだろ? ものすごく頭を抱えてるけど……


「えっと、刹那くんお待たせしましたって、どうしたんですか? ものすごく眉間にしわ寄ってますよ!」

 刹那くんはへと目を向けると刹那くんは目をつむり、これでもかっていうくらい眉間にしわをよせ、さらに指先を額に当てていかにも『何かを考えている』って感じだけど……たぶんだけど、これって悩んでるのかなぁ?


「あ、凪紗ちゃん? ごめんもしかして20分経っちゃった?」

「いえ、あれからだいたい10分くらいですけど……あ、lPodの色決まりましたよ」

「決まったの? じゃあごめん俺の決断まで待ってくれる?」

「決断? はぁ……いいですけど、何に悩んでるんですか?」

 やっぱり悩んでたんだ。でも、何に? なんだろ?


「うん、これ」

 そう言って刹那くんは目の前の棚を指す。棚には見た目まったく同じ正方形のレコーダーがずらりと並んでいる。


 色も黒が多い。っていう黒しかない。


「レコーダーってやつですよね?」

 一応確認。音楽プレーヤーの時みたいに間違ってもはずかしいし。


「うん、それでね、俺が買おうとしたレコーダーがこれなんだけど……」

 刹那くんから向かって右にある機種を指さした。


「隣のものと比べると小さいですね」

 大きく『ラビスサーバー WBN-470』と宣伝用の看板が張り付けてある機種。それはひとまわり小さい本体。


「なんか、小さくて置き場所をとらなそうですね」

「そうなんだけど、その小ささがそれが落とし穴だったんだよね……」

「落とし穴ですか……?」

「うん、この機種ね……ブルーレイ再生ドライブを積んでないんだよ。迂闊だったな……さっきのカタログをよく読んでおくんだったなぁ」

「はぁ……」

「どうするかな……」

 そんな悩んでいる刹那くんに『こっちのじゃダメなんですか?』と左の機種を提案。


「うん、ダメだね。そっちは『全録機能』が付いてないからね。もし買うならこっち」

 刹那くんは自分が悩んでいる機種の右をものを指した。刹那くんの指定した機種の値札には『全禄機能搭載!』と『BD再生可能』と表示されていた。


「こっちにはその『全禄』って機能がないんですか?」

「うん、このメーカーで全禄があるのはこっちとこっちだけだね。う〜ん……どうするかなぁ」

 悩む刹那くん。わたしは何気なく値札を見た。


(おおぅ……た、高いな……)

 と、心中で発言。刹那くんが悩んでいる機種のブルーレイ再生なしは『六万四千八百円』そしてもうひとつのブルーレイ再生ありは『九万八千八百円』だった。


「……」

 なんか……悩んでる刹那くんいいな……


「……」

「……あ」

 ううっ……見とれちゃったな……


「あ、あの」

「ん?」

 悩む刹那くんと刹那くんに見とれるわたし。このままじゃ刹那くんがずっと悩んでいそうでいて、わたしはずっと見とれてそうなので、わたしは心を鬼にして? なのかな? なので刹那くんに話しかけた。


「パソコンとかでブルーレイは視れないんですか?」

「ブルーレイドライブを積んでれば視れるけど……俺のパソコンはDVDだけしか視れないなんだよね」

「そうなんですか……」

 う〜んなら、やっぱりこっちの高いモノを買うしかないような気がするなぁ……


 でも、なんか刹那くんのチカラになってあげたいな……

う〜ん、要はブルーレイが再生できて視れればいいんだよね。じゃあ別の何かで再生できればいいのかぁ……別の何かねぇ……何かないかなぁ?


 ブルーレイ再生だけの機械もあるけど……ならこっちのブルーレイ再生できる機種を買った方がいいしなぁ……ベストは『お金をかけずにブルーレイを再生』できる方法が見つかればいいんだけどぉ……


「う〜ん」

 わたしが知っている知識と記憶を絞り出してみる。


「あれ……」

 ブルーレイって単語をどこかで聞いたような気がするな……どこだっけ……?


