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水晶の街  作者: iuと猫
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中編・10 中編の終り

 ケンイチは目を泳がせていた。


「そう言われても、なあ?」と、目で救いを求めても管理人は無言で、2人の成り行きを見守っている。


「ヤクザ者ってのも辛いんです、みなさん♪」


そんなケンイチの声も明るい振舞いも、場はウケない。ふん、判ってたよ。


ケンイチは陽子の哀しげな瞳を見る。管理人にも目をやって、くそっコイツまでなんで哀しげだ?そして笑って、笑うしかなくて…自責になる、わかった悪かったよと自嘲する、仕方が無い。


 彼は首をかしげて陽子に笑ってみせて、改めてポットのお茶を「ドウゾ」と彼女に勧めてから。


「あのな」


「…はい」と蒼ざめる陽子は、あれ?きょとんとする。ケンイチの、素の微笑みが柔らかく彼女に向けられていたのだ。


「ヨーコさん?」と言うケンイチは、優しい、なんで?陽子の瞳から、涙がこぼれる。泣くなというケンイチの笑顔が頬に触れたような、そんな錯覚を3人が感じた。


「お父さんは、元気なのか?」


ニッコリのケンイチに、ややあって何だか我に帰ったような陽子「え?」


彼女の頬に、ぱっと花が散る、明るく紅がさす。


「はい!」


 場違いに元気いっぱいで。西野陽子―ヨーコさんの満面が涙でくちゃくちゃ、笑み爆発、となった。ヤッタ、笑ったな。


赤面になるケンイチ。関係ないが赤面する管理人。首から上を真っ赤にした西野陽子は「私だってこの美術館は凄いです、いいえ…大好きです!○×△□☆※…」本当にインテリか?


 さて、場に子供が一人増えて3人になった。


ケンイチが肩をすくめると管理人は笑う、居心地が良さそうに笑って彼は「私も言わせてもらえば…」


ケンイチはおや?と思う。管理人が自ら話す?こんなタイミングだったか?


「管理側として恥ずかしいですが、実は私も長年悩んでいた処です。本物だと聞かされています、世界的な名画の管理ですが。私はただ管理しているだけ、これらを守って何の意味があるのか?けれども意味はあったようです。お2人を見ていても思います、何か晴ればれとした気持ちです。ここは本当に奇跡の美術館なのです」


管理人がそれを言うか、と突っ込みたいケンイチは(また奇跡か?)


その言葉で何でも解決だな、管理人?と、笑うのだった。


   ☆


 ヨーコは管理人の肩をばしばし叩いていた、先ほどからずっとだ。


「細かい事はもういいですね、此処って本当に奇跡です、私達は幸せ♪なんです」


ヨーコさんキャラ変わってますアナタ、とさすがに管理人も手を焼くが。でも、確かにもういいんだ管理人。細かい事は抜きにして(いや細かくないし、抜きにしてもいいのか、度が過ぎてるゾこの話)ここは本物だらけの世界一だ。そういえば管理人、アンタも世界一だったな、武道だろ、立派な芸術じゃないか?(ケンイチの深い心)


 あらかた料理は片付いている、いや・いない。デザートの山、ケーキの山が残っていた。得体の知れない例えば洗面器位のパイ?ラザニアかも?から大きな伊勢海老が顔を出しているやつとか…何だコレ?


3人はつべこべ言いながらデザートを処理するが、会話は弾んだ。


「問題です…シーンはアフリカを想像してね?川にカバがいます。擬人法です。逆立ちをするカバをバカにするカバはバカかカバか、さぁどっちだ?」


「答え、熊だけどバカなら管理人デス」


「熊?私をバカにするカバ野郎はケンイチさんです」


「きゃはは、意味わかんな~いですが2人共バカみたいだから正解で―す!」


ピクニックもこんな具合にてきぱきと片付いていく…


 結局、西野陽子は終日美術館にいた。


彼女は、午後からゆっくりと一つ一つの絵画を鑑賞し何度も泣き、音楽を楽しみ何度も微笑んだ。3Fフロアの書籍に目を通し、何度も感嘆した。


そして日も沈む頃、ようやくまた次の日曜日に遊びに来ると言い残して、帰っていったのである。


管理人と共に片手を上げて陽子を見送りながら、大男の横顔を見てふと我に返ったケンイチだった。


(オレはこの男と、何をやっている?)


美術館の夕暮れは、美しかった。

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