恋煩いエレクトロ
続けてど~も! 紫乃宮綺羅々でぇ~す!
では続けての第四話です!
…特にこれと言ってお知らせすることはないから第四話をお楽しみくださいってのは味気ないから、ここはひとつおなじみの間宮冬弥の近況でも語ろうかな。
最近、間宮冬弥はとても悩んでいます。それは、この作中でも出てきたボノボルのモデルとなったコスパ最高のお菓子のボノ○ンがどこにも売ってないってことらしいよ。
コンビニでもお菓子専門店でも売ってないから、製造中止になったのかもととても不安がっています。
…まぁ、どうでもいい悩みだよね! あはは!
では、つまらない間宮冬弥の近況報告終わり!
それでは、第四話『恋煩いエレクトロ』をお楽しみください。それではっ!
◆
「み、見にくい……」
薄暗い店内からカバンを漁り、なんとかスマホ取り出しテーブルに置く。
「あ……そうだ」
カバンの中のサイフを見て思い出した。
「あ、刹那くん」
「ん?」
お昼時なのにあまりひとがいない店内。
薄暗いボックス席に対面で座っているけど、いまひとつ刹那くんの表情が見えない。
そして恐ろしい料理名の料理が運ばれるのを待っている刹那くんにわたしから声をかけた。
「今日、お父さんから『神夜君とこれで、ごはんを食べてくるといい』って言われて五千円もらったんですけど……どうせならもっと高そうなお店の方がよかったですね?」
などと、笑って話しかけてたけど……刹那くんは『凪紗ちゃんのお父さんの計らないか……』と一拍置いて何かを考えて、そして……
「お心使いはうれしいけど、そのお金は凪紗ちゃんのお父さんに返してくれないかな?」
「はい」
そう返事して、わたしは『まだ料理こないんですかね?』と言いながら手持ちぶさた気味にメニューを開いた。
メニューにはやっぱり個性的な料理名が並んでいた。
「……意外とあっさりだね。凪紗ちゃんなら『え~使いましょうよ~』って言うと思ってた」
目を点にして刹那くんはそう言った。やっぱりわたしの意外な態度で戸惑っている感じ。
「えっと……お父さんの言葉には続きがあってですね」
わたしは一拍置いて、言葉を紡ぐ。
「その続きって言うのは『でも、神夜君はきっと俺のお金は受け取らないだろう。彼の目はひとの恩を受け取らない輝きをしている。もし俺のお金を使ったら、お礼を言いきっと俺には二度と会わないだろう』って」
「凪紗ちゃんのお父さんがそう言ってたんだ」
「はい」
『お父さんとは二度と会わない』それはイコール『わたとも会わないって』事だと思う……だから……わたしは……
「……ホントに三凪先輩といい凪紗ちゃんのお父さんといい……何もかもを見透かす怖い『眼』を持ってるよ。だから俺は思い出すんだな……」
「? 刹那くん?」
暗くてよくわからないけど……なんか真剣な顔してそう……
「ううん、なんでもない。じゃあそういうワケだからそのお金はお父さんに返しておいてくれない?」
わたしの問いかけに刹那くんはいつもの表情で答える。
「はい。大丈夫ですよ。こっそりと使ったりしません」
そんな刹那くんにわたしもいつもと同じように、にこっと答えた。
「うん。よろしく」
「わかりました」
「そういえばさっき、なにか言いかけてませんでした?」
「言いかけ?」
「はい。森羅の施設で。ポイントを溜めるなら森羅の直営店の方がいいとかなんとかって?」
「ああ、それか。じゃあ手短に話すね」
「はい」
◆
手短と言って数分。刹那くんは結構深くギルの話をしてくれた。
「だから、森羅の直営店で買い物をした方がギルポイント的にはお得なんだよね」
「なるほど……」
刹那くんの話はギルの溜まり方だった。わたし的に簡単にまとめると、こうなる……はず。
森羅直営店で100円の買い物をすると2ギルポイント溜まり、その他提携店舗だと100円で1ギルポイント溜まる。
単純に森羅のお店で買い物をしたほうが二倍ポイントがもらえるっワケか。
「確かに森羅で買い物をしたほうがお得ですね……」
