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水晶の街  作者: iuと猫
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ネオスクリプト・黒い秩序②

 管理人は真顔で遠い目だ。


「私とナイルの戦いは、熾烈でした。そう、いい勝負でした。なかなか決着がつかず」


男達の壮絶な戦いが目に浮かぶようで、ケンイチも遠い目になる。


「戦いはネコ戦へ」


「ネコ戦…」


 ネコ戦って何だ?はい、お互いが持ってるネコグッズを持ち寄り、どちらが優れているか決めるものです。それがネコ戦?はい、あの、もちろん冗談ですが、少し気が和みましたか?


「貴様!」


ぐぁっと、気が狂いそうになりケンイチ。


「てめぇ、話をここまで引っ張って何を今更こんちくしょう!脱線してやがる?」


「だって実は。本当のところ私は、こてんぱんにやられてしまって」


「泣き言はいい!和めようとか、わからん話を入れるな!」


せっかく真剣に聞いてんだ、と怒り心頭のケンイチだが「でも、死んでないんだナ?良かったな?」


 はい、と頷く管理人の懐述は続く…


   ☆


 その男の名はナイル。彼は世界の一切を、暗躍のテロ行為で支配するテロりストだった。


 彼の成り立ちは、日本の一実業家の傭兵から始まる。


十数年前、ある一人の若き実業家が日本国内の事業で成功を収める。それはごくありきたりな、ビジネスの成功劇だった。


超弾性ガラス―割れないガラスの開発に成功するのだ。それは、ポリ・カーボネイト樹脂に取って代わる新素材として、瞬く間に世界市場を席巻する。結果若き実業家は、巨万の富を得る処となった。


 人も羨む成功者となった実業家は、更に栄光をと野心を抱く。それは暗く醜い「力づく」でもという野心であり、この頃にナイルは見出され傭兵化される。


 力に依る謀略を目的に、ナイルは徹底的に洗練された。


ナイルは10年間世界各地を渡り歩き、過酷な修練を経て、世界中の格闘技・暗殺術を身に付ける。その間並行して非公式な第三国と結びつき、彼は、諜報術、暗殺術、多彩なテロ術、謀略活動の様々な経験をも積む。


銃・火器兵器の扱いに自在になり、その技術が格闘術以上に極められた頃。彼は自らをを中心に、大規模かつ高度な諜報組織を東アジアに布陣していく、ナイルの黎明期である。


 彼はまず、日本国内でその悪しき力を発揮した。若き実業家が望むままに「力づく」であらゆる組織、利権を手中に収めていく。会社組織の乗っ取り、経営権の略奪、政治的裏取引。許されない犯罪行為の限りが尽くされ、常にナイルが勝者となった。


 ある時期に、実業家はナイルに飲み込まれて姿を消す。この頃ナイルは既に巨額の個人資産を持ち、多角的な明晰なブレーンを有し、彼が実業家に取って代わる事はごく自然な成り行きだった。


 そして日本の、政財界のトップの顔ぶれが半数以上変わる、新たな台頭者達は、皆ナイルの飼い犬だった。


彼らが絶大な権力を行使する…誰も知らない背後で、日本はナイルが支配したのである。その力は、次に西の超大国をおとしいれ、EUを凌ぎ、もう新興国ではないアジアの眠れる獅子をも諜略ちょうりゃくしていく…


 その男こそナイル。彼の「力づく」は独自の軍事力にまで進展した。


 国内の支配を確立すると、彼の組織は数々の科学技術を開発していく。それは技術公開すれば、更なる巨大利益を生んだ筈だが、ナイルはそれを秘密裏に秘密裏な事業―軍事産業に転用していった。


 まず、コンピュータの画期的な新しい機械言語(マシン語)が開発される。それに伴い汎用OSが再開発され、ソフトウェアCPUなるものが実装可能となると、従来の制御不適分野が開拓された。


パルスジェットエンジン。プラズマ駆動機関。派生した巨大虫羽の推進システム開発と、レーザー兵器の開発等々。それらが詰込まれたステルス戦闘機を主力とした空事戦力を核に、ナイルは「本格的な軍事力を有する」レベルまで軍事組織を構築する。


巨大地下設備下で過酷な訓練を繰り返し、秘密裏に準備されていたそれが姿を見せたのは。ナイルの諜報機関が画策しお膳立てした、ある日勃発した西アフリカの局地戦だった。


 それは、希少鉱物の利権の争いに端を発する。


アフリカ西部の2つの国が、それぞれ政府と、反政府の危うい関係のまま、それぞれが後ろ盾に西欧諸国を擁してぶつかり合う。西欧諸国は表向き、ごく僅かな防衛的援助を行うものである、実戦闘には参加しないと表明する。アジアの眠れる獅子までが、模様眺めの周辺警戒で派兵すると謳った、単なる緊張であるとメディアは伝えたが。実は各国やる気満々で、西の超大国は我が物顔の侵略をすべく、相当の兵力をそこに準備していた。


