ナイトメアパーティーナイト
お久しぶりです。こんばんは、そしてこんにちは。
作者の代弁者の紫乃宮綺羅々でぇ~す。
みんな元気してたっ!
アンブレイド~番外編の最新話が完成したのでアップしまっす!
しかも今回はなんと太っ腹の二話連続投稿でっす!
…とは言ってもね。実は今回のこの二話投稿にはウラがあってね、それはね、第三話が予想以上に長くなってしまったので急きょ二話に分割したんだよねぇ~
アホな間宮冬弥がペース配分を考えないで書くからこうなるんだよね!
なのでみんなに申し訳ないけど、二話続けて読んでね。
では、第三話『ナイトメアパーティーナイト』をお楽しみください、それでは!
「ただいまです」
「お帰り」
刹那くんの元へと戻ったわたしは隣のベンチに腰を下ろす。
「どうだった?」
刹那くんは何かの週刊誌サイズの薄い本をカバンに置いて、わたしに声をかけた。
「はい。制服の引き取りが三時間後になりました」
「三時間かぁ……」
刹那くんはコートからスマホを取り出し時間を見た。
「ならご飯を食べてそのまま解散にする?」
「解散ですか?」
う~ん……このままご飯を食べて刹那くんとお別れってのはもったいないなぁ……
「刹那くんの服は何時間後なんですか?」
「俺は商品券にしてもらったから。こっちでの用事は済んだね」
「そ、そうなんですか……」
そういってユニシロの商品券をわたしに見せてくれた。
う~ん、ならホントに刹那くんの用事は終わったのか……名残惜しいけど……今日はこれでお別れかな?
「じゃあどうする、ご飯を食べに行く」
「そうですね……」
特にわたしも用事がないし……わたしの為に刹那くんを三時間も拘束するワケにもいかないしね……刹那くんと離れるのは悲しいけど……
「じゃあ、ご飯食べたらそのまま帰りますか」
しょうがないよね……もう用事ないんだし……
「うん。それと凪紗ちゃんには申し訳ないんだけど、俺この後に錬糸町に行くから一緒は帰れないんだ。ごめんね」
「ふぇ? 錬糸町に行くんですか?」
「うん。ちょっとエドバシカメラにね」
「エドバシカメラって、家電量販店の、ですか?」
「そうだよ」
「そうなんで……ん?」
そこで、さっき刹那くんがカバンに置いた薄い本が目に入った。さっきまで小説らしき小さい本を読んでたけど……これは小説じゃないよね? なら……これって……
「……刹那くんって……もしかしてエドバシにテレビとか買いに行くんですか?」
目に入った冊子の表紙には大きくテレビが記載されていた。
「えっ……ああ、違うよ。これはHDDレコーダーのカタログ。使ってたレコーダーが壊れちゃったから買おうと思ってね。それとポイントも溜まってるし」
「へぇ~そうなんですか」
わたしの視線に気づいたのか刹那くんはカバンに置いたカタログをわたしに見せてくれた。
何気なくペラペラとページをめくるわたし。
どれも同じような長方形の形。わたしには違いがなにひとつわからない。どれも似たような機種がたくさん載っている。
「ありがとうございました」
わたしはお礼をいい刹那くんにカタログを返す。
「凪紗ちゃんにはこういうの興味ないかな? つまらないって顔して見てたよ」
「えっ?」
わたしって……そんなに顔にでるタイプなのかな……
「あ、いや……別にそんな事は」
「ううん、いいって。女の子はそれが普通だよ。もし凪紗ちゃんが妹みたいに家電に詳しすぎると俺、引いちゃうから」
「は、はあ……」
刹那くんの妹さんって……家電に詳しいんだ。
「さて、じゃあ、そろそろ行こうか」
「あ、刹那くん。ちょっと待ってください」
わたしは席を立とうとする刹那くんを呼び止める。
「ん? どうしたの?」
「聞きたいんですけど、わたしも『森羅カード』って作れますか?」
さっき生まれた疑問をさっそく刹那くんに聞いてみることにする。
「……凪紗ちゃんは、大丈夫か。機能制限がついちゃうけど作れるよ。でも凪紗ちゃん、今日学生証とか身分証明書持ってる?」