「うん。特にブランドにこだわりが無ければ森羅での買い物がお得だね。あとはもっとお得に買い物をしたいならクレジットカードを利用するって手もあるんだけど……凪紗ちゃんはまだクレジットカードを持てないから、この手は使えないんだよね」
「そうですね……ちなみにどんな手なんですか?」
「そうだね……」
そして、刹那くんはわたしに分かりやすいように説明してくれた。
で、わたし的に簡単にまとめるとこうなる……はず。
この『ギルポイント機能だけの森羅カード』はクレジットチャージに対応している。
クレジットチャージっていうのは店頭や森羅カードのサイトからクレジットカードで森羅カードにお金を入れることができるサービス。でその仕組みを使うとお得になるらしい。
刹那くんの話ではクレジットチャージだけでもチャージ分のギルポイントの何パーセント分か溜まるらしい。何パーセントか忘れちゃったけど……
で、これがなにを意味するのかは、わたしじゃよくわからなかったけど、聞いていると税金などの支払いは現金で払ってもポイントは付かないけど、まずはクレジットカードからこの森羅カードにチャージしてチャージした森羅カードで支払うと間接的にポイントゲットできるってワザらしい。
う~ん……難しすぎてまとめているわたしでも、よくわからないな……
「……凪紗ちゃんなら税金の話よりlTnuesカードやPSストアカードとか電子マネーカードの方が分かりやすいかな?」
「はぁ……」
頭が混乱気味のわたしに気遣ってか刹那くんが身近にあるカードの話に切り替えてくれた。
わかりやすく説明してくれた刹那くんの話をまとめるとこうなる!
通常、電子マネーカードは現金で買ってもcoconaやraonの電子マネーで買ってもポイントは付かない。それはそうだ。だって電子マネーはお金だもん。お金をお金で買ってもポイントが付くわけがない。ここまではわたしも経験があるからわかる。
でも、さっきのクレジットカードから森羅カードにチャージすると森羅カードにギルポイントが溜まる。そのチャージした森羅カードで各種の電子マネーカードを買えば間接的にポイントが溜まるって事だ!
「なるほどぉ!」
「うん。わかってもらえたかな?」
「はい!」
「さらに森羅直営コンビニのミディールで支払えば来店ポイントも付くからさらにお得になるよ」
「おふぅ!」
すごいな、森羅カードとクレジットカード!
「まぁ、このワザは今の凪紗ちゃんには使えないけどね」
「そうですね……わたしクレジットカード持ってませんし。そもそも持てる歳じゃないですし……」
「使えるとしたら七が付く日は直営店でポイント五倍ってところとシスター・レイで森羅カードを提示すると10パーセント割引になるくらいかな」
「へぇ~七が付く日ってそうなんですか?」
「うん。だから買い物をするなら七が付く日がいいかな」
「おまたせしました。肉片を挽いて内部に乳を押し込んだのも(付属あり)になります……」
そうこう話していると、ウェイトレスさんが注文した肉片を挽いて内部に乳を押し込んだのも(付属あり)と魔神が挽いた肉を内蔵でまぜたものを持ってきてくれた。
「それわたしです」
「あ、はい」
……なんだろ? ウェイトレスさん……じっと刹那くんを見てるっぽいけど……
「あれ、あんた刹那?」
「ん?」
ウェイトレスさんは料理を置き、刹那くんの顔をさらにじっと見てそう問いかけた。
「あれ、その声? 暗くてよく見えないけど、もしかして三澤さん?」
「やっぱり刹那じゃん。お久しぶり。三ヶ月くらいぶり?」
刹那くんと同い年くらいの、やけに明るいウェイトレスさんは刹那くんにテンション高く話しかけた。
「お久しぶりです。久しぶりに来ましたけどお店繁盛してるみたいですね。あ、三澤さんがいるってことは『店長』もいるんですか?」
……親しげに話してる……刹那くんの知り合いなんだ。き、気になる……どんな関係なんだろう……
「お陰様でね。で、店長は明日の食材を調達中。それより刹那。この前のアンブレイドバトルの動画見たよ。ケガ大丈夫なの?」
「ええ、大丈夫です」
「そう。それならいいけど……あれ、もしかしてこっちの女の子は白い雪のプリンセスじゃないの?」
