表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/43

子どもたちの笑顔を、穢させはいたしませんわ。(前編)

孤児院の子どもたちが、わたくしのスカートの裾にしがみつきながら笑っておりましたの。

 絵本を読み聞かせ、焼き立てのパンを分け合い、歌を唄う――そんなひとときは、まるで陽だまりのようでございますわね。


 けれど、ときおり胸の奥が疼きますの。

 あの子の笑顔を、二度と見ることができないと知っているから。


 ――ルカ。

 わたくしが幼き日に、よく遊びに参っておりましたこの孤児院で、弟のように可愛がっていた少年。

 誰よりも優しく、誰よりも人を信じる子でございました。


 ですが、あの戦乱の年。

 村が焼かれ、彼は“魔”の力に手を伸ばしてしまったのです。

 「もう二度と、誰にも奪われたくない」と。


 そしてその願いが、彼を怪物へと変えてしまいました。

 わたくしの手で、その命を止めざるを得なかった夜を――忘れられるはずがございませんの。


 「……だからこそ、今のわたくしは孤児院を守り続けておりますのよ。

  あの子のように、二度と誰も“絶望”に呑まれませんように。」


 「……セシリア様。」

 背後から、クラウスの静かな声がいたしました。

 「そのようにお心を痛めながらも、微笑みを絶やされぬ貴女様を、わたくしは心より尊敬しております。」


 「おや、クラウス。感傷的なことを申されますのね?」

 「いえ、事実を申し上げたまでにございます。」

 「ふふ……そういうところが、貴方らしいですわ。」


 わたくしは窓の外に目をやりました。

 夜が、静かに降りてまいります。


 ――そのとき。


 遠くで、何かが割れるような音がいたしました。

 クラウスが即座に身を翻し、音の方向へと視線を向けます。


 「……不審な気配がございます、セシリア様。」

 「まさか、孤児院にまで手を伸ばす者がいるなんて。」

 「外の見張りも沈黙しております。どうやら本格的な襲撃のようでございます。」


 わたくしは静かに立ち上がり、白手袋の指先を整えました。

 「愚かですわね。よりによって、わたくしの庭に踏み入るなど。」

 「お供いたします、セシリア様。」


 「ええ、クラウス。子どもたちを――絶対に泣かせてはなりませんわ。」


 わたくしたちは並んで扉を開け、夜の冷気を迎え入れました。

 月明かりが白薔薇を照らし、その花弁が風に舞います。


 「——あの子たちを守るためなら、わたくしはいくらでも“優雅”に戦ってみせますわ。」


 白薔薇の香りが夜に散り、静寂の中で刃が光を放つ。

 その姿こそ、かつて絶望を見た少女が選んだ“祈りの形”でございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