「ふぇ?」
その言葉にわたしはサイフに入ってるであろうカードサイズの学生証を探したのだった。
◆
「意外と早くもらえるんですね?」
必要事項を記入と学生証を提示して刹那くんと一緒に席で森羅カード発行を待つ。
「受付で言われたんですけど、わたしのカードってポイント機能と電子マネーしか付けられないって言われたんですけど、他になんか機能があるんですか?」
そんな受付でのやりとりを刹那くんに話す。
「あるよ凪紗ちゃんは未成年だから制限が付いちゃうけどポイント機能の他にIC身分証明書になったり、クレジットカード機能もつけたり出きるし。それとsumicaも乗せられる」
「へぇ~あ、ならpurimoを乗せればよかったかな?」
「あ~確かsumicaだけだったからpurimoは乗せられないよ」
「え~残念」
「でも、ポイント機能だけも結構使えるよ。使える店舗は多いし。ガイドブックを見てごらん」
「へぇ~どれどれ」
わたしは『はじめての森羅カード』と言う名前のファーストガイドブックを受付でもらっていた。
それをパラパラとめくり『森羅カードが使えるお店』のページで手を止める。
「ホントですね。森羅って結構、幅広く事業をしてるんですね」
「そうだね。初めて見たときは結構驚いたよ」
見てわかったけど森羅は意外と多く商業展開していることがわかった。
「でも、聞いたことない名前のお店ばかりですよ?」
ハンドブックに記載されているお店はここら辺では聞いたことない店舗名ばかりだった。
「シスター・レイとタイニー・ブロンコ……それにアルテマウェポン? なにこれ? ミディールにロケット村にカーム……ハイウインド? フェンリル? それにジュノンか。う~ん知らないなぁ~」
ページに書かれた森羅直営店の店舗名。へぇ~結構あるんだ。でも知らない名前だなぁ
「それらの店舗は主に東京を拠点に展開してるからね。それを補う形で森羅が提携を結んでいる有名店があるから実は結構使えカードなんだよ」
と、刹那くんが補足を付け足してくれた。なるほど東京圏? だけで展開してるのか?
「ページをめくると提携店が乗ってるはずだよ」
「へぇ~提携店ですか」
ページをぺらっとめくると刹那くんの言うとおり『提携店舗一覧』の項目が現れる。
「あっ、セブンエイトでも使えるんですね!」
提携店舗のひとつにセブンの名前が連なる。
「えっ! マムトでも使えるの!」
そのひとつにマムトナルドの名前も発見した!
「へぇ~」
そのほか結構わたしが知っている全国展開している店もちらほら見受けられた。
あ、でも、スノバはないんだ……
「でも、なるべくカードを使うなら森羅直営のお店で溜めた方がいいよ」
「えっ、そうなんですか」
「うん、ポイントを溜めるってページに、」
発券番号19番でお待ちのお客様。二番カウンターへお越しください。
その時、店内に響く番号呼び出しのアナウンス。
「あっ、19番? できたみたいです」
わたしの発券番号は19番。
「よし、行ってきます!」
自分の発券番号が19番だと確認して受付へと向かうのだった。
◆
「おおっ~やっぱり真新しいカードはピッカピカですねぇ!」
受け取ったわたしの森羅カードは汚れひとつないピカピカの新品。青色でまとまっている森羅カードはやっぱり綺麗で淡い金色のラインが入ってる。そしてカードの真ん中には英語で『SINRA CARD』と書かれる。
うん、すごく綺麗なカード。
「うんまぁ。でも使ってると自然と汚れちゃうけどね」
「それはそうですね」
まぁ、これはしょうがないよね。使ってると汚れるのは当たり前だし。
「じゃあ、ごはんに行こうか」
「はい」
こ~して、わたしと刹那くんは森羅の施設を後にしようとした時……
「あっ!」
わたしは昨日の事を思い出した。
「? どうしたの、忘れもの?」
刹那くんの言葉を返さずわたしは肩掛けカバンから『刹那くんから借りていた物』を取り出す。
「あ、いえ、あの、ハンカチありがとうございました」