みさわさんという女性のひとはわたしに気づいたのかこちらに声をかけてきた。
「ど、どうも」
みさわさんと呼ばれているウエイトレスさんに座ったまま一礼を贈る。
「へぇ~動画で見るより実際はかなりちっこいんだね」
「ううっ……ど、どうも……」
ううっ……ちっこいって言われたぁ……
「残念だったね。負けちゃって」
「はぁ……」
「次はがんばりなよ」
「まぁ……次があればですけど……」
ぎこちない会話が途切れ途切れで続く。
次のアンブレイドバトルかぁ……そんな予定は無いからそうとしか言えない。
「あはは、おもしろいね。プリンセスは」
「はぁ……」
みさわさんはこのぎこちない空気に感づいていないのか構わず話を続けようとしている。
う~ん、わたしもこんなに気さくに話せればなぁ……もっと刹那くんに色々と聞けるのにな……
ぎゃあぁぁぁぁぁぁあああああああ~~~~
「うっひゃぁああ!」
店内に響く叫び声。
ううっ……やっぱりこの叫び声の呼び鈴には慣れそうにないな……わたしは。
「あ、お呼びだ。じゃあね刹那。それとプリンセス。ごゆっくり」
そう捨てせりふを吐いて、みさわさんは闇へと消えていった。
「刹那くんの知り合いなんですよね?」
「まぁ、知り合いって言えば知り合いかな?」
「ふ、ふ~ん……か、か、か、彼女じゃないですよね?」
この前車の中で聞いたときは『いない』って言ってたけど……いない……よね
「この前も車内で言ったと思うけど、俺は彼女いないからね。それと三澤さんは俺なんかには眼中無いよ」
「そ、そうなんですか……ふぅ……」
なんか……へんな汗かいちゃいそう……でも、よかった。
「じゃあ、冷えない内に食べようか」
「はい」
みさわさんが去って、残されたわたし達は目の前にある料理を食べる為にナイフとフォークを手に取る。
「いっただきまぁ~す!」
って……元気よく言ったものの……正直食欲がなくなるメニュー名なんだよなぁ……『肉片を挽いて内部に乳を押し込んだのも(付属あり)』って……
「いただきます」
刹那くんもわたしに続いて『いただきます』
ふたりとも食材への『いただきます』をすませて、とりあえずナイフでハンバーグを切る。
溢れでる肉汁と肉厚。焼けた肉厚ハンバーグからの香ばしい匂いが食欲をそそる。そしてとろけるチーズが線を描きしたたたる。
……あれ? なんか、すごくおいしそう! でも……
「う~ん、ちゃんとしたハンバーグなんだよね……」
あのメニュー名でいまいち、食指が動かない。
「……凪紗ちゃん。もしかしてまだ不安なの?」
運ばれてきた料理に口を付けないわたしに刹那くんは声をかける。
「……はい」
「アンブレイドバトルの時にハンバーガーの話をしたと思うけど、覚えてる?」
「はい……覚えています」
ハンバーガーを買うときにパティとかバンスがどこで作られているか。原材料はどこの国で、肉はどこに国で加工されているのかいつも確認するのって話。
覚えてるよ刹那くん。わたし的に結構考えさせられる話題だったから。
「これは俺の持論で悪いんだけど、俺ら消費者は信用するしかないんだよね。いくら産地の表示や使われている食材がわかっても結局のところホントかどうかわからない。見た目がふつうなら食べるしかない。食べて変調をきたしたらその時はその時でその店に言えばいい。言えば何かが変わるし解るから」
信用するしかない……そうか。そうだよね。刹那くんにこの事を言われるまでわたし、なにも考えもせずに、疑いもせずにハンバーガーやドーナッツとか調理済み食品や加工食品を食べてきたし。
そうこうしている内に刹那くんは運ばれてきた料理を口に運ぶ。まるでわたしに『大丈夫、安心して』ってアピールしてると感じるくらい食べている。
それなら。
わたしはナイフで切ったハンバーグの欠片をフォークで口まで運ぶ。
「……おいしい……」
口の中で広がる幸福。噛むごとに肉が口の中ではじけ、肉汁が口の中で溢れ出ていくのがわかる。そしてとろけるチーズが混じりあいさらにジューシーになっていく感じ! あんなメニュー名からは想像できない味! これはおいすぃ~~!
