第2話:俺、継承手続き始めました。
継承の手続きは、想像以上に面倒くさかった。
神社は宗教法人として登録されているから、代表役員の変更が必要だった。父が宮司だったから、俺がその地位を承継する必要があった。
うちの神社は神社本庁の包括下にある被包括宗教法人だから、まず神社本庁に連絡した。担当者に電話して、父の死亡を報告。死亡証明書を添付して、後任の申請書を提出した。
俺には一応、神職の資格はあった。大学時代、父に
「せめて直階だけでも取っておけよ。後で後悔するぞ」
って半ば強制的に講習を受けさせられて、直階を取得していた。
神職の階位は浄階、明階、正階、権正階、直階とあって、父は正階だった。俺は直階止まりで、講習を受けたっきり実務経験もほとんどなかったから、宮司就任には不十分だった。
神社本庁の担当者に、
「宮司になるには権正階以上が必要ですね。権正階になるには講習を受ける必要があります。講習を受けて試験に受かれば権正階になれます。ちょうどもうじき講習の時期ですから、申し込まれるなら急いだ方がいいですよ。」
と言われて、母と氏子総代に推薦状を書いて貰い、急遽講習会に申し込んだ。1ヶ月の短期集中コース。神道の歴史、祭祀の作法、祝詞の読み方、玉串の捧げ方……大学時代の講習よりずっとハードで、朝から晩まで勉強漬け。頭がパンクしそうだった。講習の最後には試験があって、何とか合格。正式に権正階の資格をもらった。
俺が承継手続きやら講習やらでバタバタしてる間、北乃坂神社のことは、隣町で宮司をしてる岡田のおっちゃんが代理宮司をしてくれてた。
岡田のおっちゃんは、父の学生時代の後輩で、俺も小さい時から可愛がってもらってる人だ。父が亡くなった時から、ずっと俺のことを心配して気にかけてくれる。めちゃくちゃ感謝してる。岡田のおっちゃんの為にも、早く立派な宮司になろうって思った。
さて、次は責任役員会だ。規則によると、代表役員は責任役員の中から選ぶことになってるから、まず俺を責任役員に追加。うちの神社は、氏子代表の責任役員が5人いて、そこで俺を後任として承認してもらう。
会議を開いて、議事録を作成。みんな賛成してくれたけど、
「想太郎君、権正階持ってるのは知ってるけど、これか らもちゃんと勉強してくれよ」
って釘を刺された。
それから、法務局だ。宗教法人の登記変更申請。必要な書類は山ほどあった。父の死亡証明書、俺の住民票、資格証明書、責任役員会の議事録と規則の写し。法務局の窓口で、司法書士さんに相談しながら申請した。登記が完了するまで、数週間かかった。完了したら、登記事項証明書を取って、県庁の宗教法人担当課に届出。県庁まで車で1時間半かけて行って手続きしたけど、担当のおばさんに
「被包括法人の場合、神社本庁の承認書も添付してください」
と言われて、慌てて準備した。それから県の認証をもらうのに、さらに1ヶ月待った。
この間、俺は建設会社の仕事を続けながら、毎日神社に通った。会社の上司には事情を話して、時短勤務にしてもらったけど、疲労が溜まる一方。事務仕事で請求書を作ってる最中に、神職の作法を思い浮かべてぼーっとしたり。夜は家で祝詞の練習。父のノートを引っ張り出して、読み上げてみるけど、声は震えるし、噛みまくるし…。母が「ゆっくりでいいのよ」って励ましてくれたけど。
そんなこんなで、すべての手続きが終わったのは父の死から4ヶ月後だった。神社本庁から正式な任命状が届き、県の認証も下りた。俺は宮司として、スタートラインに立った。
建設会社の仕事の方は、辞めずに済んだ。
社長に全部話したら、
「田舎の神社じゃ毎日お祓いがあるわけじゃないだろ? 神社だけじゃ食っていけないのもわかってるよ。神社の仕事が入ってる時はそっち優先でいいから、そのまま働いていい」
って言ってくれた。
「ただし、現場のスケジュールはちゃんと調整してくれよ。遅刻は許さんぞ」
って脅されたけど、笑顔で言ってくれたから胸が熱くなった。社長の言葉に救われた。
俺はサラリーマンと神主の二足のわらじを履くことになったんだ。新しい人生の始まりだ。
平日は、基本的には建設会社の事務所で請求書と格闘し、休日や夕方以降に神社へ。
夕方、境内を眺めていたら、父の声が聞こえる気がした。
『想太郎、がんばれよ』
俺は鳥居に向かって頭を下げた。これから、きっと右往左往する日々が待ってる。でも、父の血を継いだ俺が神社を守るんだ。サラリーマンとして、宮司として、二つの顔で生きていくって覚悟ができた。