なぜか少しキンチョ~しながらハンカチを返した。
「ああ~ホントに洗ってきてくれたんだ。ありがとう」
「えへへ」
刹那くんは洗濯したキレイなハンカチをうれしそうに受け取ってくれた。
「あ、あのぉ、それとですねぇ」
わたしはさらにカバンから『三枚のマテリアルプレート』を取り出す。
「このプレートなんですけどぉ……」
「うん」
「えっと、どれか刹那くんから借りた『加速』と『停止』でどれがお姉ちゃんの『滑走』だかわからないんですけどぉ……わかる方法なんてあります?」
「あ~なるほど、それか」
刹那くんは察してくれたのか、『じゃあ向こうの端末に行こうか』と、言って端末のある方角を指さしたのだった。
◆
「じゃあ、さっそく凪紗ちゃんの森羅カードを使おうか」
壁際に設置してある端末。それはコンビニとかでよく見る銀行ATMのような端末だった。そして到着するやいなや刹那くんが促す。
「はい。えっと……どうすれば?」
小型端末の液晶画面には『ギルの照合』『チャージ』『マテリアルプレートスキャン』『ギルを電子マネーに交換』『残高確認』『言語切り替え』の項目が見てとれた。
「まずは、タッチパネルから『マテリアルプレートスキャン』を選んで」
端末の前で人差し指が操作方法で迷っていると刹那くんの助言が飛んできた。
「はい」
指示通りに『マテリアルプレートスキャン』をタッチ。
「で、いま作ったばかりの森羅カードをその差し込み口に入れて」
「はい」
画面には『右のカード差し込み口に森羅カードを入れてください』との指示とイラストが表示されている。
わたしは画面に指示に従い作ったばかりの森羅カードを差し込み口にカードを差した。
「おおっ!」
数秒に、左にある端末のカバーが『ウイィィィィィン』と音を立てて開いた。
「ほら、そこに見慣れたプレートスロットが出てきたでしょ? そこにプレートを差し込んでみて」
「はい」
開いたカバーの中にはバトルに時に見たアンブレイドのプレートスロットが上の段に三つ。下の段に三つ。計六個のスロットが見えた。
「こ、これでいいですか?」
「うん。それでいいよ」
わたしは上の段のスロットにプレートを三つ差し込んだ。
「じゃあ、最後に『スキャン開始』をタッチして」
「はい」
『スキャン開始』をタッチ。
すると、開いたカバーが閉じて、画面には『スキャン中……』と表示が変わる。
「スキャンって時間がかかるんですか?」
刹那くんの方に振り向きそう尋ねる。
「いや、数秒だよ。あ、終わったね」
「あ、ホントだ」
画面に視線を戻すと『スキャン完了』と表示されていて……
「左からスロット1 スロット2 スロット3ね」
刹那くんが補足を付け足す。
刹那くんの補足だとスロット1が『停止』でスロット2が『滑走』スロット3が『加速』か……
「これでスキャン完了。確認したらタッチパネルの『終了』をタッチしてね」
「はい」
タッチパネルから『終了』をタッチ。
『ウィーン』と静かに開く音がしてカバーが開いた。
「と、取っても大丈夫ですか?」
「うん。いいよ」
刹那くんからお許し? が出たので三枚のプレートをスロットから抜く。
「おっ?」
抜いたプレートには『停止』と書かれた小さいシールが貼ってあった。
「おおっ! さすが森羅カンパニー抜かりないですね!」
よくわからない賞賛を端末に贈り、残り二枚のプレートを引き抜く。残りのプレートにも『加速』『滑走』のシールが貼られていた。そして最後に森羅カードを引き抜いて刹那くんへと振り向く。
「じゃあ、刹那くん。改めてプレートありがとうございました」
一礼してわたしは刹那くんに二枚のプレートを差し出す。
「お礼なんていいって」
刹那くんは笑顔で言ってプレートを受け取ってくれた。
「ううん。これがなかったらわたし負けてましたよ。特に『加速』には助けられました。まぁ結局は負けましたけど……」
「そっか。そう言ってくれると俺もうれしいよ」
「はい」