「あっ!」

 思い出した。lPodを選んでいるときに後ろから聞こえてきた声だ!


「確か……『ブルーレイがなんとかでプレステ3で視ろ』とかなんとかだったような……」

 プレステ3って確かゲーム機だったよね? 東山さんがわたしとそっくりのゲームキャラが出てる『まゆきなんちゃら』って名前のゲームがプレステ3で出た。とかコスプレを着せられた時に言ってたはず。


「で、刹那くんはゲーム好き……」

 なら、プレステ3を持ってるかも!


「う〜ん」

「刹那くん!」

「ん? なに」

「刹那くんってゲームが好きなんですよね? ならプレステ3持ってますか!?」

「プレステ3? 持ってるけど、突然どうしたの?」

「なら、それでブルーレイが再生できるはずですよ?」

「あっ……」

 わたしの言葉に刹那くんはハッとした表情を浮かべ『そうか』とつぶやいた。


「そっか迂闊だった……プレステ3はゲームしかやらないからその付加機能がすっぽりと抜けてた……ありがとう凪紗ちゃん!」

 刹那くんはわたしの右手を取って自分の右手をわたしの右手に当てて握った。


「えへへ……」

 わたしははずかしい笑みを浮かべて刹那くんの右手を握り返す。


「どうせ録画して視るだけだし……よし、解決したぞ」

「よかったですね!」

「うん、さて……じゃあ、次は店員さんを呼んで値引き交渉だな」

「あ、なら、向こうに店員さんがいますよ?」

 わたしはテレビ売場の棚の前で手を前の腰あたり組んでいる赤いジャケットの店員さんを見つける。


「あのひとは店員じゃないからダメだよ」

「えっ、そうなんですか?」

「うん。ほら、ジャケットの表や裏に『Banosonic』って書いてあるでしょ? ああいう企業名の入ったジャケットをきている人はメーカーから派遣されて来てるひとなんだ」

「へぇ〜そうですか」

 知らなかったな〜メーカーからも店舗に派遣されてくるんだ。でも、紛らわしいなぁ〜


「だから値引き決定権は持ってないんだよ。で、狙うのはエドバシカメラの制服を着ているひとで、なおかつここのフロア長あたりがいいだけど……」

 そう説明している刹那くんの首は前後左右に動き、瞳は縦横無尽に動いている。

 話の流れからきっと、エドバシカメラの店員さんを捜しているんだろうな。


 なのでわたしも同じように店員さんを捜す。


 今日は土曜日なのでひとが多い。で、なおかつ見える範囲にいるエドバシカメラの制服を着ているひとはすべて他のお客さんの対応に追われている。


「みんなお客さんの対応に負われてますねぇ」

「うん……空いてる店員さんはいなそうだね……って、あ、いた。ちょうど裏から出てきたかな? あ、すいませ〜ん」

 刹那くんは店内裏方に通じるスイングドアから出てきた店員さんに声を掛けた。


「凪紗ちゃん。値引きは第一印象が大事だって妹が言ってたから、ごめん基本笑顔でいて」

「えっ!?」


「お待たせいたしました」

 小走りでやってきた店員さん。その店員さんに刹那くんは笑顔を向ける。



 でも……刹那くん。笑顔が硬いよ……


 そう思っているわたしも笑顔を作る……けど、なんか顔の筋肉が痛いなぁ……




 ◆



「まったくもぉ! あの子ってなんなんですかね!? 森川先輩!」 

「俺に聞くなよ……まぁ、小松も大変だったってことだ」

「あの女の子すごい詳しい家電知識を持ってるんですよ。手ぶれ機能はこっちがいいとか、そっちは値段の割に機能が少ないとかって……こっちがタジタジですよ!」

 エドバシカメラ休憩室。ここでは今。エドバシカメラの制服を着た店員の小松未奈乃が遅めの昼食を採っている。 それと同じくエドバシカメラ店員の森川智憲がテーブルを挟み休憩がてら遅い昼食を取っていた。