 戦闘がはじまると、西アフリカの局地を、焼き尽くし、蹂躙し、波のような火器兵器の炸裂がまるでを開墾するように大地を舐めていく。そこに突如、正体を明かさぬままのナイルが軍事介入したのである。


各国の空軍は、数の上で圧倒的に勝ったが、まったく異質の戦術ーステルス機体の決着は光学視界下のドッグファイトに結実するという、異形の昆虫の羽根を持つ戦闘機にことごとく撃破され、甚大な損失をこうむったあげく制空力を失う。


 千機を超えるナイルの空軍は、アジアの眠れる獅子の空母に依って秘密裏に、インド洋南に運ばれていた。次世界の制覇をもくろむ大国とナイルとの密約である、密約は―当面の、西の超大国の戦力を削ぐ事。


ナイルの戦闘機は暗雲となって、かの国が展開するインド洋艦隊、第7艦隊に襲い掛かり派遣勢力を壊滅させる。僅か1日の局地戦で、西の大国はその持てる軍事力の30パーセントを失う事となった。


 更に同時刻。その国は自国内で2度目となる、同時多発テロの災厄に見舞われる。五稜郭の地層下フロアで、小型熱核弾頭が炸裂した。大西洋を望む宇宙センターで、周辺空軍基地で、人の手に依り持ち込まれた超小型の中性子弾が閃光を放ってしまう。


 この時、西の超大国は視力を失い、手足に大怪我を負った。何かを告げる黒煙がその国から立ち昇るのを、多くの者が目撃した。各国がその犯罪行為を糾弾したが、早い時期に犯人像を特定できずそれが命取りとなった。


 その男たるやナイル。彼は経済をも支配した。


 西アフリカ局地戦の西欧諸国の敗退は、フタを開けてみると私欲剥き出しの各国の実態もあったが故に、メディア管制が布かれ(あれほどの大騒ぎが)明るみに出る事は無かったが、西の超大国を襲った多発テロが、世界の金融界に激震をもたらした。数日と経ず、世界同時株安が起こり、世界の金融界は崩壊する危機に陥る。


 この頃ナイルは世界中の裏組織と結び、幾つか巨大ヘッジ・ファンドを形成していた。ヘッジ・ファンドは、ナイルの基盤に資金を集めるM&A(企業買収)を行うごく当たり前の(いささ過剰な)経済活動を見せていが、世界同時株安を以ってある国と心中をする、西の超大国だった。


 その時ナイルの巨大ヘッジ・ファンドは、一斉にドルを売りばら撒き、その価値を紙切れに変えてしまう。持てる力を全て尽くして自殺したそれは、引き換えにかの国の経済に重大なダメージを与えた。


ドルの価値が有り得ない程下落したにもかかわらず円、人民元、ユーロの相互価値が持ち直す、いわばドルが独り基軸通貨から脱落したのだ。


 世界同時株安は、世界金融恐慌だった。IMF(国際通貨基金)IBRD(国際復興開発銀行)そのものが機能不全に陥ってしまう。輸出入で利益が保証されなくなったかの国は国債すら発行できなくなり、復興を期すべき時に自らが持つ双子の赤字に窒息して、事実上終焉したのだ。


きっかけが在り、西の超大国は凋落ちょうらくしていく、それは歴史上のどんな帝国も巨大国家も、避ける事が出来ない同じ道だった。


 一方、ナイルはこの時に数少ない経済の勝者となる。


彼が経済の復興を牽引した。その手法は、第3国に資金をつぎ込み振興させ金融市場を奮わせた揚句、金融デリバティブを駆使してつぎ込んだ数倍の利益を回収するという、いわば西の超大国が使った手口で、である。


ただし、ナイルは得られた利益を実体経済へと、注入を続けた。結果、世界経済は実経済とマネー経済がほぼ拮抗する比率に近付きながら持ち直していく。


 世界同時株安からの脱却には数年を擁した。しかし数年後、世界GDPは120パーセントにまで回復し、世界各国にナイルの傀儡かいらいが溢れる事となる。


 ちなみに白い部屋の老人は、ナイルに利害関係を持たない僅かな成功者の一人である。彼は確かに日本国内、世界規模に巨大な経済基盤を持っていた。もちろんそれはナイルにとって無視出来ない存在だったが、ベクトルが逆であり実態が旧時代の彼は、幾つかの大企業の経営者に過ぎなかった。時折対立する事があった。しかしナイルには笑える小さな反勢力に過ぎなかった。


 その男はナイル、一人のテロリスト。彼の支配は誰にも止められぬ域にまで遂には達して、彼は史上誰も成し得無かった世界統一王国の、覇王のように絶大であった…

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