これがライスとポタージュのセットで698円だなんて信じられないくらいのおいしさで味の良さ!
「刹那くん。これすごくおいしいです!」
「うん、おいしいよね」
その後、『刹那くんの妹さんの家電好き』の話で盛り上がったのだった。
◆
「合計で1301円になります」
刹那くんがお会計をしてくれている間にわたしはクォークマンを手に取る。
妻沼に着くまで聞こうとしたけど、結局再生ボタンを押しても、押しまくってもピクとも動く事がなかった。
「やっぱ、完全に壊れたかぁ……」
どこをどう押してもまったく反応しない。昨日の夜、一応充電を試みたけど充電ランプすらつかなかったからなぁ……
「う~ん……やっぱり新しいのを買わないとダメか」
高校の入学祝いにお父さんから買ってもらったクォークマンだけど……限界かな……
「凪紗ちゃん。おまたせ」
「あ、会計終わりましたか?」
「うん。終わったよ」
「えっと、698円と120円ですよね?」
わたしは刹那くんに料理の代金を払うおうとサイフを手に取る。
「いいよ。ここは俺がおごるって」
「いいや、ダメです。刹那くんにはこの前もおにぎりとかパンをおごってもらいましたし。ホントはわたしが刹那くんの分まで全額払いんですけど……今月はちょっと……だからここはわたしの分だけでも払います」
818円を取り出し刹那くんに差し出す。
「いいって」
「ダメです。受け取ってください」
「強情だなぁ……」
「誉め言葉として受け取ります」
「わかったよ」
刹那くんはしぶしぶわたしが差し出した硬貨を受け取った。
「じゃあ船橋駅に行こうか」
「はい」
サイフに硬貨を入れて刹那くんは歩きだした。
「あれ、お帰り?」
店を出ようとした所で大きな段ボールを持ったみさわさんと出くわした。
「ええ、ごちそうさまです」
「どういたしまして。ねぇ今度また来てよ。店長も会いたがってたよ。お礼も言いたいって言ってたし」
「いやもう、かなりお礼は聞かされてますし、言われてますよ店長さんは。それに俺は何にもしてませんよ?」
みさわさんは大きな段ボールを床に置くと段ボールの開けて中を探り始めた。
「ううん、あの時あんたがいなければここは開店できなかった言ってたよ。何度も、何度でもお礼は言いたいんだよあのひとは。それだけあんたに感謝してるって事だから」
「はぁ」
刹那くんと段ボールの中をゴソゴソとしてるみさわさんはわたしにはわからない会話をしている。
感謝してるか……きっとその『店長さん』も『みさわさん』もわたしと同じで刹那くんに助けられたひとなんだな。
ん? んんっ? あ!
「あぁぁあぁああぁぁあぁ~~~~!」
わたしは大きな声で叫んで、みさわさんが取り出した三十センチくらいのぬいぐるみに眼がとまる。そしてぬいぐるみに一点見つめで凝視!