こーして、わたしと刹那くんは今度こそ森羅の施設を後にしたのだった。
◆
「じゃあ、どこでごはん食べますか? 確かここら辺に『ガルド』がありましたけど、そこにします?」
どこで食事を採るか刹那くんと話そうとすると刹那くんは『安くておいしいレストラン、俺知ってるからそこにする?』と提案してくれた。
「あ、じゃあそこにしましょうよ」
「うん。あ、でも俺から提案しておいてなんだけど、そこね結構すごく『個性的』なレストランだけどいい?」
「ふぇ?」
刹那くんの言葉が胸に引っかかったけど、『安くておいしい』に惹かれてそのレストランに向かうことにした。
◆
刹那くんの後を付いていって数十分。『駅から近いから』とは言ってたけど……結構歩いたんだけどまだ着かない……
商店街を通ったり、信号をいくつ渡ったりして、歩道橋を登ったり、降りたりしても着かない……
周りの景色もなんとなく変わっていないような……変わっているようなそんな不思議な感覚に捕らわれている。
あれ、ここさっき通ったような……
そんな似たような道を何度も歩いた。
う~ん、これって……もしかして……
「あ、あの……刹那くん……もしかして道に迷いました?」
「ご、ごめん……来るの久しぶりで……で、でも確かこの辺だったような……あっ!」
刹那くんの視線がある一点で止まった
「あの店だ! よかった~」
刹那くんは安堵の息を漏らしているけど……
「えっとぉ……あそこですか?」
「うん。よかったぁ。じゃあ行こうか」
「は、はい……」
刹那くんは意気揚々。けどわたしは不安が爆発しそうな『建物』へ向かった……
「……確かに『個性的』なレストランだなぁ……」
わたしはそう呟かずにはいられなかった……
闇と漆黒のレストラン『プリンセス・オブ・ヴァンパイア』
入り口の看板には赤い字でそう店名が書かれていた。
外装は黒と白で統一されていて周りの建物に比べると異質を放つほど浮いている建物。
店内に入店しても照明がほとんどなく通路は薄暗い、正直少し怖いくらいに暗い。
「いらっしゃいませ……」
「うひぃ!」
どこからともなく現れて声をかけられたウェイトレスさんに驚くわたし。
突然出てきたのもそうだけど……わたしは二重に驚く。なぜならそのウェイトレスさんの服装に驚いていた。白と黒を基調にしたゴシックロリータな感じの服装。それだけならまだいいんだけど、そのゴシックロリータの制服は所々破れている。さらに片目には包帯。さらに腕や足にも包帯が巻かれている。
「二名様ですか?」
「はい」
刹那くんが答える。そんなわたしは刹那くんの後ろでビクビクしている。
「こちらへどうぞ」
ウェイトレスさんに促されて後に着いていく。よく見ると背中には小さく『コウモリの羽』のようなものが付けられている。さらに、スカートには悪魔のしっぽ? らしきしっぽが垂れていた。
「ううっ……刹那くん。ここってレストランなんですか?」
「うん、そうだよ。言ったでしょ? 『個性的』なレストランって」
「ううっ……」
確かに言ったけど……これってお化け屋敷じゃないのぉ!
◆
「ううっ……」
ボックス席に着く。着いてもなんか落ち着かない……だってランタンの光だけがぽつんとテーブルにあるだけが光がほぼ無い。
窓は遮光性のカーテンで覆われて光が少ししか差し込まない。
通り過ぎるヴェイトレスさんも、わたしたちを席まで案内したウェイトレスさんみたいにゴシックロリータの制服で所々が破れてる。さらに包帯も巻いてる……もしかしてこれがここの制服なのかなぁ……
「凪紗ちゃん?」
「はい!」
「とりあえず何か頼もうか」
「はい」
刹那くんがメニューを手に取る。店内を見渡していてソワソワしていたわたしも刹那くんに習い、メニューを開く。
「うっひゃぁ!」
大声を上げてしまうくらいの衝撃。
「ちょっ、凪紗ちゃん!?」
「しぇ、しぇつにゃきゅん! こ、これぇ! メニュー名!」
わたしはメニュー名を見て驚きの声を上げてしまった!
