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俺、神社を継ぐことになりました。  作者: 真田らき


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第3話:俺、初宮参り執り行います。


 ようやく正式に権正階の資格を取って、北乃坂神社の宮司として認められた。とはいえ、建設会社の仕事も続けているから、毎日神主業に没頭できるわけじゃない。田舎の小さな神社だし、参拝者もまばら。お祓いや祈願の依頼が入るのは月に数回くらいで、初穂料だけじゃ食っていけないのも事実だ。社長が「神社の用事優先でいいよ」って言ってくれたおかげで、何とか二足のわらじを履けている。


 任命状が届いてから数日後、初めての本格的な依頼が入った。お宮参りだ。母から連絡があって、


 「最近、近所の堀川さんちの孫が産まれたのよ。想太郎にお願いしたいって」


 堀川さんちの娘さんが結婚して、最近男の子を出産したらしい。俺は(俺でいいの? まだ新米なんだけど…)って思ったけど、


 「父さんみたいに立派にやってね」


 って母がニコニコ言いながらプレッシャーかけてきたから、断れなかった。


 お宮参りは、赤ちゃんの誕生を神様に報告して、健康と成長を祈願する行事だ。男の子なら生後31日目、女の子なら33日目頃が目安だって、講習で習った。堀川さんちは男の子だから、ちょうどその頃。ちなみにうちは初穂料はお気持ちでってことにしてる。


 当日が近づくにつれ、俺の緊張はピークに達した。夜な夜な父のノートを引っ張り出して、祝詞の練習。講習で権正階を取った時以来だから、声が上ずる。手が震えて筆が滑り、お札の字が曲がる。建設会社の仕事中も、頭の中で作法を反芻して、請求書に「掛麻久母畏伎此乃美志伎かけまくもかしこきこれのうるわしき…」って打ち込みそうになった。


 「想太郎、ぼーっとしてるぞ」


 って社長に突っつかれた。

 (父さんみたいに堂々とできないかな…)って、鏡の前でポーズ取ってみたけど、ただの年相応の普通の男が映ってるだけだった。父さんみたいな威厳も何も無い。


 当日。朝から境内を念入りに掃除した。落ち葉をはき、鳥居まで拭き、手水舎の水を入れ替える。清浄が命だぞ、って父の言葉が耳に残ってる。

 堀川さん一家は時間通りに午前10時に到着。娘さん夫婦と赤ちゃん、堀川のおばあちゃん。赤ちゃんは可愛い産着を着て、ぐっすり寝てる。


 「想太郎君、よろしくお願いします。」


 ってみんな笑顔。俺は内心(頼む、失敗しないでくれ俺)って祈りながら、社務所で受付。初穂料は紅白の蝶結びののし袋に入れてあった。ありがたく受け取った。

 みんなを手水舎に案内。


「まず、手と口を清めましょう」


 俺も一緒に柄杓を取って、左手、右手、口、柄杓の柄の順に清める。講習で叩き込まれた作法だけど、手が微妙に震えて水をこぼしそう。みんな真似してくれて、ほっとした。


 社殿に上がる。赤ちゃんを抱いた堀川のおばあちゃんが中央に座り、俺は狩衣かりぎぬに着替えて、神前に立つ。

 まずは、修祓。これは上手くいった。家で何回も何回も練習したかいがあった。

 次は、お祓いのための祓串を振って、みんなの穢れを払う。ゆっくり左右に振るんだけど、手が震えて祓串が少し揺れる。(落ち着け、想太郎!)って自分に言い聞かせる。

 祝詞奏上。赤ちゃんの名前と生年月日を間違えないように、


 「掛麻久母畏伎此乃美志伎かけまくもかしこきこれのうるわしき…」


 って読んで、成長と健康を祈願する。声が枯れそうで、途中で少し噛んだ。


 「…若竹のごとくすくすくと…」


 ってところで、喉がつかえる。みんな気づいてないみたいだけど、俺の心臓はバクバク。父の声が脳内で「ゆっくり、息を吐け」って聞こえてきた気がした。

 

 祝詞の後は金幣で祓う。


 そして、玉串奉奠。斎主の俺がまず玉串を神前に捧げて見せる。右手で根本、左手で葉先を持って、時計回りに回して祈念を込め、案の上に置く。二礼二拍手一礼。    

 お父さんに玉串を渡して、同じようにしてもらう。最後に玉串を案の上に置いて、家族みんなでお参りする。

 その姿を見て俺の震えも少し収まった。これが神社の仕事なんだなって実感した。

 ご祈願は20分くらいで終了。最後に授与品を渡す。

 無事に終わった事でホッとしてる俺に、堀川のおばあちゃんが話しかけてきた。


 「想太郎君、ありがとう。武文さんもお空で喜んでるわよ」


 って言ってくれて、目頭が熱くなった。

 社殿から出るとき、赤ちゃんが目を覚まして泣き出した。すると娘さんが、


 「偉いねぇ。お祈願中は静かにしてたもの。終わったからいっぱい泣きなさい」


 って言ってるのを見て、皆で笑い合った。今日は何よりみんなの笑顔がご褒美だ。

 

 初めての初宮参り、無事に終わった。でも、次はもっと堂々とやりたいな。

 父さん、見ててくれた? 俺、まだまだだけど、がんばるよ。



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