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水晶の街  作者: iuと猫
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ネオスクリプト・黒い秩序④

 ナイルのコンセントレーション。この技は、彼のナイルと呼ばれる由縁ゆえんにも、深い関係がある。


彼には、世界各地で武術を学び、その力を育む時期があった。中国拳法の発剄はっけいの奥義は、中国慶州の奥地で一つの門流を壊滅に至らしめて体得した。関節技はヨーロッパの秘密軍事機関で、幾人もの軍人格闘家と死闘を演じ、訓練の被検者として再起不能にした揚句、身に付けた。


 コンセントレーションは、そのみなもとを、アフリカは大河、ナイルの源泉の奥地にさかのぼる…


ある村落があり、そこにまだあどけなさの残る娘がいた。彼女の名はアミ(この地に潜伏していた西側は、彼女を「レディ・ナイル」と呼んでいた)彼女は恐るべき力を持った部族を束ねる、いや、その地域一帯を束ねる巫女だった。


 ある時に部族間で争いが起こった。アミに敵対する一方の部族には西欧の傀儡かいらいが存在していた。開発後の利権の甘い汁を求めて始まった奇妙なネイティブと西側の癒着だったが、ある西欧諜報機関は、本気でアミの部族を滅ぼそうとしていた。


 アミが原因だ。その諜報機関は幾度も、彼女によって甚大な被害をこうむっていた。それなりの近代的装備で戦闘を続けていた精鋭部隊が、この地域で次々に壊滅したのだ。


 決着をつけるべきその戦いでは、数百人の重装備の西欧陸軍兵士と、即席の西洋式軍人の姿になった反アミの部族が、自動小銃を携え槍を握って、アミの地域に侵攻していく。


 アミは、それを独りで迎え撃った。


 その時、彼女の背後の空が真っ黒になる。


それは彼女が操る「昆虫」だった。彼女の兵士は小さなウンカから毒蛾まで、数億匹である。アミはそれを自在に操り、それを攻撃に用いていた。


 彼女が、コンセントレーションの使い手だった。彼女のそれは、環境を攻撃的に変える…


 西欧部隊と反アミの部族は、高さ数十メートルの隙間の無い黒い層に飲み込まれ、あっという間に酸欠にのたうった。そして虫たちが発する微熱が、黒い塊となった中心部でどんどん蓄積していく。毒虫の致死量の何倍もの神経毒に絶命する者もあったが、大多数は蒸し焼きになって死んでいった。


 その有様を、第三者として観察していた者がいる。大河の源泉の巫女アミの噂を知り、その力に興味を抱いていた当時のナイルだ。彼はその頃まだ日本姓で呼称されていた。


 アミの技を解明して我がものにしようと、ナイルは彼女に近付いていく。程なくしてアミは異性として心を奪われ純潔を奪われ、ナイルの手中に堕ちたが…


ナイルは知る事となる。アミの力は、技や仕組みではなかった、それは彼女の生まれついて持つ特質だった。彼女を連れ帰り、解剖分析せよとは、ナイルの背後の科学陣である。


 ナイルに葛藤があった、だが彼の野心が勝る。


ナイルとアミが戦った時…悪夢のような時間が去ると、おびただしい昆虫の死骸の山の中にぽっかりと空いた空間に、黒い肌で優しい表情をしたアミが、ナイルに抱きしめられていた。彼女はナイルの手によって絶命していた。


アミは、最期のその時、愛するナイルを攻撃できなかったのだ。


 かくしてナイルは、徹底的に切り刻まれ、量的に分析され、数値的に計測されたアミの特質を、医学的に移植された。それは前頭葉の一部、染色体の一部にである。


そうして得られたものが、ナイルのコンセントレーションである。彼の場合は、環境を防衛的に変える発現であった。


 彼がナイルを名乗り、無敵の怪物として世界から恐れられ始めたのは、この瞬間からである。


   ☆


 管理人がふらふらになっている事に、ナイルは気付いていた。かろうじて本能で、この男は動いている…ナイルは、しげしげと管理人を眺めていた。


真っ直ぐな男だ。そして見事な武術だった。そしてこの男、なぜか私と戦う事が嬉しそうだった。


「だが、頃合いだ…」


 ナイルは管理人をかく乱する動きを止めて、彼を突き飛ばす。管理人は一度膝から崩れそうになり、何とか持ちこたえるが、疲労のピークを遙に超えた体から汗が滴り、目がうつろだ。口元から少し泡を吹いていた。


 最期の局面を2人は迎えていた。ナイルは少し息が荒くなっていたが、それだけの事だ。


彼の瞳に非情の光があった。コンセントレーションの範疇で生存者はいない。だからこそ、この技は誰にも知られず破られないのだと、その冷たい瞳は語っていた。

すみません、黒い秩序は長すぎなので、4つに分割しました。

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