「凪紗ちゃん……?」
「プ、プリンセスさん……?」
「あっ……えっとぉ……」
ふたりの顔には驚きと疑問の表情が並ぶ。
「その、ぬいぐるみって、あのぉ、『ばなっしー』ですよね?」
そう、みさわさんが持っているぬいぐるみはわたしの大好きな船橋市非公認のゆるきゃら『ばなっしー』のぬいぐるみだった。でも、わたしが見たことのない服装のばなっしーゴスロリの服を着て、手と足に包帯。顔にはバンソウコウを貼っているばなっしーのぬいぐるみ。
「うん……そ、そうだけど」
まだオドロキの表情が払拭されていない、みさわさんにわたしは言葉をたたき込む。
「う、売り物ですか?」
「そ、そうだね。ばなっしーとのコラボでうちの店限定のぬいぐるみだけど……もしかしてばなっしー好きなの?」
「はい!」
勢いよく、食い入り気味に大きく返答を返す。
「あ、そうなんだ」
「このばなっしーって買ってもいいんですか?」
サイフを取り出し、買う気まんまんでみさわさんに『いくらですか』と尋ねた。
「あ~でも……ん~まぁいっか。刹那の知り合いだし大丈夫でしょ。いいよそのぬいぐるみあげるよ」
「えっ! い、いいいいいいいいい、いいんですかぁ!?」
自分でもわかるほどかなり興奮してる。声がどもっちゃってる。
「うんいいよ。それサンプルでもらったものだし。製品版は来週発売だから気に入ったら今度買ってよ。はいどうぞ」
「は、はい! ありがとうございます!」
受け取ったばなっしーのぬいぐるみを抱きしめ顔を埋める
「ばなっしぃ~♪ ばなっしぃ~♪」
喜びのあまり歌を口ずさむ。
「かわいいなぁ! かわいいよぉ! ばなっしぃー!」
◆
「よくばなっしーとのコラボできましたね?」
雪見のはしゃぎぶりを見て神夜はとなりにいる三澤に言葉を投げた。
「店長が尽力を尽くしてくれたからね」
「なるほど。まぁ、あの店長さんならやり遂げそうですけどね」
「その言葉痛いほど分かるわ」
「ですよね?」
そして、三澤と神夜の会話が途切れ、ふたりの視線は一点を捕らえている。
「……ねぇ、あの子はしゃぎすぎじゃない?」
「……ですね。痛いくらいはしゃいでますね……」
そんな会話をしてばなっしーを掲げてアイススケートばりにクルクルと横回転を決めているイタイ雪見を眺めていたのだった。
「あ、そうだ三澤さん」
「なに?」
「こっから船橋駅に行きたいんですけど道を教えてくれませんか? 久しぶりだからこっちに来るまで道に迷っちゃたんで」
神夜は三澤の方に向き直り船橋駅の場所を聞いた。
「迷ったの? なにやってんのぉ!?」
「すいません」
なぜか怒られる刹那。そんな刹那はひとこと謝って『で、船橋までのルートをください』を催促した。
「まったく。店を出て左に曲がってまっすぐ。で、三つめの信号を右に横断してまっすぐ行けば船橋駅よ」
「三つめの信号ですね。ありがとうございます」
「うん。いいって。それよりも……」
三澤は目の前でばなっしーを抱きしめて、ほおずりしている雪見の方を見て『あの子、通行の邪魔になりそうだから端によせてくれない』と進言したのだった。
◆
「おふぅ……こんなに近かったのか……」
船橋駅を目の前にしてそう呟いた刹那くん。
闇と漆黒のレストラン『プリンセス・オブ・ヴァンパイア』を出て約七分。刹那くんはわたしが『ばなっしー』と戯れている間にみさわさんから船橋駅の道を聞いていたらしい。そして教えられた道通りに歩くと、あっという間に船橋駅に辿り着いたのだった。
「ごめんね道に迷っちゃって」
「いいですよ。わたしも歩いていろいろと見れて楽しかったですし。それと意外とあのファミレスの料理美味しかったし」
「そう? そう言ってくれると俺も助かるよ」
「今度アイリーンにも教えてあげよっと」
「うん。そうして。でも最初行くときはすごく『個性的なレストラン』って言った方がいいよ」