「でも、お前の担当はカメラじゃないからしょうがないんじゃないの?」

 二十代半ばで短髪の青年の森川が後輩の女性店員に声をかける。


「そうですけどぉ、なんか年下の、しかも高校生くらいの女の子に負けたのがくやしいです!」

 激昂気味の二十代前半の店員の小松。肩まである長い髪を肩付近で結び清潔感があふれる綺麗な顔立ちをしている女性だ。



 そんな小松はお茶をガブ飲みして向かい側に座る先輩店員の森川にグチっていた。


「まぁまぁ、そう怒るな。俺だって家電に詳しすぎる客に当たった事があるぞ。まぁ、悔しかったらお前も家電の勉強をしてその女の子に負けないようにしないとな」

 コンビニで買ってきた鮭のおにぎりを食べながらなだめる森川。


「はぁ……今度子安フロア長にご教授してもらおうかな……」

「ああ、それいいんじゃないか? あのひとはここでは一番家電知識あるし」

「でもぉ……子安さんって普段はあまりしゃべらないひとですけどぉ……家電の事になると声が1オクターブあがるっていうか……少し絡みづらいんですよねぇ……」

「それだけ家電が好きってことじゃないの?」

「う〜ん、そうだと思うんですけど……あ、森川先輩。もう時間じゃないですか?」

「あ、本当だ」


 森川は腕時計を視た。


「悪い、じゃあ俺行くわ」

「あい〜いってらっさい」

 テーブルに突っ伏して小松は答えた。


「ったく、おい小松、お客の前ではシャキっとしろよ」

「わかってますってぇ〜きゅ〜けいの時だけですってぇ〜」

 力なく手をって軽く答える。


「ったく、じゃあな。寝てもいいけど時間になったらシャキっとしてフロアに出ろよ」

「あい〜」

 そう言葉を残して、森川は休憩室を出て、歩き三階レコーダー側のスイングドアを開ける。


「すいませ〜ん」

「ん?」

 フロアに出ていきなりお客さんに呼ばれた森川。


(休憩終わりの一発目だ)

 そう自分に言い聞かせ、気合いを入れて森川は呼ばれたお客の元へと小走りで向かう。


「お待たせいたしました」

 到着するやいなや森川は呼ばれた男女ふたり組のお客に違和感を覚える。


 ひとりはドラマの『踊る大調査線』のようなミリタリーコートを着ている二十代くらいの男。


 そしてもうひとり腰まで伸びる長いポニーテールの髪に赤と青のパーカーを着て、ギンガムチェックのスカートを履いている背の低い十代くらいの少女だった。


(顔にバンソウコウ? 兄妹ケンカか?……っていうよりも、なんだろ? ふたりとも笑顔が変だな……っていうか作り笑顔かこれ?)

 心中でそんな事をつぶやき、そして一瞬で『作り笑顔』と看破した森川だった。そんな異様な作り笑顔を浮かべているふたりに『なにかご用でしょうか?』と森川はミリタリーコートを着た青年に話しかけた。


「えっとぉ、このレコーダーが頂きたいんですけどぉ、これ、値段を五万円ちょうどになりませんかぁ?」

 青年は笑顔で購入したいと申し出たレコーダーを指さす。


「こちらの機種ですか?」

 森川は確認のために青年が指さした同じ機種に指先を当てる。

「はい」

 作り笑顔のまま答える青年。


(ラビスサーバーのWBN-470か……)

 森川はチラッと値札を確認。


(一万六千八百円は引けないな)

 値札に書かれているバーコードコードを確認。この機種は値引き幅が狭いとわかる。これは店員だけがわかる暗号みたいなものだ。


「さすがに一万六千八百円は引けませんねぇ。すこしお待ちください」

 森川は、腰に携えている大きなポーチから電卓を取り出し人差し指で数字を打ち出す。電卓打ちはフェイク。なぜならば値引き幅は値札に記載されている。


「そうですねぇ〜こちらの機種でしたら六万四千円が限界ですね」

「えっ? そうなんですか……でも、今日行った、船橋エッグカメラは五万円まで引いてくれるって言ってましたよ?」

「えっ、ホントですか?」

「ええ、でもそれは他に何か買うって条件でしたんで。なら値引きしたぶんでlPodを買おうと思ったですけど、船橋のエッグカメラでは欲しい色が売り切れだったんですよね。違う店舗のエッグカメラまで遠いんで、こっちに来たんですけど……無理そうですか?」

