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セシリアの告白

彼女は、優雅であった。

たとえ血に塗れた戦場にあっても、その笑みは凛として崩れず、

紅の瞳には常に「慈しみ」と「誇り」が宿っていた。


セシリア・フォン・アルバーン。

人々からは“白薔薇の君”と呼ばれ、

裏の世界においては、優雅なる死と美の象徴として知られていた。


だが、その優雅さは生まれながらのものではない。

戦いと喪失の果てに、彼女は学んだのだ。

――「美しさとは、決して壊れぬ心の温度である」と。


人のために、国のために、そして誰かの涙のために。

彼女は白き薔薇を掲げ、最後まで“淑女としての戦い”を選んだ。


これは、そんな彼女が歩んだ

“優雅なる死のマナー”の記録である。

……クラウス。

 あなたを転移させたあの瞬間、ほんの一瞬だけ迷いましたの。

 本当は、最後まで傍にいてほしかった。

 けれど、それでは――この戦いを終わらせられませんものね。


 氷と炎が交錯し、空が裂け、世界が悲鳴をあげております。

 魔王の咆哮が夜空を割き、風が血の匂いを運ぶ。

 そんな中で、わたくしは静かに立ち尽くしておりました。


 冷たい風が頬を撫でるたび、あなたの紅茶の香りを思い出しますの。

 あの優しい時間、わたくしの孤独を温めてくださった日々。

 貴方の手が、どれほどわたくしを救ってくれたか――あなたは知らないでしょうね。


 初めて会った日、泥にまみれた小さな少年が、わたくしの裾を握った。

 あの時から、あなたはずっと、わたくしの“光”でしたのよ。

 白薔薇は陽の光では咲きません。

 夜を知り、闇を受け入れたからこそ、あの白さを得るのです。

 ……あなたは、わたくしに夜を教えてくださいました。


 だから今、恐れてなどおりませんの。

 この命が散ろうとも、あなたがどこかで生きていてくだされば、それで充分。


 ああ、クラウス。

 あなたの笑顔は、少し不器用でございますわね。

 けれど、その不器用さこそが、どんな騎士よりも美しい忠義の形でした。


 ――もし生まれ変わることが許されるなら。

 次の生では、主従ではなく、ただ隣に並んで紅茶をいただけたらと。

 そう思ってしまいますのよ。

 お可笑しいでしょう?

 “白薔薇の君”が、ひとりの従者に心を寄せるなど。


 けれど、それでも構いませんの。

 だって、あなたがいてくださったから、わたくしは最後まで優雅でいられましたもの。


 ……もうすぐですわ。

 魔力が満ち、失われし古の詠唱が形を成す。

 この術は、わたくしの魂すら燃やし尽くすでしょう。

 けれど――その光が世界を救うなら。


 最後に、どうか聞いてくださいませ。

 風に乗せて、この想いを。


 「クラウス。あなたに出会えたこと、それがわたくしの奇跡でしたわ」


 杖を掲げ、光の環を描く。

 足元の血も、崩れゆく空も、もう見えません。

 ただ、あなたの瞳の色だけが脳裏に焼きついている。


 ――これが、わたくしの優雅なる死のマナーですわ。


 世界が光に包まれ、すべてが静寂へと還っていく。

 その最後の瞬間、わたくしは確かに微笑んでおりました。

 あなたを想いながら。

 白薔薇の香りとともに。


セシリア・フォン・アルバーン

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

セシリア・フォン・アルバーンとクラウス・ルーベン――

二人の物語は、忠義と優雅さ、そして「生き方の美しさ」を描くために生まれました。


彼女が最後に残した言葉、

「これが、わたくしの優雅なる死のマナーですわ。」

その一言に込めたのは、死ではなく“信念を貫く姿”です。

誰かのために立ち、己の美学を守り抜く。

それこそが、セシリアという女性のすべてでした。


そして、クラウス。

彼の中に残った忠誠と想いは、きっと時を越えて語り継がれるでしょう。

人が誰かを信じるということ。

それがどれほど尊く、そして痛みを伴うものなのか。

彼の存在がそれを教えてくれました。


数百年の時が流れようとも、

白薔薇の君の伝説は、静かに息づいています。

それは、人々が「美しくあろう」と願う限り、決して消えはしない。


この物語が、あなたの心のどこかで

小さく咲く白薔薇のように残り続けることを、願っています。


現在、外伝を製作中です。お楽しみに

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