「あはは、そうですね。特に料理名と呼び鈴は『超個性的』と付け加えておきます」
「はは、そうだね。それはいいかも」
「はい」
こーして楽しいおしゃべりをしながらわたしと刹那くんは改札口を通る。
(あ~あ、船橋駅に着いちゃった。これでホントに刹那くんとお別れか……)
そんな事を駅構内を思い歩く。
もっと、一緒にいたいけど……わたしは練糸町のエドバシに行く予定は無いし、この後も夕方からのバイトまで予定ないし……どうしよう。『わたしもエドバシカメラに一緒に行ってもいいですか?』って聞いてみようかな……
う~ん。でも、『何か買い物?』とか訊かれたらどうしょう……買い物かぁ……そう言えばなんだかんだで電子辞書の電池、まだ買ってなかったなぁ。それでも買おうかなぁ? でも一緒に行く理由としては弱いな……きっと刹那くんのことだから『百均で買った方が安いよ?』って言ってきそうだし……
「う~ん」
そうこう考えている内に快速のホームへと着いた。着いちゃった。
電車の到着時刻を記すLED電光掲示板を見る。
「10分後か……」
スマホの時計を見る。十五時三十分を刻んでいる。
刹那くんが乗るであろう東京行きの快速電車の到着が十五時四十分着。と、同時にわたしの乗る千葉行きの電車も同時刻に到着。
10分か……どうやらまだ、わたしには『10分の呪い』が解かれていないみたいだ。この10分でわたしは最適な理由を見つけないといけない。
そんなわたしの苦悩を吹き飛ばすように刹那くんとの会話がはずむ。正直、おしゃべりしてるだけでも楽しい。楽しいから理由が考えられなくなっちゃう。
そんな楽しい会話は家電好きの妹さんのエピソードに移っていった。
先日、調子の悪いブルーレイレコーダーを妹さんに直しもらおうと実家に持って行ったけど結局、解体しても直らずむしろ止めを刺して完全に壊してしまった話や、壊れた家電は解体して捨てると行った妹さんの家電へのこだわりの話。
でも……ホントは刹那くん昔の話が聞きたいな……高校時代の話とか、お姉ちゃんとの関係とか。それと一緒に稽古をつけている。『さくらこ』さんの話とか。
それより……どうしよう……もうすぐ電車の時間かなぁ
「なんかごめんね。妹の話ばかりでつまらなかったね」
「えっ!? あ、いやそんな事はないですよ」
「そう? でもさっきからスマホの画面ばかり見てから」
「ふぇ? そんなにスマホ見てました?」
「うん。かなり頻繁。俺との会話がつまらなそうだったから妹の家電への変なこだわりの話をしたんだけど……裏目にでちゃったね」
「つまらなくないですよ。ただ、そろそろ電車が到着するかなって……」
そ、そんなに見てたのかな……どうしよう、刹那くんにイヤな印象を与えちゃったかな……
「そう? それならいいけど」
「なんか、すいません。わたしもテレビとか壊れたら妹さんに診てもらおうかな……」
そこで、わたしはジャージのポケットに入っているクォークマンを取り出した。
「そうだ……あの、刹那くん!」
「ん?」
《まもなく、東京行きの電車が参ります。白線の内側に下がってお待ちください》
《まもなく、千葉行きの電車が参ります。白線の内側に下がってお待ちください》
東京・千葉方面の快速電車到着アナウンスが同時にハモってホームに流れたのだった。
続く。
お久しぶりです。間宮冬弥です。
まずは、連続投稿の二話を読んでいただき、ありがとうございます。
拙い小説ですが読んでいただき、重ねてありがとうございます。
活動報告でも書きましたが、今回は第三話目がかなり長くなってしまったので二話に分割しての投稿です。
このような形は初めてなのでちゃんと投稿されているか不安でしょうがないです!
第五話ではこのようなことがないようにいたします…と、言いたいんですが、また長くなってしまったら今回のように分割しての投稿か本文全体のブラッシュアップをかけて短くしようと思います。
では、これで失礼します。