「そうですね……」

「なら、ポイントとかいらないんで五万円くらいになりませんか? それプラスlPodを買いますから」

「う〜ん、ちなみにlPodはどのタイプですか?」

「nanoです」

「nanoですか……」

 森川はlPodタッチなら引けるかもしれないと思ったが、青年の答えはlPodシリーズではお手ごろ価格のnanoだった。


「もし、五万円でいいなら今日ここで両方買いますよ。なんならlPodの保護フィルムと保護ケースも買います」


「……そうですね」

 悩む森川。


(どうする俺)

 チラッと腕時計を見る。


(五時か……この時間帯で逃すのは痛いか? それにlPodじゃなくてラビスサーバーの方で値下げ交渉してるあたりは結構家電に詳しそうだ……)

「あの、無理そうなら船橋で買いますけど?」

 数秒思想を巡らせいて考えていた森川だったが青年の言葉で現実へ引き戻された。


「あ、少々お待ちください。ただいま確認して参ります」

「わかりました」

 森川はそう答え営業スマイルで後方のバックヤードのスイングドアへと向かう。


(心理戦……くそやられた! バックヤードまで追い込まれた……)

 森川はバックヤードまで下がり、トランシーバーの周波数を『子安フロア長』へとダイヤルを回す。


「あ、フロア長ですか? すいません今いいですか? あ、はい。今ですね、『ラビスサーバーWBN-470』を値下げ希望のお客さまがいるんですけど」

 森川は青年との値引き交渉のことを『子安フロア長』へと話すし報告する。


「ええ、はい。よろしいですか? ええ、あの機種の後継機は確かに予定ではありましたけど……ええ、はい、わかりました。必ず買わせます。はい。ありがとうございました」


 フロア長とのトランシーバー越しの話し合いを終わらせてスイングドアをゆっくりと開けて小走りで青年の元へと戻る。


「すいません。お待たせいたしました」


 森川は青年の元へと戻る。そこには相変わらずの硬い作り笑顔がふたつあった。




 ◆




「刹那くん……店員さんが行っちゃたんで笑顔をほどいてもいいかな?」

「もちろん。あ、でも帰ってきたらまた笑顔お願いね。ふぅ。いたぁ……顔の筋肉が痛い……」

「あ、はい。ふぅ……顔の筋肉がホントに痛いです」

 無理矢理作っていた笑顔を解いて、ほおを両手の指先で回すようにほぐす。


「あいたた……なんか顔がつってるっぽいよ」

 刹那くんもわたしと同じように両手の指先でほおをグリグリしてほぐしている。


「ホントですね……」

「凪紗ちゃん。凪紗ちゃんはスノバで働いてるんだから笑顔とかって得意じゃないの?」

 そんな疑問をぶつけてくる刹那くん。う〜ん……なんて言おう? 大好きな刹那くんとの買い物で緊張してるからなんて言えないしなぁ……


「確かに笑顔はいつもしてますけど……なんて言うか制服がないといつもと違うというか……環境が違うというか……感じが違うのかなぁ……? えっとぉ……そんな感じです……」

「そっか、なるほどね。確かに環境が違うと実力を出せないって言うしね。うん。ごめんね」

「なんで刹那くんが謝るんですか!?」

「あ、いや……なんとなく……」

「もう、なんとなく謝らないでくださいよぉ」

 わたしはほお膨らまして怒っている仕草を見せる。でも当然本当に怒ってるわけじゃない。それもわかっているのか刹那くんも笑顔で『うん、ごめん』とまた謝った。う〜ん謝らないでもいいのに……


