これが、出会いですわ。
――初めての出会いは、裏路地の小さな奇跡
あの日のことを、私は今でも鮮明に覚えておりますわ。
王都の外れ、誰も通らぬ裏道を、ただ散歩していた私――セシリア・フォン・アルバーン。
風がほんの少し湿り気を帯びて、街路樹の葉を揺らしておりました。
陽光はまだ淡く、石畳の隙間に落ちる影は長く伸びております。
そんな静かな午前のこと、ふと、路地の奥で小さな影が動くのを見つけましたの。
膝を抱え、蹲っている小さな少年。顔は泥で汚れ、目は恐怖と孤独に震えておりました。
「……どうしたのですの?」
思わず足を止め、声をかける私。すると、彼は小さく身体をすくめ、さらに身を伏せました。
「怖い、怖い……」
小さな声が、か細く裏道に響きます。
私はそっと跪き、手を差し伸べましたわ。
「大丈夫、わたくしは害を加えませんのよ」
しばらくの間、彼は目を逸らし、警戒を解こうとはしませんでした。
しかし、私の声と、柔らかな瞳の光に、少しずつ心を許していったのでございます。
「……あなたは?」
小さな声に微笑みを返す。
「わたくしはセシリア。散歩の途中でございますわ。迷子かしら?」
少年は小さく首を振る。
「……違う……ただ、ここに……」
その背中に、孤独と困惑が滲んでおりました。
私はそっと彼の肩に手を置き、温もりを伝えます。
「安心なさいませ。わたくしがお連れいたしますわ」
その日、私は彼――後にクラウスと名乗ることになる少年を、初めて抱き上げました。
小さな身体は、重くもなく、かといって頼りなくもなく、まるで風に馴染む葉のようでございました。
街路を抜け、王都の家までの道のり、私は語りかけ続けましたわ。
「怖いことも、悲しいことも、全てを抱えてはいけませんのよ。少しずつで結構、心を解き放ちなさいませ」
彼は初めて、目を合わせ、そして小さく頷いたのでございます。
その瞬間、私は知りましたの。
――この小さな影が、いつか私の光に寄り添い、共に歩む日が来ることを。
あの日の裏道で、初めて結ばれた絆。
小さな手を握り、共に歩いた道は、後の長い旅の始まりに過ぎませんでした。
そして今、思い出すのです。
この小さな奇跡がなければ、白薔薇の光も、世界の希望も、決して生まれなかったであろうと。




