第13話 竜とユリ
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これは遠い昔のお話。
ある1匹の赤い竜がいました。竜は成人して一人前になると、自分の番を探し始めます。もちろんこの赤い竜も自分の番を探しましたが、何百年たっても番は見つかりませんでした。
赤い竜は焦りました。竜は自分の番が見つからないと自分がわからなくなり暴走し、破壊の限りを尽くしてしまうからです。
赤い竜の焦りは現実になり、赤い竜はある国で暴走してしまい、国を滅ぼしてしまいました。しかし、暴走は止まらず、赤い竜は数ヵ国を滅ぼしました。
――――とうとうやってしまった――――
我にかえった赤い竜は森の中で項垂れていました。
自分がわからなくなる前に、命を絶とう。そう考えた赤い竜の前に1人の人間の少女が現れました。
―――あなた怪我をしているわ。
そう言って近寄ってくる少女に、赤い竜が威嚇の咆哮をあげようとしましたが、なぜか体が動きませんでした。
困惑する赤い竜に少女が優しく触れました。その瞬間、赤い竜に雷が走ったような衝撃がきました。
これは・・・。
少女はその間、赤い竜の手当てをして、これで大丈夫よと笑いました。その顔を見た赤い竜の中に温かなものが溢れました。赤い竜の中で囁いていた破壊衝動もなくなり、この少女を守りたい、大切にしたいという想いでいっぱいになりました。
赤い竜は気づきました。この少女が自分のたった1人の番なのだと。
少女には家族がいないらしく、なら自分についてこないかと赤い竜が聞くと、少女は戸惑った顔をしましたが、赤い竜の説得にやがて頷きました。
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2人は色々な所を旅しました。やがて、少女が成長したころには2人は夫婦というものになっていました。
赤い竜は幸せでした。いつまでも妻とこうしていたい。
―――しかし、そんな幸せも長くは続きませんでした。
赤い竜が目を離したすきに、妻が拐われてしまったのです。赤い竜は怒り狂いながら妻を探しました。
見つけだした妻は人間達に暴行を受けており、ボロボロでした。
これを見た赤い竜が人間達に襲いかかろうとすると、なぜか妻が泣きながら止めました。
何故だと赤い竜が戸惑いながら問いかけると、1人の男が腰を抜かした状態で笑い始め、赤い竜に怯えていた人間達も次々に笑い始めました。
何がおかしい?と言う赤い竜に男が笑いながら話始めました。
なんと妻は赤い竜が滅ぼした国の王女様だったのです。呆然とする赤い竜に男は続けます。
王女様は家族も国民も赤い竜に殺され、復讐の為に赤い竜に近づいたのだと・・・。
赤い竜が信じられない気持ちで妻を見ると、うつむき、拳を握りしめ震えていました。
そうか・・・そうだったのか。
赤い竜は妻の前に跪くと自分を殺すように懇願しました。驚く妻に、お前にはその権利があると立ち上がり両腕を広げました。
自分が死ぬのは自業自得だと思った赤い竜は、せめて妻の手で殺してもらいたかったのです。人間と竜。種族の違いで一緒にいられる時間は限られていました。赤い竜は妻が死んだら自分も死ぬつもりだったのです。
ただ赤い竜を見上げる妻に微笑みながら促したその瞬間でした。
腰を抜かしていた男が立ち上がり、赤い竜に剣を下ろしました。赤い竜はこの男にも殺す権利があるかと、仕方ないと目を閉じました。
肉を切り裂く音が聞こえ、自分の頬に温かなものがつきました。しかし、痛みはなく不思議に思った赤い竜が目を開きました。
そこには信じられない光景がありました。
妻が自分を守るように立ち、赤い竜が刺さるはずだった剣を代わりに受けていたのです。
赤い竜は何が起きたかわからないまま、崩れ落ちる妻を受け止めました。妻は震える手を伸ばし赤い竜の頬に触れると安堵したように笑いました。
妻は言いました。確かに自分は復讐する為に近づいたと。なら何故邪魔をした!と剣を振り上げた男が叫びました。
――――愛してしまったからよ。
この寂しがりやで不器用な赤い竜を――――
妻は呟くように言うと口から血を吐き出しました。我にかえった赤い竜が妻を助けようと、抱き上げようとしましたが、妻は首を横に降りました。
素人目にも妻が助からない傷だとわかるからです。妻は赤い竜の耳元で何か囁きました。赤い竜は首を降ると妻にすがり付き、いかないでくれと懇願しました。
しかし、妻は笑ったまま目を閉じました。
妻の首筋に顔を埋めている赤い竜に追い打ちをかけるように、男が舌打ちをすると余計なことをしやがってと呟きました。
赤い竜がピクリと反応を示すと気分をよくしたのか、ペラペラと話始めました。男達は赤い竜の体が欲しかっただけで、実は妻の国出身でもなかったのです。
笑いながら語る男は気づきませんでした。赤い竜の瞳孔が変化したことに・・・。
笑っていた男はふと周りが静かなことに気づきました。風も吹かず、動物の声もしない異常な事態でした。
赤い竜は次の瞬間、人形から竜に戻り怒りの咆哮を上げました。逃げ惑う男達を引き裂き、炎を浴びせ破壊の限りを尽くしました。
やがて、すべてを焼き尽くした赤い竜は妻を抱えとある丘に来ると、穴を掘り妻を埋めました。そして大きな石を上に置くとしばらくそこから動きませんでした。
「 」
赤い竜は何かを呟くと羽根を広げ、どこかへ飛び去っていきました。
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赤い竜は妻と旅した道を辿っていました。こんなことがあった。あんなことを言い合ったと思いだし絶望し何度も命を絶とうとしましたが、その度に妻の最期の言葉が頭を過り、とどまるのでした。
そして、何年もたったある日。妻と旅した道を行くのも終盤に差し掛かり、ついに妻の眠るあの丘にたどり着きました。
これは・・・どういうことだ・・・?
墓についた赤い竜が信じられない気持ちで呆然としていると、通りかかった老人が笑いながら教えてくれました。
「驚いたじゃろう?何年か前に急にはえてきたんじゃよ」と。
やけ野原だったこの丘。昔、とある赤い竜が焼き払ったこの野原に植物がはえるなんて実質不可能でした。しかし、はえてきたのがこの花。
―――まるでこの墓標を守ってるみたいじゃの。
老人が指を差す先にはユリに囲まれる妻の墓標がありました。
「この花の名前はなんじゃったかの?」
はてと首をひねる老人に赤い竜はユリだと答えました。
「おや、これはユリという花だったかの?」
「ああ。強く美しい女だ」
赤い竜は1輪のユリを摘んで顔に近づけると、くしゃりと顔を歪め誇らしげに笑いました。