「それより刹那くん。刹那くんはいつのまに船橋のエッグカメラに行ってたんですか?」

 わたしは話を変えて、店員さんと刹那くんの会話で思った疑問を聞いてみた。


「あ〜あれね。今日はエッグカメラには行ってないよ。あれは店員さんの心を惑わす為の交渉術ってやつかな?」

「交渉術ですか」

「うん。そうだよ」

 わたしと刹那くんはほおをグリグリとほぐしたまま会話を続けている。端からみたらおかしなカップルだと思われているんだろうなぁ……カップル……そう見られたらいいなぁ……


「交渉の値段以上に安くなるといいですね」

「イヤ、それは無理だね。あれ以上の値下げは望めないよ」

「えっ? なんでですか」

 ほおのほぐしを終わらせて、わたしは食い入るように刹那くんに近づいた。


「真咲が言うには、あのレコーダーはすでに底値らしいからね。それ以上値下げさせるなら、なにか店側にプラスになる『何か』をしないと無理って言われてね」

「あ〜だからのlPodですか?」

「うん。ごめんね凪紗ちゃんのは値引きできなくて」

 刹那くんはまたわたしに謝る。


「いいですよ。わたしがlPodがいいって言ったんですから。刹那くんは気にしすぎですよ?」

 ホント刹那くんはやさしくて気が利いて……でも、それが過度な気にし過ぎに繋がってるんだよね。


「そうかな?」

「そうですよ」

「すいません。お待たせいたしました」

 その時、さっきの店員さんが戻ってきた。


「いや、大丈夫ですよぉ。どうでしたか?」

 刹那くんはとっさに笑顔を作る。そんな刹那くんの横でわたしも笑顔を作った。


「お客様の言い値で大丈夫です。ですので五万円プラスlPodの値段が一万四千八百円ですので合計で六万四千八百円になります。よろしいでしょうか?」

 店員さんはリズムよく電卓を叩き、合計金額を刹那くんに告げた。


「はい。じゃあそれでお願いします」

「かしこまりました。では商品をご用意いたしますのでしばらくお待ちください。あ、それとlPodの色はお決まりですか?」

「えっと、凪紗ちゃん何色だっけ?」

「あ、グリーンです」

「わかった。じゃあすいませんけど、グリーンをお願いします」

「かしこまりました」

 その数分後。店員さんは大きな箱と小さなプラスチックの箱を持ってきて刹那くんとわたしをレジまで案内したのだった。



 ◆



「刹那くん。本当にお金は来月の給料後でいいんですか?」

「うん。それでいいよ。凪紗ちゃんレストランで言ってたでしょ? 『今月はちょっと』って。それって今月は金銭的に厳しいって事でしょ?」


 錬糸町駅の千葉方面の快速ホーム。


 そこでわたしがlPodの代金を渡そうとしたら刹那くんは『来月のバイトの給料後でいいよ』と言ってくれた。


「確かにそうですけど……刹那くんは大丈夫なんですか? お金は?」

「俺も厳しいけど……まぁ、なんとかやるよ。食費は中村君からピザのクーポンもらったり安くしてもらったりしてで浮くから。それにお金のない高校生から無理矢理もらえないよ」

「でも、やっぱり払いますよ」

 わたしがサイフからお金を出そうとすると刹那くんが『ホントにいいって』と言って受け取りを拒否する。


「……わかりました。じゃあ来月、必ず受け取ってくださいよ」

「うんわかった。給料が出たらメールしてよ。時間あけておくから」

「あ、はい。わかりました」


 そしてその後、今日行った、個性的なレストランの話やエドバシカメラの話をしてやってきた快速に乗ってふたりで船橋へと戻るのだった。



 続く。

お久しぶりです。間宮冬弥です。

まずは、このような稚拙な作品を読んでいただきまして誠にありがとうございます。


さて、代弁者も言ってましたが値引き交渉。失敗してます。難しいですよね値引きの交渉って…だもんでコーヒー飲んですごすごと帰ってきました。う~んネットで買おうかな…


では、次回の第七話ですが現在執筆中です。毎度ですがだいたい一か月くらいかかりますので気長にお待ちいただければ幸いです。

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