「メニュー名?」
「こ、この『魔女がグツグツ煮込んだ赤いスープ』ってなんですかぁ!」
メニューには文字だけでイメージ写真が無かった。
「ああ、そうだね。それは『トマトスープ』だよ」
トマトスープ!? こんな名前で!?
「じ、じゃあ、この『悪魔が切り裂いた肉片を業火で焼き込んで滴る赤い液体をかけた肉』ってのは?!」
「それは『デミグラスハンバーグ』だよ」
デミグラスぅ!?
「じゃあ、じゃあ、この『錬金術師が錬成したキメラから採取した栄養元素』って!?」
「それは『ミックスサラダ』だよ」
「ううっ……じゃあ、『氷漬けにした眼球』っていうのは……?」
「それは、チョコソースかけたバニラアイスだよ」
「おふぅ……」
店の外装もそうだけど……め、メニュー名も『個性的』すぎる……ホントにハンバーグとかトマトスープが出てくるのかなぁ……不安でしょうがないよ……
でもなんで、メニュー写真を載せないんだろう……載せればいらぬ不安も解消されるのになぁ……でも、それでもこのメニュー名は衝撃だな……
第一、メニュー名が食欲を削ぐ……食欲を無くすメニュー名って問題じゃないのかな?
「どうする? なに頼む?」
そんなわたしの考えをよそに刹那くんは料理を頼む気マンマンだ。
「じゃあ……あの、この『肉片を挽いて内部に乳を押し込んだ肉』を……ってもしかして、これってチーズインハンバーグですか?」
「うん。そうだよ」
「おふぅ……よかった」
何となくメニューの中でこれが一番まともそう。だって乳って単語が入ってるし。乳って牛乳のことだと思うし。それに予想が当たったし。
「わかった、じゃあ俺は……この、『魔神が挽いた肉を内蔵でまぜたもの』 にしようかな?」
「……刹那くん」
「ん?」
「それって、料理名はなんですか?」
わたしは怖いものみたさの精神で今、刹那くんが頼んだメニューの料理名を聞いてみた。
「ミートスパゲッティだよ」
「おふぅ……そうですか」
「じゃあ、ウェイトレスさん呼ぶよ」
「はい」
「……凪紗ちゃん。いや、いいか」
「?」
刹那くんは後ろを向いて、わたし何かを言おうとしたけど、言葉を止めてそのまま呼び鈴のボタンを押す。
きゃあぁぁぁぁぁぁあああああああ~~~~
「うひゃぁぁぁぁああぁぁ~~~~~!」
店内に響く女性とわたしの叫び声!
「えっ! な、なに?」
「大丈夫だから落ちついて。凪紗ちゃん」
店内を見渡すわたしに刹那くんは落ち着かせるようにやさしく言葉を投げた……けど!
「で、でも、ひとの叫び声が」
ぎゃあぁぁぁぁぁぁあああああああ~~~~
今度は男性の叫び声!?
