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後編・栞(しおり)
ケンイチは石畳のメインストリートを、なだらかな坂道を歩く。
日に何度かの食事の為に、時には街なかを何となく散策もして、美術館と水晶の街を繋ぐ石畳を行き来する。
風が強い時は足早に、穏やかな日和には道草するように歩む事もある。
曇りがちな日の切れ々の雲は羊雲だ。霧のような淡い輪郭で地表に近い部分は暗く重そうに、空とは呼べない低い宙を前をつついて進む。
晴れ澄んだ日の空は、濃くなった空気が透明に輝く。青空の色は彼方からやって来て、かすみから水色へ青にと拡がり、遂に大気の外の漆黒も示唆する群青域にまで伸びて、頭上を過ぎ去り越えていく。
ケンイチと管理人が連れだつ事もあり。
ケンイチが立ち止まって空を仰ぐと、管理人も決まって立ち止り預かり受けて空に目をやり、その高さを測るように目を細める。
ケンイチは深呼吸のなかでふぁと声を洩らし、しきりに瞬きをして。
「……高っけーな、空」
管理人は「……RayuTube登録者、増えましたかねー?」
当然、そのまま軽く笑うケンイチ。
こんな日々にこんな場面が幾度か在る。この物語の栞のように…