「ま、また! 警察を呼んだ方が!」
「凪紗ちゃん。俺の話を聞いて!」
「で、でも!」
パニクるわたしに刹那くんは落ち着かせるように落ち着いた声で話し出す。
「この叫び声はこの店の『呼び鈴の音』だよ」
「へっ……よ、呼び鈴? って呼び鈴?」
「うん、そう。試しにもう一度押してごらん」
「で、でも……」
「いいから。ほらここ」
「はい……」
促されてわたしはレストランでよくみるウェイトレスさんを呼ぶ楕円形の『呼び鈴』のボタンを押した。
ぎゃあぁぁぁぁぁぁあああああああ~~~~
「ひゃあっ!」
「お待たせいたしました。ご注文を承ります」
「うっひゃぁぁぁぁぁぁぁあ!」
店内に響くわたしの叫び声。
ウェイトレスさんの登場で二度驚いてしまったわたしなのだった。
◆
「あ、あと『クラインの壷』をふたつ。それでお願いします」
「かしこまりました。ではご注文を繰り返させていただきます。『肉片を挽いて内部に乳を押し込んだのも(付属あり)』がおひとつ。『魔神が挽いた肉を内蔵でまぜたもの』がおひとつ。『クラインの壷』がおふたつ。注文は以上でよろしいでしょうか?」
「大丈夫です」
「かしこまりました。『クラインの壷』はあちらの壁際にこざいます。『器』もそちらにございますのでご自由お飲みください。では料理をお持ちするまでしばらくお待ちください」
淡々と対応して暗闇の中に消えていくウェイトレスさん……ホントに料理が来るのか不安だよ……
「刹那くん」
「ん?」
「クラインの壷ってなんですか?」
「ドリンクバーだよ」
「おふぅ……」
まさか、ドリンクバーまで個性的な名前が付いているとは……あなどれない? のかなぁ……
「じゃあ、俺飲み物とってくるよ。凪紗ちゃん何が飲みたい?」
「あ、わたしも一緒に行きます」
「そう?」
「はい。その『クラインの壷』っていうドリンクバーも見てみたいですし」
「わかった。じゃあ、行こうか。あ、一応サイフとか貴重品は持っていってね」
「はい」
刹那くんの言葉とおりにわたしはサイフとスマホを手に取りジャージのポケットに押し込む。
刹那くんも同じようにサイフとスマホをポケットに入れて『サイフとか持った? 持ったなら行くよ』と歩みを始める。
「はい」
こーしてわたしは刹那くんの背中を見ながらドリンクバーである『クラインの壷』へと向かうのだった。
◆
「……ホントに『壷』の形をしてたんですね」
「まぁ、中はただのドリンクサーバーだけど外装がこってるよね」
「はい。それと意外とジュースの種類もあるんですね」
「うん。それは言えるね」
ほかのファミレスでは見ない『ポタリスエット』があったりお茶だけでも『烏龍茶』の『緑茶』や『抹茶』、『玄米茶』などがあるし、『アイスコーヒー』や『ミルクティ』や『紅茶』なんてものあった。
もちろん『コーラ』や『オレンジジュース』や『リンゴジュース』、それに加え『ぶどうジュース』、『バナナジュース』、『ピーチジュース』なんてのもある。さらにただの『炭酸水』があるので『オレンジジュース』に加えれば『パンタオレンジ』の出来上がりだね!
さらに珍しいのはドリンクサーバーとは別にドリンクストッカーが二個あった。中には100パーセントオレンジジュースと100パーセントリンゴジュースが入っている。これもドリンクバー料金に含まれているから驚きだ。
「……これ、オレンジジュースですよね?」
わたしがドリンクバーからコップについだのは黄色の液体。絶対にオレンジジュースと信じたいけど……なんだけど、なんか不安だ。
「当たり前だよ。もしかして料理がアレで不安になってる?」
「ええ、まぁ……」
「大丈夫だよ。飲んでみなよ」
「はい、じゃあ……」
刹那くんに言われて『クラインの壷』でついできたオレンジジュースに口をつける。
「味は……普通ですね?」
『器』と呼ばれるただのコップに入ったオレンジジュースは間違いなくオレンジジュースだった。
うん。普通のオレンジジュースだ。う~ん。
「そりゃそうだよ。味が違ったら問題だよ」
「まぁ、そうなんですけど、こんな個性的なお店だったらなんか、ひとひねり加えてくるかなって……」
不謹慎だけど期待はずれって感じかな?
「……そんなひとひねりは俺はいらないかな」
「……それもそうですね」
もうひとくち口に含みながら刹那くんに答えたのだった。
続く。